社内データ分析コンペが「データの民主化」を加速させた話 みんなの銀行
デジタルバンク「みんなの銀行」、データ戦略部の藤田です。
ふくおかフィナンシャルグループ傘下のみんなの銀行(M)、ゼロバンク・デザインファクトリー(Z)、そしてiBankマーケティング(i)。私たちは、銀行・開発・マーケティングの専門性を掛け合わせ、単独では成し得ないイノベーションを生み出すため、3社合同で「ボーダレス企画会議」をはじめとしたさまざまな施策を実施しています(3社の頭文字をとって「iMZ(3兄弟)」という愛称で呼んでいます)。
そんな私たちが先日、初の試みとして開催したのが、社内データ分析コンペ「Box Data Challenge 2025~Boxの未来をデザインする~」です。
「iMZ」の思想を体現したこのコンペは、多様な人材が「データ」を共通言語に協働することでグループ全体の成長を加速させると同時に、専門家以外もデータを活用する「データの民主化」を促す、大きな一歩となりました。
本記事では、このコンペを通じて見えてきた、「初心者の分析スキルをどう上げるか?」「どうすれば主体性を引き出せるか?」「“提案で終わり”にしないためには?」といった課題に対し、私たちが試行錯誤する中で見えてきたヒントを、余すところなくご紹介します。
Box Data Challenge 2025とは?
▲図:「Box Data Challenge 2025」実施概要
社内データ分析コンペ「Box Data Challenge 2025」は、みんなの銀行の主要サービスの一つ、目的別にお金を貯められる「Box(貯蓄預金)」のデータ分析からビジネスプランの立案、そして経営層へのプレゼンテーションまでを、4〜5人のチームで1カ月間駆け抜ける実践的なプログラムです。
▲図:「Box Data Challenge 2025」実施の概要
今回のコンペでは、「データドリブンで発想する、みんなの銀行の未来」をテーマに、Box分析による新マーケティングプランの立案に挑戦してもらいました。
データ分析の経験や所属部署、年次などを一切問わずに、社内で参加者を募集したところ、デザイナー、マーケター、カスタマーサクセス、エンジニアなどの多様なメンバーが25名集まりました。
初開催にもかかわらず、これほど多くのメンバーに関心を持っていただけたことは、データ活用に対する意識の高さを物語っています。
社内でデータ分析コンペを初めて開催した3つの狙い
今回、私たちが社内でデータ分析コンペを開催したのには、3つの大きな狙いがあります。
1. 社員のデータ分析・活用スキルを底上げする
「データ分析スキルを磨きたいが、普段の業務ではなかなか機会がない……」。そんなジレンマを抱える社員は少なくありません。このコンペは、そうした潜在的な意欲を持つ人たちに、実践的な学びの「きっかけ」を提供することを目的としています。
2. データドリブン文化を醸成する
日々の業務に追われ、データに基づいた企画立案のプロセスに触れる機会がない社員もいるでしょう。そこで本コンペには、実務に近い形でデータドリブンなアプローチを「体感」してもらうことを意図して設計しました。一度でも成功体験を積むことが、文化浸透の何よりの近道だと考えたからです。
3. データ活用の要となるBIツール「Looker」の普及を進める
データから価値ある洞察を引き出し、ビジネスの意思決定に活かす上で、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールは今や不可欠な存在です。
みんなの銀行ではそのためのツールとして、Google Cloudの「Looker」(※)を導入していますが、非常に高機能な反面、全ての行員が使いこなせているわけではありません。
※Looker は、BI、データ アプリケーション、組み込み型アナリティクス向けのエンタープライズ プラットフォームです。リアルタイムの分析情報を調査、共有できます。https://cloud.google.com/looker?hl=ja
Lookerアンバサダー兼開発者である筆者としては、この状況にもどかしさを感じていました。
各部署に「初心者以上、中級者未満」のLookerユーザーが一人でもいるだけで、その人を起点にツール利用が波及しやすくなります。短期間で集中的にLookerに触れるこのコンペは、そうした人財を育成する上で、まさにうってつけの企画でした。
企画の効果を最大化する “3つのこだわり”
単なるイベントで終わらせないために、今回のコンペでは企画の効果を最大限に引き出すための工夫を凝らしました。中でも、私たちが特にこだわった3つのポイントをご紹介します。
1. 各チームに「専属分析アドバイザー」を配置
参加チームそれぞれに、データ分析を専門とするみんなの銀行のデータサイエンティストを「専属分析アドバイザー」としてアサインし、分析のレビューや相談に乗る体制を整えました。
これは分析初心者をフォローすることが第一の目的ですが、経験者にとっても実践的な分析スキルの向上につながると考えました。経験豊富なアドバイザーが伴走することで、座学では決して学べない「実務ならではの勘所」が数多く共有されました。
実際に、コンペ終了後のアンケートではこの施策が最も高い評価を得ており、非常に効果的な施策だったと確信しています。
▲写真:専属分析アドバイザー役のデータサイエンティストが、参加チームをサポート
2. 参加者全員で学び合う「ナレッジシェアリング賞」の設置
コンペを盛り上げるため、「最優秀賞」や「データアーティスト賞」といった評価軸に加えて、参加者同士の学び合いを促進するユニークな賞として「ナレッジシェアリング賞」を設けました。
ナレッジシェアリング賞は、コンペ期間中、他チームに役立つ知見(ナレッジ)を共有し、最も多くの「いいね」を獲得したチームに贈られます。この賞には、単に学びが深まるだけでなく、以下のような素晴らしい副次効果がありました。
