【漫画家Mさんの中古マンションリノベ】四角くない間取り&“うにょうにょ×カラフル”な家具! 斜めの壁にアーチ…76平米の自由すぎる住まいで2年で5回の模様替えを楽しむ

【漫画家Mさんの中古マンションリノベ】四角くない間取り&“うにょうにょ×カラフル”な家具! 斜めの壁にアーチ…76平米の自由すぎる住まいで2年で5回の模様替えを楽しむ

「この部屋を使いこなせるか?」――漫画家のMさんは、設計者からの挑戦状のような、四角くないユニークな間取りに一目惚れ。関東郊外の約76平米の中古マンションを、犬や爬虫類と暮らす家へリノベーションしました。ペットを人間と対等に考え、造作を抑えて家具に予算を回す。自分らしさを優先した単身リノベの全貌を訪ねました。

「人と同じ」はつまらない。自由に空間をつくれる家を手に入れる

関東の郊外にある、約76平米のマンション。玄関を入ると、まずその光景に驚く。壁は斜めに走り、カラフルな服が壁一面につり下げられたアパレルのセレクトショップのような空間が広がる。奥のリビング・ダイニング・キッチンへと歩みを進めれば、ポップな色の家具や小物が並び、アーチ型の開口の奥には、爬虫類たちのケージが収まっている。ここで暮らすのは、漫画家のMさん。愛犬や爬虫類たちとともに過ごす、一人暮らしの住まいだ。

住まいづくりで優先したのは、「普通の家」らしく整えることではなかった。模様替えの自由度があって、新しい使い方を考えたくなる間取りにすること。愛犬が走り回りやすくすること。爬虫類が快適に過ごせる環境をつくること。そして、家そのものにお金をかけすぎず、好きな家具を選ぶ余白を残しておくこと。

設計者から提示された案のうちのひとつは、まるで「これを使いこなせますか?」と問うかのようなユニークな間取りだった。そして、「迷わずそれを選んだ」というMさん。完成から約2年。家は今も模様替えを重ねながら変化を続けている。

住まい中古マンション(持ち家)エリア北関東間取り1LDK面積76.68平米世帯構成単身入居年2024年築年1994年施工会社株式会社groove agent玄関土間、壁のウオークスルークローゼット、洗面兼廊下

リノベーションでは一旦スケルトンにして、斜めの壁で不整形のスペースをつくった。手前が玄関土間、壁の右がウオークスルークローゼット、左が洗面兼廊下(写真撮影/古末拓也)

型の決まった賃貸ではなく、自分で自由につくれる家に住みたかった

Mさんがリノベーションを意識し始めたのは、この物件を購入する3年ほど前のことだった。
「賃貸だと間取りも壁材も床の色も、ほとんど決まっていますよね。同じようなものになるのがあまり好きではなくて。次に引越すならリノベーションしたいと思っていました」

友人が家を購入したことをきっかけに、自分にとって賃貸と購入のどちらが合っているのかを改めて考えた。そこで「自由に空間をつくれるほうが、自分は幸せになれそうだ」と購入に踏み切ったという。

まず探したのは物件ではなく、リノベーション会社だった。数社を比較し、最終的に選んだ会社は、デザインと価格のバランスに加え、最初に予算の上限を明確にする進め方にも安心感を覚えたという。

では、どこに住むか。漫画家という仕事柄、毎日オフィスへ通勤する必要はない。仕事は自宅で行うことが多く、ときにはカフェへ。打ち合わせもオンラインが中心だ。

一方で、仕事や遊びで都内へ出やすいことを条件に、なじみのある関東の郊外で探した。「広く住めて、少し安めに買えるところ」が希望だったというMさん。現在のエリアは、ほかの候補地より物件価格が手ごろで、都心へのアクセスの良さにも「穴場感」があった。

洗面スペース

玄関からLDKへの動線上につくった洗面スペース。造形的なデザインで、眺めていても楽しい場所に(写真撮影/古末拓也)

