『ココでのはなし』こささりょうま監督インタビュー「セリフ一つ一つに真剣に向き合っているからこそ」俳優・吉行和子の姿勢に感激
ワルシャワ国際映画祭でのワールドプレミア上映を皮切りに、インディ映画では異例となる10以上の海外の映画祭で上映され、市井の人々への温かい眼差しと美しい映像で世界中で高い評価を得た映画『ココでのはなし』がシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開中です。
【STORY】ここは、人生の休憩場所。 2021 年東京オリンピック開催直後、都会の喧騒に佇むゲストハウス「ココ」。住み込みでアルバイトとして働く詩子は、元旅人でオーナーの博文と SNS にハマりライフハック動画を配信する泉さんと共に、慎ましくも満ち足りた生活を送っている。ココにやってくるのは、バイト先が潰れてしまい目標 もなく、くすぶる存や、声優の夢を諦め就職しようとするも、両親から帰国を促されている中国人のシャオルーなど、悩みを抱える若者たち。そして笑 顔でお客さんを迎える詩子にも、わけあって田舎を飛び出してきた過去があった…。 「休憩が大事。考えながら休んでいいのよ」ココでの生活が、日々に疲れてしまっている人々の心を少しずつ解きほぐしていく。
本作の監督と共同脚本を手がけられたこささりょうまさんにお話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見いたしました。つい日々をバタバタ過ごしがちなのでとてもゆったりとした気持ちにさせていただきました。監督はもっと世の中にゆっくりした時間があった方が良いなと感じられていたのですか?
ありがとうございます。僕自身も結構日々焦っちゃったりすることもあって。大事だったことを忘れて過ごしている瞬間もあるのかもしれない、そういう人たちが多いのかなと思っていて。本作は、コロナ禍の緊急事態宣言中に何も出来なかった、作品づくりために何も動けなかったことが着想になっています。あの時期は元々あった生活が失くなってしまってすごく焦ったし辛かったけれど、自分の生活を考える機会だったとも思うんですね。
――確かにコロナ禍の期間って大変だったんですけど、逆に自分が大事にしているものが浮かび上がってきた様な、そんな感覚がありました。
まさにそうですよね。多分、僕には休憩が1番必要だったんだと思います。「忙しいことが美徳」じゃないけど、忙しく働いている方が充実しているという感覚は自己暗示としてあったような気がしています。深呼吸する時間が必要だったのだなと、個人の経験で感じました。
脚本づくりが始まったのは2020年で、撮影が2021年の11月にスタートしているのですが、僕がクランクイン2ヶ月前にコロナに罹患して重症化して入院をしていて。100人規模のオーディションなど映画づくりに関わることも飛ばしちゃったりとかして。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったのですが、その時に焦っちゃいけない映画を撮ろうとしているのにまた焦っていた自分に気付いて。映画を作る上で、たくさんのことに忙殺されていくと、もちろん充実度はすごく高かったのですが、入院で無理やりストップしたことで、改めて描きたかったことを思い出せたので、重要な時間だったと思っています。
――とても大変なお辛い経験だったと思うのですが、そうやって軸に立ち帰れたということは素晴らしいですね。2021年に撮影していたということも驚きました。
そうなんです。東京オリンピック、パラリンピックが終わった直後の11月を描いているのですが、本当にリアルタイムで撮っていて。最近ふと思ったのが、その時に撮った映画がパリオリンピック、パラリンピックが終わった11月に公開されるというのも時の流れを感じますね。当時は無観客だったんだよなあと、今年もパリオリンピック、パラリンピックを見て感慨深い気持ちになっていました。有観客っていいよね、という意味でも今年の夏は競技中継を見ることが楽しみでしたね。
――ちょうど4年ほどの時間が経っているわけですものね。編集などに一番時間をかけられたのでしょうか?
編集にはじっくり時間をかけました。音の面ですが、日本の良さって四季があることだと思っているので、その時にしか録れない音を待っている時間もありました。例えば同じ海の音でも冬と夏の音では違ったりするので、録りたい音がくるタイミングを待っていたり。
あとは海外の映画祭に1年間ずっとチャレンジをしていたので、ある程度区切りがついたタイミングで公開を決めたいなと思っていました。
――四季の移り変わりを待つというのはとても素敵な作り方ですね。海外での評価についてはどう受け止められていますか?
