免疫の“マスターキー”「酢酸菌」が拓く健康と文化の未来 〜「いいにごり酢の日」特別セミナーレポート〜

お酢づくりの命でありながら、かつてはその多くが捨てられていた「酢酸菌」。近年、この菌が持つ驚くべき健康作用に再び光が当たり、健康意識の高まりや気候変動による体調管理への関心の増大を背景に、大きな注目を集めている。

「酢酸菌ライフ」は、11月25日(火)の「いいにごり酢の日」を前に、2025年11月6日(木)、メディア向けセミナー「健康と文化をつなぐ酢酸菌の可能性」を開催。セミナーは「健康編」と「文化編」の2部構成で行われ、医師、研究者、ウェルネスプロデューサー、そして伝統製法を受け継ぐ蔵元たちが一堂に会し、酢酸菌の最新知見とその文化的な広がりについて多角的に解説した。本記事では、その模様をレポートする。

免疫の鍵穴を開ける“マスターキー”としての酢酸菌

セミナーの幕開けとなる「健康編」では、イシハラクリニック副院長の石原新菜先生が登壇。「冬本番目前!今こそ知っておきたい免疫対策2025」と題し、医学的見地から酢酸菌の重要性を説いた。

イシハラクリニック副院長 石原新菜先生

石原先生はまず、インフルエンザやマイコプラズマなど複数の感染症が例年以上に猛威を振るう今冬の状況に警鐘を鳴らし、これまでの常識を超える新しい免疫対策の必要性を訴えた。その鍵となるのが、体にもともと備わっている免疫スイッチ「TLR(トール様受容体)」である。

石原先生によると、TLRは体内に侵入したウイルスや菌などの異物を認識し、免疫システムを作動させる「鍵穴」のような役割を持つ。しかし、免疫対策として発酵食品を食べている人でも、その約9割がTLRの存在を知らず、多くの人がこの重要なスイッチを十分に活用できていないのが現状だという。

一般的な発酵菌である乳酸菌や納豆菌が押せるのは「TLR2」という鍵穴のみ。しかし酢酸菌は、TLR2に加えて、他の多くの発酵菌が開けられない「TLR4」という鍵穴も開けることができる、いわば「マスターキー」なのだ。

「TLRは“鍵穴”。菌がその鍵を差し込み、ぴたりとはまると免疫スイッチがONになる。酢酸菌は、ほかの発酵菌が開けられない鍵穴も開ける、いわば免疫を働かせるマスターキーなんです(石原先生)」

TLR4が刺激されると、免疫の司令塔である「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)」が活性化し、体中の免疫細胞に指令が伝達される。これにより、ウイルスや菌など多様な外敵の侵入に対応する準備が整うのだ。石原先生は、この酢酸菌が持つ特異な能力こそが、これからの免疫対策の新たな一手になると力強く語った。

“捨てられていた菌”が拓く、攻めの免疫対策

続いて登壇したのは、キユーピー株式会社で免疫・認知プロジェクトを率いる奥山洋平さん。「酢酸菌研究最前線 “捨てられていた菌”が拓く新常識」をテーマに、酢酸菌がTLR4を刺激するメカニズムを科学的に解き明かした。

キユーピー株式会社 研究開発本部 奥山洋平さん

奥山さんによれば、酢酸菌が持つこの特別な力の源は、その細胞壁に含まれる「糖脂質」にある。他の多くの発酵菌が属する「グラム陽性菌」とは異なり、酢酸菌は「グラム陰性菌」に分類され、その細胞壁に生命活動に不可欠な糖脂質を持つ。この成分こそが、TLR4の鍵穴に適合する“鍵”そのものなのだ。

しかし、この価値ある酢酸菌は、長らくお酢づくりの過程で「捨てられてきた菌」であった。かつては製造過程でろ過され、透明な美しいお酢が良しとされてきた歴史がある。その価値が見直され、現代の技術で科学的に分析された結果、酢酸菌は「攻めの免疫対策」を可能にする存在として再評価されるに至ったのである。

キユーピー社の臨床研究では、酢酸菌の摂取によって感染症の代表症状(鼻水、咳など)や花粉症症状が抑制・軽減されることが確認されている。さらに、疲労感や倦怠感、肌のムズムズといった日常的な体調不良にも働きかけることが示唆されており、マルチな免疫対策食材としての可能性が広がっている。

菌と共に美しく。食を選ぶことは自分と世界を繋ぐこと

「文化編」のトップバッターとして、ウェルネスプロデューサーの岸紅子さんが登場。「菌と共に、美しく生きる。岸紅子流『ホリスティックライフ』」と題し、自身の経験を通じて得た菌との向き合い方や、食を通じた豊かな暮らしについて語った。