約1200万円の物件に、約1500万円をかけてリノベ。造作より家具を優先

購入した中古マンションは約1200万円で、リノベーション費用は約1500万円(家具代を含まず)。特徴的なのは、その予算の使い方だ。Mさんはもともと、細かく部屋を仕切った家よりも、広いワンルームのような空間が好みだった。そのためドアなどの建具は極力つくらず、造作家具も最低限に。アーチ壁の造作や塗装による仕上げには予算を割いた一方、全体的にはつくり込みすぎず、その分、完成後に置く家具にはしっかりお金をかけた。
「家って、家具で決まると思うんです。設計段階であれもこれも造作して、家具にお金をかけられなくなったという話も聞くので、その方針でいきました」
実際、当初設定したリノベーション予算を約50万円下回って完成し、その分を家具購入に回すことができた。

一方、コストをかけてでもやって良かったと感じているのが、インナーサッシの設置だ。
「内側に追加した断熱性の高いサッシを開けるたびに室内との温度差を実感します。これから中古マンションのリノベーションをする方にはおすすめしたいです」

物件価格を抑えられる郊外を選び、リノベーションでは「つくらなくていいもの」を見極め、暮らしの印象や快適性を大きく左右する家具の購入や断熱性能の向上には予算を振り分ける。Mさんの住まいは、限られた総予算の中で、自分が本当に価値を感じるものへお金を使うという考え方が明確だ。

玄関土間

玄関土間(奥)とクローゼット(手前)の間は、仕切りを設けずオープンに。空間に広がりが生まれコスト削減にもつながった(写真撮影/古末拓也)

設計者からの“挑戦状”。あえて四角くない間取りを選ぶ

この家で何より目を引くのが、斜めの壁で構成された大胆な間取りだ。発想のきっかけになったのは、Mさんが模様替え好きだということだった。設計を担当した野田歩夢(のだ・あゆむ)さんはこう話す。
「四角い部屋だと、家具を置く場所がある程度決まりやすい。だったら、細くなるところや広くなるところがある空間にして、『ここをどう使おう』『どんな家具を置こう』と考えること自体を楽しめるようにしたいと思いました」
つまり、使いやすさだけを求めて形を整えるのではなく、あえて空間に強弱をつくったのだ。

野田さんが提示したプランは全部で4案。一般的な四角い間取りも含まれていたが、最も大胆だったのが斜めの壁を使った現在のプランだった。漫画を描く際、単調になりがちなページ全体のレイアウトに変化を与え、華やかさやリズムを生み出す「変形ゴマ」を意識したデザインだ。「この家では、家具をどう置くかをずっと考えなくてはいけない。ある意味、Mさんにそれを強いる間取りでもあります」(野田さん)。ところがMさんは、ほぼ即決。「いいじゃん!これが一番いい、という感じでした。人と同じになるのが嫌なので、これくらい冒険しているほうが好きなんです」

その選択がMさんらしかったことは、住み始めてから証明された。約2年間ですでに5回ほど、模様替えをしているという。照明器具を付けられる場所など一定の制約はある。それでも、家具の配置を変えて、リビングとダイニングのゾーンを入れ替えるなど、毎回違う可能性を探すのが楽しいのだという。完成した瞬間がゴールではなく、その後も住み手がインスパイアされ、考え続ける家なのだ。

愛犬用に設けたアーチ壁の小スペース

愛犬用に設けたアーチ壁の小スペースは、今ではアートを飾る棚や猫トイレの設置場所として活用されている(写真撮影/古末拓也)

左はタイガーサラマンダーの「おなす」、右はボールパイソンの「GINZA」

Mさんは爬虫類や両生類を愛し、複数飼育している。左はタイガーサラマンダーの「おなす」、右はボールパイソンの「GINZA」(写真提供/Mさん)

犬・猫、爬虫類、人間。「人間が中心」ではなく、3者を並列に考える

もうひとつ、この住まいを特徴づけているのが、ペットとの関係だ。LDK空間には、大小3つのアーチ開口が並ぶ。向かって左を爬虫類スペース、中央をMさんの寝室、右端を愛犬のための空間として計画した。面白いのは、人間用のアーチが3つの中で最も小さいこと。
「爬虫類やワンちゃんのスペース入口のアーチのほうが大きくて、人間は小さい、というのは、自宅にまつわる面白いエピソードになると考えました」と野田さん。家について誰かに話したくなるストーリーをつくることで、住まいへの愛着にもつながればと考えたという。