・チームの垣根を越えた交流が生まれる
・分析が苦手な人でも、情報共有という形でチームに貢献できる
・参加者の手持ち無沙汰を防ぎ、主体的な関与を促す
・定期的な情報発信が、コンペ全体の熱量を高める
ちなみにこのアイデアは、世界最大のデータ分析コンペプラットフォーム「Kaggle」の仕組みを参考にしたものです。
3. 「提案して終わり」にしない、実務への接続
私たちが企画段階で特に意識したのは、イベントを一過性の盛り上がりで終わらせず、いかにして実務につなげるかという点でした。こうしたイベントが「提案して終わり」になってしまうケースを避けるため、企画段階から「実務への接続」を強く意識した設計にしました。
具体的には、プレゼンテーションの評価項目に「実現可能性」という軸を明確に設定。さらに参加者には「サービス開発を伴わなくても、すぐに実行できる施策」を盛り込むよう促しました。
この工夫によって、参加者の視点が単なる「面白いアイデア」に留まらず、「実行可能なビジネスプラン」へと自然に深まり、結果として、地に足の付いた本格的なアウトプットにつながったと感じています。
緊張の最終プレゼンテーション
▲写真:経営層も参加する最終プレゼンテーションの様子
いよいよ、最終プレゼンテーションの日。
iMZの拠点がある福岡オフィスと東京オフィスをリモートで結んだ会場は、スクリーン越しにも伝わるほどの緊張感に包まれます。ついに、熱戦の火蓋が切られました。
各チームが「発表」するのは、業務の合間を縫って4週間磨き上げたビジネスアイデアです。その本格的な内容に、審査員を務める経営層も真剣な表情で頷きます。
続く「質疑応答」も白熱しました。「どうすれば実務に活かせるか」という鋭い指摘が飛び交い、発表者も自身の言葉で懸命に思いを伝えます。
▲写真:表彰式の模様。最優秀賞を受賞した「Gigaチーム」の皆さん
そして厳正な審査を経て、同日中に行われた「表彰式」。入賞チームからこぼれる安堵と喜びに満ちた笑顔が、何よりも印象的でした。
総評では、みんなの銀行 頭取の永吉さんから、次の力強い言葉が贈られました。
「どのチームの提案も実効性が高く、素晴らしい内容でした。ここからは経営の役割として、皆さんの提案をしっかり受け止め、実現に向けて全力でサポートします。」
その言葉を裏付けるように、すでに実現に向けたプロジェクトが始動しています。アイデアをアイデアのままで終わらせず、実際のビジネスへと昇華できていることは運営として大きなやりがいを感じました。
振り返りで学びを深める
コンペの熱量を一過性のものにせず、次へとつなげるために。プレゼンテーション後には、参加者と運営が一体となり、学びを深めるための振り返りを行いました。
まず、全チームと審査員が参加する「振り返り会」では、審査員から各チームへ、より踏み込んだフィードバックが共有されました。当日の質疑応答だけでは伝えきれなかった、実務に根差した視点でのアドバイスが交わされ、参加者からは「今後の業務に直接活かせる」といった声が聞かれました。
▲写真:「Box Data Challenge 2025」を終えて、参加者と運営で振り返り会を実施
また、運営チームとしても今回の経験を次につなげるべく、参加者アンケートの結果をもとに、Keep(良かった点・継続したいこと)、Problem(課題・改善点)、Try(次に挑戦したいこと)の3つの観点で議論する「KPTフレームワーク」を用いた振り返りを実施。
満足度は平均4.3点(5段階評価)と、全体的に高い評価をいただけた一方で、いくつかの課題も浮き彫りになりました。
・実践を重視したため、分析に関する基礎的な座学が不足していた。「初心者としては、分析の進め方を教えてほしかった」という声があった。
・参加者の所属部署によってデータへのアクセス権限に差があり、そのような方は消化不良になりがちだった。公平な分析環境の整備が今後の課題。
・専属アドバイザーの関与度合いの調整が難しかった。参加者の主体性を尊重しつつ効果的な支援を行うための、運営側のガイドラインが必要。
これらは次回に向けて改善したいと思います。
おわりに~データ活用の原動力を全社へ
今回、初めての試みとして社内データ分析コンペを企画・運営し、私たちが得たのは想像をはるかに超える「手応え」でした。
参加者の熱意、未経験からツールを使いこなすまでに成長した姿、そして、組織の至る所に眠っていたデータ活用への渇望。これら一つひとつが、みんなの銀行の「データの民主化」を力強く加速させる、何よりの原動力になると確信しています。
この挑戦は、まだ始まったばかりです。 このコンペで生まれた熱量を決して絶やすことなく、私たちはこれからも、誰もがデータと共に未来を創造できる環境づくりに、全力で取り組んでいきます。
そして、もし同じようにBIツールの普及に悩んでいる方がいらっしゃれば、ぜひ「社内コンペ」という選択肢を検討してみてはいかがでしょうか。きっと、想像以上の熱がそこにはあるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
筆者紹介
藤田 洸介
みんなの銀行 データ戦略部所属のデータサイエンティスト。大学を卒業後、データ活用支援会社にて大企業向けの分析支援や機械学習システム構築に従事。転職を機に東京から福岡に移住し、2023年みんなの銀行に入行。現在はLookerを中心とした全社的なデータ利活用推進をリード。最近はデータ民主化とデータガバナンスの両立に興味がある。
※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。
(執筆者: みんなの銀行)
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