『リンダ リンダ リンダ 4K』山下敦弘監督インタビュー「青春は、意味とかメッセージとか根拠とかが無い方が美しい」

2005年の公開から20年経っても色あせるどころか、世界中にファンを増やし続ける珠玉の青春映画『リンダ リンダ リンダ』が、4Kデジタルリマスター版として大ヒット上映中です。
韓国のみならず、世界で活躍する俳優ペ・ドゥナが歌う、たどたどしくも心に響くブルーハーツの名曲たち、実際にドラムとギターに挑んだ前田亜季と香椎由宇のひたむきなたたずまい、演技初挑戦ながら女優たちと渡り合った本職ミュージシャンの関根史織(Base Ball Bear)。このコンビネーションを奇跡的な作品にまとめ上げたのは当時弱冠28歳だった山下敦弘監督。4Kデジタルリマスター版では、35mmフィルムの質感は残しながらも、細部をクリアに。誰もが心に抱く青春の記憶がより一層鮮やかに胸に迫ります。
山下監督に再上映への想いや、撮影当時の思い出までお話を伺いました。

——私もまた見直させていただいて、改めて最高の映画だなと感じました。山下監督は20年という月日についてどう感じられていますか?
もう20年か、と思って。コロナ禍があったので3年、4年ほど時間がバグってる感覚はあるにせよ、月日が経つのは早いなあと思います。ありがたいことに『リンダ リンダ リンダ』はたくさんの方に愛してもらっているので、10周年の時にも上映していて、節目を感じられていることも感謝ですね。
——4Kデジタルリマスター版をご覧になっていかがでしたか?
4Kということで綺麗になっている部分もありつつ、当時の映像の質感の印象が変わらない様に、フィルムの質感を残そうとしていて、そこのバランスが良いなと思いました。4Kだともっと明るく出来たり、(フィルムで)見えなかった所も見えてくると思うのですが、あまり見えすぎてもしょうがないよねって思って、逆に抑えている部分があります。
あとは、フィルムって傷などの個体差が生まれてしまうので、デジタルの方がどこで観ても、何回上映しても同じ映像を見てもらえる。フィルムからデジタルになることで生まれる利点だと思います。
——なるほど、保存状態とか、環境とかに影響されますものね。
1つのネガからいっぱいプリント焼いて、全国に送って、何度か上映されて…としているうちに、最終的にフィルムに傷がいっぱい入っているような状態で観た人方もいると思うので、改めて良い映像で観てもらえることが嬉しいです。

——監督は本作を含め、ご自身の作品を見直して、当時のことを思い出したりすることはありますか?
基本的にはあまり観ないんですけど、『リンダ リンダ リンダ』は、10周年の時の上映など観る機会もあったので、時々観直しましたね。自信が無くなりそうな時に観たこともあります。
当時28歳で、今48歳(取材時)なんで、昔より格段に涙腺が緩いですよね(笑)。若い子たちが頑張っているだけで泣ける。自分の作った映画ですけれど、20年経つと、ちょっと距離が出来て客観的に観られる様になったので。
——すごく分かります。私も今回見直して、昔とは違うシーンに感動したり…。いち観客としても、本当に素晴らしい作品だなと思います。
何かがズレていたら全然違った映画になっていたんだと思います。ペ・ドゥナじゃなかったら?THE BLUE HEARTSじゃなかったら?一番良いタイミングで、良いメンバーが集まってくれたんだろうなと。僕もほぼ新人でしたし、この規模の大きな映画が初めてだったので、自分で作ったという感じがしなくて、みんなで作った映画だなと思います。
——撮影当時、印象に残っていることはありますか?
とにかく強烈に覚えているのは、撮影が終わってからものすごく寂しかったことですね。1ヶ月間彼女たちとずっと一緒にいて、撮影していて、それが終わった時にホッとしたというよりも呆然としたんです。ロケ地から東京の風呂無しアパートに帰った瞬間に猛烈に寂しくなった覚えがあって。
俺は『リンダ リンダ リンダ』以前はだらしないダメな男たちを描いた映画ばかり撮っていたので、真逆のキラキラした女の子たちと1ヶ月間映画作りが出来たことが刺激的すぎたのだと思います。本当に大袈裟じゃなく、毎日彼女たちの夢を日替わりで見たんですよ。それぐらい自分にとっても青春というか、楽しい時間だったんだろうなって気付かされて。
映画が完成して、半年後くらいに再会した時に、俺は編集でずっと彼女たちを見ているけれど、彼女たちはもう別の役に入っているわけで。「あれ、熱量が全然違う…」という経験も面白かったです(笑)。あの頃の1ヶ月と今の1か月は体感も違って。今思えばたかだか1ヶ月なんですけど、すごく長く感じたんです。
——そのギュッとした時間の濃さが映画にも素晴らしく現れているのだなと感じます。私は今回見直して、中島先輩にグッと来てしまいました。
最初、ボーカルの役をいわゆる留年しちゃった子がやる設定でしばらく進んでいたんです。どこか疎外感を感じているというキャラクターの設定を留年した子にしようと。ぺ・ドゥナという案が出てきてから、そこを留学生ということにスライドしたのです。
(中島役の)山崎優子さんはオーディションで来てくれて、すごくすごく面白い子だったので、どうにかして出したいなと思っていて、屋上でいる先輩で、先輩のような同級生というシーンにしようとなりました。
——そのシーンを作ってくださって大感謝です。他にも良いキャラクターがたくさん出てきますが、皆さんオーディションですか?
ペ・ドゥナ以外、決め打ちだったのはもうペテランぐらいで、あとは会ってから決めるみたいな感じでした。隅から隅まで全員オーディションに来てくれた人だと思います。小出恵介くんとか、松山ケンイチくんとか、当時から上手くて今も活躍している方もいますけれど、今はもう俳優をやっていない人も多いんじゃないかな。半分ぐらい続けているのかな、という感じで。
当時の自分にとっては、演技が出来る・出来ないってあまり関係なくて、「こういう面白いやついたよな」という生々しさを大切にしていました。それこそオープニングに出てくる女の子は、監督補だった大崎さんという方の行きつけの飲み屋の常連の娘さんです。あのオープニングのシーンで「この映画大丈夫か?」ってちょっとざわつく感じだと思うのですが、それが面白くて、彼女も良い表情をしてくれているんですよね。

