『竜とそばかすの姫』 5年後の<U>が現実に! アニマーシブライブの舞台裏をクリエイター4人が語る
(写真左から、篠田利隆さん、山崎彬さん、広屋佑規さん、緒方達郎さん)
細田守監督によるアニメーション映画『竜とそばかすの姫』。その世界を、スクリーンの向こう側ではなく、観客自身が入り込む空間として表現しようとするのが、アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫 – PROJECT LAYRA – 」だ。
描かれるのは映画から5年後の世界。かつてベルを支えたヒロちゃんが、新たな歌姫LAYRA(レイラ)をプロデュースし、仮想世界<U>で音楽フェス「Utopia」を開催する。映像、CG、舞台、音響、リアルなパフォーマンスが組み合わされ、観客自身も<U>にアバター(As)として物語に参加していく。
映画とも舞台ともライブとも違う“アニマーシブ”は、どのように作られたのか。2026年10月10日(土)からの公演開始を目前に控えたクリエイティブディレクターの広屋佑規さん、映像監督の篠田利隆さん、CG監督の緒方達郎さん、舞台演出の山崎彬さんに話を聞いた。
「<U>の世界にお客さんを入れてほしい」――2年半年前から始まった挑戦
――早速ですが、まずは今回のプロジェクトで皆さんが担当されている役割についてお聞かせください。
広屋:僕は全体のクリエイティブディレクターを担当しています。NO MORE Inc.という会社で体験型、イマーシブエンターテインメントの制作を担当していたことから、今回のプロジェクトにお声がけいただきました。役割としては、プロジェクトのスタートからずっと企画とクリエイティブディレクションを担当してきました。
篠田:映像監督として、映像のディレクションをメインに担当しています。普段は異次元TOKYOというチームで、VRを含め、映像だけに限らないオタクカルチャーに結びつくクリエイティブをやっています。
緒方:CG監督です。Composition Inc.という会社で、バーチャルプロダクションを使ったイベントやライブパフォーマンスに関わっていて、今回はアバターやバーチャルセットと現実空間を融合させるCG制作を担当しています。
山崎:僕は舞台演出として、生身のアーティストや出演者が登場するパートを中心に、映像部分も含む全体の演技の流れやパフォーマンス、「どういう目的を持って歌うのか」を演者さんたちと一緒に作っています。
――そもそも、この「アニマーシブライブ」という企画が生まれたきっかけについてお聞かせください。
広屋:最初に僕がお話をいただいたのは、2年半くらい前です。新しい劇場を作るだけではなく、そこから「新しいパフォーミングアーツを生み出してほしい。さらにサウンドを中心に、日本の漫画やアニメを使った、今まで見たことのない舞台を作ってほしい」というお話がありました。そうしたお話の中で、『竜とそばかすの姫』を題材にする案は早い段階から候補として挙がっていました。映画の中でも「歌」がとても大切なテーマになっている作品なので、僕たちが考えている企画との親和性も高いはずだと感じていたんです。
――映画でも歌やライブシーンが物語の重要な要素になっていますから、「サウンドを中心に、今まで見たことのない新しい舞台を作ってほしい」というオーダーにはぴったりの作品ですよね。
広屋:ただ、実際に企画を進めていく中で、『竜とそばかすの姫』を新しい見せ方で舞台化するだけではなく、「観客が本当に『竜とそばかすの姫』の世界に入り込んでいるような感覚を味わえるものにしてほしい」という話が挙がってきました。
最初は「これはどうしたものかな」と思いましたね(笑)。
僕自身、イマーシブエンターテインメントの制作を続けてきて、これまでの活動をもとにお声がけいただいたと思うので、イマーシブエンターテインメントの「観客が物語を鑑賞するだけではなく、五感を通じてその世界に没入していく」という魅力は誰よりも理解しているという自負があります。仮想空間を舞台に人と人との交流を扱った『竜とそばかすの姫』という作品と、イマーシブエンターテインメントの相性が良いこともわかっていました。だからこそ「普通の舞台と違うものを、どう作ればいいんだろう」と悩むことにもなりました。
――広屋さんが企画について悩んでいる中、篠田さん、緒方さん、山崎さんはこの企画に加わったとのことですが、最初にこの企画のお話を聞いた際、どのような印象を持たれましたか?
