『都市伝説解体センター』レビュー:アドベンチャーゲームを「解体」し、その魅力を「特定」、再構築することで面白さが結実した一作
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謎めいた冒頭に引き込まれ読み進むうちに、最後には真相を求めるあまり、寝ることすら忘れてしまう……。上質なミステリー作品は、そんな魅力を持っている。この記事でレビューする『都市伝説解体センター』も、そんな一作だ。
なお、筆者はレビューするにあたって本作をエンディングまでプレイしている。ただ、このレビューではストーリーの結末に触れるようなネタバレは行わない。ミステリー作品にとってネタバレは、楽しさの大部分を損なうことへ繋がってしまうからだ。
とはいえ、レビューする以上は、ある程度は作品内容に触れざるを得ない。なので、完全ネタバレなしでプレイしたい人は、この記事を読む前に是非本作を購入し・エンディングまでプレイしてほしい。
本作はインディーゲームということもあって、ダウンロード版なら1980円(税込み)という価格で購入できる。はっきりいって本作の楽しさ・ボリューム感を踏まえると、この価格は破格値もいいところだ。「本当におもしろいの?」という疑念を「解体」し、是非今すぐ購入して欲しい。
都市伝説の謎に迫る! ミステリーアドベンチャーゲーム『都市伝説解体センター』
『都市伝説解体センター』は、タイトルにある通り「都市伝説」の謎に迫るミステリーアドベンチャーゲームだ。「都市伝説」を扱ったミステリーアドベンチャーゲームといえば、最近の作品だと『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』がある。『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』は殺人事件の背景に都市伝説が絡んでくる……という構成だったが、よりダイレクトに「都市伝説」を扱っている点が本作の特徴だろう。
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たとえば本作の第一話で扱うのは「ベッドの下の男」。この都市伝説は、マンションで一人暮らしをしている女性の元に友人が泊まりに来た際、突然夜中に友人から「外へ出よう……」と強引に誘われるというもの。女性が部屋を出ると友人は、「ベッドの下に刃物を持った男がいた」と告げる。
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主人公である女性が直接襲われるのではなく、友人の態度を通して恐怖が語られるという点がこの都市伝説のミソだろう。この都市伝説に限らす、都市伝説には恐怖を描いたものが多い。では本作もホラーなのか……というと、都市伝説を扱っている以上恐怖を感じさせる部分もないわけではないが、決して「怖がらせること」がメインではない。
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では何が本作のメインかといえば、これまたタイトルにある通り「都市伝説」の「解体」だ。本作ではまず、明らかにこの世ものとは思えない、オカルティックな事件が発生する。たとえば、部屋の中に刃物を持った男が突如出現する……といった具合に。
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そこで次に、起きた事件を「都市伝説」として「特定」する。「部屋の中に刃物を持った男が突如出現する」のであれば、「ベッドの下の男」の都市伝説が現実化したのだろう……といったふうに。
そして最後に、その事件が本当に「都市伝説」なのかを、「解体」する。
刃物を持った男は、本当に突如出現したのか?
刃物を持った男は、本当に人間ではないのか?
