『モンスターハンターワイルズ』レビュー:強化されたストーリー性によって自然との共生を体感できる一作

今やワールドワイドにプレイされるようになり、名実ともに日本を代表するゲームタイトルのひとつといえる「モンスターハンター」シリーズ。それだけに毎回最新作への期待度は高く、今作『モンスターハンターワイルズ』も発売前から話題を集めていた。そんなシリーズ最新作がとうとう発売となった。

もちろん筆者も自腹購入し、現在もプレイを継続的に楽しんでいる。そこでこの記事では、『モンスターハンターワイルズ』の魅力を語りたいと思う。

ストーリー性が大幅に強化! シリーズ最新作『モンスターハンターワイルズ』

『モンスターハンターワイルズ』は、巨大なモンスターの狩猟に挑むマルチプレイ型ハンティングアクションゲーム「モンスターハンター(モンハン)」シリーズの最新作。モンスターと戦って素材を獲得、素材から武器・防具を作り出し、より強大なモンスターへ挑む……という基本要素は本作でももちろん健在だ。

では本作ではどこが強化されたか……というと、一番目立つ部分ではストーリー性だろう。もちろん過去のタイトルも、リリースされる度にストーリー描写が強化されてきた。

初期のタイトルでは、「村で受注したクエストを終了し、村へ帰還」→「村でストーリーが進む」という流れで描かれており、正直なところストーリー要素はオマケといっていいレベルだ。しかし、『モンスターハンター:ワールド』(2018年)ではストーリー描写に大きなメスが入り、マップ上でストーリーとクエストがシームレスに移行するようになった。今作はこの『モンスターハンター:ワールド』の形式を踏襲しており、ストーリーとクエストがシームレスに展開していく。

今作は、謎のモンスター「白の孤影」がとある集落を襲うところからスタート。襲撃から命からがら逃げだした少年・ナタは禁足地調査中のハンターたちに保護される。ギルドはナタを故郷に返すため、ナタの故郷の人々「守り人の一族」の安否を確認するため、そして「白の孤影」の調査のため、調査プロジェクトを発足した。

このプロジェクトに加わるハンターの一人が、プレイヤーの操る主人公だ。もちろん今回も、外見は自由にカスタマイズ可能。そして、オトモとして同行してくれるアイルーも外見をカスタマイズできる。

ちなみに『モンスターハンター:ワールド』と同様、今作でも「編纂者」と呼ばれるキャラクターがクエストに同行する。「編纂者」はモンスター狩猟の要請や許可、クエストの管理や受付をおこなうという役割を持ったキャラクターで、『ワイルズ』『ワールド』以外のシリーズで言えば、受付嬢にあたるキャラクターだ。『ワイルズ』『ワールド』ではストーリーとクエストがシームレスに展開する都合上、受付嬢を常に同行させるスタイルとなるのだろう。

ただ、『ワールド』で編纂者を務めていた「受付嬢」は、性格・ビジュアルの両面であまりユーザー受けがよくなかった。これに対し本作の編纂者「アルマ」は非常に魅力的! いや、アルマだけでなく、全体的にキャラクターが立っており、より魅力的となっている。

とりわけ加工屋である「ジェマ」と編纂者「アルマ」の魅力は際立っており、海外ではジェマ派かアルマ派かで盛り上がっているようだ。ちなみに筆者は、断然「アルマ」派である!……そう強く言いたくなるほど、今作のキャラクターはよくできているのだ。

単純に見た目がカッコいいとか、かわいいだけでなく、ストーリーとして見た場合も、今作のキャラクターは完成度が高い。タイトルにある『ワイルズ(野生)』という言葉が象徴するように、本作のストーリーでは、「自然との共生」が描かれていく。それは単なる「自然」ではなく、「自然との共生」。つまり、人と自然、モンスターと自然、それらが共に影響を与えあい、環境を構築する状況が深掘りされていくのだ。

「自然との共生」というテーマは、まず、セリフやストーリー展開として明示的に描かれていく。禁足地には砂漠、森、油の沸く谷、氷の断崖といった異なる環境が存在し、それぞれに異なる民族が、集落を形成している。

そして各集落は、周囲の環境に応じたくらしを送っている。たとえば砂漠の村・クナファでくらす人々は、セクレトというダチョウのようなモンスターに乗って砂原を移動する。ただ彼等にとってセクレトは単純な移動手段ではなく、共に生きる相棒のような存在だ。

また、森ではモリバーという獣人たちが集落を形成、森がもたらす豊かな恵みを得てくらしている。彼らはたどたどしい人語で人ともコミュニケーションを行う。森の恵みがあるだろうに、森を訪れる人間に対し「ショバダエ(恐らくショバ代?)」という通行料を要求してくる存在なのだ。

