自治体と住民がつくる再エネの新しいかたち──アイチューザーが推進する「共同購入モデル」とは

2050年カーボンニュートラルに向けて、家庭部門での再生可能エネルギー導入は欠かせないテーマになっている。しかし、「どの事業者を選べばいいのか分からない」「初期費用が不安」と感じる生活者は少なくない。こうしたハードルを下げる手法として、近年注目を集めているのが、自治体と連携した太陽光発電・蓄電池の「共同購入モデル」である。
12月5日に開催されたアイチューザー株式会社のラウンドテーブルでは、全国の自治体と進めてきた共同購入事業の実績や、阪神・神戸エリアで15市町に広がった背景、さらに太陽光発電の利用価値を広げる仕組みとして「Jクレジット」への言及もあり、今後の普及の方向性が多角的に議論された。
自治体が旗を振る「共同購入モデル」とは

アイチューザーは、自治体と協定を結び、家庭向け太陽光パネルや蓄電池の共同購入事業「みんなのおうちに太陽光」を運営している会社だ。参加を希望する住民を集めた上で、一括して事業者選定や価格交渉を行い、スケールメリットを活かして導入条件を整えるのが特徴である。
住民は、自治体から届く案内や説明会を通じて仕組みを理解し、オンラインで参加登録を行う。その後、選定された施工事業者から見積もりやプランの提案を受け、納得できれば個別に契約する。あくまで「選ぶ権利」は住民側に残しつつ、情報の非対称性や事業者探しの手間を減らすのが、このモデルの狙いだ。
ラウンドテーブルでは、このスキームが「特定メーカーを売り込むキャンペーン」ではなく、「中立的な立場で選択肢を提示するプラットフォーム」であることが強調された。自治体が前面に出ることで、初めて再エネ導入を検討する層にも安心感を与えられる点が、共同購入ならではの強みと言える。
阪神・神戸エリア15市町に広がった背景

共同購入事業の事例として挙げられたのが、兵庫県の阪神・神戸エリアだ。ここでは、神戸市をはじめとする複数自治体が連携し、15市町規模での共同購入事業を実施している。都市部特有の集合住宅が多いエリアでありながら、「戸建て世帯を中心に再エネ導入の裾野をどう広げるか」という共通課題が、広域連携を後押しした。
単独自治体では、広報予算や担当職員のリソースに限界がある。一方、広域で足並みを揃えることで、共通チラシやWEBサイトを整備し、合同説明会の開催も可能になる。これにより、住民への到達率を高めつつ自治体側の負担を抑えられる。ラウンドテーブルでは、自治体勤務経験のある現アイチューザー社員が、庁内調整や議会説明の工夫、近隣自治体との情報共有手法を具体的に紹介した。
また阪神・神戸エリアでは、電気料金の高止まりや再エネへの関心の高まりを背景に、家庭部門の省エネ・脱炭素を推進したいという自治体側の思惑も共有されている。共同購入モデルを通じ、太陽光発電や蓄電池を「身近な選択肢」として提示することが、住民への効果的なアプローチになっている。
住民にとってのメリットと、自治体の狙い

住民にとってのメリットは大きく3つある。第一に、価格や保証内容が整理された状態で比較検討できること。第二に、自治体の支援が伴うことで、事業者選びに対する不安が軽減されること。第三に、説明会や相談窓口を通じて、電気料金の見通しやCO₂削減効果など、判断に必要な「数字の裏付け」を得やすいことだ。
一方、共同購入は「安売り事業」と誤解されることもあるため、情報提供のあり方には配慮が求められる。ラウンドテーブルでは、「なぜ今、家庭部門での再エネ導入が必要なのか」「生活の中でどんなメリットが生まれるのか」といった本質的な価値を丁寧に伝える重要性が共有された。
自治体側の狙いとしては、ゼロカーボン施策の実効性を高めるだけでなく、家庭部門における省エネ推進や、家計面でのメリットを住民が把握しやすくなる点もある。補助金による単発支援ではなく、「民間のノウハウを活かし、継続的な行動変容を促す仕組み」として、共同購入モデルを位置づけている。
Jクレジットと、太陽光ユーザーが広がる新しい価値

ラウンドテーブルでは、太陽光発電によって生まれる環境価値を「Jクレジット」として活用できる可能性にも触れられた。CO₂削減量を“価値”として記録し、企業などの脱炭素活動に役立てられる仕組みで、今後の普及拡大とともに家庭用太陽光の新たなメリットとなることが期待される。
こうした動きは、太陽光発電を単なる「節電装置」ではなく、地域や企業とつながる“共創型プラットフォーム”として育てていく流れの一部といえる。将来的には、環境価値取引や地域エネルギーの取り組みに住民が参加できる余地が広がる可能性も示された。
「導入」から「暮らしに根付かせる」フェーズへ

アイチューザーの共同購入事業は2019年の神奈川県を皮切りに、現在は全国25都道府県へ広がり、2025年11月には累計1万件の設置件数を突破した。これは、共同購入モデルが多くの生活者に受け入れられつつあることを示す一つの節目といえる。
今後は、新規導入を増やすだけでなく、導入後の暮らしの中で太陽光をどのように活かすかも鍵になる。例えば日中の自家消費を意識した家電の使い方や、環境価値を活かした取り組みへの参加など、生活者自身がエネルギーとの向き合い方を変えていくフェーズに入っていくと考えられる。
生活者が自らの選択でエネルギーの未来を形づくる。その土台となる仕組みとして、自治体と連携した共同購入モデルは今後も存在感を増していきそうだ。
アイチューザー株式会社公式サイト:https://ichoosr.com/ja-jp/
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