高齢化・老朽化団地の理事長決めは理不尽な押し付け合いと心理戦の連続! ベテランと新世代の対立も表面化【ポンコツ理事長奮闘記2】

高齢化・老朽化団地の理事長決めは理不尽な押し付け合いと心理戦の連続! ベテランと新世代の対立も表面化【ポンコツ理事長奮闘記2】

私、フリーライターの水野康子と申します。
50代、非正規、単身世帯、マネジメント経験なし。そんな私が実家のある団地で手探りしながら理事長として駆け抜けた1年を振り返ります。

今回は、理事会の役決めにフィーチャー!
理事になって最初の活動が、前年度の2月に行われる“役決め”なのです。12名の理事の中から、なぜ私が理事長に? ベテラン理事たちが次々に繰り出す謎ムーブに翻弄されたポンコツぶりを綴ります。

■前回までのあらすじ
フリーライターの水野が離婚後、実家と同じ団地に戻って17年の月日が過ぎた。新築だった団地は竣工後42年を経過して老朽化。それに伴い住民の高齢化も著しい。7年前から始めた管理委託の取り組みは期待した成果を上げられないまま、持ち回りで任期1年の理事会メンバー12名は今年も完全委託と一部委託のはざまで揺れ動くのであった。
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新理事12名中、2名がいきなり欠席? 和を乱すのは誰だ?

2023年2月、第二土曜の19時。団地の集会所の扉を開けるとすでに大勢が集まっていました。

●65歳以上のベテラン理事
5名 →全員出席
●2代目理事(親が理事の子世代)・理事会経験あり
2名(Iさん・水野) →両方出席
●2代目理事(親が理事の子世代)・理事会経験なし
4名 →2名(Gさん・Hさん)出席、2名(Aさん・Cさん)欠席?
●理事会初参加の転入者
1名(Bさん)→出席

ひとり、ふたりと数えてみると、集まっている新理事は10名で、2名足りない。ひとりは仕事で欠席。もうひとりは前任者からの連絡ができておらず、管理会社のフロントマンが急遽、迎えに行くことに。

「わざわざ呼ばれなくても、いつ理事が回ってくるのか、自分で気を付けておくものなのに……」ベテラン理事の一人が眉をひそめていました。

遅れてやってきた1名が「俺やらんでええやろ」砲を放つ

来るか来ないか分からない人をいつまでも待てるものではありません。管理会社のフロントマンが迎えに行っている間に、誰がどの役になるか、話し合いが始まりました。

管理組合には組合員(区分所有者)が所属。私たちの団地では、管理者=理事長。副理事長のほか、理事(書記、会計、駐車場、集会所、建物設備2名(内1名は防火管理者)、環境整備3名)、監事を毎年、互選している(イラスト/てぶくろ星人)

管理組合には組合員(区分所有者)が所属。私たちの団地では、管理者=理事長。副理事長のほか、理事(書記、会計、駐車場、集会所、建物設備2名(内1名は防火管理者)、環境整備3名)、監事を毎年、互選している(イラスト/てぶくろ星人)

理事長候補として、真っ先に名前が挙がったのはベテラン理事の中でも唯一、理事長経験のあるFさんです。ところが、「俺はアカン」。Fさんは健康面を理由に固辞されました。

じゃあ誰が理事長に?
役決めが難航した際、この団地では運を天に任せてくじ引きするのが習わしです。

私が引き当てたのは環境整備担当。この役は私にとってお馴染みで、過去2回、務めた経験があり、何より3名で分担するので気が楽です。その他の役に当たった人たちもおおむね納得している様子。ただ一人を除いては……

【ベテラン理事の謎ムーブ①】
「え~! 理事長なんて……」とつっぷしたのは女性理事Iさんでした。すると最年長理事Eさんが優しく声を掛けました。「もう1回引いたらええ」。

くじ引きの袋にはIさんが戻した「理事長」のくじ、そして「建物設備」のくじ、この2本が残されています。この場に現れなかった2名が「理事長」と「建物設備」を受けるのでしょうか?

