団地を愛しすぎた男「公団ウォーカー」管理人が選ぶ全国の”推し団地”! 団地さんぽで”ベランダで見分ける居室スペック””時代の遺物ダストシュート”など見どころも発見
UR都市機構(独立行政法人都市再生機構)が郊外団地の再生・再編事業を本格的に始めて30年以上がたちました。良品計画やIKEAといった民間企業や佐藤可士和や隈研吾などの著名なデザイナーや建築家とのタッグによる、新しい取り組みも生まれています。さらに直近では東京の赤羽台に「URまちとくらしのミュージアム」がオープンし、団地の魅力について再発掘する機会を提供しています。
今回は、全国の団地のスゴイところや魅力を発信しているファンサイト「公団ウォーカー」の管理人・照井啓太(てるい・けいた)さんに、団地の魅力と面白ポイントについてお話を聞きました。照井さんが暮らす神代団地(東京都調布市・狛江市)を歩きながらお届けします。
戦後、国民にとっての憧れだった「団地」
小さいころから団地で育った照井さん。「今でも、当時のことが忘れられなくて。家の外に出れば必ず友達がいて、約束をしなくてもいつでも遊べたし、夕暮れになればすぐにみんな帰れる。それに団地では小さなお祭りやイベントもあって家族ぐるみで楽しめた。だからお父さんお母さんを含めて周りの人たちはみんな知り合い。みんなで育ち合った感じです。その思い出がとても強く残っているんですよね。楽しい毎日だったな、と。今もなお団地の魅力にとりつかれています」と話します。
高校生のころに、光が丘パークタウンのような高層高密団地を歩いたり、通学途中でスターハウス(Y字型の特殊な形状の住棟)を見つけたりするうち、団地ごとの違いや面白さなどに魅了されて、全国各地の団地に足を延ばして写真や文章で記録をし始めます。その熱意は20年たってもなお途切れず、仕事の傍らで著書を出版するほか、全国で講演活動も行っています。
自主的に団地研究をする、照井さん。団地愛が加熱し、仕事の傍らで北海道から九州まで300カ所以上は見て歩いたそう(写真撮影/片山貴博)
現在のお住まいも、もちろん団地。2009年から東京都の調布市・狛江市にある神代団地で暮らしています。結婚後、お勤め先に通いやすいエリアで良い団地はないかな?と探して辿り着いたのだとか。この日も神代団地の一角でお話を聞きました。
「実は団地ってすごいんですよ。ダイニングキッチンといった先進的な間取りや、洋式水洗トイレやステンレス流し台など最新の住宅設備を取り入れ、日本の住宅の新しい標準形をつくっていきました。ここ神代団地も、もちろんそうです」(照井さん)
照井さんが暮らす神代団地の風景。新築当時のカラーはアイボリーだったそうだが、モスグリーンとグレー、ホワイトと三つのカラーを使用して、モダンな風合いに塗装し直している(写真撮影/片山貴博)
日本の団地の歴史の始まりは1955年ごろ。戦後の住宅供給が不足していた時に、”新しい住宅モデルを”と国民に提示し続けたのが、当時の日本住宅公団です(現在はUR都市機構)。特に関東地方では、建物の間取りや住宅設備はもちろん、建物や道路の配置にも工夫を重ね、人々が暮らし、つながる、全く新しいまちをつくり上げてきました。
「たとえば、商店街の配置や団地内の植栽計画一つとっても、当時の日本には『これが正解』という勝ちパターンが存在しません。海外で生まれた近隣住区論を基礎にしつつ、地形や人の流れを読み解くことで、各地に個性的なまち(団地)が誕生しました」(照井さん)
一見、画一的なように思える団地ですが、その街や土地、人に合わせてトライアルすることが異なるのは面白いですよね。
最も初期の団地では子どもの預け先が圧倒的に不足し、深刻な問題になっていました。その反省から、大規模団地をつくる際は幼稚園や保育園が一緒につくられるようになりました。神代団地の幼稚園も公団が誘致したものです(写真撮影/片山貴博)
ガラス使いがおしゃれな集会室。途中で増設をしたそうだ。室内の壁はなんとパープルのカラーで塗装されていてとても華やか(写真撮影/片山貴博)
神代団地を散歩しながら面白ポイント探し
団地、すごいんだぞ!という話をひとしきり聞いてから、照井さんと一緒に、お住まいの神代団地内を見学していきます。神代団地も、リニューアル工事をしている部屋だったり、されていない部屋だったり。
なにしろ全部で約2000戸あるので、様相もさまざまです。歩いて見ていくうちに違いがわかりましたが、いろいろな形と階層の建物が存在しています。
団地というと4・5階建てくらいのシンプルな真四角のイメージでしたが、最近の新築分譲マンションのような見た目の建物も。
「ああ、59号棟はタイルが印象的ですよね。これは団地内で一番最後に建てられた建物なんですよ。
もともとこの場所には団地専用の汚水処理場がありましたが、市の下水道が整備されたため役目を終え、しばらく更地になっていました。バブル時代の1987年に、この敷地を使って分譲マンションのような高層建物を建てたんです。ここだけ賃料がやや高めですが、とても人気です。募集が出てもすぐに満室になりますね」(照井さん)
