世界最先端のアート業界人が集う国際アートフェア「Tokyo Gendai」(辛酸なめ子)

2025年9月12日から14日までの3日間、パシフィコ横浜にて国際アートフェア「Tokyo Gendai」が開催。世界16カ国の有名なギャラリーが、それぞれの推しの作家の現代アート作品を展示・販売するという国際的アートフェアです。各国のギャラリーを探し歩かなくても、向こうから来てくれて一カ所で回れると思うと、大人4500円のチケットも安く思えてきます。

日本のストイックなアートイベントと比べて、国際アートフェアならではの自由な感覚を感じたのは、会場各所にお酒やドリンクのブースがあること。ペリエ ジュエ、サントリーウイスキー響、ウェスティンホテル横浜などが参加しています。ペリエ ジュエのシャンパンは一杯1900円からとのことですが、アートフェアを訪れる富裕層にとってはなんてことない出費だと思われます。ペリエ ジュエのブースでは、アーティストのマルシン・ルサックとのコラボレーション作品が展示。植物が発するシグナルが美しい映像として表現され、シャンパンを飲みながら観ると陶酔感が高まります。

多分現地では敷居が高くて入れなそうな格式のあるギャラリーも、この会場ならふらっと出入りできます。

ニューヨーク、シンガポール、ロンドンにあるサンダラム・タゴール ギャラリーは、アッパーな品格が漂う作品が並んでいて、よく見たら日本が誇る千住博の絵画も。

ピカソとムンクの作品がたくさん並んでいるJohn Szoke Galleryも目を引きましたが、おそらく数千万円以上はすると思われます。間近で美術館クラスの作品を鑑賞できました。

新進の作家を扱っていて勢いが感じられるギャラリーもたくさんあります。日本のギャラリーNANZUKAではタイ人のアーティスト、ペックス・ピタックポンの作品を展示。子どもが虎やオウム、カタツムリなど動物のかぶりものをしたビジュアル的に強い絵画です。金のアクセサリーをたくさんつけたタイ人の富裕層っぽい人がブースに集っていました。

中国人の富裕層らしき夫婦もいて、各ブースで値段を聞いたり交渉したりしていました。雑誌の表紙にシンプソンズなどのキャラをラメでコラージュした作品に「Very funny!」と興味を示していましたが、結局手堅く1920年代生まれの日本の造形作家、Takako Arakiの立体作品を購入していたようでした。ちなみにこの横浜の会場は海外からの出展者は関税等を留保して参加できる「保税地域」だそうです。庶民には預かり知らない制度ですが、そのおかげで海外のギャラリーが参加しやすくなったのはよかったです。

京都とパリ、香港で展開するYUMEKOUBOU GALLERYは、リュ・ジェユンと石塚大介による日韓の作家の二人展を開催していて、布と焼き物のコラボが目を引きました。各国にギャラリーがあるとのことなので、ギャラリーの方に「最近はどんな作風が売れますか?」と聞いてみたら「多様化の時代なので、何がはやりとかはないですね。はやっていたものもすぐすたれるので。それに振り回されない作家と一緒に作っていきたいです」とのことでした。

普遍的な魅力を放つ作家といえば、MAKI Galleryでの清川あさみの刺繍作品の美しさにも圧倒されました。1対1の比率で作られた刺繍作品は、SNSの写真の比率と対応していて、幸せははかないもの、ということを象徴しているそうです。といっても、この作品は永久に保存したくなるスペシャルな存在感でした。

ミヅマアートギャラリーで展示していた大畑伸太郎は、背景の絵画と立体の人物が一体になっている、次元の境を超えた作風で、他にない個性を感じさせました。

会場を回っていて印象的だったのは、シュールだったりかわいいキャラがモチーフの作品です。ロンドンのMandy Zhang Artでは、中国人の作家、Silia Ka Tungの展示をしていて、九尾の狐などの民話に登場する立体作品などが目を引きました。このギャラリーの方はフレンドリーで「40から60くらいです」と、流暢な日本語で聞きにくい価格をさり気なく教えくれました。

アントワープのKETELEER GALLERYは、Floris Van Lookのシュールな作品が楽しいです。花瓶にそれぞれ微妙な表情の顔がついていて、不条理感が漂う絵でした。

Kaikai Kiki Galleryは、大谷工作室による癒し系の立体作品や、ウサギサや犬、熊などのかわいい絵画作品などを展示。

アムステルダムのNo Man’s Art Galleryでは、ハイヒールをはいた猫が刺繍された大判の布の作品が素敵でした。「これは作家の想像の中の生き物で、作家の世界観の中に観客を招くようなコンセプトで作られています」とのことでした。今、世界の人々は抽象画よりも癒されたり元気づけられるキャラクターに癒しを求めているのでしょうか。

夕方以降になると、現代アート作家によるパフォーマンスも繰り広げられ、ますますアートなカオス空間に。エリート感漂うやり手のギャラリストから、個性的なオーラを放つ作家たち、そしてふとした言動に経済力が現れる富裕層の顧客など、アートだけでなくこの場に集う人々を鑑賞することでも、人生に刺激が得られるイベントです。

第3回 Tokyo Gendai 開催概要

開催日時:2025年9月12日(金)~14日(日)
開催場所:横浜国際平和会議場(パシフィコ横浜)展示ホールC/D
チケット販売:ArtStickerにて販売中
●通常チケット
大人4,500円、学生・障がいのある方 2,700円
※小学生以下のお子様は無料
公式サイト:https://tokyogendai.com/

(イラスト・文:辛酸なめ子)

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