そこへ勢いよく入ってきたのがあやうく欠席になるところだったA君です。何も知らされず、ふいをつかれて、かなり怒っている様子。部屋に入ってくるなり、「俺は賃貸やから理事やらんでええやろ!」と言い放ちました。

団地で育った彼は区分所有者の次男。父親が所有する物件に大型犬と暮らしている。真っ黒に日焼けした筋肉隆々の彼が漆黒の毛並みを持つ体高70cm級の犬を連れて歩く姿は迫力満点(イラスト/てぶくろ星人)

団地で育った彼は区分所有者の次男。父親が所有する物件に大型犬と暮らしている。真っ黒に日焼けした筋肉隆々の彼が漆黒の毛並みを持つ体高70cm級の犬を連れて歩く姿は迫力満点(イラスト/てぶくろ星人)

穏やかだった場の空気は一変。ベテラン理事たちは凍り付いてひと言も発しません。

沈黙を破ったのは私でした。ライターという職業柄、初対面の人と話すのは慣れています。

私「あのぉ……お、お名前は?」
彼「……A」

ベテラン理事Kさんが加勢してくれます。

Kさん「え?Aさん?……じゃあ、お兄ちゃんのほう?」
Aさん「……弟」
Kさん「まぁ、こんなに大きくなって! 昔はよく芝生の上で遊んでいたわね? ご家族のみなさん、お元気?」
Aさん「うん」

幼いころの彼を知っているKさんは、すっかり母親の眼差しに変わっています。対する彼もぶっきらぼうながらちゃんと返事をしている……団地のコミュニティは今も健在でした。

私「お仕事は何を?」
Aさん「大工」
私「じゃあ蛍光灯は変えられる?」
Aさん「うん」
私「建物設備理事が残ってんねん。大工さんやったらぴったりやわぁ」
Kさん「いや~ほんまやわぁ」

凍てついた空気をお母さん理事の優しい笑顔が溶かし始めていました。建物設備担当はAさんが引き受けてくれそうです。

最年長理事から「あんた理事長やったらええやん」と無茶ぶりが!

場の空気はなんとか持ち直しましたが、最後に残された理事長の役を受けるという声は相変わらず上がりません。

【ベテラン理事の謎ムーブ②】
「これからは女性の時代や!」
最年長理事が突然、「理事長はあんた(私のこと)がやったらええねん」と言い出しました。

いかにも理事長っぽいEさんがいきなり私を指名。「え? 私、環境整備に当たってますけど? くじ引きの意味は一体?」という水野の心の声は届きません(イラスト/てぶくろ星人)

いかにも理事長っぽいEさんがいきなり私を指名。「え? 私、環境整備に当たってますけど? くじ引きの意味は一体?」という水野の心の声は届きません(イラスト/てぶくろ星人)

「女性の時代」を唱えるなら、なぜ女性理事Iさんの引いた理事長くじを戻させたのか? 最年長理事の発言が大きな矛盾をはらんでいたにもかかわらず、突然の謎ムーブに動転した私はその矛盾をスルー。ひたすら新たな突破口を見出そうと焦っていました。

味方のいない水野。

最年長理事の矛盾に真っ先に気付いたのは、Aさんを懐柔したKさんでした。
「やっぱり男性がやったほうがいいと思うわ」と提案してくれたのです。

私もすかさず援護します。
「男性理事でまだお若いGさんが適任じゃないでしょうか。Gさんが当たった書記の役目は私が引き受けてお支えしますから、いかがですか?」

ところが前回まで父親任せにしていて理事会初参加のGさんは「理事長とは何をする人なのか?」のイメージがつかめず、どうしても決断できない様子。

【ベテラン理事の謎ムーブ③】
しびれを切らしたKさんが「男性を理事長に」という主張を撤回してしまいました。そして女性の私に向かって「お願いします」と頭を下げ、にっこりほほ笑んでいます。

私と同じ2代目のIさん、Gさんをかばうベテランはいるのに、「公私ともに不安定な水野に、ボランティアの理事長を押し付けるのは気の毒」と言い出す人は誰もいません。孤独感を強めた私は墓穴を掘ってしまいます。