篠田:僕は映像監督をやっている一方で、個人でも普段からかなりVRChatをやっていますし、VRの演出もしています。VRの世界では以前から、「VRでやっていることとリアルをどうコネクトさせたらいいんだろう」という話がよく出ていました。VRはどうしても入るためのハードルがありますからね。そんな中で今回のお話をいただいたので、映像とVRの両方でものを作ってきた人間として、何か新しい見せ方を作っていくための、ひとつのきっかけになる企画なんじゃないかと思い、参加を決めました。
緒方:僕は『竜とそばかすの姫』という作品自体に、先見の明があったと感じていたんです。アバターと生身の人間の文化だったり、SNSで声が広がっていったり。僕自身もここ数年、画面の中の世界と現実空間を融合させ、その場所にいるからこそ成立する体験を味わってもらうことをテーマにした様々な企画に関わってきました。最初にこの企画についてお話を伺った時は、これまで僕が関わってきた企画で培ってきた表現方法を、『竜とそばかすの姫』という作品を使って表現できることに何より魅力を感じました。
山崎:僕は最初、広屋さんにSNSのDMでお声がけいただきました。「舞台演出をお願いしたい」ということと、「こういう実験的な企画も面白がっていただけると思って声をかけました」というようなことが書かれていて。広屋さんとはその時点で会ったこともなかったんですけど(笑)、「よくわからないことは好きなので、やります」とお返事しました。
広屋:山崎さんが通常の舞台だけではなく、イマーシブシアターにも取り組まれていることは知っていました。今回は観客に役割を持ってもらうことが大事なので、そういう感覚を持っている方が絶対にいいと思ったんです。
そもそも「アニマーシブライブ」とは? 会場全体を<U>の世界へ
――ここで、あらためて、「アニマーシブライブ」がどのような体験なのか教えていただけますか?
広屋:「アニマーシブライブ」は、「アニメ」と「イマーシブ」を掛け合わせた、アニメーションの世界を現実の空間で体感してもらう没入型の音楽ライブショーです。今回で言えば、映画『竜とそばかすの姫』の仮想世界<U>を映像として見るだけでなく、自分がその世界の中にいるように感じながら、物語や音楽ライブを体験してもらうことを目指しています。会場となるMoN Takanawa: The Museum of Narrativesの「Box1000」にはステージ上に巨大なLEDディスプレイがあり、今回はさらに両サイドにもLEDディスプレイを設置し、上方向からもdot imageを活用した光演出も組み合わせています。
――映画ではスクリーンの向こう側にあった<U>の世界が、今度は観客を包み込む空間として広がるわけですね。まさに映画の世界に入り込むような体験ができそうです。
広屋:まさにそこが大切で、会場の設備を使いながら、最初に考えたのが「どうしたら本当に<U>の世界に入ったような感覚になれるんだろう」ということでした。正面に大きな映像があるだけでは、本当にアニメの世界に包み込まれるところまではいかないんじゃないかと思ったんです。そこで、正面だけではなく左右、さらに上方向まで使って、見回す限り<U>の世界が広がっているような空間を作りたいなと思いました。体感として360度、その世界に包まれている状態を作ることで、観客が「<U>の世界に入った」と感じてもらえるんじゃないかと考えました。
――緒方さんはCG監督として、そうした劇場空間をどのように捉えられたのでしょうか?
緒方:今回の舞台は、現実の場所をCGで拡張して見せるというより、映画の中にある仮想世界<U>そのものを、現実の劇場空間にどう出現させるか、という考え方なんです。普段であれば、実際の舞台セットをベースにCGで奥行きを広げるなど、現実の空間を延長する表現をすることが多いと思います。でも今回は逆で、そもそも<U>という仮想世界の中にあるステージを、現実の劇場にどう持ってくるかを考えました。仮想空間であれば360度を見渡せますし、自分で動き回ることもできます。一方、劇場では基本的に客席から舞台を見ることになります。その違いをどう埋めて、参加者に「<U>の中に入った」と感じてもらうかが大きなポイントでした。例えばオープニングでは、観客を囲い込むような映像表現で、一気にステージの空間へ入ったように感じてもらう。舞台機構にも、現実でできそうな動きとCGだからこそできる動きを混ぜています。そこも面白さです。
――篠田さんは映像監督として、通常の映像作品とはどのような違いを感じましたか?
