【ライブレポート】小林歌穂が、私立恵比寿中学に残した優しき光──小林歌穂 卒業式〈ぽ~EVER ―消えない落書き― 〉
「小林歌穂」という存在が残した“消えない落書き”は、これからも色鮮やかに残り続け、多くの人の心を“ぽーっと”優しく灯し続けるのだろう。
2025年6月28日(土)、幕張メッセイベントホールにて、
2014年1月4日にえびちゅうに“転入”して以来、約11年にわたり活動してきた小林。明るく、そしてにこやかなキャラクターで愛され続けてきた彼女の旅の終わりを見届けようと、多くのファンが集まった会場は、冒頭から温かい熱気に包まれていた。
ライブは、小林がキャンバスに向かって筆を走らせるオープニング映像からスタート。「楽しい思い出をつくろうねー!」の言葉を合図に、アルバム『playlist』収録の小林をフィーチャーした楽曲「SHAKE!SHAKE!」で幕が開ける。この日の衣装は、彼女のメンバーカラーである黄色を基調としたもの。そしてメンバーたちの中で、主役・小林はひときわ濃い黄色で輝いていた。
続く「ちちんぷい」で場内の熱気をさらに高めたあとは、椎名林檎のカバー曲「自由への道連れ」へ。トロッコに乗って笑顔を振りまきながらアリーナを周回し、観客との距離を縮めていく。会場全体で「うー!はー!」の絶叫のあとは、「道連れ…しちゃうぞ♡」とセクシーな吐息混じりのセリフで魅力した。
序盤のラストは、小林の“口パク芸”が炸裂するディスコ・チューン「EBINOMICS」。音源で歌っているオリビア・バレールに成りきった大胆な“偽フェイク(つまりは、フェイクのフェイク)”で、観客を沸かせる。まさに小林歌穂ならではのエンタメ精神が詰まった一曲だった。個人的には、この口パク芸はぜひ、今後もメンバーにも受け継がれてほしいと思っている。
恒例の自己紹介を挟み、ライブは「キングオブ学芸会のテーマ~ Nu Skool Teenage Riot ~」へ。熱気を再燃させたあとは、「Family Complex」へと展開。EDMサウンドに乗って、客気もジャンプ。そしてステージ上では、小林が中山莉子に「りこちゃんwwwみてこれwwwみたことない虫wwww」と絡む、えびちゅうらしい恒例の演出も健在。ここでは中山が予想外に大きなリアクションで応えると、小林が一瞬うれしそうに笑顔を噛みしめる場面もあった。これまで長きにわたって行われてきた、寸劇のひとつのハッピーエンドを見た気がした。
続いての曲は「サドンデス」。「Family Complex」からの岡崎体育提供楽曲2連発に会場がざわつく。ここでえびちゅう名物となっている、ダンスパートで“ビーナス”を決める勝負では、メンバーたちが空気を読んで小林に花を持たせる中、メンバー1真面目な風見和香だけが真剣勝負を挑み、会場に笑いと拍手が起きる。この絶妙な空気感も、えびちゅうというグループならではの魅力だ。
ライブは次のブロックへ。小久保柚乃の発案により、客席が一面小林のメンバーカラー・黄色に染まる中、「フレ!フレ!サイリウム」がスタート。メンバーがアリーナをトロッコで回る中、小林はひとり、2階・3階席へと向かい、笑顔と感謝を高く掲げて届けていく。終盤では「歌穂色の美しい光で 導け未来へ」と歌詞が変更され、この日ならではの特別な演出が胸を熱くした。
そのままステージに戻ったメンバーたちは「イエローライト」へ。この曲に込められた〈前に進むために 立ち止まっても良いよ〉というメッセージは、まるで小林の歩みとその人柄を象徴しているかのようで、会場には温かな空気が広がっていった。続いて披露されたのは、「イエローライト」と同じく、たむらぱん提供の「ポップコーントーン」。〈だから私もあなたのこと 永遠に忘れないから〉という歌詞では、小林が観客に向けて手を大きく広げ、惜別の思いを全身で伝えていた。
このブロックのラストは「星の数え方」。ステージ後方の傾斜に並び立つメンバーたちが、スクリーンに広がる星空と共に、魂をこめて歌声を届ける。メンバーそれぞれが、小林と過ごした時間を胸に、最後のひとときを噛みしめていた。
ここで幕間VTRのインタビューコーナーを挟む。ここで小林歌穂が語った「私立恵比寿中学は、楽園」という言葉が、胸に深く残った。決して順風満帆ではなかったえびちゅうの歴史。ファンはご存じの通り、様々な苦境に立ちネガティブなこともたくさんあったであろう長い年月を、「楽園」と言い切れるのは、どこまでもポジティブで、どこまでもやさしい小林だからこそ。私立恵比寿中学を楽園にしていたのは、「小林歌穂」という存在がグループにいたからだろう。そう思わずにはいられなかった。
