【ライヴレポート】「ただいま」「おかえり」「会いたかったよ」─Hammer Head Sharkワンマン公演 "into the marbles"

【ライヴレポート】「ただいま」「おかえり」「会いたかったよ」─Hammer Head Sharkワンマン公演 "into the marbles"

2024年10月26日土曜日、恵比寿〈LIQUIDROOM〉2階にあるギャラリー・スペース〈KATA〉にて、Hammer Head Sharkのワンマン・ライヴが行われた。以下、OTOTOYオリジナル・ライヴレポートとして、その模様を報告する。

このワンマンに至る経緯は、今月4日に公開されたHammer Head Shark (以下、Hammer) のOTOTOYインタヴューで存分に語られている。

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所 (2024年10月4日公開)

改めてまとめると、〈Next Music from Tokyo vol 16〉の出演者として3都市5公演のカナダ・ツアーが決定、カナダから帰ってきたらライヴをやると決めていた、以前からVo./Gt.のながいひゆがやりたかったギャラリー・スペースに写真や絵や詩を飾り自分が好きなものを集めた空間をつくる、の3つ。それらがひとつのイベントとして結実したのが、この日のワンマン・ライヴだった。

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〈LIQUIDROOM〉の入口に着く。いつものように階段を上る。が、この日、Hammerのワンマンが行われるのは2階のギャラリー・スペース〈KATA〉だ。ライヴと展示 (後述) は〈KATA〉で行われるが、隣接する〈Time Out Cafe & Diner〉が入場口として使われていて、入るとそこがバー・カウンターと物販のスペースになっていた。

いわゆる日本の「ライヴハウス」は世界的には独特な存在だ。今回のように入ったところがカフェやバーのスペースで、その奥になんとなくライヴ・スペースがあるのが、ちょっと海外っぽいなと思う (Time Out CafeからKATAへはドアひとつ挟んでいるのでそこはだいぶ違うが)。そう、この日のHammerのワンマンは、今月上旬に行われたカナダ・ツアーの、いわば「凱旋」イベントだ。

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ドアを抜け階段を降り〈KATA〉に入る。四方の壁と天井が白塗りのスペース、奥にステージが設けられている。両サイドの壁には、Hammerのこれまでのキャリアで撮り続けられたカメラマン・藤咲千明による写真、HammerのVo./Gt.でありすべてのジャケットやグッズのデザインを手掛ける、ながいひゆの絵、そして詩が多数飾られている。これらの展示は、ライヴ開始前、そしてライヴ終了後にも時間がとられ、ゆっくりと観ることができるとともに、写真や一部の絵は販売も行われていた。

真っ白な壁に内側に向けて、その中に入ることを自ら選んだHammerが好きなひとたちだけのために装飾された空間。人間は哺乳類なので本物の繭の中に入ることはないのだが、ひょっとしたら繭の中ってこんな感じなのかもしれない。そんなことを考えながら、Hammerの音楽を待ち焦がれる、想いを同じくする皆とともに開演を待つ。

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ライヴは “魚座の痣” からスタートした。イントロが始まると、ながいが「ただいま」と嬉しそうに言う。“魚座の痣” はセットリストの最後に置かれることもよくある曲だが、ライヴ1曲目でありながら、まさにライヴのクライマックスとも言えるようなテンションと強度で歌われ、演奏される。曲の終わり、ブレイクダウンしてギターが掻き鳴らされ、テンポが落ちる。Dr. 福間が叫び、ながいが「会いたかったよ」という言葉を挟み、続けて歌詞の通りに「いつも君の側で歌う」と歌った。ライヴが始まって6分たらず、この時点で、最高の夜になることをフロアにいた皆が確信しただろう。