篠田:映像作品を作る場合、普通はまずコンテを描きます。映像のコンテを描く場合って、寄りの画を入れたり、カットを割ったりして見せていくじゃないですか。でも今回は舞台なので、観客がどこを見るのかを映像側で完全にコントロールすることはできない。映像監督としては、寄りの画を入れないというのは結構怖いんですよ(笑)。一方で僕自身、VRの演出もやっているので、360度の中で観客が好きな場所を見る感覚もわかる。ただ、今回はVRとも違います。劇場という固定された空間で、舞台的な見せ方と映像的な見せ方をどう両立するのか。そのバランスは難しかったですね。
――<U>の世界に没入してもらうための仕掛けについて、映像による視覚的な演出について伺ってきましたが、音響についてはいかがでしょうか?
広屋:音響も、今回の体験を作るための大事なピースになっています。まず劇場全体では、音響監督が立体音響を作っています。その上で今回、観客が持っているスマートフォンを、ひとつのスピーカーとして使う最新の技術を導入しています。この技術を導入することで、観客が増えれば増えるほど、客席の中に音が出るポイントも増えていくようになります。ステージ上や左右からだけではなく、自分のすぐ隣にいるAsが歓声を上げているように聞こえる。視覚だけではなく聴覚からも<U>の中にいる感覚を作りたいと思っています。この仕組み自体、観客がいなければ成り立たない仕掛けです。<U>を再現した会場にAsとして観客が参加してくれるからこそできる仕掛けなんです。
――映像や音響を鑑賞するだけではなく、観客自身も空間を成立させる一員になるということでしょうか?
山崎:そうですね。このステージは「見てもらう」というより、観客と一緒に「作る」という感覚が大きいですよね。
広屋:会場に来てくれた皆さんと一緒に「作る」ステージなので、参加してくれる観客によって、毎回異なる体験になるはずです。
――一方で、「イマーシブ」と聞くと、どのように参加すればよいのか不安に感じる方もいるかもしれません。その点はいかがでしょうか?
山崎:そこは、そんなに構えなくても大丈夫です。「没入しなきゃ」と思わなくても、こちらは自然に入ってもらえるように準備しています。イマーシブと聞いて、「よくわからないから行きづらいな」と思う方がいたとしても、テーマパークへ行くような感覚でフラッと来ていただけたら。まだ知らない体験ができると思います。
篠田:今、テーマパークという言葉が出ましたけど、緒方さんとCGの方向性を相談する時に、一番使っていた言葉は「アトラクション」だったかもしれません。「とにかくアトラクションっぽく見せたいです」と。
――これまで映像や音響の技術について伺ってきましたが、緒方さんが、技術面で他に注目してほしいと感じているポイントはどこでしょうか?