本作のストーリーでは、こうした個性豊かな民族の暮らしぶりとともに、そこで発生するトラブルが描かれていく。そのトラブルというのもまた、「自然」に由来するもの。

家畜として活用したり、環境がもたらす実りを食料にしたり、美しい景観を眺めたり……など、「自然」はポジティブな側面を持っている。だが、嵐によって住居が破壊されたり、モンスターの脅威によってさらされたり……など、ネガティブな面も持ち合わせているのもまた、「自然」。

「自然」は人間にはコントロールすることができず、状況によって益にもなれば害にもなる。だからこそ、どう共生するかが大事。これこそが、本作のストーリーのテーマなのだろう。

だが、この「自然の共生」というテーマは、並大抵のことでは表現しきれない。なぜなら、非常に普遍的なテーマだから。「自然の共生」が重要ということは昔から様々な物語でテーマとされてきたし、現在の社会的な課題となっている「SDGs」も、「自然の共生」というテーマの一部と言える。

これだけ普遍的なテーマともなると、セリフやストーリー展開で語られたところで表面的な描写になってしまい、プレイヤーからすると「そりゃあ自然は大事でしょうねえ」と、どこか冷めた気持ちになってしまう。普遍的というのはそれだけ繰り返されていて一般的ということなので、自分事として捉えづらい。このため、「今まで気づかなかった。感動した!」という衝撃に繋がりにくいのだ。

だが本作のストーリーは、「感動した!」というレベルにまで到達している。

ストーリー表現には、セリフやナレーションといった言葉で直接的に描く「スクリプト」と、キャラクターの表情や置かれた状況、環境といった非言語で間接的に描く「ナラティブ」という二種類の手法がある。本作のストーリーでは、この「ナラティブ」の影響が強い。

本作で「ナラティブ」を演出しているのは、フィールド。フィールドでは天候が変わり、それによってモンスターたちの行動が変化する。

この行動変化は、単純にその場で行動パターンが変化するというものではない。飢えた肉食モンスターが群れで争う過酷な「荒廃期」と、豊かな生命が溢れる「豊穣期」という期間に基づいて変化する。このためモンスターが、生物の種としてその地に生きているという感覚が強く味わえるのだ。

こうした要素が圧倒的な美麗ビジュアルで描かれるわけだから、説得力も圧倒的だ!

セリフやナレーションによる「スクリプト」で「自然との共生」を語りつつ、フィールド環境による「ナラティブ」要素を駆使して「自然との共生」を描く。だからこそ、本作のストーリーは没入感が高い。

正直、これまでの筆者にとって「モンハン」と言えば、モンスターを狩るというアクションが楽しいゲームでしかなかった。主役はモンスターと武器であって「ストーリーが気になるから『モンハン』をプレイしよう……」と思ったことは、これまで一切なかった。

しかし今作は違う。
ストーリーがおもしろい。
ストーリーの先が気になるから、プレイしたくなる。

まるでソロ向けRPGのようなプレイ感だ。

ハンティングアクションは爽快感がアップしたのか、重量感が失われたのか

ストーリー要素の強化ばかりに触れてきたが、「モンハン」の醍醐味であるハンティングアクションも、もちろん強化されている。今作では集中モードという新アクションが追加された。

LTボタンを押して集中モードを使用すると、モンスターをロックオンした状態となり、特定の部位を狙いやすくなる。そこに攻撃を連続で当てると、モンスターに傷口が発生。その傷口に攻撃を当てることで、より大きなダメージを与えることが可能だ。

さらに集中弱点攻撃で傷口を破壊すると、モンスターに大ダメージを与えてひるませることが可能。「集中モード」「傷口」「傷口破壊」という要素によって本作では、「バトルの進行とともに変化するターゲット個所を、いかに狙うか?」という立ち回りが生み出されている。そしてこの立ち回りを支えているのが、セクレトやサブ武器といった要素。

セクレトは、先に紹介した通り、クナファ村で暮らす人々が、移動用に使っているダチョウのようなモンスター。プレイヤーも利用可能で、いつでも呼びつけて搭乗できる。搭乗すると高速移動できる上、移動しながら回復薬を飲んだり、武器を研いだりすることが可能。

また、セクレトにはサブ武器を搭載することができ、いつでもメイン武器と入れ替えることができる。サブ武器に交換することで研ぐ時間をカットしたり、状況に合わせて最適な武器種に持ち替えたりといったことが可能だ。

セクレトの存在によって、「モンスターから強力な攻撃が繰り出されそうになったらセクレトを呼びつけて遠くへ逃げ、モンスターが隙を見せたら一気に接近、セクレトを降りて連続攻撃を決める」というかたちで、流れるような立ち回りが可能となる。筆者が愛用している武器が太刀ということもあるが、セクレトで逃げつつ回復し、万全の態勢でコンボをガンガン叩き込む……という立ち回りは非常に爽快。軽快に駆け回り、華麗にモンスターを倒すという今作のハンティングアクションは、ストーリー要素に並ぶ魅力と言えるだろう。

