【鷹(タカ)で団地の害鳥対策?!】鳩やカラスを撃退、糞害やゴミ荒らしが激減!「鷹匠」の放鷹に密着してみた 神代団地(東京都調布市)

【鷹(タカ)で団地の害鳥対策?!】鳩やカラスを撃退、糞害やゴミ荒らしが激減!「鷹匠」の放鷹に密着してみた 神代団地(東京都調布市)

団地は、広い敷地の緑豊かな住環境が魅力。しかし一方で、カラスやハト、ムクドリなどの鳥たちの糞害や、ゴミ荒らしに、多くの住民が頭を悩ませていた。そんななか、UR都市機構が導入した驚きの解決策が、鷹(タカ)を放って鳥を追い払う「放鷹(ほうよう)」だ。実際に被害が激減したという現場を取材した。

帰巣本能が強いハトには、天敵の鷹で「ここは縄張りじゃない」と思わせる

舞台になるのは、昭和を代表する大規模なUR都市機構の「神代団地(じんだいだんち)」。東京都調布市西つつじケ丘と狛江市西野川にまたがる、全57棟・2092戸から成るマンモス団地だ。

この地で放鷹を行うのは、鷹匠(たかじょう)の江頭千景(えとう・ちかげ)さん。今年の放鷹は、4月から毎週木曜日、全10回にわたって実施されている。ハトやカラスにとって、鷹などの猛禽類は絶対的な天敵。その天敵をあえて放つことで、「ココにいてはいけない」と鳥たちに学習させるのが放鷹の効果だ。

団地の敷地内をひたすら巡り、カラスやハトの様子を目視する鷹匠、江頭さん。日中の屋外には日焼け防止対策は欠かせない(写真撮影/片山貴博)

団地の敷地内をひたすら巡り、カラスやハトの様子を目視する鷹匠、江頭さん。日中の屋外には日焼け防止対策は欠かせない(写真撮影/片山貴博)

「例えば、ハトは帰巣本能が強く、一度住み着くと、そこを自分のテリトリーとするんです。しかも人間の目だけじゃ潜んでいるのが分からないので、ベランダに鷹を飛ばして、潜んでいるハトを追い出させます。人間が目視で確認できる数の、だいたい2倍くらいの数がいると思ってください」(江頭さん)

ベランダにハトが住み着いてしまうと、大量の糞(ふん)に悩まされることになる。美観が損なわれるのはもちろん、アレルギーや感染症を媒介するリスクもあるため、住民にとってはまさに死活問題なのだ。放置すれば、建物の劣化の原因にもなる。

鷹匠の江頭さんが飼いならした鷹を放ち、カラスやハトを追い払う。

ちなみに、この神代団地での事例ではないが、ムクドリの対策に駆り出されることもあるという。
「ムクドリは糞害だけでなく、騒音問題で苦情になるケースが目立ちます。そのため、自治体から要請をいただくことが多いですね」
ムクドリ対策の放鷹は、日没の少し前から行うのが鉄則だそうだ。夕方、寝床になる大きな木へと一斉に戻ってくる彼らの習慣を待ち伏せるためである。

放鷹の様子。鷹匠の合図で団地のベランダまで飛び、腕に戻ってくる(動画撮影/片山貴博)ハリスホーク(和名:モモアカノスリ)という種の鷹。賢く人に慣れていることから、猛禽類のペットや鷹狩り、バードショーでも人気があるとか(写真撮影/片山貴博)

ハリスホーク(和名:モモアカノスリ)という種の鷹。賢く人に慣れていることから、猛禽類のペットや鷹狩り、バードショーでも人気があるとか(写真撮影/片山貴博)

今回の相棒は雌の「蓮(れん)」ちゃん。「この子はカラスを追うのが好きなので、カラスの多いこの場所には最適。鷹匠は1人につき2~3羽を相棒にしていて、例えば人に慣れている子はショーに、物おじしない子は工場で、などというふうに、現場に合わせて連れていく子を変えています」(写真撮影/片山貴博)

今回の相棒は雌の「蓮(れん)」ちゃん。「この子はカラスを追うのが好きなので、カラスの多いこの場所には最適。鷹匠は1人につき2~3羽を相棒にしていて、例えば人に慣れている子はショーに、物おじしない子は工場で、などというふうに、現場に合わせて連れていく子を変えています」(写真撮影/片山貴博)

