フィンランド独自の「人生観を育む授業」から見えてくる、自分らしく幸せに生きるヒント
北欧のフィンランドは、「世界幸福度報告書」で7年連続1位に輝いたほど幸福度が高いことでも知られる国。その理由には、社会保障制度や教育、子育支援が充実していることなどが挙げられるようです。そんなフィンランドの学校教育とはどのようなもので、日本とどのように違うのでしょうか。それを詳しく知ることができるのが、ヘルシンキ大学非常勤教授の岩竹美加子さんが著した『フィンランドの高校生が学んでいる人生を変える教養』です。
フィンランドの学校で独特なもののひとつが、「人生観の知識」という科目があること。宗教の代わりとなる科目として小学校から高校まで選択することができ、心理学、社会学、政治学、哲学など、さまざまな分野を横断しながら、「生徒は全体像をつかみ、現象の間の繋がりを理解し、幅広く批判的な思考を発展させていく」(同書より)ことができるそうです。「日本で言うところの道徳の授業のようなものかな?」と想像する人もいるかもしれませんが、岩竹さんによると「日本の道徳よりもはるかに深く広い。また、目指すものも高い」(同書より)といいます。
では具体的にどのような授業がおこなわれているのでしょうか。同書の第2章「視点と行動を変える 人生観の知識という科目」では、2022年11月に岩竹さんがヘルシンキ近郊のヤルヴェンパー市の高校を見学したときの様子が詳細に記されています。「人生観の知識」で学ぶのは、「私とアイデンティティ」「人生の選択」「良い人生」「批判的思考」などのテーマで、どれも対話を重視しながら多元的な視点をもたらす内容になっているのが特徴です。
たとえばアイデンティティについてのパートを見てみると、「自分自身であることは、ジェンダーとセクシュアリティ抜きには語れない」(同書より)として、ジェンダーとセクシュアリティの重要性を説く箇所も。ごく自然なものとしてこうした話が展開されるのは、ジェンダー平等の先進国とされるフィンランドらしいと言えるかもしれません。
また、人生の選択についての章では「人生は偶然にも左右される」という教えがあるのも印象的です。現実にはさまざまな不平等や不公平がありますが、それに飲み込まれないためには「影響を与えられることと与えられないこと、コントロールできることとできないことを分けて考えるのが良い」と語られます。こうした考え方を高校生のころに養うのは、自身や社会への無力感を生み出さないためにも必要かもしれません。
これらの授業を通じて「幅広く知り、考え、選択して生きていくことを励まして、高校生を勇気づけていることに感銘を受ける」(同書より)と岩竹さんは記します。
全体を通してフィンランドの教育の良い面について語られている同書。それは「幸い息子は、フィンランドで教育を受けることができた。私はそれを息子への最高のプレゼントと思っている」(同書より)と岩竹さんが考えるほどであり、いっぽうで日本の学校教育に対してはかなり批判的に記されています。
とはいえ、他の国でおこなわれている授業や教科書をここまで深掘りして見られる機会はなかなかないもの。「人生観の知識」の内容は、高校生のみならず大人の私たちにとっても人生のヒントとなる部分は多いのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]
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