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つまり、本作では「事件」を「怪異」として見立て、最後に解きほぐす……というミステリー的アプローチが採られている。ミステリーに詳しい人であれば、京極夏彦氏の「百鬼夜行」シリーズを連想するかもしれない。京極夏彦氏の「百鬼夜行」シリーズは事件を妖怪として見立てていくが、本作では事件を「都市伝説」として見立てていく。
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▲画像は京極夏彦氏著「百鬼夜行」シリーズの第一作『姑獲鳥の夏』電子書籍版
もちろん、何の意味もなく「都市伝説」というモチーフを使っているわけではない。人間同士の会話やSNSでのやりとりを通じて噂が生まれたり、事実が変異していったり……といった「都市伝説」ならではのテーマもしっかり取り込んでいる。
「都市伝説」のポイントは何か……と言えば、人から人へ情報が伝わる中で情報が変異していくこと。たとえば先に挙げた「ベッドの下の男」なら、男の持っている凶器が包丁だったり鎌だったり斧だったりといったバリエーションがあるし、男が隠れている場所もベッドではなくクローゼットだったり押し入れだったり……といったバリエーションが存在している。話にこうした差があるのは、人から人へ都市伝説が伝わる中で、情報が変異していったから。
情報が変異することそのものは「都市伝説」であれば当たり前のこと。だが、情報の変異は「都市伝説」だけに限った話じゃない。我々は不確かな情報を目にしながら、その不確かな情報を時に信じ、時に「これは嘘だ」「こいつは悪人だ」と断罪しながら生きているのだ。
……そんな、情報自体が持つ危うさを、本日は「都市伝説」×ミステリーとしての中核に持っている。だから、単純におもしろいだけでなく、読み応えがあるのだ。
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『逆転裁判』を進歩・洗練させたモダンなゲームシステム
次に、本作のゲームシステムについて見て行きたい。本作のゲームシステムは、一見すると、ごく一般的なテキストアドベンチャーゲームに思える。しかしじっくり構成要素を見ると、『逆転裁判』を進歩・洗練させたものであることに気づく。
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本作は、事件に関係する場所やSNSなどで情報収集を行った上で、事件の謎に対して正解となる情報を答えることで進行していく。この流れ自体は、本作を開発したインディデベロッパー「墓場文庫」が手掛けた「和階堂真の事件簿」シリーズを踏襲している。……と同時に、『逆転裁判』の延長線上にあるといえるだろう。
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▲画像は『和階堂真の事件簿 処刑人の楔』iOS版
そもそもテキストアドベンチャーゲームは、一言で言えば「情報を集めて、正解を答える」ゲームだ。最初期のテキストアドベンチャーゲームは、正しいコマンドをキーボードから入力することで物語を進行した。その後、正しいコマンドを選択することで物語が進行するようになり、さらには画面内の正しい場所をクリックすることで物語が進行するクリック&ポイント型アドベンチャーゲームへと派生していった。
ただ、いずれのかたちであっても「情報を集めて、正解を答える」という基本は変わらない。もちろん、『逆転裁判』も。だが、『逆転裁判』は「正解を答える」という部分に画期的な試みを行った。それは、「正解を答える」という行為に裁判での逆転劇を絡めるということ。
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▲画像は『逆転裁判6』iOS版
『逆転裁判』の基本的な展開は、主人公サイドが裁判でピンチに陥るというもの。敵の検事はドヤ顔で勝ち誇り、真犯人は逃げ切り確実な状況に悪どい笑みを浮かべる。
だがそんなピンチも、真犯人の矛盾を正しく指摘し、正しい証拠品を提出することで一変! 焦燥感から冷や汗をかく検事に、追い詰められたイライラから奇行をはたらく真犯人。『逆転裁判』はこの絶妙な演出によって、「正解すれば物語が進行する」というそれまでのテキストアドベンチャーとは段違いの爽快感・達成感を生み出したのだ。
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▲画像は『逆転裁判6』iOS版
では本作ではどうか。本作では、「都市伝説」の「特定」と「解体」というパートに『逆転裁判』の影響が見てとれる。
「特定」パートでは、正しい答えを選ぶ毎に塔がそびえ立ち、すべての問いに正解すると、怪異の名前がビジュアルつきで告げられる。これがカッコいい。それまでは単なる「奇妙な事件」だったものが、この演出によって一気に「現実化した都市伝説」へ変化するのだ。
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そして「解体パート」では、「天眼錠(アイ・オープナー)」と呼ばれる錠前が出現。問いへ正解するごとに錠前が回って開眼していき、4つすべて開眼すると、本作の探偵役と言える都市伝説解体センターのセンター長・廻屋渉が独特な手印を決め、「天眼錠」をバラバラに解体する。都市伝説の解体が、ビジュアル的に表現されているわけだ。