左の爬虫類スペースのアーチより、中央の人の寝室のアーチが小さくデザインされている。右は設計当初、愛犬のスペースとして設定された

左の爬虫類スペースのアーチより、中央の人の寝室のアーチが小さくデザインされている。右は設計当初、愛犬のスペースとして設定された(写真撮影/古末拓也)

犬は予想以上に元気いっぱいで、現在では専用スペースに収まることなく、家全体を自分の場所として使っている。一方、爬虫類には別の配慮が必要だった。大切なのは暖かい環境を保つこと。そこで、あらかじめ使うラックの寸法を決め、その一帯を部分的に囲い、効率よく暖められるようにした。

ペット共生住宅というと、リードフックや足洗い場など定型的な設備が先行しがちだが、Mさんはそこに少し違和感があったという。もっと根本から、「動物にとってどうすれば快適か」を考えたかった。そのひとつが床だ。一般的なフローリングは犬が滑りやすく、足腰への負担も気になる。そこで生活空間には滑りにくい床材を選んだ。もともとは屋外用途にも使われる床材だが、見た目にもすっきりしており、人間にとっても歩きやすい上に、汚れれば掃除しやすくタフな素材だ。

「ペットを対等な気持ちで尊重したい」というMさん。犬のために建具を減らしたことは、自由に走り回れる動線を生み、同時にコストダウンにもつながった。人間だけを中心に据えて便利さを考えるのではなく、犬、爬虫類、人間を並列に置いて考えることで、この家ならではの間取りが生まれている。

玄関はショップ、土間はときにカフェ。家の中に「気分の違う場所」をつくる

玄関の広い土間とつながるのは、大きなウオークスルークローゼットだ。洋服は扉の奥へしまい込むのではなく、ショップのように並べて見せる。打ち合わせに訪れるMさんの服装を見て、野田さんは「これだけ個性的な服なら、隠すより眺められたほうが楽しいのでは」と考えたという。扉のある収納を減らしたことは、ここでもコスト削減につながった。一方で、壁面に大きな鏡を張るなど、効果の大きい場所にはしっかり予算をかけている。

玄関土間と一体になったオープンなクローゼット

玄関土間と一体になったオープンなクローゼット。左側の壁面は鏡張りになっている。リビングの「白」に対して、この空間はグレーを基調にした内装(写真撮影/古末拓也)

Mさんも、この空間を気に入っている。好きな服が目に入り、そこから今日着るものを選ぶ。眺めているだけでも楽しく、「オープンなクローゼットにして大正解」だったという。好みの空間イメージはPinterestのボードに集め、設計者と共有した。Mさんの好みを読み取り、空間に翻訳していったのが今回の設計だった。

眺めて楽しめるようディスプレイされたクローゼット 眺めて楽しめるようディスプレイされたクローゼット 眺めて楽しめるようディスプレイされたクローゼット

セレクトショップのように、眺めて楽しめるようディスプレイされたクローゼット(写真撮影/古末拓也)

さらに、広い土間にはもうひとつ役割がある。Mさんは気分を変えるためにカフェで仕事をすることもある。そこで野田さんは、雨などで外出したくない日には、土間で靴やサンダルを履いて仕事をすれば、家の中でも少しカフェに出掛けたような気分になれるのでは、と考えた。暮らす場所と働く場所を完全に壁で分けるのではなく、同じ家の中に気分の違う場所をつくるアイデアだ。

土間に置いた丸テーブル

土間に置いた丸テーブルで、出窓でくつろぐ愛猫を見ながら仕事をすることも。右端に見えているのは、鏡張りの壁への映り込み(写真撮影/古末拓也)

