あなたの銀行通帳が世界中に公開される!? Web3の財布「ウォレット」と銀行口座の決定的すぎる違い#1 みんなの銀行
みんなの銀行 CXOオフィスの市原です(広報を担当しています)。前回のプロローグ(連載#0)では、Web2が「賃貸マンション」、Web3が「持ち家」というたとえ話で、新しいインターネットの世界観を覗いてみました。
いよいよ本編となる今回は、Web3世界の「入口」であり「パスポート」とも言われる「ウォレット」の謎に迫ります。「銀行口座とは全く思想が違う」という、その衝撃の仕組みを、社内のWe3専門家であるAI先生と一緒に解き明かしていきましょう!
導入:AI先生、初登場! 「ウォレット」って何ですか?
生徒(広報 市原):先日、自分なりにWeb3について勉強して、プロローグ(連載#0)を書いてみたんですが、書けば書くほど「?」が浮かんできてしまって……。特に、記事の最後に触れたWeb3世界のパスポート「ウォレット」。「お財布」や「身分証明書」と書いてみたものの、やっぱり専門家にもっと詳しく聞いてみたい!
……というわけで、今日はついにこの方をお呼びしました! みんなの銀行 CXOオフィス Web3.0開発グループリーダーの渋谷さん、改めAI先生です!
AI先生(Web3.0開発グループリーダー 渋谷):はじめまして、AI先生です(笑)。プロローグ(連載#0)の記事、拝見しましたよ。Web2を「賃貸マンション」に例えるなど、素晴らしい導入でした。
生徒:生成AIも活用しながら、内容を練り上げていきました!
AI先生:そこから「ウォレット」に興味を持つとは、良いところに目をつけましたね。では早速、その謎を解き明かしていきましょう。
1章【正体】:Web3の入口「ウォレット」の正体
みんなの銀行の「Wallet(普通預金)」とは全くの別物!
生徒:早速ですが、AI先生。このWeb3の「ウォレット」って一体何なんですか? 「お財布」とか「身分証明書」に例えられることが多いようですが……。
AI先生:はい。一言でいうと、Web3 ウォレットは「ブロックチェーン(※)で管理されているデジタル資産を保管する財布」です。
※ブロックチェーンとは、インターネット上にある「みんなで監視できる、極めて改ざんが困難な“魔法のノート”」のような技術です。特定の企業や国が管理するのではなく、世界中のユーザーが同じノートを共有することで、データの信頼性を担保しています。この仕組みによって、安全なデジタル資産のやりとりが実現します。
AI先生:そして、こうしたデジタル資産は、広い意味で「トークン」と呼ばれます。トークンには、ビットコインやイーサリアムのような「暗号資産」や、デジタルアートの所有権を示す「NFT」など、様々な種類があるんですよ。
生徒:なるほど! ちなみに、私たち「みんなの銀行」アプリの中にも「Wallet」(※)がありますけど、これは日常的なお金の出し入れをするための「普通預金」のことですよね。Web3 のウォレットとは全くの別物、という認識で合っていますか?
※みんなの銀行の「Wallet」は銀行サービスで、日常的なお金の出し入れ(支払い・振込・入出金)を行うための普通預金のことです。
https://www.minna-no-ginko.com/service/
AI先生:はい、その認識で合っています。みんなの銀行の Wallet は普通預金のサービス名ですね。
Web3のウォレットを理解するには、私たちが慣れ親しんでいるWeb2の世界における「銀行」と「自分の財布」の関係から考えてみると分かりやすいですよ。
「銀行」か「自分の財布」か? 2種類のウォレット
▲図1:Web2の世界における「銀行」と「自分の財布」の関係
AI先生:まず、図1を見てください。銀行にお金を預けている場合、キャッシュカードを失くしても銀行が「再発行」してくれますよね。でも、自分の財布に入れた現金は、もし落としてしまったら完全に……。
生徒:……アウト。つまりキャッシュカードの再発行やパスワードリセットのような、銀行が提供してきたセーフティネットが一切ない、ということですね。まさに「自己責任」の世界だと、身が引き締まります。
AI先生:では、図2を見てください。この関係が、そっくりそのままWeb3の世界にも当てはまるんです。
▲図2:Web3の世界における「暗号資産取引所」と「自分の財布」の関係
「暗号資産取引所」は、先ほどの「銀行」のように資産を管理してくれます。これを「カストディアルウォレット」と呼びます。
それに対して、自分で管理する「自分の財布」にあたるのが「ノンカストディアルウォレット」です(※)。
※「カストディアル」は、英語のcustodialに由来する言葉で、「保管の」「管理の」といった意味を持ちます。
AI先生:一番の違いは、資産を動かすための最も大事なデータである「秘密鍵」を「第三者(取引所)が管理する」のか、「ユーザー個人が管理する」のか、という点なんです。
生徒:うーん。Web3の世界では、両方とも「〇〇ウォレット」という呼び方になるんですね。Web2脳の私は混乱する……。
AI先生:ふふふ。ただ、一般的に「Web3ウォレット」という場合、後者の「ノンカストディアルウォレット(ユーザー個人が管理する)」を指すことが多いですね。この「ユーザー個人が管理する」という点が、Web3 の「自己責任」の世界を理解する上で最も重要なポイントになります。
2章【仕組み】:「公開」されるアドレスと「絶対秘密」の鍵
生徒:Web3の世界では、自分で管理する「自分の財布」にあたるのが「ノンカストディアルウォレット」、通称「ウォレット」ですね。AI先生、このウォレットには「アドレス」というものがあると聞きました。これって、銀行でいう「口座番号」のようなものでしょうか?
