【ライブレポ】アジカンとASH、世代も国境も超え、音楽は鳴り続ける──「"NANO-MUGEN CIRCUIT 2025" ASH×AKG Split tour」

2025年10月21日、火曜日の夜。横浜・みなとみらいの風に潮の匂いが混じる中、KT Zepp Yokohamaには開場前から長い行列ができていた。この日開催されたのは、
■ yubiori

開演前には、「NANO-MUGEN」シリーズの主催であるアジカンの4人が、お揃いのTシャツ姿で前説を担当。彼ららしい温かな空気感に包まれたトークのあと、最初にステージへ登場したのは、ここ神奈川・横浜出身の新鋭バンド、
yubioriは、生活や日常のリアルを、激情のごとく歌い上げるロックバンドだ。「rundown」から始まったその音は、どこまでもまっすぐに、まだ見ぬ未来への道を照らす。中野慈之のドラムと東條晴輝のベースが生み出す強靭なビートの上で、阿左美倫平、田村喜朗、そしてサポートを務める松川育人を含めたトリプルギターが轟音を鳴らし、そこに大野莉奈のトランペットが彩りを加えていく。


「Maxとき」では、切なさと希望が入り混じるメロディに、観客が自然と身体を揺らす。「せめてそれだけ」では、田村の言葉を噛みしめるようなヴォーカルが、心の奥に置き去りにした感情をそっと撫でていった。
ラストの「造花」では、yubioriらしいリリックのリアルさが際立ち、若さに頼らない誠実な表現力が光った。本物のように見えて、でも決して枯れない“造花”。その歌に込められた想いは、まるでyubioriというバンドそのものを体現しているようだった。彼らの音は、バンドシーンの“次の世代”を象徴するようでもあり、「NANO-MUGEN」というイベントが掲げてきた理念の継承を感じさせた。
■ ASH

ステージが暗転すると、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を大胆にロック・アレンジした「Zarathustra」とともに、ASHの3人が登場。一音一音に、20年という時間の重みと、音楽を信じ続けてきた覚悟が宿っていた。
ティム・ウィーラー(Vo/Gt)、マーク・ハミルトン(Ba)、リック・マックマレイ(Dr)。長年変わらぬこのトリオ編成が生み出す音は、荒々しくも精密で、まさに“バンド”という生き物の美しさそのもの。「Fun People」「Braindead」では、永遠のパワーポップ・キングとしての強さを感じるサウンドをかき鳴らし、序盤から全開モードのステージを展開。観客の歓声が重なり、KT Zepp Yokohama全体がひとつの巨大なスピーカーのように揺れた。


「ありがとう!横浜! How are you doing?」というティムの声を合図に、最新アルバムのタイトル曲「Ad Astra」で、観客をASHが生み出す宇宙へと誘う。「Shining Light」では、彼らの代表的なメロディが会場を包み込み、優しくも力強い光が胸を貫く。ASHのロックは、 “現在進行形の情熱”として鳴り響いていた。
続いて披露された「Keep Dreaming」では、夢を追い続ける情熱を高らかに歌い上げたあと、疾走感あふれるエネルギッシュなナンバー「Orpheus」「Oh Yeah」を畳みかける。ティムの無邪気な笑顔には、何十年経ってもロックを奏でる喜びが変わらず息づいていることが感じられた。


クライマックスでは、映画『ビートルジュース』の「Jump In The Line」のカバーを荒々しく鳴らし、続く人気曲「Kung Fu」では観客とコール&レスポンスで一体感を生み出す。音楽が言葉や国境を越える瞬間だった。
さらに「Girl From Mars」で骨太のギター・ロックを響かせ、ラストの「Burn Baby Burn」では、アジカンのギタリスト・喜多建介を「Very Special Guest!」として迎える。4人で鳴らされた音は、“変わらないもの”と“変わっていくもの”が交わる奇跡の瞬間であり、まるでロックそのものの原風景を見ているようだった。


■ASIAN KUNG-FU GENERATION
最後に登場したのは、もちろんASIAN KUNG-FU GENERATION。「君の街まで」のイントロが流れた瞬間、フロアは歓声で揺れた。この楽曲がリリースされた2004年は、ASHとアジカンの交流が始まった年でもある。
アジカンはさらに、2005年にリリースされた『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION』(このコンピおよび当時の「NANO-MUGEN FES.2005」には、ASHも参加)に収録されている、「ブラックアウト」、そして「サイレン」を披露。まさに“あの頃”を思い起こさせるようなセットリストで、その20年以上にわたる歴史を「いま」に繋げる。しかしその音は、単なるノスタルジーではなく“現在進行形のアジカンのロック”として鳴り響いていた。


冒頭のMCでは、後藤正文(Vo/Gt)がメンバー紹介のあとに突然、「ちょっとお願いなんだけどさ、2分ぐらいMCしてもらっていい? 本当にあの……ちょっと爪を切りたい」と喜多建介(Gt)に頼み、会場を爆笑させる。ツアー中の日常の出来事すらもユーモアに変えるその空気が、横浜の夜を柔らかく包み込んだ。
さらに後藤は、このライブの直前に発表されたOASIS来日公演へのゲスト出演について「本当に3日ぐらい前に連絡が来て、俺たちは普通に見に行くつもりでスケジュール空けてたから、“見に行くんだったら出れますよ”みたいな感じだったんですよ」と笑いを誘う。


