続々・「弱者の味方」は成功しない
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
続々・「弱者の味方」は成功しない
最近「イノベーション」という言葉が流行りだ。大雑把には既存の産業の延長ではなく、まったく新しい枠組みによる産業の勃興を期待することらしい。
別にそれは構わないし、イノベーションが起きないよりは起きた方が断然よいわけだが、多くの人が勘違いしている点があると思うんだよね。
それはイノベーションを起こすには既存の産業を否定することだという考え。既存の産業がイノベーションを起こすことを邪魔しているのだから、そういうものを破壊した方がイノベーションが起きる、と。
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これはまったく逆。そもそもイノベーションというのはその本質上予測できない。予測できないからこそイノベーションなわけで、博打のようなものだ。もちろん当たれば大きいが、大半は失敗する。
このハイリスク・ハイリターンの賭けを持続的に行うには、それだけの余力がなければならない。イノベーションを目指して起業したベンチャーが、たとえ失敗してもその社員が路頭に迷うことなく食いつなげるだけの社会の余力。
んでそういう余力を支えているのは既存の産業なわけで、それを敵視して破壊してしまったらイノベーションも起きなくなる。日本の産業が活発だったのは好景気の時であり、それは既存の産業が稼いでいたから、新たな研究開発に投資する金銭や時間が確保できた。
いろいろなことに乗り出し、その大半は失敗したけれどそれでも次の投資が行えたのは、ひとえに既存の部分で稼いでいたから。
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どうも既存の産業でも受けている時はその現状にあぐらをかいて新しいことに乗り出さず、むしろ不況で既存の産業が成り立たなくなった方が危機感を持ち、イノベーションを起こそうと必死になる…みたいなイメージを持っている人が少なくないように見える。事実はまったく逆だ。
不況の時に切羽詰まって博打に打って出るのは、ほとんどヤケであり、ただでさえ成功率が低いイノベーションが準備不足でなおさら成功しない。投資できる金も先細っていく。
こうしたおかしな感覚は、いっちゃなんだけど「主婦の生活の知恵」に似ているように思う。ちょっとした工夫。たいしたコストがかからず、一工夫で達成できる。でもそこから得られるものも、それほど大きくない。つまりローリスク・ローリターン。
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世界を変えようというイノベーションはハイリスク・ハイリターンなわけで、真逆のものだ。「主婦の生活の知恵」がなぜあくまで主婦レベルに留まっているのか?それはローリターンだからに他ならない。ようするにハイリターンを目指している人たちには魅力のない市場。
それを混同して、庶民の知恵を結集すればこんな素晴らしいアイディアが出る、専門家は井の中の蛙でそういうところに目が届かない、みたいな主張はどうかと思う。ローリターンの市場は眼中にないから、確かに目が届かないのは事実だが、それを延長していけばハイリターンにつながるという部分が、正しくない。
むろんイノベーションは予測できないものだから、中にはそういうものが発端となって大規模なイノベーションに発展するものもなくはないだろう。しかし繰り返しになるがイノベーションというものは予測できない。主婦の知恵のような分野に力を入れてもイノベーションが起きる確率が高まるというものではないと思う。イノベーションが起きた後、後から振り返れば、そういうものを発端としたものがあったとわかるだけ。
予測できないイノベーションを起こしやすくするには、試行回数を上げるしかない。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。そのためには潤沢な金が必要で、その金を稼ぐのは既存の産業なのだから、既存の産業を大事にしなければ、イノベーションも起こせない。
関連記事:
「続・「弱者の味方」は成功しない」 2014年02月17日 『メカAG』
http://mechag.asks.jp/710577.html
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月23日時点のものです。
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