緒方:ステージ上に映し出される映像表現と、空間としての一体感はぜひ見てほしいです。例えばCGの中に登場するキューブと近いデザインのものが舞台美術として舞台にもあったりして、映像の中のものが現実側にも拡張されているような作り方をしています。CGはCG、舞台美術は舞台美術と完全に分かれているわけではなく、デザイン的にもつながっている。そういった一体感や、三面LEDを使った表現は楽しんでいただきたいですね。
なぜ映画の5年後なのか――原作を受け継ぎながら「今」を描く
――こうして<U>の世界を現実の劇場に作り出す一方で、物語については映画をそのまま再現するのではなく、5年後の世界が描かれます。この設定にされた理由をお聞かせください。
広屋:『竜とそばかすの姫』で描かれていた世界って、今の日本のバーチャルの世界を先に描いていたんじゃないかと思うくらい、現実が作品に近づいていると感じます。自分でアバターをまとって活動する人がいたり、VRChatの中で生きている人がいたりする。せっかく映画から5年後を描かせてもらえるのであれば、原作をそのままなぞるより、その世界を受け継ぎながら、今のバーチャルの世界で生きる人たちの感情や課題、思いを舞台作品として描きたいと思いました。
――映画が公開された当時よりも、さらに技術が進んだ今だからこそ描ける物語を描こうと思われたわけですね。
広屋:そこは明確に「原作の通りに」というより、「今を描かせてほしい」とお伝えしました。もちろん、<U>の世界観はきちんと受け継ぎます。映画とつながる部分としては、ベルを支えていたヒロちゃんが、その後、有名なプロデューサーになっているという設定を考えました。それによって今回の物語へつなげられるんじゃないかと思い、スタジオ地図さんに提案したところ「面白そう」と言っていただき、そこから話がぐっと進んだ部分もありました。細田監督が描いた世界をちゃんと踏襲しながら、その上で今のリアルをどう描くか。それは物語として大切にしたところです。
――ここまでのお話を伺うと、観客が<U>の世界にいること自体にも、物語の中で意味があるように感じます。その点はいかがでしょうか?
広屋:そうですね。ただ映像に包まれるだけではなくて、自分たちが<U>の世界にいることで、しっかりとストーリーが展開していくような物語にしたいと思いました。それから、全部を映像表現にするだけじゃなく、劇場での公演というスタイルをとるなら、実際にステージへ出演者が出てきて歌うことも大切な要素の一つだと考えました。「バーチャルとリアルの融合」と言っていますが、その二つが融合するためには、どんな物語が必要なのか。そこからシナリオを考えていきました。
4人のクリエイターが“越境”しながら作る――「わからない」と言える現場
――今回は映像、CG、舞台など、さまざまな分野のクリエイターが参加されています。実際の制作はどのように進められたのでしょうか?
広屋:僕が最初の企画や構想を作りましたが、それを全部ひとりで実現できるわけではありません。映像も必要だし、CGも必要だし、リアルな出演者がいるので舞台演出も必要になる。今日いる4人だけではなく、本当にたくさんのセクションの方に集まっていただいています。僕としては旗を立てて皆さんに集まっていただき、各分野はお任せする。その上で、みんなが同じ方向へ進んでいるのかを見る立場ですね。
――篠田さんにとって、今回の制作は普段の映像制作とどのような点が異なりましたか?
篠田:最初は探り探りでした。普段、映像監督として作品を作る場合は、ほとんどの演出に自分の決定権があって、コンテに合わせて作っていきます。でも今回は、そこをもう少しフラットにして、いろいろなディレクターの意見を聞きながら、自分からも「こういうのがいいんじゃないですか」と提案していく。それぞれのパートがお互いに影響し合いながら作っていきました。それが楽しかったです。
――これまでに例のない表現だからこその難しさもあったのでしょうか?
篠田:そうなんです。今回、僕は何度も「わからないです」と言っています(笑)。普段、映像監督が「わからないです」と言うのは、結構タブーなセリフのひとつだと思うんです。でも今回は見たことのないものを作っているので、正直、本当にわからない。「わからないけど、多分こうだと思う」と話して、わからないことは素直に「わからない」と言う。そうすると皆さんがいろいろなアイデアを出してくれました。僕のコンテを生かして緒方さんが演出を考えてくれたり。僕はVR空間での演出経験はありますけど、ステージと組み合わせた経験はそれほどなかったので、そこを緒方さんに助けてもらったりしました。
――緒方さんはCG監督として、各セクションのアイデアをどのようにひとつの表現へ落とし込まれたのでしょうか?
緒方:僕は、最終的に視覚的な映像として見えるものに具現化していく部分ですね。脚本の世界観、山崎さんが考える舞台演出、篠田さんの映像表現を取り入れながら、実際に舞台空間で見た時にどう見えるのか、どう馴染むのか、どう感じるのかを考えていきました。映像作品でもないし、完全な舞台作品でもない。アバターも登場するし、生身の演者も登場する。そうしたいろいろな表現を、ひとつの体験に落とし込む役割だったと思います。
――広屋さんがすべてを決定するのではなく、各分野のクリエイターが意見を出し合う形で制作が進んだのでしょうか?