この映画ってコロナの時期を記録している映画ではあるものの、コロナの要素自体はそんなに無いんですよね。コロナで閑散としたゲストハウスというところから始まってはいますが、実はコロナじゃないところのコミュニケーションの部分だったりと、もっと遠い距離感での気持ちの揺れ動きがテーマになっています。海外に住む方がよりそこにすごく親和性を感じてくれているというか。
ワルシャワ国際映画祭に行った時に、1番最初挨拶で、「これはコロナをテーマにした映画なんです」という風に話したのですが、皆さんあまりピントきていなくて。世界ではコロナ以外にももっと身近で深刻な問題があったからなのだと思います。ポーランドはウクライナの隣にあるので難民を支援していますし、身近にコロナとは異なる悩みが生まれている国々にたまたま選んでいただいたというか。
1番たくさん賞をいただいたアンタキヤ国際映画祭ですが、トルコの中でも一番地震の被害がすごかった所で。映画祭自体も仮設テントで上映が行われたり。皆さんとお話する中で、本作はコロナではない、人間の立ち止まり方を描いた映画なのかなと思いました。ただ悲観して立ち止まっているのか、深呼吸をするために足を止めているだけなのか。その立ち止まり方を興味深く観てくださった方が多かったです。
――元々海外の映画祭に出品しようと思ったことはどんなきっかけからなのですか?
僕自身がバックパッカーをやっていて、その時に海外の人と知り合って自分の作品を観せてもあまりピンと来ないんですよ。映像綺麗だねっていう感想しか出てこないというか。だったら映画として一本作って、字幕もきちんとつけたら他の国の方にも読み解けるんじゃないかなと思いました。海外にいる友達に何かを届けたいという気持ちでチャレンジしました。
――主演の山本奈衣瑠さんはどの様な想いでのキャスティングだったのですか?
この感覚を言語化するのが難しかったりするのですが、山本さんは今まさに生きている日本人なんですよね。本作では特に海外の映画祭にチャレンジしたいと思っていたから、海外の人から見える日本人というのすごく大事にしていたんですけど、海外の作品で描かれている日本人って、日本人の我々からするとちょっとギャップを感じてしまう瞬間ってあるような気がするんです。でもそのギャップを感じさせない強さが山本さんにはあるんじゃないかなって思っていて。日本人のアイデンティティをしっかり感じるし、シンプルに海外の人にそのことが届きやすい雰囲気を持ってらっしゃる人なのかなと感じています。
――詩子の雰囲気にピッタリで本当に素敵でした。吉行和子さんが出演されているのも、映画好きとしてはたまりませんね。
大ファンです。脚本を読んでくれるなんて思っていなかったんですけど、しっかりと脚本を読んで決めていただいたんです。僕は山田洋次監督が大好きで、山田組の方々とお仕事をするためにこの業界にいると言っても過言ではないぐらいなのですが、泉さん役はぜひ吉行さんにお願いしたいなと思っていました。読んでくださったことだけでも嬉しいのに、気に入って、出演も決めていただいたということは本当に光栄なことです。
すごく真摯に現場に向き合ってくださる方で、自分で衣装を提案してくれたりとか。白髪の数や、ここにヘアピンをつけたらいいんじゃない?といったアイデアをくれて。現場にあたたかく愛情を持ってくださったので、コロナ禍ではあったので気を配りながらも出来る限り近くに行って、「泉さんこれどう思います?」という感じで、家族の方と話すくらいの距離感を持ちたいなと思っていました。吉行さんもそんな僕にまっすぐ向き合ってくださいましたし、本当に充実した時間でした。
――素晴らしい時間だったのですね。それがスクリーンから滲み出ていました。
吉行さんから、脚本で1つだけ変更して欲しいという要望があったのですが、それが泉さんの年齢についてでした。元々70歳の設定だったのを、80歳に変えて欲しいと言われたんです。撮影前に改めてお会いしたら「年齢変えちゃってごめんなさいね」と言ってくださったのですが、「私、このセリフ言うのに80年かかったのよね。80歳じゃないとこのセリフは言えないと思った」ということをおっしゃっていて、こうやって脚本のセリフ一つ一つに真剣に向き合っているからこそ、たくさんの人に感動を与えることが出来るんだろうなと感じて。本当にすごかったです。感激しました。
――こんな素敵なお話の、そんな素敵なエピソードを聞かせていただいて私も幸せです。今日はどうもありがとうございました!
『ココでのはなし』
シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国順次公開中
配給:イーチタイム
©2023 BPPS Inc.
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。