実在の心霊スポットをめぐる韓国ホラー『ヌルボムガーデン』監督インタビュー 「どんな一面が隠されているのか、想像を膨らませた」[ホラー通信]

その美しい庭のある邸宅で、いったい何が起きたのか? 韓国の三大心霊スポットのひとつを題材にしたホラー映画『ヌルボムガーデン』が公開中。本作を手掛けたク・テジン監督のインタビューをご紹介する。

照明や撮影チームなどで経験を積んだのち、『女神の継承』『チェイサー』などでプロデューサーを務め、本作で長編監督デビューを飾ったク・テジン監督は、そのキャリアについて「ずっと演出をやりたくて、監督になるための準備をしていた」と振り返る。

そして、デビュー作の題材に選んだのは忠清北道堤川市に実在し、レストラン経営者の一家に不幸が襲いかかったという“ヌルボムガーデン”だった。監督はその美しい名前の響きに惹かれたという。

「韓国語で“常に春である”という意味を持つ庭で、そのような名前を持った空間がどうしてこんなことになってしまったんだろうという皮肉を感じました。その中にはどんな物語が、登場人物たちのどんな一面が隠されているのか……と想像を膨らませるところから始めました」

『ヌルボムガーデン』場面写真

幸せな結婚生活を送っていた妊娠中のソヒは、愛する夫が自ら命を絶つという突然の不幸に見舞われ、ショックのあまり流産してしまう。自殺の理由も分からないままだったが、生前の夫が彼女のために密かに購入していた郊外の邸宅の存在を知らされ、そこに移り住むことにする。新たな生活を送り始めたソヒは、ある日この邸宅で夫の霊を目撃。なんとか自殺の理由を突き止めようとするうち、この場所をめぐる奇怪な現象に巻き込まれていく。

ソヒを演じるのはホラー映画初出演のチョ・ユニ(『LUCK-KEY ラッキー』)。テジン監督が彼女に参考作品として提示したのは、自身のフェイバリット作品のひとつだ。

「チョ・ユニさんには、参考のためにアリ・アスター監督の『ヘレディタリー 継承』を観てもらいました。彼女には、“内面の恐怖”を表現してほしかった。大きな物語の中にいる登場人物ですから、どういうところでショックを受けたのか、何に対して驚いているのか、なぜソヒが変化していったのか……というのを明確に演じてほしいと思っていたので、この作品を参考にしてもらったんです。ソヒに幽霊が取り憑く場面がありますが、取り憑かれた時に何をポイントにして演じたらいいのか、“憑依”というものに対してどんな表現をしてほしいのかの参考にもなると思ったのです」

超現実的なホラー映画が好みだというテジン監督は、念願の初監督作となった本作で、心霊現象から“血”の描写まで、様々な恐怖表現を盛り込んだ。

「この作品を作るにあたって、恐怖の度合いを考えてみたんです。観客にどれくらい怖いと思ってもらえるかということを考えました。例えば、最初に出てくる草むらの中に隠れている幽霊はホログラムのようにも見えるし、あるいは心霊写真のようにも見えます。実際は存在していないけれど見えてしまった……そんな設定で、そのくらいのレベルでの恐怖を描いたものです。

その後、映画の中盤あたりで出てくる恐怖は主にソヒが見る夢がベースとなっています。ソヒが抱えている以前の自分の家族のトラウマだったり、夫を亡くしたことによって抱えてしまったトラウマなどを、ソヒの夢を通じて描いていきました。

映画の後半でソヒは家出をしていた少年少女たちと出会いますが、あのあたりでは、リアルさからくる恐怖というものを描いています。多少誇張されている感じがあったとしても、後半では強烈なイメージで恐怖を見せたいと思いました。私自身、全体的に静的なものよりも動的なもの、静かなものよりも動いているものの方が好きだという自分の好みもあって、全体的に動きのある恐怖を表現しています」

本作で脚本も手掛けたテジン監督は、“隠された一面”をキーに、この地にまつわる物語について想像を膨らませていった。夫の自殺の原因を探るソヒは、この場所でかつて起こった、人間の業が渦巻く事件の存在を知ることになる。

「ストーリーでこだわったのは、登場人物たちの誰もが加害者でもあり、同時に被害者でもあるということです。ある若者が過ちを犯すわけですが、そもそもなぜそんな過ちを犯してしまったのか元をたどっていくと、家庭の問題があったからです。それをさらに掘り下げていくと、やはり社会にも問題があったから、ということになる。

だから、どうしても悪を悪として断定することができない……という思いでシナリオを書いていました。そんな風に書いていたところ、ドラマ的な要素がかなり強くなっていって、そこにミステリーを加えたという流れになっています。それによりホラー性は少し弱くなったかもしれないですが、テーマに合わせてミステリーの要素とドラマの要素を加えていきました」

[注意]以降は、物語の展開と結末の具体的な解釈に触れています。作品の鑑賞後にお読みください。

「この映画の中には、家庭や家が崩壊してしまったという描写が随所に出てきます。例えば、家出をしている若者たちも、その家庭が崩壊しているから家出をしてしまった訳ですよね。そういう子たちの集団を効果的に見せるために、ミステリー的な要素を付け加えることにしました。

ソヒも家族が欲しいと望んでいて、すでに死んでいるヒョンジュも家族が欲しいと願っていました。ソヒもヒョンジュと同じような気持ちだったので、後にヒョンジュと出会って、ヒョンジュの気持ちに寄り添って共感することができたんだと思います。そして、ソヒはそのことによって自我を見つけることができた訳です。自我を見つけることが出来たソヒは、やがて、ヒョンジュのことも理解し赦すこともできました。

ここから先は映画の中では描かれていませんが、ソヒはそのあと、自分に対しても自分を赦すことができ、自分自身とも和解ができたんですね。これは私が考えていた彼女の内面についての描写です。ただ、この作品はホラー映画なので、こういった内面の部分は直接的には出さずに、ホラーやミステリーの要素を強く押し出しています」

『ヌルボムガーデン』公開中

  1. HOME
  2. 映画
  3. 実在の心霊スポットをめぐる韓国ホラー『ヌルボムガーデン』監督インタビュー 「どんな一面が隠されているのか、想像を膨らませた」[ホラー通信]

レイナス

おもにホラー通信(horror2.jp)で洋画ホラーの記事ばかり書いています。好きな食べ物はラーメンと角煮、好きな怪人はガマボイラーです。

TwitterID: _reinus

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

記事ランキング