同性カップルの賃貸、10年前の「10軒中9軒拒否」から紹介率は3倍に。都内で入居の壁を壊すIRISの10年
LGBTQ(性的マイノリティ)の人、とくに同性カップルの住まい探しでは、入居拒否などの壁に直面することも少なくありません。収入面などが問題なかったとしても、です。その背景には、何があるのでしょうか。LGBTQフレンドリーの不動産会社IRIS(アイリス)のCEO、須藤啓光(すとう・あきひろ)さんに、同性カップルの住まい探しの現実について伺いました。
LGBTQ「同性カップルの同棲」で入居できる物件が見つからない
2014年創業・2016年に法人化したIRISは、LGBTQの人たちの相談を受けて物件探しをサポートする不動産仲介会社。LGBTQの人々は、それぞれの属性によって、異なる入居の難しさや、問題を抱えているようです。
2017年ころ、男性同士のカップルが相談に訪れました。二人の希望条件などを整理し、リストアップした物件の候補には、IRISではない、他の不動産管理会社が管理する物件も含まれています。IRISのスタッフは自社管理の物件ではない場合、部屋を紹介する前に、1件ずつ管理会社や物件オーナーに電話で相談を行い、確認が取れた物件のみを提案するようにしているそう。
物件の管理会社に問い合わせると「お客さまはどんな人か」とよくある質問をされました。スタッフが二人の許可を得て「男性同士のカップルです」と伝えたところ、その管理会社の男性は「気持ち悪い」と吐き捨て、一方的に電話を切ったのです。スタッフから報告を受けた須藤さんが事実確認のために再度その管理会社に電話をすると、電話口の男性は言葉を濁しながら「営業妨害だから二度と連絡をしないでくれ」と言ったそうです。
これはあくまで極端な一例ではありますが、当時は一部の管理会社において、同性カップルの入居に対する理解が十分でない対応が見られることもありました。
IRISでは自社の管理物件ではない物件を提案する場合、相談者に提案する前に管理会社やオーナーに物件の状況確認を行っているが「10年前は同性カップルに忌避感を示す管理会社も多く、内見希望をいただいても10件に1件しか紹介できなかった」と言う(画像/PIXTA)
須藤さんは「LGBTQの賃貸住宅への入居で、問題を抱えやすいのは、同性カップルが同棲したいケース」だと言います。
「単身で入居する分には、多くの場合、性別や性的指向が問題になることはありません。単身で入居する場合に確認等が生じるのは、トランスジェンダー当事者の方の場合です。例えば、手術後の戸籍上の性別の取り扱い変更に伴い『女性限定』『男性限定』物件との整合性が取れなくなると、管理会社から入居継続が難しいと言われることがありますが、まだ日本では、当事者側も受け入れ側も積極的に課題として声をあげにくい状況。やはり、IRISでの相談の多くは『同性カップルが同棲したいとき』に寄せられると言っていいでしょう」(須藤さん、以下同)
LGBTQ、とくに同性カップルが同棲を考えたときに立ちはだかる3つの壁
同性カップルが同棲を考えることが難しい状況の背景にあるのは、(国の)制度面・(不動産会社の)実務面・心理的バイアスという「3つの壁」です。
まず、現行法のもとでは異性カップルでなければ婚姻関係になれないという「制度」の課題があり、これが不動産会社の「実務面」に直結します。
具体的には「二人入居可物件」の多くは、契約における責任の所在を明確にするため、入居要件を「家族」や「親族」としています。そのため、法的に婚姻関係となれない同性カップルの場合は、友人や知人同士の入居を想定する「ルームシェア」という選択肢をとらざるを得ません。また、二人の関係を開示しなくても済むよう、あえて友人・知人の関係と繕ってルームシェア物件を希望するカップルもいるそう。
しかし、ルームシェアは他の友人・知人も集まりやすい部屋になることで騒音トラブルにつながったり、片方が退去を希望した際の扱いが難しいなどの問題があります。「責任の所在が不明確」だと感じる物件のオーナーや管理会社も多く、ルームシェアを敬遠する傾向があり、入居できる物件の幅が一気に狭まるのです。
さらに心理的障壁(バイアス)も無視できない問題です。
「物件の問い合わせをした際、ここ数年でコンプライアンスを重視している不動産管理会社に露骨な差別をされることはとても少なくなりました。ですが、3~4年前までは、『うちではそういうの(同性カップルの入居)は対応してないです』と断られることが多くありました。今でもそういったコンプライアンス意識が十分に醸成されていない管理会社に至っては、前述のように『気持ち悪いです』『(問い合わせに)電話をかけてこないでください』といった差別的な発言をされることがあります。
とくに外国籍、あるいは高齢者同士の同性カップルなど、入居を拒否されやすい属性が重なる『複合マイノリティ』になるとより状況は深刻になります」
LGBTQ(LGBTsとも)の住宅問題は、制度面と実務面、心理的障壁の多くの課題が複雑にからみあっている(画像提供/IRIS)
同性カップル、どこまで関係性を開示するか。同棲する賃貸物件を探すときのポイントに
ルームシェア物件は選択肢が少ないという現実と、二人の関係性を尊重された形で暮らしたいという思いから、同性カップルが友人同士ではなく、カップルとして「二人入居可物件」に入居したいと考えるのは自然な気持ちのはずです。
一方で、偏見や不利益を避けたいとの思いから、関係性の開示はできるだけ最小限にしたいと考えるLGBTQの人は少なくありません。不動産会社だけに開示するつもりで関係性を伝えていたとしても、賃貸借契約や入居審査のプロセスで、意図せず第三者に関係性が伝わってしまうこともあります。