神代団地内で一番新しい59号棟(写真撮影/片山貴博)
時を同じくして、居住スペースの拡充の声に応えるべく改築されたのが増築棟です。ここは既存の団地を改修して、部屋を増やした建物。それまでは基本的に2DKか3DKで、広さも39平米~50平米でしたが、増築後は1部屋増え、広さも13平米~15平米大きくなりました。
「増築された居室かどうか判断する時には、各室のベランダを見ると違いがわかるから、そういう目で建物を観察してみてくださいね」と、照井さんはこっそり秘訣を教えてくれました。
手前にボコッと突出したベランダの部分が増築した部屋。既存建物のベランダ部分で繋いでいます(写真撮影/片山貴博)
「建物の右3分の1の部分が増築部分」と照井さん。よく見ると屋根の部分が途切れており、途切れた部分にエキスパンションジョイント(構造の異なる複数の建物を連結する際に用いられる手法・工法)が入っていることがわかる(写真撮影/片山貴博)
増築棟の入居時の写真。キッチンも洗面所も最新の設備に更新されていてとても綺麗(画像提供/照井啓太さん)
結婚を機に神代団地の2DKに住み始めた照井さんは、子どもが大きくなってきたことから、広くてきれいな増築棟(3DK)の空き部屋を虎視眈々と狙い続け、2020年ついにゲット!団地内で引越しして今も住み続けています。
写真左:増築棟との連結をした部屋。もとからある建物のベランダ部分を洗濯機置き場に改装。写真右:連結部屋の向こう側に臨む、増築部屋(画像提供/照井啓太さん)
増築棟の部屋には出窓(右)もついていておしゃれ(画像提供/照井啓太さん)
居室ももちろんですが、最近は共用部のリニューアルもされているのだとか。
「たとえば築古の団地は、階段がなくて悩ましいものですが、最近はエレベーターを増設している団地もあるんです。ここ神代団地にもエレベーター付きの棟がありますよ」とのこと。
「東京の多摩エリアだと、例えば町田市にある鶴川団地や、多摩市にある多摩ニュータウン永山団地にも付いています」(照井さん)
四角く飛び出た長方形の箱が増設したエレベーター。既存の建物の踊り場で連結されており、隔階にしか止まらない(写真撮影/片山貴博)
階段から見たエレベーター乗り場の様子。実際には結節部(階段の踊り場部分)に着くので、例えば3階に行きたい場合は、2階から3階に上る階段の踊り場部分に到着し、残り半階分の階段を上る必要がある(写真撮影/片山貴博)
「ここにあるのがダストシュートボックスの跡ですね。ダストシュートは便利だったんですよ。ここからゴミを投げ入れると、階下までシューっと落ち、集積されて、ごみ収集の人がまとめて持っていくという仕組みです。便利な設備ではありますが、神代団地では衛生上の懸念から、ほとんど使われることがなく封鎖されたそうです」(照井さん)
全国的にほとんど使われることがなくなったダストシュート。階段の横についたゴミ入れから、煙突を辿って、グレーの扉のところにゴミが落ちてくる。ごみ収集業者は扉を開いてゴミを回収(写真撮影/片山貴博)
今もなおダストシュート機能が健在する団地もあるそうですが、清掃の大変さや分別収集などの近年の流れもあり、ほとんどがその役目を終えています。そういう昔の設備の名残を探すのも面白いかもしれません。
歩いているとそこかしこにあるのが公園や遊具などの憩いのスペース。今や街の中で縮小傾向にある公園ですが、神代団地の中には設備更新された遊具や、ベンチ、憩いのスペースにあふれています。
手入れされた遊具。照井さん曰く、随時更新されているのだとか(写真撮影/片山貴博)
随所にベンチがあり、この日も近所のママさんやお年寄りが暑い中でも集っていた(写真撮影/片山貴博)
「団地は、こうした休憩スペースにゆとりを持たせる計画を立てているのと、遊具がとても充実しています。神代団地には、通称・すりばち公園や、壁打ちボードもたくさんあるんです。今の時代ではなかなかつくれない豊かなオープンスペースがあるのは団地ならでは、ですよね」(照井さん)
なかなかお目にかかることのない壁打ちボード。テニスや野球、サッカーなどで活用されている(写真撮影/片山貴博)
通称・すりばち公園。かなりの傾斜があるが、子どもたちはスイスイと登っては降りて、縦横無尽にかけまわる(写真撮影/片山貴博)
照井さんが推す団地 全国編
ところで、お住まいの神代団地以外で、照井さんの推し団地はどこでしょうか。
<歩いていて美しい団地>
◆千葉県船橋市 習志野台団地
「新京成電鉄・東葉高速鉄道『北習志野』駅の近くにある団地です。遊歩道がすごく綺麗で、私が一番好きな遊歩道なんです。綺麗な芝生がぶわあっと広がっていて、ところどころに芝桜が咲いていて、まるで夢のような空間です。団地の設計は担当者の個性が出るのですが、当時の担当者のセンスだったんでしょうね。訪れるたびに心地よさを感じます」