広屋:そうですね。前半は、みんなで「お見合い」しているような瞬間もありました(笑)。皆さん、それぞれの分野では普段、最終決定をしている方たちなので、僕が全部「絶対これです」と決めるのも今回の作り方とは違うだろうと。各セクションで責任を持ってくださる方たちと相談しながら作っていく。トップダウンではない作り方になったと思います。
観客が「自分も<U>にいる」と信じられるか
――山崎さんは舞台演出を担当する上で、特にどのようなことを大切にされたのでしょうか?
山崎:僕がこの企画で出せるのは、演劇の観点だと思いました。僕は、お客さんが実際に劇場へ来て作品を観る前提のモノづくりをずっとやってきましたし、回遊型のイマーシブシアターも作っています。イマーシブ作品って、観客自身が「自分はこの世界の中でこういう存在なんだ」と、自分の役割を信じられるかどうかが大切だと思うんです。今回だったら、「自分自身が<U>の観客として、ここに存在している」と信じられるか。そこは大事にしました。
――リアルキャストが登場するパートでは、映像で描かれる<U>の世界と生身の出演者をどのようにつなげようと考えられたのでしょうか?
山崎:画面の中の演出と実際の照明が連動するような部分は、このアニマーシブライブの大きな魅力です。じゃあ実際に生身の人間がステージに出てきた時にどうするのか。僕は、むしろそこで演出的な要素や色味、カラフルさをそぎ落として、「フィジカルな人間がそこにいる」という状態をより深く味わってもらうため、極端に削ぎ落とした見せ方を選択しました。映像のほうがいいとか、生身の人間のほうがいいという優劣の話ではなく、映像を通して感じていたリアルが、劇中で生身の人間から感じるリアルに変わる。それは明らかに異質な時間になります。考えてみれば、その“境目”を体験できることこそが、このアニマーシブライブの醍醐味であり唯一無二の体験になるんじゃないかと思っています。『竜とそばかすの姫』にも、アバターから実体の姿が明らかになる“アンベイル”がありますよね。そういう意味ではオマージュ的なところもありますが、それを実際の人間でやった時に、お客さんがその変化をどう感じるのか。僕自身、すごく楽しみです。
――CGで描かれる世界と生身の出演者を近づけるのではなく、あえて両者の違いを際立たせたということでしょうか?
山崎:そうですね。仮想空間でアバターをまとうというのは、それを着ることで、自分にとっての武器にもなるし、鎧にもなると思うんです。その鎧が剥がれた時、物語の中の人物でありながら、お客さんに一番近い存在になってほしい。それは演者さんにも伝えました。最初は皆さん、すごく「演じよう」としてくださったんです。でも、「自分自身もアーティストとして鎧を着ているとして、その鎧が脱げた状態で、いきなり歌ってと言われたらどうしますか?」と。そういうふうに現実に置き換えて想像しながら、稽古をしていきました。
――篠田さんは、リアルキャストの演出についてはどの程度関わられたのでしょうか?
篠田:僕は逆に、あまり考えないようにしていました。キャラクターとリアルキャストが絡む部分はもちろん考えますけど、リアルキャストだけが出てくる部分については、「そこは山崎さんが考えるんだ」と。中途半端に映像側から入ると、逆に中途半端になると思ったんですよね。キャラクター側の動きは緒方さんと作る。リアルの出演者の演技は山崎さんに任せる。それぞれの領域を信頼していたところはあります。
――緒方さんは、CGと生身の出演者をつなぐ部分ではどのような作業をされたのでしょうか?
緒方:CG側では、アバターの動きを作るモーションキャプチャーにも関わっています。本読みの段階から山崎さんにも参加していただいて、実際にモーションを収録する時にも、「二人がどう立って、どう動いたらいいのか」といった部分について意見をいただきました。CGと生身の演者、その二つをつないでいく部分でも一緒に作っています。山崎さんが最終的に生身の人間の表現として落とし込んでくれるという信頼があったので、CG側としても安心して話ができました。
作品の“最後のSE”は、観客の歓声
――観客が<U>の一員であるという考え方は、実際の演出にも影響しているのでしょうか?
