推し埴輪が見つかる、スター埴輪たち大集合の展示(辛酸なめ子)
埴輪(はにわ)というとゆるくてかわいい、というイメージがありましたが、特別展「はにわ」に行くと印象が変わるかもしれません。
武装した埴輪、国宝「埴輪 挂甲の武人」が国宝に指定されてから50周年を迎えることを記念し、開催された今回の展示。東京国立博物館では約半世紀ぶりに開催される埴輪展だそうです。3世紀から6世紀までの古墳時代に作られた、珠玉の埴輪たちが集結します。
会場に入ってすぐ現れるのが「埴輪 踊る人々」。脱力系タッチの有名な埴輪で、埴輪人気に貢献している二体です。大がかりな修復を終えたあとの初お披露目だそうですが、解体、復元という大手術を乗り越えたとは思えない、安らぎの波動を放っています。
埴輪は人体をかたどったものばかりではありません。日本最大の埴輪とされるのは「円筒埴輪」です。大王を守る盾の形の「盾形埴輪」、「鞍形埴輪」「船形埴輪」「家形埴輪」など渋い埴輪もありました。
「家形埴輪」は当時の理想の住宅を再現したものかもしれません。屋根に厚みがあって重厚感があります。これらは王の墓に副葬品として入れられて、王の死後を守るとともに、権威を示しました。大王を弔う女性たちをかたどった「埴輪 捧げものをする女子」は、従順そうな同じ顔の埴輪が多数作られていて、まさに量産型女子の元祖です。
「水鳥形埴輪」「馬形埴輪」「犬形埴輪」「猪形埴輪」「牛形埴輪」「鹿形埴輪」など、動物の形象埴輪はかわいいです。日本人のキャラクター作りの才能が発揮。当時の人間との動物の交流の様子が伝わりますが……「猫形埴輪」がないのが残念です。当時はまだ猫がいなかったのでしょうか。
今回の展示の目玉の埴輪といえば、埴輪として初めて国宝に指定された「挂甲(けいこう)の武人」。群馬県の古墳から出てきた武人埴輪が5人、一堂に会しました。戦隊ものの元祖のような存在感。古墳時代中期(5世紀)には、古墳副葬品に、武器や武具が増えてきて、渡来人の影響を感じさせます。「挂甲の武人」は顔立ちが素朴ですが、よく見ると全身武装しています。鎧や兜を身に付け、手には殺傷能力が高そうな武器を持っています。
5体揃った「挂甲の武人」たちが並ぶ姿を見ていると、武力で制圧されそうな恐怖を感じました。情が薄そうなクールな無表情で襲ってきそうです。ゆるいと見せかけて油断させる、埴輪の底知れなさを感じました。もしかしたり大陸から攻め込んできて、日本を武力で制圧した集団かもしれない、と思えてきます。
いったん埴輪が怖いと思ったら、他の埴輪も不穏に見えてきます。笑っている埴輪もいくつか展示されていました。「埴輪 盾持人」シリーズは、笑顔で魔を祓っている埴輪たち。でもよく見ると笑顔が不気味だったり、顔中に刺青が入っていたり……。攻撃的な笑顔に感じられてきます。
様々なポーズをしている埴輪たちも展示されていました。両手をついてお辞儀する「埴輪 ひざまずく男子」たち。当時の厳格な身分差を表しているようです。「埴輪 あぐらの男子」「埴輪 正座の女子」は両手を前で合わせてお辞儀していて、大陸の影響が表れていました。
埴輪は350年くらい作られていましたが、現代のカルチャーでもそんなに長年続くものがあるとは思えません。でも、ブームにもいつか終わりがきて、飛鳥時代になると前方後円墳の消滅とともに埴輪は作られなくなりました。江戸時代に入ると考古遺物への関心が高まり、埴輪が再注目。そして現代にいたるまで、何度も埴輪ブームが起こり、今も根強い人気を保っています。
今回の展示も会期中かなり混雑していて、「挂甲の武人」など推し埴輪の魅力にハマっている人も多そうです。ゆるい見た目と、目の奥の空洞に潜む闇のギャップが埴輪のチャームポイントです。
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
会期:2024年10月16日(水)~12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
開館時間:9時30分~17時00分
※毎週金・土曜日は20時00分まで開館
※入館は閉館の30分前まで
観覧料金:一般 2,100円(一般前売1,900円)、大学生 1,300円(大学生前売1,100円)、高校生 900円(高校生前売700円)
(執筆者: 辛酸なめ子)
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