ご近所仲間が仲良しすぎる名物賃貸「高円寺アパートメント」に単身棟が登場。一人暮らし同士で飲み会、自発的なイベントなど”交流生む仕掛け”に秘訣、入居者の部屋にもおじゃまします
「賃貸なのにご近所付き合いが活発」「まちと関わりあう賃貸住宅」として知られる高円寺アパートメント(東京都杉並区)。そんな“名物賃貸物件”に、2025年6月、新築の「テラス棟」が加わった。
これまであった棟に比べると「単身層」が多いのが特徴。「ご近所付き合いはしない」のが都会に暮らすシングルの定番のようだが、ここではどうなのか。今回は3人の入居者に入居の経緯や暮らしについてお話を伺った。
「女将」が橋渡し役に。大小さまざまなイベントで入居者同士の交流を深める
そもそも、「高円寺アパートメント」はなぜ“名物賃貸”といわれるのか?
すぐ隣にある従来の高円寺アパートメントのA棟・B棟。目の前の芝生の広場はさまざまなイベントのメイン会場となっている(写真撮影/相馬ミナ)
立地は、JR中央線・高円寺駅と阿佐ヶ谷駅の中間、高架下沿い。元ジェイアール東日本の社宅をリノベーションして2017年に誕生した。1階は店舗で、住人以外にも日常的に多くの人が訪れる。また、定期的に行われるマルシェのほか、ビアフェスなど、まちと関わりあうイベントをはじめ、入居者同士でお花見、流しそうめん、餅つき、忘年会など、季節に合わせたイベントが住人の呼びかけで自然発生的に行われている。
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それを可能にしているのが、「女将(おかみ)」と呼ばれる存在の宮田サラ(みやた・さら)さん(株式会社まめくらし)。自身もこの物件に入居し、当事者となり、住人同士、地域とのハブとなり、コミュニティを育んでいる。
住人同士が顔見知りなのは当然として、お互いの家を行き来したり、引越した後も元住人がイベントがあれば顔を出す。そこが他の賃貸とはちょっと違う“名物”たるゆえんだ。
そして昨年登場したのが、通称・テラス棟「リエットテラス高円寺」。こちらは新築物件で、全46戸のうち1R・1K(25.7平米~31.4平米)が32戸のため、入居者の8割が単身層。共用のシェアラウンジが1階にあり、テラス棟の住人だけでなく、もともとあったA棟・B棟の住人も利用可能だ。テラス棟は、宮田さんと一緒に、自身も20代の単身層である前田野乃花(まえだ・ののか)さんが女将役となって、入居者同士の交流をサポートしている。
新築で建てられた高円寺アパートメントのテラス棟。1階はベジタリアン/ヴィーガン対応レストラン「coret(コレト)」や日替わりで店舗が変わる「シェアキッチン 8K」などがある(写真撮影/相馬ミナ)
入居者同士の交流を図ったり、困りごとを対応したり、イベントを開催したりするのが女将、前田さんの役目。入居者から「野乃花ちゃん」と呼ばれ、頼りにされている。ご自身もご近所暮らし(写真撮影/相馬ミナ)
実際に、テラス棟での暮らしはどうなのか。入居者3人に話を聞いてみた。
「愛猫のための部屋選びでしたが、想定外にご近所付き合いが楽しいです」50代女性・Sさんの場合
一人目は、愛猫・福ちゃんと一緒に暮らす50代女性・Sさん。
こうしたコミュニティが活発な賃貸物件だが、Sさんは当初、それを知らずに内見の予約をした。
「よく飲みに来ていた高円寺や阿佐ヶ谷あたりで部屋を探していて、“猫が飼えること”が条件だったんです。たまたまペット可で、洒落たデザインの新築物件をサイトで見つけて見学を予約したら、ちょうど定期的に開催されるマルシェの日だったんですよ。あいにく雨が降っていたので、そんなに大々的なものではなかったけれど、“ああ、こういうのも面白いかもしれない”って思ったんです」
二面採光がこの間取りに決めた理由。「日当たりが良く、冬でも昼間は暖房がいらないほど暖かいですが、夏はちょっと大変です(笑)」(写真撮影/相馬ミナ)
キャットタワー、キャットソファと、「愛猫との暮らし」が最優先のSさんの住まい(写真撮影/相馬ミナ)
愛猫の福ちゃん(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
以前の住まいより狭くなったため、入居にあたって大胆な断捨離をし、本も10分の1に減らした。本棚は、部屋を傷つけることなくDIYできるアイテム「ディアウォール」を活用したもの(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
専有面積25.7平米(画像/高円寺アパートメントHPより)
当初は「コミュニティありき」で入居を決めたわけではないSさんだが、今では他の住人たちともすっかり打ち解け、日々を楽しんでいる。
「女将さんが、入居者同士の懇談会を開催してくださったんです。その流れで、みんなのお部屋を見るルームツアーをすることになったんですよ。うちは猫がいるので、みんなが『会いたい』って。
