STAP事件簿10 世間の参戦(3)「科学者もウソをつく」??(中部大学教授 武田邦彦)
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
STAP事件簿10 世間の参戦(3)「科学者もウソをつく」??(中部大学教授 武田邦彦)
STAP事件では、「不正な研究」が問題になり、「不正な研究」の定義や、それを防止するための「実験ノート」など、不可解な言葉が横行した。でも、科学に不正があるだろうか?
人はその人が死ぬまでウソを突き通すことができる。だから、科学にもウソがあると多くの人が錯覚するのは無理もない。でも科学には「ウソがない」という原理原則がある。
科学を研究する目的は、1)自然現象を明らかにしたり、それを応用して人類の福利に貢献する、ということか、2)工場などを作ってもうける、と言うことの二つである。いずれも自然科学では「自然」をもとにしている。
人間と違って、自然は常に「正しい結果」を出してくる。だから、自分がデータや論理を「捏造」したら、しばらくして必ず(100%)捏造した結果と違う「正しい結果」が出てくる。捏造したデータで工場を作れば、その工場は動かない。
このことは科学者は誰でも知っているので、少なくとも10年以上は科学者を続けようと思っている人や、事業にしたいと考えている人がねつ造するはずはあり得ない。すぐばれることは100%、間違いないからである。
例外がある。1)大学4年生で卒業すれば終わりという学生が実験をさぼった場合、2)何かの地位を得ればそこで安定するので、とりあえずウソをつく場合、3)補助金をもらいたいなどの理由でウソを言う場合、である。いずれも学問が「お金、名誉、地位」などに関係するからウソをつく。
でも、その割合はものすごく少ないので、チェックするより、自然に消えていくのを待った方が社会としては得策だ。つまり、「他人がやってもできないこと」などはほっておけば自然消滅するし、「工場が運転できないこと」をやっても損が重なるだけだ。
だから、通常、科学は「ウソや悪意はない」として、すべてを行う。その方が、ウソや悪意をチェックする活動より労力が極端に少なくて済むからだ。
もう一つは、私がテレビで解説したように、「論文はそれが素晴らしければ素晴らしいほど、現在の知見から見ると間違っている」からである。天動説が正しいと考えられている時に星のわずかな動きを問題にして計算し、地動説を唱えても「間違い」と判定されるのは確実だ。
かくして、科学の進歩は「ウソや悪意はない」として前に進めたほうが良いということになっている。もちろん、科学史の中には多くのウソがあるが、それは社会的な問題になっても、科学の世界ではなんら不都合はない。時に、化石のウソなどが起きると、それをきっかけにして、別の視点が生まれ学問は発展し、ウソは原理的につき続けないので、その人は没落する。私は長い科学の歴史で、ウソを突き通して人生を成功の裡に終わった人を知らない。
自然はだませないので、100%露見する。私の先輩の一人が研究責任者から社長になってしばらくして、「武田君、社長は楽だね。どうしようもなくなったらだますこともできるけれど、自然はだませないから研究はどうにもならないから」と言われたことを思い出す。
STAP論文が悪意だったなどということはあり得ず、考えなくてよく、かつ動機もない。動機の無い犯罪はない。ただ、むしろバッシングしたマスコミ、専門家、理研首脳部には動機がある。それは、視聴率を上げたい、販売量を増やしたい、ライバルを蹴落としたい、有名になりたい、組織を守りたい、特殊法人の指定を受けたい・・・などがあるからだ。
むしろ、そちらがバッシングは悪意がなかった説明しなければならないだろう。小保方さんが悪意がないことは言う必要もない。私は研究者を守ろうとはしていないが(事実を解説するだけ)、このようなことが起こったら「善意の研究者が社会の悪意で消される」ことが起こり、それこそ社会正義は崩壊する。
執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年04月17日時点のものです。
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