「同性カップルの同棲においては、例えば勤務する会社から住宅手当を受ける場合、会社に提出する書類には入居者欄が含まれることが多く、その欄にパートナーの名前を記入したことが性的マイノリティであることのアウティング(意図しない開示)につながる可能性があります。また家賃債務保証会社を利用する場合も、緊急連絡先に本人がカミングアウトしていない親などを設定すると、万一の場合に、意図せず親族に伝わることが。その場合は、管理会社や家賃債務保証会社と『同居人との関係性については言及しない』などと事前に申し合わせて対策しておくと安心です」
このように当人たちすら気づかないうちに生じる、関係性のアウティングなどのリスクや“潜在的な困りごと”を察知するために、IRISでは相談に来た人にいきなり物件提案をせず、丁寧なヒアリングから始めるそうです。
「関係性の共有範囲は、理想の住まいを探す上で特に重要なポイントです。
開示範囲を限定する場合、希望するエリアを広げたり、あるいは二人入居可物件をあきらめてルームシェア物件の範囲で探すなど、条件をある程度妥協する決断が必要になることもあります。
しかし、あからさまな差別的対応が目立たなくなってきた現在の大都市圏においては、基本的には開示の範囲が広いほど検討可能な物件の幅が広がります。開示することで、空室確認時点から『同性カップルの二人入居』として交渉ができるためです。もし空室確認の段階で入居が難しいと返答された場合もその理由を管理会社やオーナーに確認し、理由に応じて説明のしかたを変えることができます」
顧客の相談に乗る須藤さん。自身もパートナーと里子を迎え入れ、犬3匹と一緒に暮らしている(画像提供/IRIS)
断られても「それで終わり」ではない。審査を通すために
こうした状況のなかで同性カップルが内見後に入居申し込みをして入居審査に落ちた場合も、「それで『終わり』ではない」と須藤さんは強調します。
「例えば大手不動産会社などはオペレーションが明確で、家族・親族以外の同居というイレギュラーな対応の現場決裁が難しいことがほとんどです。このような理由の場合はパートナーシップ証明書などを提示し、制度や背景をオーナーに説明してもらうことで、借りられるようになるケースも多いんです」
不動産管理会社に聞いた、同性カップルの入居対応
パートナーシップ証明書があれば賃貸OKとする管理会社は21.1%。無条件で入居できる物件とあわせると、借りられる物件が50%を超え、選択肢が広がる(画像提供/IRIS)
こうした地道な交渉と取り組みの結果、須藤さんの感覚値では「10年前は同性カップルに紹介可能な物件が10件に1件程度しかなかった状況が、現在、都内では3~4件に1件まで増えている」そうです。
同性の二人入居が当たり前に叶う住宅環境を広げていくために
同性カップルの暮らしを取り巻く環境は、首都圏では紹介できる物件が増えるなど大きく改善している一方で、地域格差は依然として大きいのが現状です。地方の管理会社やオーナーにおいては、まだ「LGBTQ」という言葉自体を知らなかったり、前述した10年前の事例のように偏見から入居を拒否されるケースも少なくないそう。
また、「LGBTQフレンドリー」を掲げる不動産会社は増えているものの、その定義があいまいで、相談窓口の設置にとどまる会社もあれば、交渉のノウハウまで整備されている会社もあります。本来は、守秘と情報共有の範囲を明確にしたうえで、申し込みから契約までの実務を一定水準でサポートすることが「フレンドリー」のあるべき姿です。しかし現状は不動産業界内でLGBTQの人たちへの対応基準や運用が統一されておらず、対応品質が担当者や会社によってばらついているのが課題です。
こうした状況を変えるため、須藤さんたちは2025年に一般社団法人「住宅みらい会議」を設立しました。シンポジウムや交流会を通して「フレンドリーの定義」を明確にし、業界全体に発信する取り組みを進めています。
「最終的な目標は、『LGBTQフレンドリー』というカテゴリーそのものをなくすことです。日本全国どこに行っても、同性カップルが何の問題もなく二人入居可物件を借りられる社会にしたいと考えています」
IRISでは不動産仲介会社を対象に、LGBTQ当事者への対応を学ぶための研修も実施。また自社においても「現場のスタッフ一人ひとりが自分事として向き合える状態」を目指して常に「自分だったらどうか」を考え、知識・スキルの向上へ向けた、事例や対応ノウハウの共有を行なっているそうです。
LGBTQについて知っている、理解があると思っていても、実際には無意識のバイアスが出るケースもある。IRISの研修では「何をするとNGなのか」「どこにバイアスが潜んでいるのか」まで踏み込んで説明している(画像提供/IRIS)
須藤さんのお話からは「当事者の声に耳を傾け、制度の溝を埋める具体的なアクションを、現場から積み上げていくんだ」という強い意志が感じられました。
同性カップルが暮らし方を選ぶときには、カミングアウトの状況、心理的安全性、将来の見通しなど、考えるべきテーマが多くあります。「どこで、どう暮らすか」を考えるプロセスは、二人の価値観をすり合わせ、これからの関係を具体的に描く大切な時間でもあります。
同性カップルの二人暮らしへの制約は依然としてあるものの、暮らし方の選択肢は当事者をサポートするIRISのような会社や専門家の取り組みによっても確実に広がりつつあります。「自分たちにとっての最適な暮らし」を誰もがスムーズに選び取れる未来は、そう遠くないかもしれません。
●取材協力
株式会社IRIS
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