【青森県青森市】短くて熱い夏、ねぶた祭りへ初めて訪れる
日本中では目まぐるしく、日々いろんなイベントがひらかれている。「そんな日本には、どのような土地があるのだろう」と、写真家として活動している私(仁科勝介)は、“平成の大合併”時に残っていた、旧市町村をすべて巡る旅に出た。その数は2000を超える。
今回、地域や自治体、企業の取り組み、新商品などの情報を発信するニュースサイト「ストレートプレス」で、それらを紹介する機会をいただいたので、写真を添えて連載をスタートした。
「ストレートプレス」内に登場するローカルな市町村と、関係があるかもしれない。
今回は、青森県青森市を写真とともに紹介する。
Vol.385/青森県青森市
前日に長岡花火を訪れて、青森市に戻ってきた。カブではなく自費の新幹線移動で、ルートは大宮駅経由になる。特に新青森駅まで向かう新幹線はすべて指定席で、数日前にかろうじて予約することができたのだった。大宮駅に降り立つと、長岡花火の2日目を見に行く群衆と、青森各地でひらかれている夏祭りを見に行く群衆が、同じプラットフォームを分かち合っており、プチお祭り状態だった。
どれだけ日本を巡っても、ぼくには圧倒的に経験値が足りない。「ねぶた祭り」も見たことがなかった。旅人の端くれのぼくにとって、ねぶたには“聖地”のイメージがある。市民でなくても、「はねと」という踊り手として祭りにも参加できるし、行政の厚意によるキャンプ場もあるので、全国で出会った旅人同士が、ねぶた祭りで再会することも多い。そういう旅人の話をたくさん聞いてきた。ただ、ぼくはテントを装備していないし、ねぶた祭りを一度も見たことがないのだから、新参者の観光客として訪れることにした。
夕方の青森市は、ひとことで表すなら「嵐の前の静けさ」で、祭り衣装を身に纏う人たちは、夜の訪れをじっと待っていた。練習なのであろう、どこかのチームから「ラッセラー」の声が響いたり、太鼓の試し打ちが聞こえたりすると、その周辺全体がビビビッと反応するように見えた。祭りがはじまりやしないかって。いやいや、まだ空は明るい。まだ、まだまだ、じっと…。
祭りの始まりは19時で、青森市の日の入りは18時51分だった。お天道様がねぶたの時刻に合わせたのか空はみるみる薄暗くなり、昼から夜へと移り変わる黄昏時に、ねぶたの列が整った。空には淡い赤色の夕焼けが広がっていたが、ほとんどの人は、空よりもっと明るくなった存在を見つめていた。光輝く美しいねぶたを。
19時00分、「パァン!!」と、空の彼方から、号砲が鳴った。誰もが合図だと一瞬でわかった。その瞬間、どっと歓声が湧き上がり、そして、間髪入れず。
「ドドンド、ドンドンドンッ!!」
寸分の狂いもない、太鼓と笛と手振り鉦(てぶりがね)のお囃子が、祭りのギアを一気に上げた。
「ラッセラァー、ラッセラァァー!!」
「ラッセェーラッセェ、ラッセェラァァー!!」
ねぶた祭りの掛け声である「ラッセラー」は、“ラ”と“セ”の、たった二音しか使わない。この二音が、ねぶた祭りの熱さを表現しきるのだ。なんて簡素で、つよく、うつくしい日本語だろう。
「盛り上がってますかぁ!!いいですか、みなさん!!青森の夏は、短いんです!!」
はねとを導くリーダーが、観客にも聞こえる話術で盛り上げる。
今日見た展示にも、このようなことが書いてあった。
“北国の短い夏、魂を熱く燃やし、燃え尽きるまで祭りに酔いしれる”
まさに、それを表す青森の夏が、目の前にあった。
かつて見たねぶたの山車は、展示中の動かないねぶただった。そして、その山車はちょっと冬眠している状態だったのだと、つくづく思わされた。曳き手たちが、夜にねぶたを曳くからこそ良いんだ。この感覚は、直接見ないと、わからないのかもしれない。もしくは、そうやって、わかったふりをしているだけなのかもしれない。ただとにかく、生で見るねぶたの山車は、生きているようだった。目の前に近づくと迫力が増して嬉しいし、笛の合図でぐるりと一回転すると、いっそう煌びやかだった。拍手が沸き起こった。前から見ても後ろから見ても綺麗だった。遠目で見ても風情があった。
ねぶた祭りは毎年8月2日から8月7日に開催される。にい、さん、しーと数えると、合わせて6日間ある。ほぼ一週間だし、いろいろな準備もあるだろうから、想像以上にロングランなのかもしれない。
しかし。2日目だったこの日に感じたエネルギーは、もう見ているだけで、「声ガラガラになるでぇ」「二の腕が腱鞘炎なるでぇ」「ふくらはぎパンパンなるでぇ」と、はねともお囃子も曳き手も、全力の全力だった。そして、その姿は揃ってカッコよくて、肌に艶があって、目に輝きがあった。とても羨ましかった。沿道で幼稚園ぐらいの子どもたちが、太鼓を叩くそぶりをしたり、ラッセラーと唄ったり、憧れの眼差しをいだいていた。やがて大きくなったら、きっとあの群衆の中心にいるのだろう。ここに来れて、ありがたい機会だったなあと、心から思う。
この一度きりの短い命を、ねぶたよろしく、熱く燃やそうじゃないか。
(仁科勝介)
仁科勝介(Katsusuke Nishina にしなかつすけ)/かつお
写真家として活動。1996年、岡山県倉敷市生まれ。広島大学在学中に、日本の全1741の市町村を巡る。
『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)、『環遊日本摩托車日記(翻訳|邱香凝氏)』(日出出版)をはじめ、2022年には『どこで暮らしても』(自費出版)を刊行。
旧市町村一周の旅『ふるさとの手帖』:https://katsuo247.jp
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