一方で、「軽快に駆け回り、華麗にモンスターを倒すハンティングアクション」という点に違和感を持つ人もいることだろう。なぜなら、そもそも「モンハン」シリーズのハンティングアクションは、「重量感」にフォーカスが当てられていたからだ。このことは強大なモンスターに巨大な大剣で立ち向かう、初代パッケージが象徴している。

時間をかけて広大なフィールドを移動し、モンスターの隙を見極め、巨大な大剣を振るう。倒したモンスターから素材をはぎ取るのにも時間がかかるため、安全なタイミングを見極めなければならない……。初期の「モンハン」シリーズでは、こうした要素ひとつひとつが「重量感」を感じさせるものになっていて、それが「狩りのリアルさ」に繋がっていたように思う。

となると、軽快な爽快感という魅力は、かつての「モンハン」が持っていたコンセプトとは異なるような気がしないでもない。

これは筆者の個人的な印象だが、「モンハン」シリーズは作を追うごとに軽快感を増し、「過去作が持っていた狩猟感」を薄めているように思う。新作が出るたびに便利な新システムが搭載されるし、ハードウェアが新しくなるごとに動作スピードが改善されてきたわけなので、軽快感を増しているという感覚に間違いはないだろう。

とりわけ本作は、狩猟はもちろん、素材アイテムの探索・収集においてもセクレトでサクサク行えるため、つい過去作と比べてしまう。正直なところシリーズの中でも群を抜いて軽快だと感じるのだ。

とはいえ、現在のプレイ環境を考えた場合、本作にこの軽快さは必須だろう。

「モンハン」は2024年で20周年を迎えた。シリーズを通してファンという場合、現時点では社会人として仕事を持っているというケースが少なくないだろう。となると、ゲームプレイに時間を費やすのが難しくなってくる。

もちろん人にもよるだろうが、仕事に家事に友だちとの付き合い、そのほかにも動画配信を見たり、本(電子書籍)を読んだり……と、いろいろ用事が重なってくると限られた可処分時間の中、まとまった時間でゲームをプレイすることができなくなってしまう。スマートフォンのゲームやNintendo Switchのゲームが重宝されるのはこのためだ。あまり時間がないときでもサクッと気軽に起動してプレイできる。

こう考えると、セクレトでサクサク素材を集め武器を強化し、狩猟も爽快に楽しめる……という本作の進化は妥当と言えるのではないだろうか。

でも、それでは「モンハン」の魅力である「狩猟感」はもう味わえないのか? ……個人的には、その答えが本作のストーリーパートではないかと思う。

この記事で紹介した通り、本作ではストーリーパートを通じて、「自然との共生」というテーマを堪能できる。この「自然との共生」というテーマには、「狩猟」という行為も含まれているのだ。

一方で、「狩猟感」のうち、強大なモンスターとのバトルという部分……つまりハンティングアクションを楽しむという「ゲーム性」の部分は、ストーリーパートクリア後が本番。

これまでの「モンハン」もそうだが、モンスターとのバトルという「ゲーム性」の部分は、何度も繰り返しプレイすることになる。つまり、エンドコンテンツ。そうなると「リアリティ」より「爽快感」「利便性」の方が重要になってくる。

というのも、どんなに「リアリティ」があっても、繰り返しプレイすることでプレイヤーの中に「これはゲームである」という割り切りが生まれてしまうからだ。この点顕著なのが、「バイオハザード」シリーズだろう。初プレイ時はリアルなゾンビたちに本気の恐怖を感じるが、プレイを重ねるごとに割り切りが生まれ、「とりあえずゾンビが出たら頭を撃って怯ませ、接近して体術」といった具合にルーティン化してしまう。

ルーティン化した状態とは、「リアリティ」が機能しなくなった状態と言い換えられる。すると、残るのはアクションの「爽快感」や、機能面での「利便性」。こう考えると、現時点で「モンハン」を作るとなると、ストーリーパートでは「狩りのリアリティ」を描き、エンドコンテンツである「ゲーム性」に関わる部分については「爽快感」「利便性」を重視する……という構成以外に考えられない。

人によっては本作の持つ軽快さ・爽快感が自身の「モンハン」感と反するかもしれない。とはいえ本作は、ゲームとして圧倒的におもしろい。多くの人にとって満足できる一作だろう。

ストーリーパートだけでも満足感が高いし、ハンティングアクションに関しても、これまでのイメージに囚われなければ、圧倒的なおもしろさを持っている。従来の「モンハン」ファンから、これまで触れたことのない人まで、すべてのゲームファンにプレイして欲しい。

(文/田中一広)

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