AI先生:似ていますが、決定的な違いがあります。そのウォレットアドレス(アルファベット/英数字で構成された文字列)は、基本的に「公開」されるんです。
「え、公開されるんですか!?」銀行口座と全く違うアドレスの仕組み
生徒:えっ、公開されるんですか!? 銀行の口座番号も厳密には秘匿情報ですが、それとはレベルが違いますね。マネー・ローンダリング(資金洗浄)や詐欺に悪用されるリスクはないのでしょうか?
AI先生:その心配、とてもよく分かります。まさに、これまで私たちが慣れ親しんできた銀行の常識(Web2脳)からすると、当然の疑問ですよね。
良い機会なので整理しましょう。技術的な話をすると、実は、口座番号が知られただけで、勝手にお金が引き出されることはありませんよね。お金を引き出すには「キャッシュカード」や「暗証番号」、「届出印」などが必要だからです。
銀行口座をSNSなどで安易に公開すべきでない理由
AI先生:ただし、だからといって公開しても安全というわけではありません。例えば、詐欺グループが「この口座に振り込んでください」と、あなたの口座を悪用する可能性もゼロではありません。
そのため、銀行の立場としては「理由なくSNSなどで口座番号を公開することは推奨しない」と明確にお伝えしています。
生徒:確かに! 技術的には口座からすぐにお金が抜かれてしまうわけではないけど、犯罪に利用されるリスクがあるから、銀行としては推奨していませんよね。
それに、みんなの銀行の口座からセブン銀行ATMでお金を引き出す時(出金)は、キャッシュカードのかわりに「自分のスマホ=みんなの銀行アプリ」という「鍵」が必要になりますもんね。口座番号が公開されたからって、すぐに危険!というわけではないこともあらためて理解しました。
「公開された私書箱」と「絶対に渡してはいけない鍵」
AI先生:その通りです! そしてWeb3のウォレットアドレスは、その「公開」のされ方が、銀行口座とは根本的に違います。
ここで「公開された私書箱」をイメージすると分かりやすいですよ。ウォレットアドレスは、誰でも手紙(トークン)を投函できるように、住所が公開されている私書箱のようなものなんです。
生徒:なるほど、「私書箱」ですか。それなら住所が公開されても、誰でも中身を開けられるわけじゃないですもんね。
AI先生:その通りです! そして、その私書箱を開けるための「鍵」にあたるのが、ウォレットの持ち主しか知らない「秘密鍵(ひみつかぎ)」という非常に重要なデータなのです。ウォレットのアドレスが世界中に公開されていても、この秘密鍵がなければ誰も資産を動かすことはできません。
生徒:なるほど。ウォレットアドレスが「口座番号」だとすれば、秘密鍵は「キャッシュカード+暗証番号+届出印」をすべて一つにしたような、最重要情報だということですね。ようやく構造が理解できました。
3章【特性】:残高も取引履歴も丸見え!? ブロックチェーンの「透明性」
生徒:……でも、まだ気になることがあります。ウォレットのアドレスが公開されているということは、そのアドレスを検索すれば、私の取引履歴や、今いくら持っているか(残高)というのも、全部他の人から見えちゃうってことですか? それって、私の通帳の中身が世界中に公開されているようなものですか!?