山崎:そこはすごく大きいと思います。例えばライブシーンを描いたアニメ映画だったら、映像の中に歓声が入っていても、お客さんはそれを見てライブ空間に没入できますよね。でも今回は、それとまったく同じ作法ではない。実際のお客さんが「うおー!」と声を出した時に、それが最後のSEとしてはまるための“間”が必要になる。リアルキャストのセリフも、本人の心情だけで間を取ってしゃべってしまうと、映像側のキャラクターとのタイミングが合わなくなることがある。だから「間」はすごく難しいんです。理想を言えば、アニメ側も全部リアルタイムで生きて動いていたらいい。でも今の技術では難しい部分もある。その中で、どうやってお客さんに最後のピースになってもらうか。どんな作品でも観客は大切ですけど、今回は特に、お客さんがゼロだったら成立しないくらいの作品だと思っています。画面の中のAsだけが盛り上がっていても困りますから(笑)。やっぱり、お客さんがいてこそですよね。
――篠田さんも、観客の反応を想定しながら映像のタイミングを調整されたのでしょうか?
篠田:「間」は映像側でもかなり大変でした。映像としての間、山崎さんが考える舞台の間、緒方さんがCGを入れたことで変わる間があり、さらに音の演出も入ってくる。そこを何度も行ったり来たりしながら調整しました。ナレーションや音の演技も含めて、最後までかなり大変だったところですね。
ゲストもまた「現実と<U>が混ざる」存在に
――ゲストアーティストやゲスト出演者についても、この作品ならではのキャスティングだと感じます。その狙いをお聞かせください。
広屋:今回の企画自体が、『竜とそばかすの姫』の<U>と、自分たちが生きる現実世界が混ざり合うようなものだと思っています。だから、実際に今バーチャルの世界で活動しているアーティストが<U>の中に入り、パフォーマンスすること自体も、このコンセプトを体現するひとつのアプローチだと思っていて、今回ゲストアーティストとしてAZKiさんに出演していただいています。今回のステージは<U>の中で開催される音楽ライブフェス「Utopia」が舞台なので、その中のひとつのステージとして、AZKiさんにもパフォーマンスしていただきます。レポーターとしては、VTuberとして長年活動されている「ぽんぽこ&ピーナッツくん」にも参加していただいております。
――ぽんぽこさんとピーナッツくんはレポーター役として参加されているとのことですが、お二人の出演によって作品にどのような変化が生まれましたか?
広屋:ぽんぽこさんとピーナッツくんは、こちらでアニマーシブライブ『竜とそばかすの姫』に出演してくれるVTuberを募集する企画を実施したところ、かなり早い段階で応募してくださって。僕たちも驚きました。レポーター役として出演していただきますが、お二人の感じがすごくマッチしていて、作品の大事なところで効果的に出ていただいています。正直、だいぶ助けられています(笑)。
山崎:絶妙ですよね。もともと台本が大きく変わったわけではないんです。でも、誰がその役をやるかによって、シーンの味わいがこんなにも変わるんだなと思いました。お二人は、「演じよう」としているわけではなく、普段のお二人のキャラクターのままリアクションしてくださっているところがある。それがちょうどいいんですよね。アニメの部分は事前に収録したものが流れますが、そこにちゃんと生々しさを持った人たちがいることで、リアル側とのマッチ度も上がると思います。
「まだ誰も完成形を見ていない」――すべてが劇場で初めて混ざり合う
――最後に、この作品を楽しみにしている皆さんへ、注目してほしいポイントやメッセージをお願いします。
広屋:日本のアニメ文化やバーチャル文化を、リアルな舞台表現の中で描く作品になっています。チームとしても、これが未来に残っていく新しい表現になるかもしれない、日本から世界に届くような新しい形になるかもしれない、という思いを持って作っています。とはいえ、お客さんには難しく考えず、肩肘張らずに来ていただきたいです。皆さんが没入できる環境はこちらで準備して待っていますので、気軽に来て、この新しいアニマーシブライブを体験していただけたら嬉しいです。そして、出演者の皆さんの圧倒的な歌声も楽しみにしていただきたいですね。
