人も犬も猫も。幸せな第二の人生がおくれる特別養護老人ホームとは
最近では、ペット可の住まいは増えてきたものの、全体から見ればまだ少数。ましてや集団生活をおくる老人ホームでは、ペット不可のところがほとんどだ。だが、横須賀市にペットとともに入居できる特別養護老人ホームがあるという。その幸せな暮らしぶりを紹介しよう。
高齢者が入居前の「普通の生活」を続けられる施設
介護が必要な高齢者と、犬、猫がともに暮らしているのは、横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」。主に要介護度3以上の高齢者100人が入居しているほか、なんと189人ほどの入居待ちがいるという。
ここは、現在、厚生労働省が進めている「個室ユニット型(※1)」の間取りを採用しており、家でいうならリビング・ダイニングにあたる共用部と、高齢者個人の自室(10室)からなる「1つのユニット」が基本構造となっている。犬と猫が暮らしているのは、それぞれ「犬ユニット」と「猫ユニット」のみなので、動物が苦手な人やアレルギーがある人は接触することはなく、あくまでも希望者のみ動物と生活しているわけだ。では、ここまでして、犬と猫とともに暮らせるようこだわった理由はどこにあるのだろうか。施設長の若山三千彦さんに聞いてみた。
「私どもでは、入居者ができるだけ”入居前と同じような生活をおくる”を目標に施設を運営しています。ですから、旅行や買い物、食事など、できるだけ生活が変わらないよう、支援しているのです。動物も同じ考え方にもとづき、犬や猫と暮らしていた高齢者が変わらずいっしょに暮らせるようにしよう、というのがはじまりです」(若山さん)
そもそも、若山さんたちは社会福祉法人としてデイサービスや通所サービスなど、さまざまな介護サービスを提供してきたが、そこで直面した「高齢者とペット」の問題は切実なものだった。
「現在の介護保険制度では、ヘルパーが高齢者のペットを世話することは禁じられています。そのため、介護が必要になると、犬や猫のお世話ができない状態になることが少なくありません。また、飼い主が急逝してしまって、ケアマネさんがボランティアで餌をあげていたケース、泣く泣くペットを処分したらその数カ月後に飼い主が亡くなってしまったケースもありました。ペットは大切な家族であり、高齢者の心の支えなんですが……」(若山さん)
そのため、「さくらの里」は、建設計画時から動物がともに入居できるように、あらかじめ「犬ユニット」と「猫ユニット」を想定していたのだという。また、動物がいるユニットについては、人員を多めに配置。さらに、全員が犬や猫がいるところで働きたいと希望したスタッフのため、動物の世話も不満なくできているのだという。
動物とともに暮らすことで、高齢者が元気になる
現在、さくらの里にいるのは犬7匹、猫9匹。そのうち犬1匹と猫2匹は入居者とともに、さくらの里に入ってきたが、あとの犬や猫たちはそれぞれ事情がある。
「福島の避難エリアで保護された子、飼い主が急逝して自宅に取り残されてしまった子、保健所で処分されるところだったのを保護団体に引き取られた子など、さまざまです。また、保護団体が里親募集をしている子のなかでも、貰い手が見つかりにくい、病気持ちや高齢の子を優先的に引き取っています」(若山さん)
ちなみに、入居者が連れてきた動物のえさ代や医療費は入居者の負担となるが、その他の犬や猫のえさ代、医療費は施設の持ち出しとなる。「犬も猫も高齢で、疾患を持っている子が多いので、治療費もかさむんです」と若山さんは苦笑いするが、それでも動物と暮らす方針は変わらない。
入居者の反応はというと、やはり大変よいのだという。大切な動物を手放さなくて済むと安心する人、もう年齢だから飼えないと諦めていたのに最後に動物と暮らせるなんてと喜ぶ人……。
「動物と暮らすと自然と生活にハリが出るんです。リラックスできますし、いっしょに遊ぶことでよいリハビリにもなるんです。自暴自棄になっていた人が猫と遊ぶために、車いすに乗って動けるようになったこともありましたし、動物をなでようと腕が動かすことで、拘縮(※2)が改善した人もいましたね」(若山さん)
実際に筆者が入居者に話しかけると、「この子がかわいい」「このワンコが賢い」「みんなよくしつけされている」などとニコニコしながら教えてくれた。訪れた時間は、ちょうど午後のティータイムだったが、何をするわけでもなく自然とリビングに集まり、犬たちもうれしそうに足元にいた。
「今は動物と暮らせる特養は珍しいですが、僕に介護が必要となるころには当たり前になっていて欲しい」と若山さんがつぶやいていたが、猫好きの筆者もまったく同感である。もし、自分が最期を迎えるなら、さくらの里のように動物がいるところがいいなと、しみじみと思ってしまった。
※1「個室ユニット型」は間取りだけでなく、人員配置や介護保険の費用などを含めた制度のこと
※2 関節がかたくなり、可動範囲が狭くなった状態
元記事URL http://suumo.jp/journal/2014/06/24/64762/
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