未来の医療を“支える現場力”とは?中外製薬が語ったイノベーション実装の裏側【CHUGAI INNOVATION DAY 2025】

中外製薬が11月27日(木)に開催した「CHUGAI INNOVATION DAY 2025」では、創薬・製薬・育薬それぞれの立場から“現場力”と“共創”のあり方が語られた。

本記事では、セッション2「現場力」の内容を中心に、研究開発、生産、メディカルアフェアーズの取り組みと、宇都宮工場を率いる山田秀成工場長への個別インタビューから見えた「ものづくりの現場」のリアルをレポートする。

創る・つくる・育てる。「現場」をテーマにしたセッション

中外製薬が開催した「CHUGAI INNOVATION DAY 2025」では、研究、生産、医療現場をつなぐ「現場力」をテーマにしたセッション2が行われた。登壇したのは、創薬を担う飯倉 仁さん(研究)、工場のものづくりを担う山田秀成さん(宇都宮工場長)、そして市販後の医薬品を支える西和彦さん(メディカルアフェアーズ)の3人である。

3者に共通していたのは、「良い薬をつくるだけでなく、きちんと患者さんに届け続けることこそが現場力だ」という視点だった。

【研究の現場】「効き目が高く、副作用は少なく」を目指して

まず紹介されたのは、研究開発の取り組みである。飯倉さんは、中外製薬の薬づくりの考え方を「テクノロジードリブン(技術主導)」と「クオリティセントリック」という2つの言葉で説明した。

クオリティセントリックとは、「薬の効き目を最大限にしながら、副作用をできるだけ小さくする」という発想だ。従来は「効き目を上げると副作用も増える」イメージがあったが、最新のバイオ技術や解析技術を組み合わせることで、両立に挑戦しているという。

また、中外製薬が世界に先駆けて実用化した「二重特異性抗体」や、新しいタイプの「中分子」と呼ばれる薬の話も紹介された。いずれも、「今まで薬にできなかった標的に挑むための技術」であり、10年以上かけて育ててきた、中外製薬らしいチャレンジだと語った。

【工場の現場】宇都宮工場が担う「安定供給」とスマートファクトリー

続いて登壇したのが、中外製薬工業・宇都宮工場の山田秀成工場長だ。山田さんは、「どれだけ画期的な薬が生まれても、安定してつくれなければ患者さんのもとには届かない」と、生産現場の役割をシンプルに語った。

中外製薬はこれまで、バイオ医薬品や抗体医薬品など、扱いの難しい製品の生産技術を磨き続けてきた。新型コロナの重症肺炎に使われた薬を大増産した際には、従業員が感染リスクと向き合いながらも、クラスターを出さずに供給を続けたというエピソードも紹介された。

一方で、工場の現場は今、大きな変革の途中にある。宇都宮工場では、ロボットや自動搬送、センサーとAIを組み合わせた「スマートファクトリー化」を進めており、人手に頼らない工程を増やしている。しかし山田さんは、「完全に人がいなくなる工場を目指しているわけではない」とも強調する。

「製品を切り替える時の微妙な調整や、設備トラブルへの対応など、“ここは絶対に人が見なければいけない”というポイントは当面残ると思います」と、セッション後の個別インタビューで山田さんは語った。

さらに、日々の現場で大切にしていることを聞くと、第一に挙げたのはやはり「患者さんを忘れないこと」。ただし、「患者さんのために」と現場に負担をかけすぎては長く続かない。そこで、以下に挙げた制度を整え、「無理のない働き方と現場力を両立させたい」と話してくれた。

・フレックスや在宅勤務の導入

・夜勤シフトへの食事補助

・文書作成など、工場にいなくてもできる仕事のリモート化

また、工場長としてのやりがいを尋ねると、意外にも「トラブルの時」だという。

「日々何事もなく製造できている“無風状態”はもちろん一番ですが、問題が起きた時に、現場のメンバーが前向きに原因を探し、改善策を考えて動いてくれる。そんな姿を見ると、『このチームでやれて良かった』と感じます」

患者だけでなく、現場の仲間にも目を向ける視線が印象的だった。

【「育薬」という第三の現場】市販後も薬を育て続ける

最後に登壇したのが、メディカルアフェアーズ本部の西和彦さんだ。西さんが紹介したのは、「育薬」という耳なじみの少ない言葉である。

一般的には「薬が発売された後、その価値を高めていく活動」と説明されることが多い。しかし、中外製薬では、「創薬で生まれた薬の価値を、患者さんのもとで最大限にするための一連の取り組み」として、より広い意味でとらえているという。

臨床試験でわかるのは、限られた条件・患者層でのデータに過ぎない。実際の医療現場では、「高齢の患者さんにも安全に使えるのか」「仕事や学校、運動と両立しやすい治療なのか」「希少疾患の患者さんにもきちんと届いているのか」といった、より「生活に近い」視点での疑問が出てくる。

西さんたちは、医師だけでなく看護師、薬剤師、患者会など、幅広いステークホルダーの声を集めながら、追加の臨床研究やリアルワールドデータの解析を通じて、こうした疑問に答えるエビデンスづくりに取り組んでいる。

西さんは最後に、「これからは『アンメット・メディカルニーズ』だけでなく、『アンメット・ソーシャルニーズ』にも応えていきたい」と語り、治療だけでなく患者さんの生活や社会全体を見据えた活動を目指していると締めくくった。

「非常識×合理性」で進む、中外製薬の現場力

セッションの終盤では、3人がパネルディスカッション形式で、それぞれの現場で感じている「中外製薬らしさ」を語り合った。

「最初は社内の9割に反対されるような“非常識”なアイデアでも、合理性とデータがあれば挑戦する」

「研究と生産、メディカルアフェアーズが、早い段階から一緒に議論しながらプロジェクトを進める」

「海外グループ会社とのやりとりを通じて、自分たちの強みと弱みを客観的に見つめてきた」

こうした話からは、技術と人の両方を大切にしてきた会社の姿勢がにじむ。

今回のセッションと山田工場長へのインタビューを通じて見えてきたのは、それぞれの現場が互いに連携しながら同じ方向を見ているということだ。患者さんにとって意味のある治療を、一日でも早く、途切れず届ける。そのための仕組みと姿勢が、中外製薬の「現場力」を支えているのだと感じられた。

まとめ

セッション2と個別インタビューを通じて感じられたのは、研究・生産・メディカルのそれぞれが異なる役割を持ちながらも、同じ方向を向いて業務に取り組んでいるという点だ。最新技術の活用だけでなく、現場の働き方や改善活動など、地道な取り組みが医薬品の安定供給を下支えしていることも印象的だった。

研究で生まれた価値を形にし、医療現場で活かし続ける。そのプロセスを確実に回すための姿勢が、中外製薬の現場力を支えていると感じられるセッションだった。

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