賃上げしない企業の名を公表すると脅かす経産省
今回は小笠原誠治さんのブログ『経済ニュースゼミ』からご寄稿いただきました。
※この記事は2013年10月05日に書かれたものです。
賃上げしない企業の名を公表すると脅かす経産省
いやー、それにしても驚きました。驚いたというよりも、愛想が尽きました。日本は法治国家でないことがよく分かりました。市場経済の国でもない。そして、天下りを廃止するどころか、それを助長するような行動を支持している、と。
先日、甘利大臣が言っていました。日本は民主主義の国だから、企業に賃上げを強要することはできない、と。
細かいことを言うのであれば、民主主義の国だからではなく、市場経済の国だから賃上げを強要できないと言った方がいいと思うのですが‥それにしても、その甘利大臣の方が経済産業省を司る大臣よりよっぽど立派に見えるのです。
ご存知ですか? 経済産業省の局長や課長クラスが企業に赴いて賃上げを要請するのだとか。のみならず全国の地方経産局の幹部も動員して全国的に企業に対し賃上げ要請するのだ、と。
本当に呆れてものが言えません。そのようなことをする権限が経産省にあると、どの法律に明記されているのか?
なんとか賃上げを実現して、景気をよくしたいという気持ちが分からないではありません。そして、労働者が一日も早く賃上げが実現する日を待ち望んでいるのもよく分かります。
しかし、そうはいっても、賃金を引き上げるかどうかは正に経営判断に関わる事柄であって、外部の者がとやかく言う権利はないのです。
百歩譲って、政治家が言うだけならば‥経営者たちも既に慣れっこになっているので、政治家のそのような言動に対してそれほどとやかく言う必要はないかもしれません。
しかし、賃上げを要請するのが、政治家ではなく役人になるのです。そして、その役人が、個々の企業に赴いて、実際に賃上げを要請するというのです。全然違うでしょう?
政治家が言っても効き目がないのに、役人が言って効き目があるのか、という見方もあり得るのですが‥しかし、ある意味、役人に言われる方がより圧力を感じることだってあるのです。何故かと言えば、経済産業省は今なお様々な権限を有しており、有形無形に影響力を業界や企業に及ぼし得るからなのです。もっと言えば、役所に気に入られたからと言って特別に良いことはないかもしれないが、言うことを聞かないと、とんでもない目に遭う、と。
日本の企業が、天下りを受け入れる理由というのも、自然に分かるでしょう?
だから、企業は、経済産業省だけではないですが、業界の主務官庁に盾をつくようなことはしないのです。
賃金を上げて欲しいと役人から言われると、企業側としてもなかなか断りづらいのが本音なのです。しかし、問題はそれだけではありません。というのは、新聞報道によれば、企業業績がよくなっているのにも拘わらず賃上げをしない企業については、企業名を公表する方針だとまでされているからです。
繰り返しになりますが、賃金を上げるかどうかなんて企業経営者が決めること。そんなこと当然です。それなのに、何故いちいち賃金を上げるかどうかについて、役所から介入を受ける必要があるのでしょうか? 賃金を上げない理由はいろいろあるのに、何故それをいちいち役人に説明して、納得してもらう必要があるのでしょうか? そしてまた、賃金を上げないからと言って、どうして企業名が公表されなければいけないのでしょうか?
企業名が明らかにされるということは、それは一つのペナルティに相当するではないですか? 日本は、罪刑法定主義の国。一体、法律に規定もされていないペナルティを、何故賃上げをしない企業は受ける必要があるのか?
経済産業省は、何の法的根拠もなく企業の経営権を侵そうとしているのです。
官邸や大臣から相当の圧力がかかっているということなのでしょうか? それとも逆に、経産省の力で賃上げを実現して、官邸に気に入られたいと思った結果なのでしょうか?
それにしても、このような記事を何の問題意識もなく読者に伝える新聞社。よっぽど現政権に気を使わざるを得ない雰囲気になっているのでしょう。
賃上げをしない企業を非国民扱いをするような‥戦時中のようではないですか?
そもそも、アベノミクスを実施すれば‥つまり、物価目標値を設定してインフレを起こせば、景気がよくなると言うのがアベノミクスではなかったのでしょうか? しかし、その想定したメカニズムがなかなか機能しない。だから、最後は役所の力を用いて何が何でも賃上げを実現しようとする。
そうなれば、アベノミクスの本質は、権力で自分たちの思ったようにコントロールするということなのでしょうか?
仮にどうしても賃上げを強制するというのであれば、賃上げを強制する法律を通した方がまだ筋が通っているでしょう。
経済産業省のやり方には、断固反対すべきです!
執筆: この記事は小笠原誠治さんのブログ『経済ニュースゼミ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年10月12日時点のものです。
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