ASHについても「同世代にこんなかっこいいバンドがいるんだって思って、ずっと追いかけてこれた」と語り、過去のエピソードを披露。過去にライブ日程が重なってしまった際にも「大阪まで駆けつけてライブを観て、そのままお好み焼き屋に突撃した」というエピソードを披露。そこから今回のスプリットツアーの構想が生まれたことを明かした。
そして、「音楽をやっていて本当に良かったと思うのは、こうやって出会えること」と語りながら、「静岡で高校生だった頃は、まさか楽器をやるなんて思ってもいなかった。大学受験に失敗して、友達に誘われた大学に受かって、知らない横浜の大学に行くことになった。でもそこでこんな素敵な仲間に出会えた」と、自身の原点を振り返る。
「やりたかった学問の大学には行けなかったけど、俺はこのメンバーに出会うために金沢区に来たんだと思う。俺たちは横浜のバンドです。ASIAN KUNG-FU GENERATION、今日よろしくお願いします!」その言葉から鳴らされたのは「ライフ イズ ビューティフル」。“人生は美しい”というメッセージが胸を打ち、会場は温かな感動に包まれた。


ライブは「ソラニン」「夏蝉」「出町柳パラレルユニバース」と続き、伊地知潔(Dr)の鋭いビート、山田貴洋(Ba)のグルーヴ、喜多の繊細で疾走感あるギター、そしてサポートのGeorge(Key:MOP of HEAD)、Achico(Cho:ROPES)が織りなす厚みのある音に乗る、後藤の優しくも力強いヴォーカルが、KT Zepp Yokohamaを満たしていく。
中盤のMCでは、「本当に長いこと転がってきて、来年で結成30周年になります」と報告し、後藤がサラリーマン時代の通勤エピソードを披露。「朝6時38分の電車で通ってたんです。快特に乗り換えて横浜駅から地下にもぐって東横線、武蔵小杉で南武線に乗り換えて久地ってところに行ってました。地獄の通勤でしたね(笑)。Radioheadの『KID A』を聴きながら通勤してたけど、あまりに陰鬱で“これは仕事どころじゃないな”って思って、そのまま会社を休んじゃった(笑)」と語り、会場を沸かせた。
さらに「喜多くんは冷蔵庫の営業をやっててね。面接に遅刻したのに採用されたんですよ。いい会社だったんです。でも一時期、アジカンより冷蔵庫のほうが好きだった時期があって(笑)」と懐かしい話も飛び出す。結局最後は「みんなが帰る時間が遅くなるだけだから、曲やります」と締めくくり、懐かしのナンバー「24時」そして「ノーネーム」を披露。どちらもリリースされたのは、20年以上前のことであるが、近年の深みあるサウンドが際立ち、アジカンの“成熟した今”を感じさせる。30年間を共にしてきた彼らの呼吸は、何よりも確かな“信頼”の音だった。ライブはさらに「君という花」、「遥か彼方」というバンドの代表曲でラストスパートへ向かう。まるで大きな渦のような熱気が、確かに会場全体に生まれていた。


アンコールでは、アジカンの4人とともにASHのティムがギターを携えてステージへ。そこで演奏されたのはASHの楽曲「Starcrossed」。20年前の友情が再び音となって蘇る。音楽が国境を越え、時間を越え、言葉を超えて人を繋ぐ。アジカンが「NANO-MUGEN」で掲げてきた理想が、この1曲の中で完璧な形を結んでいた。そしてラストは、アジカンの最新シングル「MAKUAKE」。“幕開け”というタイトルの通り、未来へと進むバンドの決意を象徴する楽曲だ。圧巻の光景が広がり、「NANO-MUGEN CIRCUIT 2025」はツアーのフィナーレを迎えた。
アジカンが築いてきた「NANO-MUGEN」は、単なるフェスやツアーではない。音楽を通じて出会い、再会し、次の世代へとバトンを渡していく――それはひとつの“文化”の形なのだと思った。夜風に包まれた横浜の街に、余韻のように響き続けるギターの残響。その音は、確かに未来へと続いていた。


取材&文:ニシダケン
カメラマン:山川 哲矢
ライブ情報
「”NANO-MUGEN CIRCUIT 2025″ ASH×AKG Split tour」
2025年10月21日 @神奈川・KT Zepp Yokohama
【yubiori】
1.rundown
2.いつか
3.Maxとき
4.せめてそれだけ
5.つづく
6.ギター
7.造花
【ASH】
1.Zarathustra
2.Fun People
3.Braindead
4.Ad Astra
5.Shining Light
6.Keep Dreaming
7.Orpheus
8.Oh Yeah
9.Jump In The Line
10.Kung Fu
11.Girl From Mars
12.Burn Baby Burn
【ASIAN KUNG-FU GENERATION】
1.君の街まで
2.ブラックアウト
3.サイレン
4.ライフ イズ ビューティフル
5.ソラニン
6.夏蝉
7.出町柳パラレルユニバース
8.24時
9.ノーネーム
10.君という花
11.遥か彼方
EN1.Starcrossed
EN2.MAKUAKE
AKG SETLIST “NANO-MUGEN CIRCUIT 2025” Tour Final
https://kmu.lnk.to/AKGNMC
ライブ情報
〈ASIAN KUNG-FU GENERATION 30th Anniversary Special Concert “Thirty 〉
2026.04.04(土).05(日) 有明アリーナ (東京都)
※ チケット詳細 https://www.akglive.com/30th
〈ASIAN KUNG-FU GENERATION 30th Anniversary Special Concert in Jakarta〉
2026年4月18日(土) インドネシア・ジャカルタ
*詳細は追って発表。
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