シェアラウンジで仕事をすることも多いんですけど、仕事終わりに『ちょっと飲みに行きません?』って、その場の流れで飲みにいったこともあります。本好きの入居者の方が発起人になって始まった読書会にも可能な限り参加しています。こんなふうにご近所付き合いをするなんて、これまでの賃貸暮らしでは、ちょっと考えられなかったことです」
読書会(画像提供/まめくらし)
「東京に転勤で念願の住まい。普通の一人暮らしはつまらなかったんです」。20代女性・Kさんの場合
最初から「コミュニティのある暮らし」を望んで入居した方もいる。京都からの転勤で、今年1月に引越してきたKさんは、「東京に暮らすなら、この物件」と決め打ちした。
「以前、友人の『高円寺アパートメントに住みたい。でも空きがない』という話を覚えていて、検索したら、ちょうど単身向けの棟が新しくできるニュースを見つけたんです。これだ!って運命的なものを感じました。私には家賃的にはちょっと背伸びした感じなのですが、いつこんな素敵な家に巡りあえるかわからないので思い切って住んでみることにしました」
学生時代はシェアハウスで暮らしていたこともあるKさん。もともと人と交流を持つのが好きなタイプだそう。
「とはいえ、距離感の近いシェアハウスの暮らしは、もういいかな、と思っていたんです。かといって、帰って寝るだけの一人暮らしはつまらない。そんな中見つけたこの物件なら、一人暮らしだけれど、程よい距離感でつながれる。私にとって、まさにベストな選択でした」
現在は、都合が合えばさまざまなイベントに顔を出している。
「テラス棟の入居者の女子会に参加したのが、すごく楽しかったですね。この前のお花見会は、お昼の12時から芝生で飲み食いして、夕方からはシェアラウンジに移動して、さらにお隣のA棟・B棟の方々のおうちにお邪魔させてもらったんです。あちらの棟はお子さんのいるファミリーの方々が多いので、子どもたちと遊ぶのも楽しかったんですよ。シール交換、懐かしかったなぁ。ベビーシッターをやりたいくらいです」
好きなモノに囲まれた部屋。「窓が広く開放感があるのが気に入っています」。床の一部が土間になっているのが特徴。他の部屋は、同じワンルームでも土間の位置やフローリングとの割合が異なるバリエーションがある(写真撮影/相馬ミナ)
収納が足りないのが難点。でも細々したアクセサリー類や食器類は見せる収納でインテリアの一部に(写真撮影/相馬ミナ)
(写真撮影/相馬ミナ)
専有面積25.7平米(画像/高円寺アパートメントHPより)
お花見会(画像提供/まめくらし)
「店舗兼住宅のメゾネットで新しい生活が始まります」。30代男性・守屋輝一さんの場合
このテラス棟には、自宅の一部を使って“小商い”ができるメゾネットタイプの店舗兼住宅がある。デザイナーで起業家の守屋輝一(もりや・きいち)さんは、今年1月に入居した。
「ビジネスが拡大するにつれ、当時清澄に構えていた事務所を訪れる人が増え、ショールームを兼ねるようなオフィスを構えたいと考えたんです。この空間をイベントに使ったり、人と人が集うサロンのような空間にもしたいと思っています」
1階は土間で、螺旋階段を上るとプライベート空間。「1階は、コンクリート打ちっ放しで螺旋(らせん)階段のある空間に似合うよう、アンティークの家具を並べて重量感のある雰囲気にしたかったんです」(写真撮影/相馬ミナ)
専有面積51.4平米(画像/高円寺アパートメントHPより)
1階で仕事をしているが、階段の上り下りで気持ちのオンとオフが切り替わる。「仕事のことを考えてしまうので、上にはPCも置かず、何も持っていかないようにしています。2階は睡眠と筋トレだけの場所ですね(笑)」(写真撮影/相馬ミナ)
飾った花は、高円寺アパートメントの住人が経営する花屋から買ったもの。「部屋に花を飾ること自体、ここに住んでからの習慣になりました」(写真撮影/相馬ミナ)
守屋さんが代表を務める株式会社きいちのメモが手掛けた変幻自在な紙製遊具「PORTABLE PARK」を置いて(写真撮影/相馬ミナ)
コミュニティに関しては、お花見会に参加したり、シェアラウンジで一緒になった住人と自然と会話したり、思っていた以上に交流を持っているそう。なかでも店舗兼住宅に暮らす方々の食事会に参加するなど話す機会も多いそう。
「営業時間にふらっと訪れやすいじゃないですか。なかでもレコード店の店主とはよくおしゃべりします。今度、うちにサロンスペースを使ってDJしてもらうのもいいね、なんて話もしています。この新しい場所での暮らしは、これまでのビジネスとは違う種類の思考が生まれてきます」
交流のホンネ、今後のイベントアイデアetc. 入居者の座談会
最後に、インタビューした入居者3名と、高円寺アパートメントの女将役を担っている二人を交えて座談会を行った。
左から、入居者の守屋さん、Sさん、女将である宮田さん、前田さん、入居者のKさん(写真撮影/相馬ミナ)
――このテラス棟で、自然と交流が生まれるのはどうしてだと思いますか?
