映画『脛擦りの森』高橋一生インタビュー「日本的な恐怖は美しさとも背中合わせ」

荒木飛呂彦の人気コミックを実写化した『岸辺露伴は動かない』シリーズを大ヒットに導いた渡辺一貴監督が手掛ける初のオリジナル作品で、主演に高橋一生さんを迎えた映画『脛擦りの森』(すねこすりのもり)が公開中です。

タイトルにもある「すねこすり」は道ゆく旅人の足にまとわりつき離れないといわれる、岡山に古くから伝承される妖怪。特に人に危害を与えるでもなく、「ただ、人を転ばせる」という不思議な妖怪がモチーフとなった本作は、幻想的な映像とともに、目に見えない存在への想像力を無限に掻き立てます。

既に公開となっているポスター等で老人の特殊メイクも大きな話題を呼んだ、高橋一生さんに撮影の思い出などお話を伺いました。

──大変素晴らしい映画をありがとうございます。高橋さんは本作のプロットや台本を呼んだ時にどの様に感じましたか?

まず台本をいただいて読みました。「物語を起承転結していくための説明をセリフの中に入れること」は必要だとよく分かっていながら、そういったものを省いた時に、人はどのぐらい想像することが出来るのだろうということに元々興味がありました。
僕は「まんが日本昔ばなし」の中で『吉作落とし』というお話がとても好きなのですが、吉作という主人公が崖から飛び降りるまでの姿を描くもので、ものすごく美しくて怖い光景なんです。山菜摂りに行った吉作が綱一本で狭い崖を降りていって、岩棚で一休みしている間に綱が手の届かない所まで離れてしまう。助けを呼んでも声は届かず、何日もそこに取り残された時に「鳥のようにふんわり飛べるかもしれない」と思い込み、飛び降りてしまう…。子供の時は何の救いもない話だなと思ったんですが、今は吉作が最期に見た景色はどんなに美しかっただろう?と感じるんです。
日本的な恐怖は美しさとも背中合わせだなと思っていて。『脛擦りの森』の台本を読んだ時に、実写でそういう話を作れるんじゃないか、とても面白そうだなと感じました。

参照:まんが日本昔ばなし〜データベース〜 – 吉作落とし
http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=1067 [リンク]

──昔からそういった昔ばなし等に興味があったのでしょうか?

好きでした。目に見えるものよりもそうじゃないものの方が、想像が膨らませやすいという感覚が、子供ながらにあったのかなと思います。目に見えるものは説明がついちゃうんです。誰も見たことが無いのに伝承されていく、それって何なんだろう?ということに子供の頃からとても興味がありました。

──妖怪の「すねこすり」は一般的には猫の様な、イタチの様な姿に描かれることが多いですが、本作でのすねこすりは全く違う形で描かれていて、とても魅力的でした。

『岸辺露伴は動かない』シリーズでもご一緒している人物デザイン監修・衣裳デザインの柘植さんのデザインによって観たことのない美しさになっています。僕も元々すねこすりが好きだったので興味深かったです。物事が物語になってしまうというか、伝承になってしまう、“立ち上がり”の瞬間がこの作品にはあると思いました。

──高橋さんは謎の男役を演じていますが、老人役をやることに気負いはありませんでしたか?

岡山県の穴門山神社という素晴らしい場所が説得力を持たせてくれるだろうということ、(渡辺)一貴監督と柘植さんであるということで心配などはありませんでした。また、梅沢さんの特殊メイクを試した時に「これはいけるな」という感覚があったんです。僕だと分からないくらい特殊メイクをすることで、表情筋などに負荷がかかり、動かせないかもしれないな、と思ったのですがそれは杞憂でした。表情筋のポイント、ポイントを意識して特殊メイクをしているので、ちゃんと動くんです。
一貴監督と柘植さんが作った「老人」は、なぜあそに迷い込んでしまったのか?どういう生活をしていたのかという説明は物語ではされていないのですが、身につけている物から「過去にもこうやって人が迷い込んできたのだろうな」と想像させられる。何人も何人も巡り巡ってあの場所が成立している、そんな状況が分かるデザインや美術にしてもらっているので、説明無しで作品が成り立つ勝機を感じました。

──渡辺さんと柘植さんと再びご一緒して、改めて感じた凄さや発見はありましたか?