AI先生:まさにその通りです。それがWeb3の基盤技術であるブロックチェーンの大きな特徴である「透明性」です。
「誰が」「いつ」「誰に」「何を」「どれくらい」送ったかが全て記録され、世界中の誰でも閲覧できます。これを可能にするのが「ブロックエクスプローラー」という、いわばブロックチェーン専用の検索エンジンのようなものです。
生徒:検索エンジンで全部見えちゃうなんて……! それじゃあ、プライバシーは……。
プライバシーは守られる? 「擬似匿名性」という考え方
AI先生:そこが面白い点です。ウォレットアドレスはあくまでランダムな文字列なので、通常は、持ち主の個人情報(名前や住所)とは直接紐づきません。これを「擬似匿名性(ぎじとくめいせい)」と呼びます。
アドレスと個人情報が直接紐づいていないため、誰の持ち物か分からない一方で「資産の動きだけは透明に追える」という不思議な状態なんです。
生徒:なるほど、KYC(本人確認)情報とは直接紐づかないから、即座に個人が特定されるわけではない、ということですね。ただ、資産の動きが完全に透明というのは、銀行の感覚からするとやはり不思議です。
……でも、アドレスが公開されているってことは、知らない人から勝手に怪しいものが送りつけられてきたりしないんですか? 迷惑メールみたいに。
迷惑メールならぬ「スパムトークン」という落とし穴
AI 先生:鋭い指摘ですね。まさにその通りで、「スパムトークン」や「スパムNFT」と呼ばれる迷惑なものが送られてくることがあります。知らないトークンやNFTはむやみに触らず、無視するのが一番です。
▲表:AI先生のまとめ!「銀行口座」と「Web3ウォレット」の違い
4章【実践】:百聞は一見にしかず! Web3の透明性を体感しよう
AI先生:言葉で聞くより、実際に見てみるのが一番分かりやすいかもしれませんね。では、一つ具体例を挙げてみましょう。
世界で利用されているブロックチェーン「イーサリアム」。その創設者であるヴィタリック・ブテリン氏のウォレットアドレスは、「0xd8da6bf26964af9d7eed9e03e53415d37aa96045」として公開されています。
生徒:この文字列がウォレットアドレス……。
AI先生:イーサリアムのブロックエクスプローラー「Etherscan(イーサスキャン)」でこのウォレットアドレスを検索してみてください。
彼の膨大な取引履歴(=透明性)と、世界中から送られてきている大量の知らないトークン(=スパムトークン)が、まさに今説明した「擬似匿名性」と「スパム」をリアルに体感させてくれるはずですよ。
生徒:なるほど、有名な人のお財布の中身を、今すぐ見ることができるんですね! それはすごい……。後で早速やってみます!
⚠暗号資産に関するトラブルにご注意ください!
AI先生:おっと、ここで一つ大事な補足があります。
暗号資産を手に入れるために利用する「暗号資産取引所」ですが、日本で利用する際は、必ず「金融庁に登録された事業者」を選ぶようにしてください。
というのも、登録業者は利用者の資産を守るための厳しいルール(顧客資産の分別管理やセキュリティ対策、本人確認「KYC」など)を守る義務があるからです。
安全のためにも、取引を始める前に金融庁のウェブサイトで登録済みかどうかを確認するのがおすすめですよ。
生徒:あー、なるほど! そういえばSNSで「絶対に儲かる!」とか「有名人の〇〇さんも推薦!」といった暗号資産関連の怪しい広告も見かけます。利用する前に、ちゃんと金融庁のウェブサイトで登録済みか確認しなくてはいけませんね。
金融庁ウェブサイト:暗号資産に関するトラブルにご注意ください!
https://www.fsa.go.jp/news/r2/virtual_currency/20210407.html
5章【思想】:誰でも「参加」できる世界〜Web3の自由と自己責任
銀行員として知っておきたい「税金」の話
生徒:……でも、銀行員として現実的な話も気になります。これだけ取引履歴が全部記録されていて、誰でも見られるなら、もし暗号資産の取引で利益が出た場合、税金の申告はどのようになるのでしょうか?
AI先生:銀行員らしい良い質問ですね! そこがWeb3の「自己責任」を象徴する部分でもあります。日本では、暗号資産の売買で得た利益は原則として「雑所得」として課税対象になります。利益によっては税率が最大 55%にもなるんですよ。
【税金の補足】 日本では、暗号資産の売買益は原則として雑所得として課税されます。詳しくは国税庁や金融庁のウェブサイトを確認し、税務申告に備えましょう。
リンク先:国税庁サイト「暗号資産等に関する税務上の取扱い及び計算書について(令和6年12月)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shotoku/kakuteishinkokukankei/kasoutuka/index.htm」
AI先生:では、どうやって計算するのか。実務上は、利用している暗号資産取引所が提供する、年間の取引履歴をまとめたファイル(CSVファイルなど)をダウンロードして計算するのが一般的です。
生徒:なんだ、それなら証券会社などで発行される「年間取引報告書」みたいなものですね。少し安心しました。
AI先生:ええ。しかし、ここでもブロックチェーンの「透明性」が重要になります。
そうした取引所のデータの大元となる記録は、すべてブロックチェーン上に存在するため、理論上はブロックエクスプローラーで誰でも検証が可能です。つまり「ごまかしがきかない」世界だということ。だからこそ、ご自身で取引所のデータを基に正確に計算し、申告する必要があるのです。
特に、複数の取引所やウォレットをまたいで取引している場合、ご自身での損益計算は非常に複雑になりやすいという課題もあります。
生徒:なるほど……! 計算自体は取引所のデータを使うのが便利だけど、その大元となる記録がすべて公開されているから、ごまかせない。だからこそ「自己責任」で正直に申告する必要がある、ということなんですね。
税金まで自己責任……身が引き締まる思いです!