入居者・Sさん(50代女性):やっぱり、 野乃花ちゃんの存在は大きいんじゃないですか。入居者同士だと、どっちが話しかけようかな、みたいなことになりますよね。
入居者・守屋さん(30代男性):ちょっとワンクッション挟んでくれるのはいつもありがたいですよね。
入居者・Kさん(20代女性):なにかイベントに参加しようと思っても、完全一人で飛び込むのはハードルありますよ。このシェアラウンジの鍵をガチャっと開けるとき、ちょっと緊張しましたもん。
Sさん:わかります、わかります。予約制でもないので、誰がいるかわからないし。
前田さん:最初の一歩が皆さんにとってハードルは高いんですよね。すでにあるA棟・B棟はファミリーの方が多いので、比較的お子さんを通して自然発生的に交流が生まれやすいんですけれど。でも、これは私がみなさんとコミュニケーションをしてつなげていけたら、と思います。でも、1回来てくれたら雰囲気がわかって、以降は来てくれるようになることが多いんです。
守屋さん:とはいっても、この物件に住むっていうことは、少なくともこうした交流は嫌いではない人が多いとは思います。
Kさん:確かに。輝一さん(守屋さんのこと)とは、「はじめまして」でおしゃべりして、そのままの流れで飲みに行きましたよね。
守屋さん:そうそう。他の方も、そういうパターン多いと思います。
守屋さんとKさん。「きいちさんのお店、ずっと拝見してみたかったんです」(写真撮影/相馬ミナ)
前田さん:こうした交流が自然発生するのは、シェアラウンジの存在が大きいんです。A棟・B棟は、そうした共用スペースが、私たちが拠点にしている「まめくらし研究所(事務所兼雑貨店)」くらいしかなくて、そこは広くないし、結局誰かの家に流れるケースが多いんですけど、テラス棟はシェアラウンジにすぐに集まることができるのがいいんです。特に大きくイベントとしなくても、Netflixで何か一緒に見よう、って話になったこともあります。
Kさん:一緒に『ボーイフレンド』見ましたよね。
入居者同士のオススメ本を置くライブラリー。知らない間に陳列が変わっていたり、POPができたり、入居者自身も共用スペースを創り上げている(写真撮影/相馬ミナ)
壁にはイベント告知や相談などの掲示板が、オススメのお店やペットを飼うときの注意点、病院についてなど、幅広い相談事項が張られている(写真撮影/相馬ミナ)
――今後、やりたいことはありますか?
守屋さん:運動会!(即答) 座ってドッジボールとか、怪我しない運動会、やってみたいですね。それから、スポーツ観戦もみんなで見たら盛り上がりそう。もうすぐサッカーワールドカップですし。
sさん:屋上でなにかしたいですよね。天体観測とか、ビアガーデンとか。
前田さん:そうなんです!屋上の有効活用は今考えているところです。
Kさん:子どもたちと遊ぶの、好きなんですよね。高円寺アパートメントに住んでいる子どもたちってわりと社交的じゃないですか? 人見知りしないというか。
前田さん:確かに。親以外の大人と接する機会が多いからでしょうか。
Sさん:心を許す大人がそこにいるって、心理的安全性が担保されてるってことなんですよね。
守屋さん:親だからこそ話せないこともありますよね。思春期になれば余計に。それに、この高円寺アパートメントは本当にいろんな仕事をしている大人がいるから、“あ、こんな仕事面白そう”とか思ってもらえたりしそう。
Kさん:子どもって自分の親とか、先生とか、普段接点のある人のなかでしかイメージできないから、身近にいろんなことをやっている人がいると、未来の選択肢は広がるんじゃないでしょうか。
Sさん:いいですね。今度のイベントの企画で「住人お仕事図鑑」なんて面白いんじゃないですか。
前田さん:わ、面白い。この短時間でいっぱいアイデアが出てきました。全部楽しそうです。
高円寺アパートメントのテラス棟は、近所付き合いが希薄になりがちな単身層こそ「シェアハウス未満のコミュニティ」が形成される、またとない場所。それには、女将と呼ばれるコミュニティのファシリテーション(円滑なつなぎ手)ができる宮田さんや前田さんのような存在があってこそ。「もともとそうしたコミュニティに親和性の高い守屋さんやKさんがいる一方、ほとんど、こうした活動に参加しない方もいます。ただ、Sさんのように、入居理由はコミュニティではなかったけれど、はじめてみたら楽しかったと、積極的に参加してくださる方もいます」。そのグラーデーションこそが、ここが“名物賃貸”たるゆえんだと感じた。
●取材協力
高円寺アパートメント
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