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本作の流れは「和階堂真の事件簿」シリーズを踏襲していると書いたが、こうしたビジュアル演出については同シリーズから圧倒的に進化しており、段違いの爽快感・達成感を持っている。筆者はNintendo Switchの携帯モードで本作をプレイしていたが、都市伝説を解体する際には、一旦本体を置いて、廻屋渉とともに「解体!」とポーズを決めていた。なりきってポーズを決めたくなるくらい、けれん味があってカッコいいのだ。
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また、ビジュアル表現という点では、ドラマ・映画的な絵作りという点も見逃せない。従来までのテキストアドベンチャーゲームでは、背景を描いたイラストに「立ち絵」と呼ばれるキャラクターイラストを重ねることで情景を表現することが多かった。「背景×立ち絵」で表現できないシーンについては「スチル」と呼ばれる一枚絵を使うが、ゲームに許されるデータ容量や予算の都合上、用意できる「スチル」には限りがある。
こうした状況からテキストアドベンチャーゲームは、「紙芝居ゲーム」などと揶揄されることもあった。
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▲画像は『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』
しかし昨年レビューした、『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』では、「背景×立ち絵」「スチル」という形式に収まらない多彩な表現によって、まるでドラマや映画のようなビジュアルを実現していた。
そして、本作もまた、多彩な表現によってドラマ・映画的ビジュアルを実現している。探索シーンこそサイドビューで統一されているが、それ以外のビジュアルは構図、見せ方、アニメーションまですべてが凝っており、プレイしていて飽きることがない。
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アドベンチャーゲームを解体・魅力を特定し再構築した一作! クリエイターの次回作にも期待
最後にキャラクターについても言及しておく必要があるだろう。主人公である福来あざみ、主人公とバディを組むことになるジャスミン、探偵役である廻屋渉……といったキャラクターは全員が際立った個性を持っていると同時に、シナリオ上の役回りがしっかり描き分けられている。
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福来あざみは都市伝説の知識には乏しくちょっと抜けた部分があるものの、素直で誰もが感情移入しやすく、まさに主人公に相応しい。一方ジャスミンは現実的に物事を捉えるタイプで、やはり都市伝説に詳しいわけではないが、調査に関する能力は高いキャラクター。まずこの2人が「ちょっと抜けているが素直←→現実的」というかたちで対立しているため、必然的に凸凹したセリフの掛け合いが発生し、作品にコミカルさを与えている。
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また、廻屋渉は、都市伝説に関する圧倒的な知識を持つ反面、自分の目的のためには他人のことを気にしない……という変人的性格で、まさに探偵役としてうってつけ。変人的性格の廻屋渉、それに振り回される主人公、ツッコミ役のジャスミン……というかたちで明確に立ち位置が分かれているため、3人でのセリフのやりとりも非常におもしろいものになっている。
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こうしたキャラクターの魅力についても、間違いなく「和階堂真の事件簿」シリーズより進化している部分だろう。しかし、「和階堂真の事件簿」シリーズもまた、テキストアドベンチャーゲームとして完成された作品だと思う。
ただ「和階堂真の事件簿」シリーズは、火曜サスペンス劇場的な、昭和のサスペンスの再現を目指している部分があった。このため、キャラクターの見せ方、ビジュアル表現、正解時の演出……などのすべての面で「昭和サスペンスの再現」という制約を受けてしまう。たとえば、仮に正解時の演出をド派手に強化したなら、火曜サスペンス劇場テイストは即座に消え失せてしまうことだろう。
この点を踏まえると、本作『都市伝説解体センター』がここまでおもしろくなったのは、おもしろいテキストアドベンチャーゲームを作るために、キャラクターもゲームシステムも、一から考え直したからと言える。
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ここまで書いてきた通り、本作の構成要素は『逆転裁判』や『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』「和階堂真の事件簿」シリーズといった作品の影響が見て取れる。しかし、決して無批判に踏襲したわけではないに違いない。これらの作品、そしてそのほかの無数のテキストアドベンチャーゲームが持っている要素を一旦「解体」し、どのような要素が魅力に繋がるのか「特定」、その上で再構築することで、『都市伝説解体センター』へと結実させたのだろう。
本作のクリエイターが放つ次回作も、今から楽しみではならない。
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(文/田中一広)
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)
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