ポップな家具を受け止めるモノトーンの「箱」

室内を彩るのは、Mさんが吟味して選んだ家具たち。現在のインテリアは、イタリアンポストモダンなどを取り入れた、カラフルで遊び心のあるスタイル。彩度まで慎重に確認しながら選ぶため、色とりどりでも統一感が崩れない。だからこそ、建築側はベースカラーを白やグレーに抑えた。

とはいえ、単なる白い箱にはしない。斜めの壁やアーチ、天井を横切る銀色のダクトなど、空間そのものにはしっかり個性をもたせた。
「家具がポップな色になることは分かっていたので、邪魔しないベースカラーにしました。ただ、真っ白な箱をつくるだけなら、設計者として何をしたのか分からない。箱自体が変形していることで、建築としての面白さもつくりたかったんです」(野田さん)
家具と建築、どちらか一方を主役にするのではなく、互いを引き立てる関係になっている。

家具は生き物を連想させるような曲線的なものを選んでいる

家具は、生き物を連想させるような曲線的なものを選んでいる。黄色いソファは、フランスのインテリアブランド「リーン・ロゼ(ligne roset)」のアイコンともいえる「トーゴ」。「蜂」を連想させる形態がお気に入り。リプロダクト品を買わないこともこだわりのひとつ(写真撮影/古末拓也)

白を基調にしたLDKに置かれた家具や雑貨

白を基調にしたLDKに置かれた家具や雑貨。多様な色が混在するが、「彩度」をそろえているために統一感がある。「木目のものは、あえてひとつも入れないようにしています」(写真撮影/古末拓也)

内装を白・グレー・シルバーに限定したことで、ディスプレイの楽しみが広がっ

「うにょうにょ×カラフル」が家具や雑貨選びの軸。内装を白・グレー・シルバーに限定したことで、ディスプレイの楽しみが広がった(写真撮影/古末拓也)

「特別な家だから、特別な仕事をしよう」。家が人生にいい流れをもたらす

Mさんは現在、自宅を中心に漫画を描き、ときどきカフェへ出掛けて仕事をする。仕事は、月初にページ単位でスケジュールを決めて自己管理している。しかし、自宅ではどうしてもスマートフォンを触ってしまったり、くつろいでしまったりすることもあるという。そのため、集中したいときは自宅とカフェを使い分ける。

では、この家そのものは創作活動に影響を与えているのだろうか。Mさんの答えは印象的だった。「特別感がある家なので、『特別な仕事をしよう』という気持ちになります」

自分で考え、自分で選び、一からつくった家に住んでいる。そのことが仕事へのモチベーションになり、自信にもつながったという。
「この家をつくったことで、人生の方向性が良くなったというのは確実に思っています。この家自体が『いい流れ』をつくってくれた感じです」
Mさんの家は、快適に暮らすための完成品ではないのかもしれない。

実際、寝室の壁は将来また塗り替えられるよう塗装仕上げにした。現在のピンクに飽きたら、次はピスタチオグリーンにしてみたいという。爬虫類もさらに増やしたい。家具の配置も、きっとまた変わる。

取材時は5回目の模様替えでつくられた家具配置

取材時は、5回目の模様替えでつくられた家具配置。キッチンに向けたテーブルで漫画を描いている(写真撮影/古末拓也)

キッチンのタイル

キッチンのタイルそのものはシンプルな白。大胆な目地色を合わせると非日常的なアート感が出る(写真撮影/古末拓也)

ピンク色の、浮かぶ穴ぐらをイメージした寝室 ピンク色の、浮かぶ穴ぐらをイメージした寝室

「ピンク色の、浮かぶ穴ぐら」をイメージした寝室は、小上がりに。壁・天井を印象的なピンク色に塗装。「今後、色を塗り替えるかも」(写真撮影/古末拓也)

「年齢とともに、この家が育っていくのが楽しみです」。四角くない部屋をどう使うか。次は何色にするか。どんな家具を置くか。ペットたちとどう暮らすか。あらかじめ「正解」を決めず、住みながら考え続けられる余白がある。その余白こそが、漫画家であるMさんの創造力を刺激し、暮らしを楽しむ力になっているのだろう。

●取材協力
ゼロリノベ

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