トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)

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トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)

今回はどらねこさんのブログ『とらねこ日誌』からご寄稿頂きました。
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トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)

トランス脂肪酸という「アブラ」が身体に良くないんだって、アメリカでは規制の動きがあるらしいよ。そのような話をネット上でもちらほら見かけます。トランス脂肪酸の食品表示が検討されていることもニュースになっているように一般の方にもこの話題に注目している人も多い事でしょう。

このトランス脂肪酸の「何が危険なの? 加工食品の表示に明記したり規制は必要なの?」という記事を書こうと思ったのですが、そもそもトランス脂肪酸とはどういうものなのか、また、日本の現状についてもある程度把握しておかなければ理解は深まらないだろうなぁと感じました。さらに、脂質全般に対する誤解もまだまだ多そうです。そんなわけで今回は「準備編」として抑えておきたい部分を書いてみようと思います。なお、読み物としての流れ重視の記事としたいため、細かい部分や正確なところは参考として記す文献を当たっていただければと思います。

■ トランス脂肪酸って?

なんだか得体の知れない怖い物体というイメージをもっている方もいるかも知れませんが、日常摂取する油脂の主成分である脂肪酸の一種です。脂肪酸と聞くとピンと来ない人でも、健康にいいと噂のDHAなんかも脂肪酸だよ、というとわかりやすいかも知れません。

日常私たちが食べる油脂の多くは中性脂肪と呼ばれるものですが、これは浣腸液や保湿剤としても知られている(例え微妙?)グリセリンという物質に脂肪酸が3つくっついた形をしています。この3つくっつく脂肪酸の種類によって中性脂肪の性質も変化します。

私たちの身体も食物として入ってくる脂肪酸の種類や量により様々な影響を受けるのですが、そのバランスが偏りすぎると健康にも影響を与えます。脂肪酸の種類は大まかにわけると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の二つに分けられ、さらに不飽和脂肪酸は二重結合の数とその結合の仕方などで細かく分けることができます。

今回のテーマであるトランス脂肪酸は不飽和脂肪酸に含まれます。

■ なにが違うの

さて、それぞれの脂肪酸によってどんな性質の違いがあるのでしょう? このあたりは難しいのでわからない部分は「ふ~ん」と流してもらっても良いのですが、ある程度説明しておこうと思います。

まず、飽和脂肪酸ですが、常温で固体の油がありますがそうした油に多く含まれています。植物油に少なく動物性脂肪に多いと憶えておけばOKです。何が飽和しているのかというと、脂肪酸の長い炭素(C)の鎖部分にそれぞれ水素がくっついている(飽和)というような意味合いです。このような結合は安定で空気中の酸素とも反応しずらく、酸化されにくいという特徴があります。

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次に不飽和脂肪酸ですが、この炭素の鎖部分に二重結合(-CH=CH-)を持つものをいいます。この二重結合のある部分は比較的酸化されやすいという特徴があります。二重結合の数の違いで、二重結合が一つを一価不飽和脂肪酸、それ以上のものを多価不飽和脂肪酸と呼んで分類しています。先ほど少し名前を挙げたDHAですが、ドコサヘキサエン酸(ドコサヘキサエノイックアシッド)と読みまして、これは構造もあらわしております。「ドコサ」というのはあんたがたどこさみたいな意味ではなく、22を表す接頭語で、脂肪酸に含まれる炭素数を意味します。ヘキサは6を意味しており二重結合(エン)が6個である事をしめしております。

じゃあトランス脂肪酸って何よ?という話ですが、不飽和脂肪酸の二重結合の結合の仕方がちょこっと違うものであると考えて下さい。

トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編) トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(準備編)

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「C」は炭素、「H」は水素を表しますが、水素のつき方がシス型(多くの脂肪酸がこちら)とトランス型で違う(共役二重結合というのもあるのだけどそれはトランス脂肪酸と呼ばれない)事がわかりますね。この違いにより折れ曲がり方がかわり、脂肪酸の物理的な性質も変化します。

■ トランス脂肪酸の特徴

さて、上の項目にある図を見て貰いたいのですが、トランス脂肪酸の結合では炭素のつながりがまっすぐになっていることがわかります。シス型ではこの場所で大きく折れ曲がりまして、二重結合が多いほど折れ曲がりは大きくなります。この形の違いがトランス脂肪酸の特徴で、同じ組成のシス型の脂肪酸に比べて融点が高く(高い温度じゃないと固体から液体にならない)なります。これは飽和脂肪酸が固まりやすいのと同じメカニズムです。

炭素の鎖がまっすぐなものは沢山集まった時にも整然と並びやすく、分子同士の密度もせまくなるため分子間力でくっつきやすくなりますが、折れ曲がった構造のシス型不飽和脂肪酸ではその丸まった形ゆえに分子間力が働きにくく融点は低くなり、DHAの融点などは-44℃でないと固体にする事も困難なほどです。

■ トランス脂肪酸はどこからやってくるの

では、トランス脂肪酸はどんな食品に含まれているのでしょうか。今問題視されているトランス脂肪酸は硬化油と呼ばれるマーガリンやショートニングなどの加工油脂に比較的多く含まれております。

また、天然にも存在し、日常食べる食品では牛肉、牛乳など反芻動物由来食品にも含まれております。どうして反芻動物なのといいますと、胃に棲まわせているバクテリアにより消化吸収を助けて貰う動物ではその分解過程でトランス脂肪酸が作られ、それを消化吸収される事で身体の構成成分になるからなんですね。

さて、加工油のトランス脂肪酸はどこからやってくるのかというと、水素添加という処理を行う時に副生成物として発生します。ポイントは副生成物というところです。

水素添加というものは不安定な不飽和脂肪酸に水素添加により飽和脂肪酸を作り出す操作です。これにより酸化されにくく、常温で固まりやすい加工油を作り出すことができます。液体の原料油からバターのような性質を持つマーガリンをつくりだす事ができるんですね。この時に本当はいらないトランス脂肪酸もできてしまうんですね。加工業者からすればトランス脂肪酸自体は不必要な副生成物という感じ(なので現在の製品は昔のものよりもトランス脂肪酸割合の少ない商品が増えてきております)なのだろうと思います。

■ 何が問題か

ここまでは出てきませんでしたが、トランス脂肪酸の何が問題だというのでしょうか。天然の油じゃないからキケンというような感情的な問題ではありません。実は、トランス脂肪酸を摂りすぎると、LDL(いわゆる悪玉コレステロール)の濃度を高くしHDL(いわゆる善玉コレステロール)の濃度を低くしてしまい、その影響もあり心血管疾患のリスクを高くしてしまう事が多くの疫学調査から明らかになっているんですね。同じ量の飽和脂肪酸に比べても心疾患リスク上昇の割合が大きく、これは大変だ対策をしないと、という感じなのです。

しかし、ここで忘れて貰ってはいけないのが「どのような食品成分も有害になりうる」という考え方です。そうですね、どれぐらい食べると問題なのか、摂取頻度はどれほどなのか、日本人はどれぐらい食べているのか、リスクはあるといっても許容できないほどに大きいのか、という視点で考えなければなりません。

莫大な費用をかけて対策したけれど効果はちょびっとというのでは多くのリソースを割いてまで取り組む意義はないかも知れません。反対に、費用対効果が高いのならば優先的に取り組みたいところです。

次回以降は日本の現状や誤解されている点、データの解釈についてなど書いていこうと思います。モフモフ

執筆: この記事はどらねこさんのブログ『とらねこ日誌』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年02月13日時点のものです。

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