大森靖子、八丈島ライヴでファンと特別な夏休み——OTOTOYライヴ・レポート
大森靖子が8月13日、東京の中心部から海をまたいではるか南の伊豆諸島にある八丈島のPotHallにて、ワンマン・ライヴ〈大森靖子の夏休み〉を開催。弾き語りでの演奏のほか、大森靖子&THEピンクトカレフのライヴや映画上映も行われた。ライヴ以外の時間も含めて、夏休みというタイトルどおりの特別な内容となった。今回はそのライヴのもようと、ライヴ後に企画主催者と舞台美術の担当者に行ったインタビューをお届けする。
この企画は、1年前の2013年の夏にも同じ場所で行われ、今回は2回目の開催となった。八丈島は羽田から飛行機で1時間ほど。船だと約10時間を要するが、大森の故郷である愛媛県とほぼ緯度が同じという意外な共通点もある。当日の飛行機が早くから満席となっていたこともあり、筆者は前日の夜に船で八丈島へと向かった。お盆の時期と重なり、こちらも個室やベッドがあるチケットは売り切れ。仕方がないので、船のデッキなどにシートを敷いて10時間過ごす”席なし券”での旅路となった。同じ船には多くの大森ファンも同乗。さらに、大森以外のピンクトカレフのメンバーも乗っていた。酒を飲みながらの船旅にメンバーもご機嫌で、深夜までファンと交流するなど、すでに貴重な時間がはじまっていた。船は翌朝、八丈島に到着した。
島は南国情緒あふれる植物などが多数あり、同じ東京都とは思えない景色が広がっていた。島には多数の海水浴場や温泉、植物園、牧場、山、滝などの観光地が多数ある。しばしの間、観光を楽しみつつ、ライヴがはじまる夕方に会場へと向かった。会場のPotHallは、島のほぼ中心部にある小さな音楽ホール。この場所に、大森と一緒に夏休みを過ごそうと全国各地のファンが集まり、地元の人たちも彼女をひと目観ようとライヴに参加した。
舞台セットは、「自殺」をテーマに制作されたこの日だけの特別仕様。背面には大きな棺桶を模した刺繍や「私ってかわいそう」と書かれたボードが飾られ、天井からは”ペニス柄”のクマのぬいぐるみ「ペニーベア」が首吊り。そこに混ざって、最近一部で話題となっている大森愛用のぬいぐるみ「ナナちゃん」も首を吊っている。さらに、舞台のいたるところにファンが提供した女性用下着や毛糸などで装飾された風船がぶら下がっており、これらは女性の胸や男性器を連想させる。場内のBGMが加地等「これで終わりにしたい」に変わると、真っ黒い衣装で顔に血のりをつけたピンクトカレフのメンバーと、薄いピンクの浴衣姿で頭に蝶の髪飾りをつけた大森がステージに登場。まるで死人のような出で立ちのメンバーのなかで、大森の儚げな美しさが際立っている。
キーボードを弾きながら大森がカーネーションのカヴァー「The End Of Summer」を静かに歌うと、ライヴはスタート。続く「KITTY’S BLUES」から、バンドも演奏にくわわった。大森がアコースティック・ギターを抱えて絶叫すると「hayatochiri」がはじまり、演奏のテンションは早くも最高潮。大内ライダー(Ba)は解き放たれたように頭を振った。川畑智史(Dr)がドラムを連打すると小森清貴(Gt)、高野京介(Gt)、大内が一斉にジャンプし「背中のジッパー」へ。「Over The Party」では、マイクを向けられた観客が全力で「進化する豚」と叫んだ。