篠田:こんなことを言っていいのかわからないんですけど……実は今の時点では、まだ誰も「全部が合わさった状態」を見ていないんです(笑)。実際の劇場空間に入って、そこで初めて全部がミックスされる。しかも全部が映像のシーケンス通りに進むわけではなくて、ところどころでタイミングが変わる仕掛けもあるので、その日その日で混ざり方も変わると思います。アトラクションのような、化学反応のような作品になるんじゃないかなと。その空間でしか生まれない体験を楽しんでもらいたいです。僕自身もこれから体験するのが楽しみです。
緒方:僕は、アバター文化やアバターのパフォーマンスが、いつか日本の伝統芸能のようなものになったらいいなと思っているんです。今回のステージには、アバターのライブ表現、人間の演者、スマートフォン連動の技術、サラウンド、VTuberのゲストなど、さまざまな要素があります。その全部が『竜とそばかすの姫』のパフォーマンスとして、納得感のある形になっていると思います。僕自身もまだ全貌を見ていないので、楽しみにしています。
山崎:今回のキャストは5人いて、役者の方もいれば、アニメソングを歌っている方、アーティストとして活動している方もいます。それぞれジャンルが違いますが、皆さんがLAYRAというキャラクターに、自分自身を重ねながら演じているところがあるんです。普段、演劇やこういうVR的なライブを見ない方にとっても、初めての体験になればいいなと思っています。僕も、全部が合わさった時にどうなるのかはまだわかりません。実際に見たら、「もっとこうしてみよう」「ああしてみよう」ということが僕たちにも出てくるかもしれない。未知のものは怖いですけど、それ以上に楽しみです。お客さんと一緒に体験していきたいと思っています。
■公演情報
アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫 – PROJECT LAYRA – 」【INTRODUCTION】
細田守監督のアニメーション映画『竜とそばかすの姫』を原作とした、没入型音楽ライブショー。
舞台は映画から5年後の仮想世界<U>。かつて歌姫ベルをプロデュースしたヒロちゃんが、新たな歌姫LAYRA(レイラ)を見いだし、<U>史上最大の音楽フェス「Utopia」を開催する。
最先端の映像・音響・空間演出を駆使し、映画の世界を現実の劇場に再現。観客自身も物語の一員となる、アニメーションとライブが融合した新たなエンターテインメント。
【STAFF】
原作:アニメーション映画『竜とそばかすの姫』(監督:細田守)
クリエイティブディレクター:広屋佑規(NO MORE Inc.)
脚本:小御門優一郎
映像監督:篠田利隆(異次元TOKYO)
CG監督:緒方達郎(Composition Inc.)
舞台演出:山崎彬
音楽監督:TeddyLoid
キャラクターデザイン:Mika Pikazo/しまぐち ニケ
【CAST】
LAYRA(レイラ)/コトミ役:miwa/昆 夏美/鈴木このみ/みきまりあ/ASCA
ヒロちゃん<As>役:幾田りら
パック役:黒沢ともよ
ゲストアーティスト:AZKi
レポーター:ぽんぽこ&ピーナッツくん
【公演情報】
公演期間:2026年10月10日(土)~11月15日(日)
会場:MoN Takanawa: The Museum of Narratives「Box1000」(東京都港区三田3丁目16-1)
上演時間:約90分(開場中演出約30分+本編約60分)
チケット料金:5,500円~11,000円(税込)/オリジナルグッズ付チケット:8,800円~14,300円(税込)
※未就学児入場不可。公演日程、出演者、チケットの詳細は公式サイトをご確認ください。
公式サイト:https://animmersive.jp/ryusoba/![]()
©2021 スタジオ地図
©アニマーシブライブ「竜とそばかすの姫」製作委員会
■執筆者
(執筆者:斎藤ゆうすけ/90年代のアニメとゲームを愛するライター。放送作家&シナリオライターとしても活動。ゲームやアニメ、小説や漫画原作などシナリオの企画・制作も多数担当。専門学校でメディア論やシナリオ講座の講義も。https://x.com/saito_you)
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