【ここは法廷だゼ!】有名漫画家が知人女性に硬球を投げつけ わいせつ行為に及んでいたワケは

硬球を投げつけ…

裁判員制度に焦点を当てた『サマヨイザクラ』や、ドラマ化もされた女性監察医の物語『きらきらひかる』、そして死刑制度を題材とし、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞した『モリノアサガオ』などの作品で知られている漫画家、郷田マモラこと上之郷守被告(50)の初公判が8月20日、東京地裁立川支部で開かれた。強制わいせつなどの罪で東京地検立川支部に起訴されていたことが大きく報じられたのが8月15日。その騒動から1週間もたたないうちに開かれた公判だった。

起訴状や証拠等によると、上之郷被告は今年4月、自宅地下の事務所において、知人女性Aさんに野球の硬球を投げて命中させ「怒りで仕事が手につかない。これ、どうしてくれるんだ」などと言い、Aさんに自身の下半身を触らせるわいせつ行為に及んだほか、5月にも同事務所においてAさんに対し硬球を投げて顔面に命中させ、両手で突き飛ばして転倒させた上、足で後頭部を蹴るなどしたという。傷害、暴行、強制わいせつの罪で起訴されている。Aさんは5月の件で意識を失い緊急搬送されている。怪我は全治2週間だった。

勾留されている上之郷被告は、「Tokyo」と胸元に大きく描かれた黒い半袖Tシャツに、黒い半ズボン、そしてビジネスマンが履くような、ふくらはぎ丈の黒い靴下で法廷に現れた。人定質問で職業を問われ「漫画家でした。逮捕で連載が終わり、無職です」と、漫画家という職業を過去形で述べていた。

罪状認否では、

「硬球をぶつけて強制わいせつに及んだとありますが、それは別の問題で、硬球をぶつけたときはワイセツの意志は……」

と、わいせつ行為と暴行に関連はないとの主張を行っていたが、起訴状にある内容はおおむね認めている。

検察官が読み上げた冒頭陳述によると「かねてからの知人である被害者に少なくとも平成23年からゆえなく暴力を振るい、平成24年からはゆえなく胸や臀部を見せるよう強要したり、自身の下半身を触らせていた」という。

弁護人「硬球は、被害者に危害を加えるために用意していたんですか?」
上之郷被告「違います。以前、硬球が出てくる作品を描いた事から、資料として入手したものを机に置いていました。アイデアを出す時、握りながらリラックスして、脳みそを活性化させるために置いていました」
弁護人「暴力行為と強制わいせつは別物だと言っていましたが、暴力が終わった後、気持ちが収まらずにわいせつ行為に及んだのでしょうか?」
被告「わいせつ行為ではなく、何かストレスを解消したいと……最終的にわいせつ行為に……」
弁護人「ストレス解消として他に思いつく事はありましたか?」
被告「Aさんの胸やお尻を見るとか、お菓子を買ってきて食べるとか……」
弁護人「うん、胸やお尻を見るのもワイセツだと思うんですが、下半身も触らせていたと?」
被告「そうですね、これまでも自分の下半身を触らせていたので、そういうところもあって、最終的にそうなってしまいました」

これまでの行為や、今回起訴されている件も、ストレスが原因だったというニュアンスの事を述べていた。Aさんへの行為は、お菓子をたべることと同程度のストレス解消法だったのだろうか。

弁護人「賞を取ったり、漫画家としてペンネームが世に出てる。犯罪が明るみに出れば、どうなるか。当時頭をよぎらなかったんですか?」
被告「はい。賞もかなり前で、2〜3年前からはそれも覚えてないくらい作品作りに没頭していました」
弁護人「漫画の仕事を続けるつもりは?」
被告「犯罪者として名が出てしまった以上、仕事をもらえないと認識しています。ただ、また描きたい、となればどこかで……」

古くからの友人に世話になり、まったく畑違いの仕事で心機一転出直すと述べつつも、漫画家への未練を覗かせた。

検察官「Aさんのプライバシーもあって、質問が難しいけど、なんでそうなってしまったのか。あなたのどういうところが原因だと思います?」
被告「もともと、暴力的な側面がありました。自分が大事。イヤな事があると人のせいにして、漫画にのめり込み過ぎていました。周囲の人間を思いやる事ができなかったと思います」
検察官「うん、かなり正しいと思いますけど、事件前にそれに気付くことはなかったんですか?」
被告「いつも思ってました。でも、犯罪行為の最中は、怒りやイライラから思いやれない。その後は大変な事をしてしまったという思いがありましたが、一日寝てしまうと忘れてしまい、繰り返してしまいました」

上之郷被告は、妻子がいたにも関わらず、Aさんにこのような行為を働いていたという。またAさんには示談の申し入れをしたが、応じてくれなかったようだ。裁判官は上之郷被告がこのような犯行に手を染めた背景について、切り込んでいく。

裁判官「“賞を取ったのはずいぶん昔の事で大きな存在とは感じてなかった”って言いますけど、そうではないんじゃないですか?」
被告「映像化や賞のときは、売れたりする認識がありましたが、3年ほど前から思うように描けず、自分がどんどん沈んでいくような感覚があって、世に知られてるってこと、認識できなくなっていきました」
裁判官「漫画という表現ではあるが、主張を発してこられたこともある。そのあなたが、3年前から思うように描けなかったと。一体なんでなのか? ストレスですか?」
被告「ストレスとプレッシャーです。被害者の方となれ合いすぎて……そういうことをしてしまいました」

懲役3年が求刑され、後日27日に開かれた判決公判では懲役3年(未決勾留日数30日算入)、執行猶予3年の判決が言い渡された。裁判所は「かねてからの知人である被害者に、自身が優位な立場であり、また被害者がおとなしく、申告しにくいことに乗じて、ストレスやプレッシャーを発散した身勝手な犯行」と断罪しながらも、謝罪を行っていること、状況改善のためのカウンセリングに通う意志を見せていることなどを考慮して、執行猶予判決となったようだ。

閉廷後、傍聴席のほうへ振り返り、知人と思われる男性たちに泣きながら頭を下げていた。

「本当にお世話になったんで、もっともっと、被害者の方に感謝を伝えてればこんなことにならなかったと思っています。ボクからの犯罪が心的外傷になり、ツライ思いをするのではないかと心配です」

と、被告人質問の最後で涙ながらに述べていた上之郷被告。分かっていながら、なぜ……。ストレス解消のために他人を傷つけながら漫画を描くのは、本人も相手も辛いのではないか。

弁護人に、今後の漫画家としての活動について尋ねたところ「“郷田マモラという名前は捨てる覚悟でやり直したい”と言っている。ペンネームを変えてでも再出発したいが、ご縁やタイミングがあるので具体的な時期は未定」とのこと。今後も謝罪は続けていくというが、Aさんの受けた恐怖や屈辱感はそうそう消える事がないだろう。

画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/dooshbag/3636495111/

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高橋 ユキ

傍聴人。近著『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)ほか古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)『あなたが猟奇殺人犯を裁く日』(扶桑社)など。好きな食べ物は氷。

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