放鷹は「鷹狩」とも呼ばれ、江戸時代には、徳川将軍や大名が武士の軍事訓練や権威の誇示、民情視察を兼ねて行った文化のひとつでもあるそう(写真撮影/片山貴博)

放鷹は「鷹狩」とも呼ばれ、江戸時代には、徳川将軍や大名が武士の軍事訓練や権威の誇示、民情視察を兼ねて行った文化のひとつでもあるそう(写真撮影/片山貴博)

賢いカラスは、すでに鷹匠を敵認定。威嚇し続ける

今回の取材で行われたのは、カラスの対策だ。

驚くべきは、なんとカラスは、特定の人間や車両を完璧に識別しているということ。
「私の場合は、乗っている車まで覚えられています。車のエンジンを切った段階で、真上の電線や枝に止まって『ワーッ』と鳴いて威嚇してくるんです。もう完全に“敵”として認定されていますね。しかもカラス同士で情報交換がされているのか、私が敷地に入った瞬間、仲間内で『はい集合』といった感じでいっせいに騒ぎ出す。私が彼らのテリトリーに入っている間じゅう、木の上や建物からずっと監視されているんです」

カラスはつがい(夫婦)で行動する。取材時も、江頭さんが彼らのテリトリーに入った瞬間、大声で威嚇してきた(写真撮影/片山貴博)

カラスはつがい(夫婦)で行動する。取材時も、江頭さんが彼らのテリトリーに入った瞬間、大声で威嚇してきた(写真撮影/片山貴博)

団地内に鷹を連れて練り歩くだけで、カラスへのけん制の効果があるそう(写真撮影/片山貴博)

団地内に鷹を連れて練り歩くだけで、カラスへのけん制の効果があるそう(写真撮影/片山貴博)

1時間ほどのパトロールを終え、江頭さんは壁に書かれた棟番号を控え、ハトの潜んでいたポイントを記録していく(写真撮影/片山貴博)

1時間ほどのパトロールを終え、江頭さんは壁に書かれた棟番号を控え、ハトの潜んでいたポイントを記録していく(写真撮影/片山貴博)

さらに「ピンポイントな奇襲」をかけることもあるという。

「カラスは賢いので、地域の『燃えるゴミの日』を正確に把握しているんです。だから、ゴミを漁らせないように、収集の時間帯をピンポイントで狙って鷹を放つこともあります。鷹を飛ばして『ここは天敵がいる危険な場所だ』と知らしめるんです。カラスは賢いからこそ、一度学習すればその効果は絶大です」

江頭さん

(写真撮影/片山貴博)

蓮ちゃん

(写真撮影/片山貴博)

知られざる鷹匠の世界。実は若い女性が多い理由

話題は逸れるが、興味があったので「女性の鷹匠は珍しいのでは?」と江頭さんに質問してみる。

「ですよね。職人肌の50代、60代の男性というイメージが強いと思います。確かに、私の師匠もそうですが、30年、40年のキャリアのある方は男性ばかりです。でも、最近この業界に飛び込んでくるのは、女性の方が多いんです。実際に、私の会社の後輩3人も全員女性です」と驚きの実態を明かしてくれた。

というのも動物好きな女性が動物系の高校や専門学校に進み、就職先のひとつとして鷹匠を選ぶルートができつつあるからだという。江頭さんもそのひとりだ。
「もともと虫や爬虫類が大好きで、将来は絶対に動物関係の仕事に就くと決め、農業高校の畜産科に進学しました。その時、外部の専門家から『学校で猛禽類の保護施設を担えないか』というプロジェクトが持ち込まれ、その一環で、ハリスホークのお世話係になったことがきっかけです。そのなかで、放鷹の現場を見学し、人が鷹を放つ姿を見て本当に感動して。そこで、今の師匠に直談判して弟子入りしました」

江頭さんが所属する「グリーンフィールド」が放鷹による害鳥対策を始めたのは15年前。「当時、こうした活動をしているところはなかったと聞いています」(写真撮影/片山貴博)

