「噂」の拡散と「核分裂反応」は似ている / 拡散停止には初期対応が重要と新たなモデルで再確認(彩恵りり)
人から人へと伝わる情報の中には、必ずしも100%事実ではなく、一部に嘘が混ざった「噂 (rumor)」が混ざることがしばしばあるよね?このような偽情報の拡散は、インターネット時代においてどのように防ぐのかが課題となっているわけだけど、その研究のためには適切な数学的モデルを用意する必要があるよ。
山東師範大学のWenrong Zheng氏、Fengming Liu氏、そしてYingping Sun氏の研究チームは、噂の拡散は原子炉内で起こるウランの核分裂反応に似ているのではないか?とする予想の元、噂の拡散に関する「核分裂モデル」を構築・シミュレーションしたんだよね。その結果、長年にわたり使用されてきた、感染症の広がりを下に構築された「感染症モデル」よりも、噂の拡散段階の実態をよく反映していることを確認したんだよ!
この核分裂モデルでは、情報リテラシー教育は噂の拡散を停止させるのに効果的であることを改めて示すと共に、噂や偽情報の拡散を止めるには、かなり早い段階で対処しないといけないことも同時に示しているんだよね。
噂の拡散は感染症と似ている、と考えられてきた
【▲図1: 今回の数学的モデル研究は、虚実入り混じった噂の拡散は、原子炉内で起こる核分裂反応と似ていることが示唆されたよ! (Image Credit: Abigail Malate (AIP) )】
人から人へと情報を伝えるのは社会生活を営む上で欠かせない行動だけど、しかしみんなも知っての通り、拡散する情報は全て本当だとは限らず、嘘の情報もあるよね?このような「噂」は完全に根拠のない話である場合もあれば、部分的に真実で部分的に虚偽であるという場合もあるよね?今回紹介する研究では、噂は100%偽情報というわけでなく、虚実入り混じった話だと定義しているよ。
では、噂はどのように拡散するのかな?噂は人から人へと伝わって広がっていくものであり、これは数学的モデルで拡散の仕方をシミュレーションすることができる、というのが知られているよ。最もよく使われているのは1964年に提唱された、感染症の広がり方を基盤としたモデルで、提唱者の名前を取り「D-Kモデル」と呼ばれているよ。これは噂の拡散を感染症の広がり方と同じであると捉えているよ。噂が広まるのは、いわば病原体が感染するのと同じようなものだ、と言ってるわけだね。このモデルでは、まだ噂を知らない感受性のある人、噂を広める感染性のある人、噂を知っているけどもうそれを広めない回復した人、の3つに分けることで、噂の広まりを数学的に表そうとしているよ。
ただし近年、感染症モデルは噂の拡散を正確に捉えられていないのではないか、という点が指摘されているんだよね。もちろん、オリジナルの感染症モデルは1964年から改良され続けているとはいえ、実態に即していないのではないか、という指摘があるんだよね。この指摘を反映する形として、他のモデルを提唱する人が現れているよ。例えば、噂の広がり方は山火事に似ているとか、ボールの衝突に似ているとか、色んなモデルが提唱されているよ。
噂の拡散は核分裂反応と似ている?