大森が「こんばんは、大森靖子&THEピンクトカレフです」と満面の笑みであいさつ。続く「ミッドナイト清純異性交遊」では、ギターを手放した大森はスモークのなかで踊りながら熱唱。曲の途中で客席に身を乗り出すと、愛しそうに手を伸ばした。そのまま勢いを緩めずに「新宿」「絶対彼女」を演奏すると、「君と映画」では一転してゆっくりと客席を見回しながら歌った。ナナちゃんやこの日の衣装などについて話したMCを挟みつつ、ミディアム・テンポの「少女3号」を披露。曲が終わると同時に、まるで演奏に触発されたかのように小森の頭上の風船が激しい音を立てて破裂した。バンド演奏最後の曲は「歌謡曲」。静かにはじまった曲は後半にかけて次第に激しくなり、高野と大内は取り憑かれたように大きく躍動。大森が指差す先で小森のギターはノイズを発し、川畑は渾身の力でドラムを叩いた。客席が大きく沸き上がるなか、演奏は終了。大森は胸元で小さく手を振りながらステージを去った。
ここで、客席後方のスクリーンで、大森が監督したドキュメンタリー映画「非少女犯行声明」が上映される。昨年、八丈島を訪れたさいに撮影されたものや、数々のライヴ映像、大森自身が撮影したさまざま女子とのトークなどを編集した映画を、観客はじっくりと見入った。
映画が終わると、場内にアコースティック・ギターの音色が優しく響く。いつのまにかステージに戻っていた大森が、9月18日発売のメジャー・デビュー・シングル『きゅるきゅる』収録の「裏」をしっとりと歌った。続いて、ひときわ軽快なリズムで「ハンドメイドホーム」を披露すると、「デートはやめよう」では「エロいことをしよう」の大合唱が起こった。「エンドレスダンス」は、ひとりひとりに語りかけるように優しく歌う。客席の集中力が一気に高まるなか、場内は空調の音とホール内にある池の水の音、大森の歌とギターの音だけが響いていた。そして未発表曲を3曲続けて演奏する。そのなかの1曲「ノスタルジックJ-POP」は、「暇なときにメールするだけの君がちょっと大事すぎて気持ち悪いの」という歌詞が印象的だ。
MCはほとんどなく、拍手を挟む間もないまま立て続けに曲を演奏していく。ときにマイクから顔を遠ざけて生声を聴かせたり、歌の緩急を巧みに使い分けたりと、客席の緊張感を途切れさせない圧巻のライヴが続く。終盤には、夏をテーマにした曲を2曲披露。ぶら下がるステージの装飾を一瞬眺めたあと、まずは「サマーフェア」をかわいらしく歌いあげる。「それでは楽しい夏休みを八丈島で過ごしましょう」と小さな声で話すと、本編最後の「夏果て」をひと言ひと言を噛みしめるように歌った。退廃的な歌詞と舞台セットが重なり、曲の世界観がよりむき出しになって伝わってくる。曲が終わり、大森が深く礼をしながらギターをそっと地面に置く。しばしの沈黙のあと、大きな拍手が場内に響き渡った。
再び大森がステージに登場すると、客席は瞬時に静まり返り真剣な眼差しで見つめる。アンコールでは、EP『PINK』に収録された初期の曲を2曲歌った。「PINK」では、「いつの日か いつの日か」という大森の叫び声が悲痛に響き渡る。最後に「キラキラ」を演奏すると、沸き上がるような拍手のなかでライヴは終了した。大森はそのあとにもう一度、ピンクトカレフのメンバーとともにステージに登場し、無邪気な笑顔を客席に見せた。
ライヴ後、大森は浴衣姿のまま撮影に応じるなど、遠くから訪れた多くのファンひとりひとりと触れ合った。そんな光景を横目に、この企画の主催者で八丈島出身の小崎新矢と、衣装と舞台美術を担当した増田ぴろよに話を伺った。企画や舞台、衣装に込めた思い、そして大森の魅力などを語ってもらった。
——今日のライヴはいかがでしたか?