極力説明を省いて、残る物は何か?という映画的なミニマリズムを目指されたのかなという本作は、一貴監督が本当に作りたかった作品なのかなと感じました。先ほどお話した様に、僕もそういうことをずっと考えてはいたので、この作品が一緒に作れてとても幸せでした。一貴監督が描きたかった“夢の様な怖さ”という、『岸辺露伴は動かない』シリーズとはまた文脈の違う恐怖の形が完成しているのかなと思います。

──穴門山神社は映画を通して見ているだけでも、ものすごい場所ですね。

なぜ作って、なぜああやって存在しているのが不思議なほどの素晴らしい場所でした。岡山県・高梁市の方に色々お話も聞きましたが、平安時代からあるとも言われているとても古い神社ですし、森の中で、大きな岩があって…よくそんな場所を映画の撮影に貸してくださったなという驚きでいっぱいでした。圧倒されてしまって、神社の由来や成り立ちについてお話を聞くだけで精一杯だったかもしれません。
天然の洞窟のようなところに御神体があるんです。その御神体も撮影に使わせていただいたり、観光では行くことの出来ないしめ縄の向こう側に入らせていただけたりなど、なかなか出来ることではないことばかりだったので、そのとんでもなさを感じながら撮影していたらあっという間に終わってしまいました。

夜中の2時ぐらいからメイクを始めて、明け方5時頃に出発して撮影開始、お昼には終了というスケジュールで。帰ってきたら街中の書店に行って、本とお菓子を買って戻って、ご飯を食べて…ということを数日やったのですが、普段の一般的な撮影のスケジュールとは異なる時間軸だったので、それもまた夢現の中にいる様な感覚でした。

──雪が降っているシーンも本当に幻想的でした。

天気のつながりなど、気にせずに撮っていましたね。「全然行けますね」と一貴監督も言っていたことを覚えています。雪が降っているけれど、次のカットには止んでいる。あの世界だからこそ、そんな状況を自然に受け入れてしまう説得力があって。場所の持っている力がそうさせてしまうのかなと感じました。雪も、大粒の牡丹雪が降っているかと思ったら、突然吹雪いていきなり雪景色になったりと変化が激しくて。楽しかったですね。

──高橋さん演じる謎の男が、どうとでもとらえられる表情をしていて、想像がふくらみますし、本作の結末に対して「羨ましい」と思う人もいるかもしれないなと感じました。

確かにそうかもしれないですね。現代は常に席替え、クラス替えをしている様な日々で、一つの場所で悠久の時を過ごしてしまうことへの憧れは高まっているかもしれません。本来人間は「やらなきゃいけないこと」、「やらなくてもいいこと」という分け方をしていなかった気がして。あの場所で過ごしている男がどんな暮らしをしていたのか想いを馳せながら、一つの生き方の疑似体験が出来る映画だなと思います。
意味付けをして語らなければ作品として成り立たない、という風潮もありますが、昔の作品には全く説明をしないで魅力的なものもたくさんあった。そういうやり方をする作品が現代にあっても良いなと思っています。観てくださった方が共通した感想を持つことも良いですけれど、分からないものが分からないまま終わっていったり、バラバラの感じ方が出来る作品が今こそ必要なんじゃないかなと感じています。

──今日は素敵なお話をありがとうございました。

撮影:周二郎

『脛擦りの森』(すねこすりのもり) 全国公開中
■配給:シンカ
©『脛擦りの森』プロジェクト

【ストーリー】
人里から離れた深い森で、足に傷を負った若い男(黒崎煌代)は、女の甘い歌声に導かれ、古めかしい神社にたどり着く。そこには謎の男(高橋一生)と、若く美しい妻・さゆり(蒼戸虹子)が暮らしていた。傷の手当てを受けながら、若い男はこの場所で夢のような、時の止まったような時間を過ごす。繰り返される穏やかな日々、すべては永遠に続くかに思えたが……

『脛擦りの森』作品情報
高橋一生 蒼戸虹子 黒崎煌代
監督・脚本:渡辺一貴

エグゼクティブプロデューサー:川村岬 平賀督基 スージュン 伊藤義彦 北原豪 中村高志 プロデューサー:岡本英之 土橋圭介
人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫 ヴァイオリン演奏:福田廉之介
撮影:大和谷豪 照明:岩木一平 録音・整音:高木創 美術・装飾:佐藤綾子 坂口大吾
スタイリスト:羽石輝 ヘアメイク:荒木美穂 小林雄美 特殊メイク:梅沢壮一 制作担当:基山絢子 
編集:鈴木翔 VFXスーパーバイザー:白石哲也 サウンドデザイン:荒川きよし
製作:『脛擦りの森』プロジェクト(Roadstead・モルフォ・シンカ・JR西日本コミュニケーションズ・Sunborn・NHKエンタープライズ) 
製作幹事:Roadstead 制作プロダクション:CULTBLAN 撮影協力: 岡山県フィルムコミッション協議会 配給:シンカ 61分

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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