【▲図2: 原子炉内で起こる核分裂反応を大雑把に説明すると、中性子がウラン235に当たれば核分裂反応が連鎖しで中性子が放出されるけど、中性子がウラン238に当たれば核分裂反応の連鎖が停止するよ。 (Image Credit: 彩恵りり)】
そういった背景がある中で今回、山東師範大学の3氏の研究チームが提唱したのは、「噂の広がり方は核分裂反応と似ている」とするモデルだよ。ここで、原子炉内で起こる核分裂反応について、軽くおさらいするね。原子炉では、中性子の衝突・吸収によって原子核が分裂し、エネルギーと新たな中性子が発生する核分裂反応を起こすことで、発電をしたり新たな元素を得たりしているよ。
この核分裂反応で重要なのは、ウラン235とウラン238という、2種類のウラン原子核のバランスなんだよね。ウラン235は、1個の中性子が衝突すればすぐに分裂する不安定な原子核だよ。対してウラン238は、1個の中性子の衝突・吸収では分裂せず、複数個の中性子があって初めて分裂する安定した原子核だよ。そして、核分裂反応では必ず中性子が放出されるよ。
噂の広がり方のモデルでは、中性子は噂、ウランは噂を受け取る人々だと置き換えられるんだよね。核分裂反応では新たな中性子が発生するので、つまりこれは噂が別の人々へと広がっていくものだと考えられるわけだね。
ただし、このモデルでは噂を受け取った後の対応の違いを焦点に、人々を2種類それぞれのウランに対応させているよ。その片方であるウラン235は、中性子を受け取ればすぐに中性子を出す原子核なので、これは噂を受け取ればすぐに拡散する人に対応するよ。もう片方であるウラン238は、中性子を受け取っても簡単には中性子を出さないので、噂を聞いてもすぐには拡散しない人に対応するんだよね。
この違いについて3氏は、その人の性格、知識、社会的地位などの要因が関連してくると考えているよ。噂を受け取ってもすぐに拡散しない人は、まずは噂の真偽を確かめるために一旦立ち止まり、複数の方面から噂を受け取った後に初めて拡散するだろうと考えられるよ。これは、ウラン238が1個の中性子を吸収しただけではすぐに中性子を放出せず、複数の中性子を受け取って初めて中性子を放出する状況に似ているんだよね。
核分裂モデルは実態を反映していることを確認
【▲図3: 今回提唱された核分裂モデルでは、噂を中性子、噂を受け取る人をウラン原子核のそれぞれのタイプに置き換えることで、核分裂の研究に使われた数学的ノウハウを流用したよ。 (Image Credit: 彩恵りり)】
3氏は、噂をすぐに拡散する人と、すぐには拡散しない人の割合を様々に仮定した上で、すぐに拡散しない人がどの程度の数の噂を受け取った場合に拡散をするのかについて、核分裂モデルによる噂の拡散シミュレーションを実行したよ。
このシミュレーションは、原子炉内で核分裂反応がどのくらいのスピードで進行するのかを、様々な環境条件 (ウラン235とウラン238の割合、原子核のエネルギー状態、核燃料の化学的状態、中性子を減速・吸収する他の物質の存在量など) でシミュレーションするのととても似ているんだよね。これらの数学的ノウハウは核物理学で培われているので、これを流用できるのが今回の数学的モデルの強みとも言えるよ。
すると、今回作成した核分裂モデルは、比較でシミュレーションされた感染症モデル (D-Kモデルの改良版であるSEIRモデル) と比較して、より実態に沿った結果が得られたんだよね。特に、噂が広く拡散する段階になった時、核分裂モデルでは噂を受け取った後にすぐ拡散している人が、噂を受け取ったものの拡散を控えた人と比べて大幅に多いという、実際の状況をよく反映した形になったんだよね。従来の感染症モデルでは、この部分がシミュレーションと実態の違いの問題として、よく指摘されていたんだよね。3氏は、核分裂モデルの方が、感染症モデルと比べて実態を反映している、と見ているよ。
3氏は、偽情報の成分が多い噂の拡散を止めるには、ウラン238に当たる人を増やすこと、つまり盲目的な拡散をしないようにリテラシー教育をすることが重要だと強調しているよ。今回のモデルが実態に即しているということは、噂の拡散段階では噂の拡散を止める人より拡散する人が多いという実態がある訳なので、教育によって拡散を停止させることが重要だと言っているわけだね。
また、SNSの事業者や政府やメディアなど、偽情報の拡散を止めたい側にも重要な示唆を与えているよ。SNS上では、噂が人から人へと伝わる平均時間は21.03分であり、2回伝達すると停止するとしているよ。ここから、15回伝達した後の拡散度は指数関数的に増え、最初の15回の伝達にはわずか5.25時間しかかからない、と計算できるんだよね。つまり噂の拡散について、かなり初期の段階に対応すれば、拡散を最小限で抑えられるかもしれない、ということを今回の研究は示しているよ。
<参考文献>
・Wenrong Zheng, Fengming Liu & Yingping Sun. “A rumor propagation model based on nuclear fission”. AIP Advances, 2024; 14, 075326. DOI: 10.1063/5.0217575
・Wendy Beatty. (Jul 30, 2024) “How Spreading Misinformation Is Like a Nuclear Reaction”. AIP Publishing.
(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。