小崎 : もう最高でしたね。
増田 : 特に「夏果て」で本編が終わって、アンコールの「PINK」「キラキラ」の流れが八丈島を表しているなと思いました。死ぬって感じで。
小崎 : 大森さんの衣装が死装束みたいでした。
増田 : 髪のピンクのグラデーションが、呪いを吸い上げてるみたいな感じに見えましたね。偶然なんですけど。
——浴衣の帯には、人が描かれていたんですね。
小崎 : あれ、ぴろよさんの親族の写真なんですよね。
増田 : 自殺者や鬱病が親族に多いんですけど、それが崩壊する出来事があって、その直前に撮った写真を使っているんです。うちの実家の解散直前のアー写というか(笑)。
——それはまた怨念が篭っていますね(笑)。
増田 : その親族の写真がそのまま模様になっているので、100%呪いしかないです(笑)。
小崎 : 遠くから見ると、それがわからないじゃないですか。でも、近づいて見ると「うわっ」てなる。
増田 : 今回は直前に台風が来ていたりとか、最近島で首吊って自殺した人がいるって話があったりとか、いろんなことが重なりました。
——なぜ「自殺」というテーマを選んだんでしょう。
増田 : ここでしかできないことをやろうと思って。去年来たときに、島の人たちは優しいし、食べ物は美味しいし、いい所なのになぜかいると死にたくなる感じがあって。へばりついた死臭というか…。
小崎 : 八丈島って、自殺率が都内の2倍くらい高いんですよね。
増田 : あと、大森さんも愛媛県のことを「みんな優しいけどここにいると死にたくなる」って言ってて。八丈島にも、中途半端な優しさじゃなくて、心から優しい感じがあるんですよね。
小崎 : 大森さんの故郷の愛媛県のある四国が八丈島と同じくらいの緯度なので、気候が似ているんです。
——なぜ死にたくなるんですかね。
小崎 : たぶん、それは外の人にしかわからない感覚だと思います。自分は中の人間なので、島の人のドロドロした部分というか、みんなが優しいって言ってる人たちの優しくない部分もいっぱい見てきているので。
増田 : 旅人だとそういうドロドロした部分は見なくて済む立場だけど、それでも死にたくなるんですよね。優しくされると死にたくなるというか。私は、怒ると生きる気力が沸いてくるんです。でも、ここでは怒れないから死にたくなるのかな。
小崎 : みんながいい人に見えるから。
——前にぴろよさんと話したときに「死にたいと愛されたいが似てる」とおっしゃっていましたが、そのあたりも関係しているんですかね。女性の方が強く感じる感覚なのかもしれないですが。
増田 : 肉体が関係しているんじゃないですかね。30を超えると、もう少女のように愛してもらえないとか、そういう強迫観念がある。閉経みたいなタイム・リミットが常にあるというか。おばさんになることがイコール死に繋がったり。だから、わりとみんな「死にたい」って言いますよ。「愛されたい」って言えないから。「私ってかわいそう」も言えないじゃないですか。あれは結構、男性のために作ったものでもあるんです。みんな言えないでしょう?
——男がいうと、ただ痛いだけな感じがしますね。女の子がいうと、男がチヤホヤしてくれるじゃないですか。
増田 : 同性にはクッソ嫌われますけどね(笑)。
——ぴろよさんは、前回も八丈島のライヴに参加されたんですよね。去年は島の外から参加する人は、ごくわずかだったそうですが。
増田 : 私はカンが働きました(笑)。あの頃の大森さんは週に何回もライヴをやっていたので、遠征して観にいく人は少なかったんじゃないですかね。
小崎 : 1日に2〜3回ライヴをやってる日もあって、月に30本を超えてた頃でしたからね。
——小崎さんは、なぜ大森さんを島に呼ぼうと?
小崎 : 大森さんの音楽にずっと救われ続けていたので、純粋に八丈島で聴きたかったんです。地元にずっと住んでいて、いろんな思いがあって、それを払拭してほしいなって思って。地元は好きなんですけど、それだけではいられないので。そういうものを、すべてを飲み込んでほしかったんです。
増田 : 愛憎をね。
——実際にやってみて、それは叶いましたか?
小崎 : 救われたというか、自分ですごく良かったなって思いました。これがあれば生きていけるなっていうか。それはやっぱり特別というか、東京で聴く大森さんの音楽とはまた全然違ったし。去年やった「I love you」がすごく良かったんです。この島にぴったりだなって思って。
——あの曲、普段はなかなかライヴでやらないですよね。では、すぐに今年も呼ぼうと思った?