江頭さんが所属する「グリーンフィールド」が放鷹による害鳥対策を始めたのは15年前。「当時、こうした活動をしているところはなかったと聞いています」(写真撮影/片山貴博)

放鷹時の持ち物。楕円の黒い入れ物はエサ箱。手羽先も鷹のごほうびとなるおやつ(写真撮影/片山貴博)

放鷹時の持ち物。楕円の黒い入れ物はエサ箱。手羽先も鷹のごほうびとなるおやつ(写真撮影/片山貴博)

恵まれた自然環境だからこそ、糞被害に悩むジレンマ

UR賃貸住宅における放鷹の導入は、決して最近始まった試みではない。
「この団地では、もう7~8年前から継続してお願いしています。そもそもハトやカラスとの攻防の歴史は、団地の歴史と同じくらい長いんです。緑豊かな敷地に建つ大規模団地は、鳥たちにとって格好の寝床になってしまうからです。一度テリトリーとされてしまうと、住居のベランダに侵入され、糞被害が多発します。特に人の気配のない空き住戸のベランダは巣をつくられやすく、放置されると被害の拡大につながるため非常に苦慮していました」
そう語るのは、神代団地の管理を担当するURコミュニティの小美濃拓也(おみの・たくや)さんだ。

神代団地の管理を担当する小美濃さん。「カラスやハトの巣の撤去作業も対策のひとつです」(写真撮影/片山貴博)

神代団地の管理を担当する小美濃さん。「カラスやハトの巣の撤去作業も対策のひとつです」(写真撮影/片山貴博)

前述したとおり、カラスやハトの糞害は、悪臭や景観を損なうだけではない。糞や羽毛を吸い込むことで、喘息やアレルギー症状、肺炎などの感染症の原因になる。
さらに、鳥の糞は強い酸性を含むため、放置すればベランダの床、外壁、屋根材を腐食・劣化させる。
悪臭だけでなく、ダニやゴキブリなどの害虫を引き寄せる温床にもなる。

ハトに餌付けをする人、追い払いを可哀想と主張する人もいるが、鳥の被害対策をすることは、そこに暮らす人、建物を守る行為なのだ。

別の団地での甚大な糞害の様子(写真は共用階段)。これがベランダの場合、糞や粉塵の被害が上下左右の住戸にもおよび、大変なことになる(画像提供/URコミュニティ)

別の団地での甚大な糞害の様子(写真は共用階段)。これがベランダの場合、糞や粉塵の被害が上下左右の住戸にもおよび、大変なことになる(画像提供/URコミュニティ)

なかでも神代団地は、豊かな森と川に囲まれた大規模な団地ゆえ、人間と同様、ハトやカラスにとっても居心地のいい場所なのだ。それだけに、放っておくと被害も大きくなってしまう。
「鷹匠の手配は、基本的には住民の方々からの申し出を受け、現地をヒアリングした上で対策を行う団地を決定します。ただ、こちらの神代団地は相談数が多いため、例外的に定期的に行っています」(小美濃さん)

長年世話されてきた大樹が心地よい木陰を生む神代団地。最寄駅の京王線つつじヶ丘駅からの所要時間が徒歩7分~19分と、棟によって大きく異なることが、その規模感を表す(写真撮影/片山貴博)

長年世話されてきた大樹が心地よい木陰を生む神代団地。最寄駅の京王線つつじヶ丘駅からの所要時間が徒歩7分~19分と、棟によって大きく異なることが、その規模感を表す(写真撮影/片山貴博)

団地の敷地内を流れる、夏には涼を生む野川も、鳥たちのえさ場になってしまう(写真撮影/片山貴博)

団地の敷地内を流れる、夏には涼を生む野川も、鳥たちのえさ場になってしまう(写真撮影/片山貴博)

放鷹は住民以外も見学可能。鳥好き、写真好きのちょっとしたイベントに

この定期的な放鷹は見学も可能。団地住人だけでなく、遠方から訪れる人もいる。
「特にイベント化しているわけではないのですが、急にベランダに鷹が現れるのも驚かれると思うので、ポスターなどを貼って広報しています」(小美濃さん)