ウェルネスプロデューサー/NPO法人日本ホリスティックビューティ協会代表理事 岸紅子さん

岸さんは、自身の闘病や家族のアレルギー経験をきっかけに食生活を見直し、発酵食品の世界に深く傾倒したという。その探求の過程で「にごり酢」と出会い、その魅力に気づいた。

「濁っているお酢の中にこそ有用な菌がいらっしゃるのね、と知った時、これは同じお酢を選ぶのであれば、絶対的に濁った方だと思いました(岸さん)」

岸さんは、ウェルネスを楽しむための「3つのススメ」として、「造り手・生産者を知る」「こだわりを知る」「所縁(ゆかり)に気付く」を提唱。食品の背景にある物語や作り手の思いを知ることで、ただの「モノ」であった食品が特別な存在となり、日々の食卓が豊かになると語った。

誰が、どんな思いで、どのように作っているのか。その繋がりを知ることで、食は自分自身の心と体だけでなく、生産者や地域、ひいては環境とも繋がる行為となる。にごり酢を選ぶという一つの選択が、自分を、そして世界を豊かにするアクションになり得るのだと、岸さんは締めくくった。

伝統と革新が交差する。蔵元が語る“にごり酢”復刻への思い

セミナーの後半では、全国から3社の蔵元が集い、「伝統製法にごり酢が“今”盛り上がる理由」をテーマにトークセッションが繰り広げられた。登壇したのは、福岡県の「庄分酢」、福井県の「とば屋酢店」、大阪府の「タマノイ酢」の3社だ。

(左から)庄分酢 高橋清太朗さん、とば屋酢店 中野貴之さん、タマノイ酢 谷尻真治さん

最初にマイクを握ったのは、5年前にいち早くにごり酢を復刻させた庄分酢の髙橋清太朗さん。300年以上続く蔵に伝わる巻物には、もともと濁った状態のお酢の製法が記されており、蔵人しか味わえなかったその味を現代に蘇らせたいという思いが開発のきっかけだったと語った。

続いて、とば屋酢店の中野貴之さんは、これまでお酢づくりの過程で取り除かれていた「お酢の粕」に着目。栄養豊富なこの部分を活かせないか長年考えていたところ、にごり酢のムーブメントを知り、商品化を決意したという。今では地元の小学校で授業を行うなど、食育活動にも力を入れている。

タマノイ酢の谷尻真治さんは、海外で「マザー(酢酸菌)」入りのにごり酢が健康志向の消費者に支持されている動向をいち早く捉えた。基礎調味料として安価に扱われがちなお酢に、新たな付加価値をつけたいという思いから、ヨーロッパからにごりりんご酢を輸入し、販売に踏み切ったと明かした。

三者三様の背景を持ちながらも、「にごり酢を通して、お酢の価値を高め、文化として未来に繋げていきたい」という熱い思いは共通していた。トークセッションの最後には、参加者全員による鏡開きが行われ、「酢酸菌を文化へ」という共通の願いを込めて、木槌が振り下ろされた。

全国に広がる“にごり酢”の輪。体験イベントも続々開催

セミナーでは、11月25日の「いいにごり酢の日」を起点に全国で展開される体験イベント「いいにごり酢フェア」の内容も発表された。

一つは、全国10か所の銭湯とのコラボレーション企画だ。今夏に東京都豊島区の「妙法湯」で実施され好評を博した「にごり湯×にごり酢」体験が、この冬、全国の銭湯に拡大。「いい風呂の日」である11月26日にも絡め、湯上がりの一杯として「にごり酢ドリンク」が期間限定で提供される。

さらに「いいにごり酢の日」当日である11月25日には、発酵の聖地・下北沢で日本最大級の蔵元集合イベント「第1回にごり酢まつり」が開催される。全国から10社以上の蔵元やコンブチャメーカーが一堂に会し、試飲・試食はもちろん、作り手と直接交流できる貴重な機会となる。

かつては製造過程で捨てられていた酢酸菌は、いまや「免疫のマスターキー」として、私たちの健康を守る新たな希望となりつつある。そしてその価値は、科学的なエビデンスだけに留まらない。にごり酢という形を通して、伝統製法を守る蔵元の思い、地域との繋がり、そして食文化そのものの未来を豊かにする可能性を秘めている。

今回のセミナーは、酢酸菌とにごり酢が持つ多面的な魅力を浮き彫りにした。蔵元たちが手を取り合い、企業や国境を越えて「酢酸菌を文化へ」と歩み始めた今、私たちの食卓から始まる新しい健康と文化の物語に、今後も目が離せない。

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