小崎 : そうですね。大森さんが人気になるとわかっていたので、それを邪魔したくはないなとは思っていたんですけど、本人も「できるよ」って言ってくれたので。だから、実現できたのは99.9%大森さんのおかげですよ。その頃から、ぴろよさんも「こういうことをできます」って言ってくれたので、お願いして。それで、こんなに素晴らしいものができました。
——フライヤーの大森さんのコメントに「毎年この島にくることができたら、楽しくすることを諦めずにいられる、と思った」って書いてあるじゃないですか。
小崎 : これって、この最後の一文以外はフライデーの連載に載っていた言葉なんですよ。この文章だけを足して、今回寄稿してくれたんです。めっちゃうれしいですよ。自分がやったことは間違ってなかったんだって思いましたね。
——こう書いてくれている以上、毎年やってほしいですね。
小崎 : 呼びますよ! でも好きでやっていることなので、あまり商業的な部分や、外部の手は加えたくないですね。今回もまわりに「損してるよ」って言われたりもしたんですけど、せっかく遠くから集まってくれているのに、チケットの値段を高くしたくはないですし。自分が生きていける範囲でがんばります(笑)。今回も貯金が尽きそうになったんですけど、それでも楽しかったですから。
——最後に、大森靖子の魅力を教えてください。
小崎 : 気持ちよく死ねるってことですかね。大森さんの音楽を聴いていたら、死んでも大丈夫だって思えるというか。ピンクトカレフの音楽も含めて、ああいう音楽を聴いていたら死んでもいいなって思いますね。
増田 : 私は真逆ですね。完全に生きる要素しかないです。肯定してくれてるって思うし。
——大森さんは女の子を肯定していますからね。僕も特にピンクトカレフを聴いていると、あの音楽にのまれて死ねたら幸せなんだろうなって思うときがあります。もちろん、本気で死にたくはないですけど(笑)。
増田 : 性的絶頂に近い感じなんですかね。
——それはあるかもしれないですね。大森さんも新宿LOFTでやったイベントで、最近ライヴ中によく絶頂するって話していました(笑)。
増田 : 私もです(笑)。男は出したら死んでもいいかもしれないけど、こっちはそのあとに産まなくちゃいけないですから。
小崎 : しかも、女の人は絶頂しても果てがないじゃないですか。男はそれで終わりですからね。それが死なのかもしれないですね。
増田 : なるほど! そういうことですね。
なお、大森は翌日には、島の観光地である南原千畳敷の海岸でも撮影の合間にファンと交流。夜に小学校で行われた盆踊り大会では、飛び入りでピンクトカレフでのバンド演奏を披露するなど、最後までファンや島の人たちと特別な時間を過ごした。大森靖子という人間、そして彼女の奏でる音楽は、人の心を動かすだけでなく実際に行動させてしまうほどの強いパワーと魅力を持っている。企画に携わったふたり、そして全国各地から集まった100人以上の人たちが、それを証明している。来年もぜひ参加したいと思える、素晴らしい企画だった。(前田将博)
大森靖子ワンマンLIVE〈大森靖子の夏休み〉
2014年8月13日(水)八丈島PotHall
大森靖子&THEピンクトカレフ
1. The End Of Summer(カーネーション カヴァー)
2. KITTY’S BLUES
3. hayatochiri
4. 背中のジッパー
5. Over The Party
6. あまい
7. ミッドナイト清純異性交遊
8. 新宿
9. 絶対彼女
10. 君と映画
11. 少女3号
12. Wonderful World End
13. 歌謡曲
大森靖子
1. 裏
2. ハンドメイドホーム
3. デートはやめよう
4. エンドレスダンス
5. 呪いは水色
6. ノスタルジックJ-POP
7. O・MA・KE
8. 婦rick裸にて
9. パーティードレス
10. あたし天使の堪忍袋
11. サマーフェア
12. 夏果て
アンコール
13. PINK
14. キラキラ
・大森靖子の音源はOTOTOYで配信中
http://ototoy.jp/them/index.php/82857
・大森靖子 オフィシャルサイト
・大森靖子 八丈島企画 オフィシャルサイト
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