取材当日も、鷹が放たれるとベランダに出て見学する住人、たまたま通りかかって興味深く見ている親子連れ。なかには、遠方から訪れた人、最近引越してきたばかりの住人も見学し、初めて見る放鷹に興味津々。

少し距離を空けて放鷹を見学する人々(写真撮影/片山貴博)

少し距離を空けて放鷹を見学する人々(写真撮影/片山貴博)

この日のためにわざわざ訪れた男性「昔はこのあたりに住んでいて、たまたま先月訪れたときに、放鷹の日だったんです。そのときはもう終盤で、鷹を放つ瞬間が見られなかったので、一度ちゃんと見てみたいと訪れました。もともと鳥が好きで、今日は身近で撮影できるのがうれしいです」
九州から2週間前に団地内に引越してきた女性は、一緒に暮らす親族から「団地で鷹が見られる」と聞いた。
「え、見られるの?と足を運びました。ほんと凄いですね。この団地の雰囲気がすごく好きなんですけど、まさか鷹が見られるなんて」と目を輝かせた。

見学した男性。「せっかくなら良いカメラで鷹を撮りたい」と数日前に買ったばかりのカメラを携えて(写真撮影/片山貴博)

見学した男性。「せっかくなら良いカメラで鷹を撮りたい」と数日前に買ったばかりのカメラを携えて(写真撮影/片山貴博)

「すごくかっこよかったです。鷹匠ってすごいですね」と終了後に江頭さんに感想を伝える女性(写真撮影/片山貴博)

「すごくかっこよかったです。鷹匠ってすごいですね」と終了後に江頭さんに感想を伝える女性(写真撮影/片山貴博)

こうした見学が神代団地の自然豊かな環境のPRにもひと役買っている。
実は神代団地、団地好きには人気のスポット。クリエイターの雑貨を販売し、さまざまなイベントを主催している「手紙舎」が、この地でカフェやベーカリー、雑貨店を手掛けている。そのため、手紙舎ファンの若い世代がわざわざ訪れているのだ。そうして訪れた人が、この団地の環境の良さに惹かれ、住み替えるケースもあるそう。

手紙舎が手掛けるベーカリーも新たな人気スポット(写真撮影/片山貴博)

手紙舎が手掛けるベーカリーも新たな人気スポット(写真撮影/片山貴博)

掃除すること。ベランダで過ごすこと。普段の生活から住民が気を付けたい害鳥対策

プロの鷹匠が介入しても、住民自身の協力がなければ被害は食い止められない。そのため江頭さんは、家庭でできる最大の防衛策として「清掃」の重要性を強調する。
「ハトにとって糞の量は、そこが『安心できる場所である』というマーキングになります。ですから、もし糞を落とされたらすぐに掃除する。地道ですが、この繰り返しの対策が重要です」(江頭さん)

また、ハトはわずか3cmの隙間があれば侵入できる。室外機の下や植木鉢の隙間など、意外な場所を寝床にするのは知られていない。
「羽を畳むと骨格は本当に小さい。ベランダに物を置いている方は、特に注意して見ていただきたいですね」

普段から洗濯物を干したりして、ベランダへの出入りが多い部屋にはハトは寄り付きにくいそう(写真撮影/片山貴博)

普段から洗濯物を干したりして、ベランダへの出入りが多い部屋にはハトは寄り付きにくいそう(写真撮影/片山貴博)

空き家の場合はどうしてもハトが来てしまうので、ネットを張るなどの対策を講じている(写真撮影/片山貴博)

空き家の場合はどうしてもハトが来てしまうので、ネットを張るなどの対策を講じている(写真撮影/片山貴博)

天敵である鷹を放って鳥を追い払う、生態系をそのまま生かした対策は理にかなっている。なかには「かわいそう」という声があるが、鳥による糞害の影響は思っていた以上に深刻だ。この放鷹は、団地の暮らしを彩るちょっとしたイベントにもなっており、今後も定期的に行う予定だそう。撮影中に遭遇した遠方から来た男性は「いいなぁ。うちの駅前もムクドリの糞や騒音がすごいんだ。来てくれないかな」とぽつり。今後、導入する自治体、団地は増えるかもしれない。

●取材協力
UR賃貸 神代団地
・グリーンフィールド

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