VTRが明け、衣装をチェンジしたメンバーが再登場すると、ここからは感情が一気に高まるブロックへ突入。披露されたのは「なないろ」「スーパーヒーロー」「まっすぐ」「ジャンプ」と、普段のライブでは終盤やアンコールで歌われる楽曲ばかりだった。それを一挙に並べたセットリストは、“エモさ”の塊だった。そしてこれらの楽曲が深い力を持っているのは、メンバーたちがひとつひとつの歌を、時間をかけて育ててきたから。小林の門出を彩るにふさわしい、真摯でまっすぐな歌声が、幕張メッセいっぱいに響き渡った。
やりすぎなくらいの怒涛のセットリストで、エモがりを奏でた(これは真山りかのボキャブラリー)あとは、小林と中山莉子による“カホリコ”コンビの最後のトークパートへ。ここでは中山がサプライズで手紙を読み上げる。冒頭で涙をこらえながら「手紙に書いてないこと言ってもいい?ずっと強がってたけど、寂しくて…」と声を震わせる中山に対して、「うん、知ってたよ」と返す小林。言葉数は少なくとも、ふたりの11年のすべてが詰まったようなやり取りだった。
「歌穂ちゃんへ」から始まるその手紙は、11年前の“はじまり”を回想するところから始まった。私立恵比寿中学に誘われた当時、嬉しさと同時に不安もあったという中山。しかし、もう一人の新メンバーが「小林歌穂」だと聞いた瞬間、迷いなく「やります」と返事をしたと綴った。その理由は、「歌穂ちゃんなら絶対に断らないと確信したから」——。この、まさに“運命”とも呼べるような2人の出会いは、ここから11年間にわたって続く“カホリコ”の絆の始まりだった。加入後の毎日、常に隣にいた存在。ひとりでは越えられなかった壁も、ふたりだったから越えられたと語る。ともに泣き、笑い、同じ時間を共有し続けてきたからこそ、その日々が「本当に楽しかった」と振り返る。
そして、卒業を迎える今、2人の道はそれぞれに分かれていく。しかし中山は、「カホリコのニコイチは変わりません」と強く宣言。「これからもずっと支え合っていこうね」「おばあちゃんになったら孫の見せ合いしようね」と、変わらぬ未来の約束を言葉にした。最後は、「ずっとずっと大好きだよ」と結ばれた手紙。鼻水をすする中山の声に、会場中のファンが深く心を揺さぶられた瞬間だった。
そしてカホリコはユニット曲「君のそーゆーとこ」を披露。スクリーンには過去のふたりの写真が映し出され、会場には懐かしさと愛しさが広がっていく。そして彼女たちの加入したあとすぐにリリースされた「バタフライエフェクト」「幸せの貼り紙はいつも背中に」が続けて披露されると、加入当初のツアーを彷彿とさせるような演出に胸が熱くなった。
ブロックの締めくくりは「YELL」。通常はファン=“ファミリー”に向けて届けられる楽曲だが、この日は違っていた。落ちサビでは小林が客席に背を向け、メンバー一人ひとりの目を見て「君らしく行け 例えどんなことがあっても」と歌った瞬間、この「YELL」は“送り合うエール”として生まれ変わっていた。思わず涙を流してしまう小林の元に駆け寄るメンバーたちの姿に、グループとしての絆の深さを改めて感じさせられる。
最後の曲を披露する前に、小林はファミリーへの手紙を読み上げた。そこには、2014年1月22日にグループへ転入してからの11年間を振り返る想いと、これまで支えてくれた人々への感謝の気持ちが、彼女らしい言葉で率直に綴られていた。
2014年の初ステージは緊張しながらも「みなさんに幸せの張り紙を貼りまくります!」と語ったという懐かしいエピソードから始まったこの手紙。会場のファンとともに駆け抜けた日々が、生き生きと蘇る。歌とダンス、唯一無二の声と表情で届けてきた11年間。彼女がずっと大切にしていたのは、「自分を見て、明日も頑張ろうって思ってもらえるような存在でいたい」という思いだった。「“幸せになった”って、たくさん言ってくれてありがとう。私も、みんなにたくさんの“幸せの張り紙”を貼ってもらいました。」。その言葉には、グループへの深い愛情と、メンバーやファンとの絆がぎっしりと詰まっていた。「みんなと出会えたこと、たくさん笑い合えたことが、私の宝物です。」手紙の最後、小林は「これからも」と未来へ向けた言葉を添え、「小林歌穂より」と締めくくった。
ファミリーへの手紙を読み上げたあと、本編ラストは「感情電車」。小林のソロパート「その空」では、会場中が息を飲み、彼女の一言一句に耳を傾けていた。その声は、確かにこの11年のすべてを背負い、すべてに感謝するような、穏やかで凛とした響きだった。小林の声には、聴く人の肩の力をふっと抜いてくれるような、不思議な柔らかさがある。そのあたたかさは、まさに彼女がグループのなかで担ってきた役割そのものだった。