——映画に携わる人、私の様にライターをしている人の中でも『リンダ リンダ リンダ』がきっかけですという方ってすごく多いと思います。
本当によく言われるんですよ。ありがたいですよね。自分が立ち上げた企画でもなくて、いただいたものを一生懸命作った作品で、出来上がったらみんなが喜んでくれたという感覚があって。一言で言うと、狙って作ってないんですよ。狙って作っていないが故の“無意識”が色々と発動していて生まれた映画だと思います。これを意識的にもう1回作っても、多分うまくいかないろうなと思っていて。
それはこの映画自体で描いていることもそうなのですが、青春とかそういうものは、意味とかメッセージとか根拠とかが無い方が美しいんじゃないかなって。そんなことを学んだと思います。
——ソンが初めてTHE BLUE HEARTSを聴いた時、感動して泣きますけれど、涙のシーンは映さないじゃないですか。そういう表現の仕方も大好きです。
泣いた表情も撮っているんですけれどね、使わなかった。今自分が撮ったらどうするかな?と思いつつ、当時は根拠の無い自信があって、泣いているシーンを直接映すことを選ばなくても伝わると思ったんです。彼女たちがイキイキしていれば大丈夫というのもあったし。
——世代や環境が違っても、この青春に惹かれるのって不思議で素敵だなあと思います。
たくさんの方がこの映画を愛してくれるのは、何かしらこの映画に近い経験、かすった経験があるんじゃないかなと思います。それが文化祭なのか体育祭なのか受験なのか分からないんですけれど、大人から見ると意味が無いようなものに夢中になったこと、がむしゃらになった瞬間ってあると思うし、そういう方に刺さってくれているんだなと。そしてそういう経験が無かった方にもまぶしく映って楽しんでもらえる、本当に不思議で面白い映画だと思います。
——ちなみに監督、本作の様にリバイバル上映があった時に観て、感動した映画はありますか?
「午前十時の映画祭15」という企画で、『アメリカン・グラフィティ』(1973)をふらっと劇場で観て。何十回と観ている映画なのですが、劇場で観たのは初めてで、すごく面白かったですね。やっぱり劇場で観ると体感が違うなと思って。『リンダ リンダ リンダ』も、劇場で初めて観る方がたくさんいてくれたら嬉しいです。
——今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!

『リンダ リンダ リンダ 4K』大ヒット上映中
ペ・ドゥナ 前田亜季 香椎由宇 関根史織 (Base Ball Bear)
監督:山下敦弘 主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
三村恭代 湯川潮音 山崎優子(新月灯花/RABIRABI) 甲本雅裕 松山ケンイチ 小林且弥
脚本:向井康介 宮下和雅子 山下敦弘 音楽:James Iha
製作:「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ 配給:ビターズ・エンド ©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
2005/日本/114分/カラー www.bitters.co.jp/linda4k 公式X @linda_4k 公式Instagram @lindalindalinda4k

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