名古屋市立大学「光技術研究拠点」始動 難治性皮膚疾患・がん・認知症治療、植物成長制御にも光が有効か_光が持つ無限大の可能性とは
名古屋市立大学 大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学分野 森田明理教授による「未来医療の鍵を握る光技術:新たな治療法と応用範囲の拡大」と題した講演で、“光技術”のトレンドがみえてきた。
1月17日に名古屋市内で開かれたセミナーでは、乾癬などへの光線療法の実績を多数持つ森田教授が光の持つ可能性と将来性を語った。
2024年11月に新設した「光技術研究拠点」は光の波長特性を活かした難治性皮膚疾患の治療技術開発や光を自由自在に扱う技術の開発などの研究を推進するとともに、若手研究者の育成も進め、「光技術の基盤技術を応用し、光医学・光生物学・化学分野で国内外トップクラスの拠点めざす」という。
円形脱毛症やアトピー性皮膚炎など皮膚疾患に「光」が効果発揮
1975年、日本で初めて薬剤ソラレンと長波長の紫外線(UVA)を組み合わせた治療法 PUVA を開始するなど皮膚疾患の治療をリードしてきた名古屋市立大学。
その歴史を引き継ぐ森田教授は乾癬や尋常性白斑などの治療機器を開発し、2011年、澁谷工業と共同で世界初の平面発光タイプのターゲット型ナローバンドUVB治療器(TARNAB)を開発、2021年、ウシオ電機とともに深紫外LEDを用いた紫外線治療器セラビームUVA1、2022年には「セラビーム UV308 mini LED」など、さまざまなデバイスを開発してきた。
紫外線を活用した機器は尋常性白斑、乾癬、円形脱毛症といった皮膚疾患を持つ患者への治療に力を発揮している。
今後は、在宅光線療法が可能な小型機器開発のほか、皮膚がん向けの光線療法機器開発や「フォトフォレーシス(体外循環式光化学療法)」と呼ばれる血液の白血球に光をあて、制御性T細胞を誘導する機器開発などをめざしていくという。
その他にもアトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症などのの治療においても「光」は有効で、ステロイドの量を減らすことができたり、紫外線の作用により寛解の時間が長くなったりするという。
認知症にも好影響?
森田教授はある時、強いかゆみのある結節性痒疹を患った男性患者を診た。手足やわき腹の湿疹に悩んでいた患者をナローバンドUVBを用いて治療。
あおむけとうつぶせで計8分間紫外線照射を週一回受け続けると、皮膚の状態が徐々に改善されると同時に、認知症の薬の服用の必要がなくなったという。
「光による効果と裏付けがあるわけではないが、紫外線は皮膚の免疫を維持するだけでなく、私たちを活動的にする力をもっているのではないかと考えている」。
超高齢社会を迎えた日本で、がんや皮膚疾患にとどまることなく、「高齢者医療を支えることにもつながればうれしい」と話した。
「青い悪魔」の繁殖抑制
光技術研究拠点は医学だけにとどまらない。
日本各地の池や川で過剰繁殖している外来植物「ホテイアオイ」の繁殖抑制にも「光」を活かしたい考えだ。
すでに研究は進んでいるが、「青い悪魔」とも呼ばれるホテイアオイの駆除には多大な時間や労力がかかる。
この状況の改善にも光が役立つと考えており、拠点で研究を進めたい考え。
ほかにも、すでにスタートしている研究の中には、光を自由自在に扱う技術の開発なども含まれている。
理学・工学など「光に関わるありとあらゆる生命現象を研究・利用し、革新的な光技術の基盤を整備し、国際的な研究拠点にしたい」とした。
「光」の可能性
今回の講演から見えてきたのは、身の回りに存在する光の持つ無限大の可能性だ。
いっぽうで、可能性をつぶさないためにも、さまざまな企業・団体の協力も不可欠だと考えられる。
「国内外でトップレベルの光の研究拠点にする」―――森田教授が力強く語った言葉を信じれば、研究が進み、身近な諸課題を「光」が解決する未来もそう遠くないか。
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