習志野台団地の遊歩道。遮るものが何もなく、歩道がゆったりと確保されている。植栽の配置も計算されている(画像提供/照井啓太さん)
手入れされた庭が美しい(画像提供/照井啓太さん)
<商店街に見応えがある団地>
◆千葉県千葉市 花見川団地
「商店街や人が集まる空間が面白いなと思うのは、花見川団地です。賃貸と分譲あわせて約7200世帯の大きな団地なのですが、その敷地の中央にドーンと1カ所のみ商店街があるんです。これだけ大きな団地だと普通、2カ所ぐらいサブセンターとして、商店街をつくりそうなものなのですが、あえてそれを設けていないんですよね。商店街を中心に街が成り立っている感じが面白いです。中心にある商店街は、無印良品とリノベーション事業を行い、にぎわいを取り戻してきていますよ」
花見川団地の商店街。減少傾向だった店舗も近年増え始め、日中の人出が多く活気を感じる(写真撮影/片山貴博)
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<建物の見た目が迫力ある団地>
◆埼玉県三郷市 みさと団地
「賃貸と分譲それぞれありますが、分譲においてはURの中でも最大級の戸数。URでは2番目の大きさです。高層棟が多く、ずらりと並んでいる風景はとても迫力がありますよ」
◆兵庫県芦屋市 芦屋浜シーサイドタウン団地
「こちらも建物の迫力に圧倒されてしまう団地です。プレハブ工法(工場で製作加工された部材を、建築現場に搬入して組み立てる工法)で建てた超高層建築。なんと一部の建物は最高29階まであります。見た目はタワマンのようですが、なんと1979年竣工なんです。今でこそタワーマンションは当たり前になりましたが、当時は最先端の技術。これらの建物がずらりと並んでいる姿は近未来的な雰囲気で、圧倒されてしまいます」
芦屋浜シーサイドタウン団地の全景。たしかにこれが平成よりも前に存在していたのだと考えると、当時は未来にタイムスリップしたのではと感じたのかもしれない(画像提供/照井啓太さん)
建物はタワーマンションと同じくらいの高さがあるものの、細部に素朴さも感じられる(画像提供/照井啓太さん)
<面白設備がある団地>
◆北海道札幌市 あけぼの団地
「ご当地性が出ている団地はつい見てしまいますね。ここの団地は玄関の横に石炭庫があります。もちろん今は使われてないですが、名残としてとても広いスペースが残っていますよ。玄関の扉を入ってすぐ横のスペースにだいたいあります。当時は石炭ストーブを家の中で炊いていて、会社から寒冷地手当ての代わりに石炭が現物支給され、その石炭庫にいれていたようです」
あけぼの団地の全景。雪が落ちやすいように屋根が傾斜している(画像提供/照井啓太さん)
玄関を入ってすぐ右にある部屋が石炭庫。かなり広々しており、今なら納戸として使用できそう(画像提供/照井啓太さん)
近年、再び団地が注目されています。照井さんもそれは実感しているそうです。
「手ごろな家賃ももちろんですが、設備が綺麗になって快適さが増したほか、団地内のコミュニティ、豊かな自然に惹かれてまた若い世代が興味を持つようになっているのでしょうね。神代団地では、1階の多くが高齢者向けに改修されているため、高齢の方が多くなっていますが、階段の上り下りがある2~5階は若い世代の入居が増えています。子育て世帯も増え、団地の高齢化もひと段落してきたようです」
照井さんは団地の魅力を最後にこう教えてくれました。
「私が大きくなり、実家は分譲マンションに住まいを移しました。それから何年もたちますが、マンション内での交流がほとんどありません。お隣に誰が住んでいるのかも分からないまま暮らしている人も少なくないでしょう。
その点団地は、玄関が階段に面している”階段室型”のタイプが多いので、ドアを開ければ目の前で顔を合わせることが多い。上下階の住民と仲良くなりやすいんですよね。もちろん不便さやデメリットもあるかもしれないけれど、人のつながりや育ち合いは団地に代わるものはないと感じます。子どもたちにはここで暮らしていてよかったな、楽しかったなという思い出をつくってほしいです」
神代団地にある、商店街。ここ10年くらいは店舗の入れ替えがあり、手紙社の手がけるカフェ「手紙舎」が入居してから、若い出店者が増えている(画像提供/照井啓太さん)
住まいには、便利であること、綺麗であることを重視する人も多いですが、時代と共に進化している団地も一考する価値があります。魅力にあふれた団地、商店街など、住人以外も出入りできる場所がある団地も多いのでぜひ見て回って体験してみませんか。住まいの選択肢として検討する前に、まずは歩いて探検してみると、新たな魅力に気付けるかもしれません。
●取材協力
公団ウォーカー照井 啓太さん
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