「ストレスはお腹に出る?」──腸腰筋から始める整えケア

■ストレスと大腰筋の深い関係
大腰筋は「情動筋(emotion muscle)」と呼ばれることもあるほど、心の状態と密接に関係しています。
大腰筋の近くには、交感神経の中枢「腹腔神経叢(ソーラープレクサス)」があり、
緊張や不安を感じると、自律神経の反応としてお腹まわりの筋肉が無意識に硬直します。
現代人は、戦う相手も逃げる敵もいないにもかかわらず、
脳は「緊張しろ」「備えろ」という指令を出し続けています。
その結果、大腰筋がガチガチに固まり、
「動けない自分」に対するストレスがさらに筋肉を硬くする——イライラして八つ当たりしたり仕事を辞めたくなる。
まさに“負のループ”です。
このループを断ち切る鍵が、腸腰筋をゆるめて“整える”という視点にあります。
■動きの土台「腸腰筋」とは?
腸腰筋(ちょうようきん)は、大腰筋と腸骨筋という2つの筋肉の総称です。
この筋肉は、体幹(胴体)と下肢(脚)をつなぎ、私たちの動きを生み出す起点となっています。
まず、大腰筋は背骨の下部(第12胸椎〜第5腰椎)からスタートし、
脚の骨(大腿骨の小転子)に付着しています。
つまり、背骨と脚を直接つないでいる唯一の筋肉です。
主な働きは以下の通りです。
•股関節の屈曲(脚を前に出す)
•腰椎の屈曲(体を前に倒す)
•背骨の安定(体幹の軸づくり)
•体幹の側屈(片側だけの収縮で体を横に倒す)
一方、腸骨筋は骨盤の内側から始まり、大腰筋と合流して脚につながります。
こちらは骨盤を安定させながら、脚の動きを支える役割を持っています。
■腸腰筋がうまく使えていないと?
腸腰筋がうまく働いていないと、立ち上がりや歩き出しに時間がかかり、
「よいしょ」と声が出たり、階段の一歩目が重く感じたりします。
他にも以下のような不調が現れます。
•反り腰・腰痛(骨盤や背骨の不安定)
•猫背(体幹の支え不足)
•脚のむくみ・歩幅の減少(歩行パターンの乱れ)
とくに長時間座りっぱなしのデスクワーカーや、運動不足の人は要注意。
動かさなければ筋肉は萎縮し、将来的な「歩けなくなるリスク」の芽になります。
■腸腰筋をゆるめるセルフケア
この筋肉は体の深部にあるため、表面からのマッサージでは届きにくいのが特徴です。
しかし、呼吸や温熱などの間接的なアプローチでほぐすことは可能です。
ひとつは「呼吸」。
仰向けになり膝を立て、鼻から吸ってお腹を膨らませ、
口から細く長く吐く。これを10回繰り返すだけで、横隔膜が動き、腸腰筋にも刺激が伝わります。
もうひとつは「ホットタオル」。
下腹部や腰のあたりに当てて温めることで血流が促され、筋肉がゆるみやすくなります。
ラベンダー精油を1滴加えると、リラックス効果も高まります。
ポイントは、「強くしないこと」。
腸腰筋は、優しくふわっと気づかせるような刺激の方がよく反応します。
■見えない筋肉に気づくと、整えが始まる
腸腰筋は目に見えない存在ですが、
呼吸、姿勢、歩き方、疲れ方……日常のあちこちにサインを出しています。
大きく息を吸えた朝。
歩き出しが軽かった日。
「なんだか今日は体がスムーズに動く」そんな感覚をキャッチできたとき、
それは腸腰筋がうまく動いている証拠かもしれません。
見えない筋肉に気づくことで、
体だけでなく、心までふっと軽くなることがある。
それが、「整え」のはじまりなのです。
【参考文献】
『プロメテウス解剖学アトラス 第3版』医学書院
『ネッター解剖学アトラス 第6版』エルゼビア・ジャパン
竹井仁『筋膜リリースの理論と実践』医道の日本社

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