アンコールはえびちゅうバンドを迎えて、「イート・ザ・大目玉」「HOT UP!!!」「シンガロン・シンガソン」を熱唱。とんでもない量の特効の炎が激しく舞う「HOT UP!!!」では、会場は文字通り灼熱の熱い熱い空間と化していた。
そこから一転、ピアノアレンジからはじまった「SCHOOL DAYS」では、スポットライトを浴びる小林に向けて、他のメンバーがメッセージを贈るようなフォーメーションを取る。冒頭、仲村悠菜がアカペラで歌った「愛される準備ができてる君に贈る歌」というフレーズが、特別な意味を帯びていく。この曲のテーマは「誰かの背中を押すような歌」だが、この日は小林の新たな出発に向けて歌われていたように思う。
そして、卒業式の最後に選ばれた楽曲は「響」。すべてを出し切った小林の歌声は、涙と笑顔が入り混じるような表情に乗って客席へと届いていった。その小林の表情を見た真山が「初めて会った時と同じ顔してたよ!」と声をかけた瞬間、会場にあたたかな笑いがこぼれた。
ラストの挨拶では、メンバー全員が深く一礼。スクリーンには「いまです!」の文字が現れ、客席には一斉に「愛と自信 がんばれ」と書かれた紙が掲げられる。これはなんと、小林からメンバーへのサプライズ。真山は「自分が主役でいいんだから」とファミリーの気持ちを代弁するようなコメントをしていたが、自身の卒業コンサートにも関わらず、最後の最後まで“誰かのために”を貫いた小林らしい演出だった。
全25曲をパフォーマンスし切ったえびちゅう。ここで小林に向けてメンバー一人ひとりからの温かな言葉が贈られた。まず最年少の仲村悠菜は、初めてのツアーでしっかり叱ってくれたこと、落ち込んでいた時にそっとご飯に誘ってくれたことに感謝し、「一緒にいられて嬉しかった。いつか歌穂ちゃんの手料理が食べたい」と笑顔を見せた。桜井えまは、「初めて会ったときから本当に優しくしてくれて。MCでもふざけ合って、毎回楽しかった」と振り返り、「カメラロールが歌穂ちゃんばっかりだった」と、溢れる愛情を口にした。
風見和香は、加入当初の撮影で声をかけてくれたエピソードに触れながら、「大先輩なのにすごく近くで話を聞いてくれて、“そうだよね”って共感してくれるところが本当にありがたかった」と語った。小久保柚乃は、「パンフレット用の写真を探していたら、面白い写真ばかりで使えなかった(笑)」と会場を笑わせつつ、「それだけたくさん魅力的な瞬間があるってこと」と、憧れの先輩へのリスペクトをにじませた。
桜木心菜は、「加入したばかりでトゲトゲしていた私を、歌穂ちゃんは優しく包み込んでくれた」と語り、「今、MCでちゃんと話せているのは歌穂ちゃんのおかげ」と感謝を伝える。「残してくれた魂をしっかり受け継いで、私も頑張っていきます」と力強く語った。
続いて真山りかは、「なんか大きくなったね、身長も心も(笑)」と茶目っ気たっぷりに話しながら、「卒業を決めた姿勢が本当にかっこよかった」とエールを送った。「私たち一緒に歌うことが多くて、目が合うたびに泣きそうになってた」と明かし、これまでの思い出を噛みしめていた。最後は、「なで肩すぎてなかなかハグできない」コントを展開していたが、これは、涙が溢れてしまいそうな真山の照れ隠しと強がりなのかなと思った。
安本彩花は、「教育係って言ってたけど、実は私のほうが教わることばかりだった」と語り、「中学生のような心を忘れずに向き合う姿を見て、何度もハッとさせられてた」と話す。小林は「これからも“師匠”として尊敬しています」と、別れを惜しむように言葉を重ねた。
最後に小林に声をかけたのは親友・中山莉子。中山は小林のファンに向けて「卒業しても、ちゃんと外に連れ出して一緒に遊んで、報告するから安心して」とユーモラスに語り、変わらぬ関係性を予感させた。
そしてメンバーがステージを去ったあと、ひとりステージに立った小林歌穂は、「今日はびちゃびちゃに泣くのかなと思っていたけど、こんなにもハッピーな卒業式になるなんて」と語った。「私の人生における分岐点の日に、こんなに大切な人たちに囲まれて卒業できたことが本当に幸せです」と感謝を述べた。「私を愛してくれたみなさん、ありがとう。皆さんと出会えたことが私の財産です」と締めくくり、晴れやかな笑顔で「黄色のドア」から新たな世界へと旅立っていった。
「ぽ~EVER ―消えない落書き―」というタイトル通り、この日小林歌穂が残したのは、鮮やかで消えることのない“記憶の落書き”。それは、彼女の人生のページだけでなく、えびちゅうというグループ、そしてファミリー一人ひとりの心にも刻まれていくのだ。