そのまま続けて “レイクサイドグッドバイ” から “echo”。 “echo” のイントロのタイミングで「Hammer Head Sharkです。よろしくお願いします」と名乗りがあった。ながいの切迫感と血の通う温かさが綯い交ぜとなった心を鷲掴みにされるヴォーカル。ときに歌い・ときに叫び・ときに囁く藤本のリードギター。メロディアスで (ながいが評するように) 筆で描いたような心地よい足跡をかたちづくる後藤のベース。バンドのダイナミズムとグルーヴを体現する福間のドラム。これぞHammer。いや、これぞどころではない。Hammerが特別な存在であることを突きつけるような時間が流れていく。続いて “声”。藤本の美しいギターと、ながいの嗚咽のようなヴォーカルのアンサンブル、それを「隙間」と「轟音」で支えるドラムとベースが、いつ聴いても印象的な曲だ。

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“しんだことになりたい” は、これまで音源は未発表ながらライヴで演奏されてきた曲だが、今回カナダツアーに向けて制作されたCD『vase by the window』により、初めて音源として入手可能になった。このCDは日本ではこの日のワンマンでのみ入手可能とのこと。

ここで、ながいが「弦が切れちゃったからちょっと待っててね」と言い、いったん楽屋に戻る。おそらく予定していたタイミングではなかっただろうが、後藤がMCを始める。後藤の第一声も「ただいま」だった。フロアからは「おかえり」と声が返る。カナダで楽しかったことを聞かれて、ナイアガラの滝に行ったこと、モントリオールで「プーティン」というカナダの名物料理 (ポテトにグレイビーソースとチーズがかかっているものが基本形らしい) をみんなで食べたことを紹介してくれた。

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ながいのギターが復活し、“アトゥダラル僻地” が始まる。この曲もこれまではカセットテープにしか収録されておらず今回初めてCDに収録された、Hammerのなかではダウナーめのストレートなロックンロール楽曲だ。続けて “Midnight In Naked”、こちらはアップテンポなロックンロール、後藤のベースがひたすらに格好良い。

会場内の展示に加えて、この日のもうひとつのスペシャルがVJだった。ライヴ中全曲を通してステージ背面に映像が投影された。VJ担当はHammerの映像作品の監督を務めたこともある、アラユ。曲と同期するような映像表現やカナダツアーの記録映像をパーツとして使用した映像など、多彩な光がライヴ空間をさらに魅力的なものにしていた。

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“Gummi” から “Dummy Flower”、“園” とスローテンポな曲でしっとりと呼吸を整えた後、ライヴは終盤へ。

インタヴューで藤本が「明確に録音物としての音像が違う」と言っていた “Blurred Summer” が再びフロアの身体を動かし始める。“りんごの駅” は、ながいの弾き語りから始まり、そこからバンドサウンドの爆音が鳴り響き、大空の下を全力で駆け抜けるようなリズムに踊らされる。箱ごと宙を飛んでいるような気持ちになる。曲が終わると拍手が鳴り止まない。

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福間がマイクに向かい、「みなさんに会いたかった」「ほんとうは一人ひとり抱きしめに行きたいくらいだけど、そのかわりにライヴをします」とフロアに語りかける。続けて、ながいが、「自分のことはあまり好きじゃないが、自分がつくったものは好きで、自分のバンドも好きで」「こういう空間をつくりたくて絵を飾ったら、すごい自己愛の強いひとみたいになった (笑)」「バンドを通して私は自分のことを大事にできるようになったので、感慨深い。すごく嬉しい空間になった」「ここにいてくれて、ありがとうございます」と語った。

「今年リリースしたお気に入りの曲をやります」と言って始まったのが “綺麗な骨”。曲のスケールの大きさ、メンバー4人のそれぞれの魅力が存分に発揮された、Hammerの最新モードだ。続けて “月とおばけ”。2020年リリースの1stミニアルバムに収録されている懐かしさのある楽曲で本編は幕を閉じた。

【ライヴレポート】「ただいま」「おかえり」「会いたかったよ」─Hammer Head Sharkワンマン公演 "into the marbles"