「あなたは私を支えてくれますか?」→ポンコツ理事長、爆誕。

ここで状況をもう一度整理しましょう。

●65歳以上のベテラン理事5名→
全員“長” は嫌。
●理事会経験がある2代目理事2名→
Iさん:くじを戻し、理事長をまぬがれ、会計に決定
水野:暫定環境整備。理事長を押し付けられそうで崖っぷち
●理事会初参加の2代目理事4名→
Gさん:暫定書記。理事長に推薦されるも、決断できないうちにまぬがれそう
Aさん:話し合いで建物設備担当に決定
Hさん:くじ引きにより監事に決定
Cさん:仕事で欠席(このまま理事長はまぬがれそう)
●理事会初参加の転入者1名→
Bさん:くじ引きにより集会所に決定。状況が飲み込めない様子。

お年を召した方たちに無理をさせては健康にかかわる。
初参加の人たちに“長”を押し付けるのは忍びない。
「もはやこれまで」と腹をくくった私はついに「理事長を引き受けても構わない」という境地に達しました。

物は考えようです。50歳代にもなっていつまでもお父さんお母さん理事に甘えているわけにはいきません。私も区分所有者の一人として、いつかは重い役を担わなければならないのであれば、ベテラン理事も名を連ねている今年度はむしろ、チャンス。今ならまだ団地内に自主管理時代の理事長経験者もいるし管理会社も付いています。教えてもらいながら実践すればいいじゃないか、と。

私が次に理事になるのは約10年後です。団地の世代交代が今よりもっと進み、初代からの蓄積がなくなってから、初めて理事長をやるとなったらもっと難しい。ポンコツ一人の力でできることは限られているからです。

「リーダーシップがなければメンバーシップを使え」
これは昔、私が勤めていた会社の上司からもらったアドバイスです。「ポンコツな私が理事長をやるなら、理事会の中に同志がいないと……」。ふと顔を上げると、目の前に座っていたA君がガンを飛ばしてきました。昔から「溺れる者は藁をも掴む」と言いますが、その瞬間、私の頭の中にぱっとイメージが広がったのです。「異端児のこの子を押さえることができれば、きっと理事会をまとめられるに違いない」。脳内が混乱を極める中、ふと口を突いて出たのが、こんな言葉でした。

「私が理事長になったら、あなたは私を支えてくれますか?」

私は「支える」という言葉を「うっかり」ではなく「あえて」使いました。「支える」とは、「理事長という重い役目を引き受けるからにはそれなりの覚悟が必要。あなたも覚悟を持って一緒にやっていってくれますか?」という意味です。まるで交際0日のプロポーズ。初対面のA君に「嫌」と一蹴されたりしないでしょうか。

ところが、ところがです。A君は気楽に「うん」と即答したのです。びっくり。何にも考えていなさそうだけど、言質は取った。これって、もしかしてラッキーな展開?!

和を乱すのはA君じゃなかった。そしてFさんとの振り返り

【ベテラン理事の謎ムーブ④】
2月の日暮れは早い。2023年度の理事長を務めることになった私が外へ出ると、暗闇の中から拍手が沸き起こりました。

誰が言い出したのか、退出した私を待っていたのは、理事の皆さんの温かい拍手! 団地に戻ってきて初めての経験でした(イラスト/てぶくろ星人)

誰が言い出したのか、退出した私を待っていたのは、理事の皆さんの温かい拍手! 団地に戻ってきて初めての経験でした(イラスト/てぶくろ星人)

月明りに照らされて、団地の敷地を戻る道すがら、Fさんが話し掛けてくれました。

Fさん「耳が遠くなってしまって、さっきの話、半分も聞こえなんだ」
私「え?! そんなにお悪いんですか?」
Fさん「教えてほしいんやけど、今日来てないC君は何になったんや?」
私「私が当たってた環境整備を譲りました」
Fさん「そうか……」

役決めの一部始終をFさんに伝えている間に、A君の姿を見失ってしまいました。今後の理事会運営、本当に彼は私を「支えてくれる」のでしょうか? その話はまた後日……

■次回予告
通常は4月にスタートする新年度の理事会ですが、私たちの団地の場合、管理会社の都合で6月からとなっています。ところが初めての理事会が開かれる直前の5月下旬に断水発生! 「断水してるぞ!」怒号が飛び交うなか、水野の自宅の電話がジャンジャン鳴り始めました。未経験、非正規、単身世帯の女性理事長が断水を解消できるのでしょうか?……断水解消の顛末を次回語ります。

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