歩くだけで人生が変わる──脳と体をリセットする歩行の奇跡

歩くだけで人生が変わる──脳と体をリセットする歩行の奇跡
なぜ歩くだけで疲れが取れて、気持ちまでスッキリするのでしょうか。これは単なる気のせいではなく、私たちの体と脳に備わった自然の回復システムによるものです。人間は二本足で歩く動物として進化してきました──だからこそ、歩くという動作が体のリズムを整え、脳を活性化し、ホルモンバランスまで良い方向に導いてくれるのです。

歩くとき、ふくらはぎの筋肉がポンプのように働いて、全身に血液を送り返してくれます。心臓だけでなく、足の筋肉も第二の心臓として血液循環の手助けをすることで、酸素が体の隅々まで行き渡り、疲れの元となる老廃物も処理されやすくなります──血の巡りが悪くなると脳にも十分な酸素が届かず、頭がぼんやりしたり集中力が続かなくなったりします。歩くことで血流が良くなれば、足だけでなく頭もスッキリするのはこのためです。

また、歩くことは自律神経のバランスを整えてくれます。長時間座ってスマホを見続けていると、体は常に緊張状態になってしまいます──これが続くと夜になっても体がリラックスできず、眠りが浅くなって疲れが残りやすくなります。歩くという一定のリズムの運動は、自然と呼吸を深くし、体をリラックスモードに切り替えてくれます。

歩行は脳内の「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌も促します。セロトニンは一定のリズムで体を動かすときに多く分泌され、感情を安定させて不安やイライラを和らげてくれます──さらに、このセロトニンは夜になるとメラトニンという睡眠ホルモンに変わって、質の良い眠りをもたらします。朝や昼に歩くことで日中の気分が安定し、夜にはぐっすり眠れるという良い循環が生まれるのです。

脳の働きから見ても、歩くことには大きなメリットがあります。歩行は人間らしい思考や感情をコントロールする脳の前頭部分を活性化させます──歩くことで脳に適度な刺激が伝わり、脳内の液体の循環が良くなって老廃物が効率的に排出されます。歩いた後に頭が冴えたり気持ちが切り替わったりするのは、この仕組みが働くからです。

太陽の光を浴びながら歩くことは、メンタル面でも欠かせません。特に朝の光は体内時計をリセットし、ホルモンの分泌を正常に戻してくれます──曇りや雨の日でも外の空気に触れることは自律神経に良い刺激を与えます。だからこそ、たった3分でも外に出て歩くことが心の健康維持に役立つのです。

歩くのが面倒に感じるのは自然な反応です──しかし、歩くことは特別な準備や道具を必要としない、最もシンプルで即効性のある回復方法です。実際に歩き始めて数分もすれば呼吸が整い、目や耳が外からの刺激を受け取って、脳がリセットされ始めます。

疲労は単に筋肉の問題だけではなく、血の巡り、神経の伝達、脳の整理機能などが複雑に絡み合っています──歩くことは、これらすべてに同時にアプローチできる貴重な行動なのです。疲労回復は単に休むだけでは不十分で、体の循環システムを動かして初めて実現します。

疲れているときほど歩く気になれないものですが、あえて歩くことで結果的に疲労が抜け、心が軽やかになる──この一見矛盾した現象こそ、私たち人間の体に組み込まれた自然のリズムなのです。

参考文献
中村桂子『セロトニンとこころの科学』講談社ブルーバックス, 2015.
小林寛道『ウォーキングの科学』講談社現代新書, 2016.

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. 歩くだけで人生が変わる──脳と体をリセットする歩行の奇跡
JIJICO

JIJICO

最新の気になる時事問題を独自の視点で徹底解説するWEBメディア「JIJICO」。各分野の専門家が、時事問題について解説したり、暮らしに役立つお役立ち情報を発信していきます。

ウェブサイト: https://mbp-japan.com/jijico/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。