アンコールの拍手に呼ばれて、メンバーが再登場する。

ながいが展示の写真や絵のこと、販売もしていることなどを説明した後、「アンコールありがとう」「初期の曲をやります」と言って、“点滅ヘッドライト” が始まった。Hammerのライヴでずっと大切な位置を占めてきた曲だろう。だがこの日は格別なスケールの大きさで演奏され、ひときわ大きくなったバンドを体現するかのようだった。

「もう1曲やってもいいですか」という言葉の後、ながいの、この日最後のMCが始まる。「私はステージを降りたら何もできないポンコツなんですけど、ステージの上では目の前のひとの味方です」「また必要になったら来てください、ありがとうございました」と語った。

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この日のラストは “たからもの” だった。福間が「Hammerを好きでいてくれるひととHammerとの繋がりができた」と言った曲。ながいのMCでの言葉と同じく、「ずっと覚えていて いつも君の味方」という歌詞が歌われる。「僕らが欲しいものは誰も奪えない これ以上の意味は物語りのなかで」という最後の歌詞が歌われた後、バンドがアウトロを奏でる。そのど真ん中で、ながいが「愛してるよ」と言い、1時間半強のワンマン公演は幕を閉じた。

終演後は、壁に飾られた写真や絵に見入るひと、それらを写真に撮るひと、どの写真を購入しようか迷うひと、まずは物販に並ぶひと等々、それぞれがそれぞれの過ごしかたをしていた。きっと皆、その手に、その心に、何かしらの「たからもの」を収め、帰路についたことだろう。

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私の思い違いかもしれないが、かつてのHammerのライヴは、もうすこしステージとフロアとの間に「距離」があったような記憶がある。互いの緊張感や、互いの距離を測りかねる感じが若干あったように思う。しかしここ最近はそれよりも近さを、ライヴを通して切迫感よりも温かさを多く感じるようになった。ながいが観客に語りかける言葉も、よりストレートに、その空間のかけがえのなさや愛情を伝えるように変化した。それは、バンドが作り上げる音楽がいよいよ他にない、大切なものとなったことの現れなのかもしれない。

この日、同じひとつの「白い繭」のなかにいた、バンドメンバー、写真・VJ・映像などの制作者、そして観客たち。誰にとってもHammerは、美しく、大切で、必要なものだ。

この先わたしたちはHammerとともにどんな空間を訪れるのだろう。楽しみでしかたがない。

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イベント情報

Hammer Head Shark One Man Live
“into the marbles”

2024年10月26日 (土)
東京 恵比寿 KATA (LIQUIDROOM 2F)

セットリスト :

01. 魚座の痣
02. レイクサイドグッドバイ
03. echo
04. 声
05. しんだことになりたい
06. アトゥダラル僻地
07. Midnight In Naked
08. Gummi
09. Dummy Flower
10. 園
11. Blurred Summer
12. りんごの駅
13. 綺麗な骨
14. 月とおばけ

en1. 点滅ヘッドライト
en2. たからもの

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今後のツアー情報

Hammer Head Shark × SuU
SPLIT TOUR『SLOW SWIM』

日程 : 2024年11月17日 (日)
会場 : 京都 Live House nano
出演 : Hammer Head Shark / SuU / 本日休演 (guest)

日程 : 2024年11月18日 (月)
会場 : 大阪 寺田町 Fireloop
出演 : Hammer Head Shark / SuU / すなお (guest)

日程 : 2024年12月22日 (日)
会場 : 東京 下北沢 DaisyBar
出演 : Hammer Head Shark / SuU

チケットぴあ・一般発売中 :
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2435382

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アーティスト情報

Hammer Head Shark

X (Twitter) : @h_h_s_band
Instagram : @hammerheadshark_band
YouTube : @hammerheadshark2900

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関連インタヴュー

Hammer Head Shark──音像と皮膚の境目がなくなるとき、そこは僕と君の居場所 (2024年10月4日公開)

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