取材&文:ニシダケン
撮影 : 笹森健一、高橋定敬、小坂茂雄
フォトギャラリー
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ライヴ情報
私立恵比寿中学 小林歌穂 卒業式「ぽ~EVER 一消えない落書きー」セットリスト
2025/06/28(土)@幕張メッセ幕張イベントホール
1. SHAKE!SHAKE!
2. ちちんぷい
3. 自由へ道連れ
4. EBINOMICS
5. キングオブ学芸会のテーマ~ Nu Skool Teenage Riot ~
6. Family Complex
7. サドンデス
8. フレ!フレ!サイリウム
9. イエローライト
10. ポップコーントーン
11. 星の数え方
12. なないろ
13. スーパーヒーロー
14. まっすぐ
15. ジャンプ
16. 君のそーゆーとこ/カホリコ
17. バタフライエフェクト
18. 幸せの貼り紙はいつも背中に
19. YELL
20. 感情電車
アンコール
21. イート・ザ・大目玉
22. HOT UP!!!
23. シンガロン・シンガソン
24. SCHOOL DAYS
25.響
リリース情報
■私立恵比寿中学 15th Anniversary 大学芸会2025~LOVE&BRAVE~
2025年9月3日(水)
https://ShiritsuEbisuChugaku.lnk.to/15th_Anniversary_Daigakugeikai_2025_LOVE_AND_BRAVE
初回生産限定盤(2BD) SECL-327~328 ¥13,200-
◇収録内容
<豪華40Pフォトブック>
<BD1>
私立恵比寿中学 15th Anniversary 大学芸会2025~LOVE&BRAVE~
M1. サドンデス
M2. イート・ザ・大目玉
M3. キングオブ学芸会のテーマ〜Nu Skool Teenage Riot〜
M4. シンガロン・シンガソン
M5. 未確認中学生X
M6. ラブリースマイリーベイビー
M7. オメカシ・フィーバー
M8. すたーてぃん / 桜井えま×仲村悠菜
M9. 王様の耳はパンの耳 / 桜木心菜×小久保柚乃×風見和香
M10. 君のそーゆーとこ / 小林歌穂×中山莉子
M11. 明日 / 真山りか×安本彩花
M12. えびぞりダイアモンド!!
M13. チャイム!
M14. 売れたいエモーション!
M15. 仮契約のシンデレラ
M16. 靴紐とファンファーレ
M17. 手をつなごう
M18. フレ!フレ!サイリウム
M19. 星の数え方
M20. 感情電車
M21. TWINKLE WINK
M22. YELL
M23. SCHOOL DAYS
M24. 未確認中学生X & 仮契約のシンデレラ REMIX
M25. ボイジャー
M26. なないろ
M27. 青い青い星の名前
<BD2>特典映像
・「私立恵比寿中学 15th Anniversary 大学芸会2025〜LOVE&BRAVE〜」メイキング映像
・「岩井 狩野 えびちゅうの推しかるちゃー」特別編
初回仕様通常盤(BD) SECL-326 ¥7,700-
<BD1>
私立恵比寿中学 15th Anniversary 大学芸会2025~LOVE&BRAVE~
※初回生産限定盤共通
ライヴ情報
■FAMIEN2025
【日時】2025年8月16日(土) open 15:00 / start 16:30
2025年8月17日(日) open 11:00 / start 12:30
【会場】山中湖交流プラザきらら シアターひびき
■私立恵比寿中学公式FC「秘密結社★ブラックタイガー」会員限定イベント
【日時】2025年10月11日(土)
【会場】埼玉・大宮ソニックシティ大ホール
■「ちゅうおん2025」
【日時】2025年11月2日(日)
【会場】神奈川・カルッツかわさき
【日時】2025年11月3日(日)
【会場】愛知・愛知県芸術劇場 大ホール
アーティスト情報
オフィシャル・ウェブサイト:https://www.shiritsuebichu.jp/official/pc/
X:https://x.com/ebichu_staff

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