「自己責任」と表裏一体の「パーミッションレス」という思想
AI先生:はい。そして、その「自己責任」は、Web3の「パーミッションレス(許可不要)」という重要な思想の裏返しでもあるんです。
下の図3を見ていきましょう。Web3の世界では、Web2のサービス……例えば銀行で口座を開設する時のような、申込みや審査を待つ必要がありません。ウォレットを接続するだけで、誰でも自由にサービスに参加し、取引できる。これがブロックチェーンの基本的な考え方なんです。
▲図3:Web1、Web2、Web3のログイン方法の比較
生徒:誰でも自由に……ですか。銀行振込だと、お金を「送る側」も「受け取る側」も銀行のシステムを使う「許可」が必要ですが、Web3ではそういう手続きも要らないんですかね。
規制と許可が前提の世界で働く銀行員の自分(Web2脳)にとっては、にわかには信じがたい、衝撃的な概念です。
……ということは、もしかして、自由にサービスに参加するだけじゃなくて、「トークンを発行する」みたいなことも、誰でも自由にできちゃうんですか?
AI先生:その通り! 素晴らしい着眼点です。技術的には、まさに「YES」、誰でもトークンを発行できます。
生徒:えっ、誰でもトークンを発行できるんですか!? 株式や債券の発行には厳格な規制があるのが当然の世界なので……それは驚きです。法的な問題はないのでしょうか?
AI先生:ただ、重要なのはそこから先。誰でもWebサイトを作れますが、人気サイトにするのが難しいのと同じで、トークンも発行は簡単でも、それに「価値」や「信用」を持たせるのが非常に難しいのです。
日本では法律による規制もあるので注意が必要ですが、そこにはコミュニティの力や、プロジェクトの魅力が必要不可欠になります。
まとめ【役割】:Web3の「自分の財布(ウォレット)」とWeb2の「銀行口座」、それぞれの価値
生徒:AI先生、ありがとうございました! ウォレットがWeb3の「入口」であり、「公開された私書箱と、絶対に渡してはいけない鍵」で成り立っていることがよく分かりました。自由で透明性が高い一方で、すべてが自己責任という厳しさも感じます。
AI先生:その通りです。そして、ここからが最も重要ですが、Web3の「自分の財布(ウォレット)」とWeb2の「銀行口座」は、どちらかが優れているという話ではなく、まさに「適材適所」なんです。
自分で直接管理するウォレットは、現金のように手軽で自由な反面、すべてのリスクを自分で負います。
一方、銀行口座は、法律や強固なセキュリティに守られた「金庫」のように、お客さまの資産を安全に保管し、様々な金融サービスとつながるハブとしての役割を担っています。
そして、私たち「みんなの銀行」の役割は、この二つの世界の安全な「架け橋(ブリッジ)」になることだと考えています。
Web3の複雑さやリスクからお客さまを守り、銀行が長年培ってきた「信頼」と「安心」を基盤に、誰もが新しい技術の恩恵を安全に受けられるようにすること。それが、これからの銀行に求められる「新しい価値」提供のカタチです。
生徒:なるほど! Web3の利便性や思想は魅力的ですが、やはり「自己責任」の壁は一般のお客さまには高いと感じていました。
そこに銀行が「信頼」を担保する形で「橋」を架けるというのは、まさに私たちの新しい役割になり得ますね。俄然、興味が湧いてきました!
AI先生:素晴らしいですね! その「架け橋」という役割を考える上で、今、特に注目されているのが、価格が変動する暗号資産の課題を解決する「ステーブルコイン」という新しい技術です。
生徒:ステーブルコイン! プロローグ(連載#0)の最後にも出てきましたね。それなら、価格変動のリスクを気にせずに、もっと日常的に使えるようになるかもしれない……。銀行がその技術にどう関わっていくのか、すごく興味があります!
AI先生:その通りです。では次回の連載#2では、まさにその「ステーブルコイン」が、どのように銀行の「信頼」と結びつき、新しい価値を生み出そうとしているのか、その違いから詳しく見ていきましょう。
連載「Web3って結局なんなの?」、#2 ステーブルコイン前編へ続く
※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。
(執筆者: みんなの銀行)
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