<ライブレポート>清水美依紗、これまでの道のりを辿りアイデンティティを示した“スペシャルな”ツアー【Roots】東京公演

<ライブレポート>清水美依紗、これまでの道のりを辿りアイデンティティを示した“スペシャルな”ツアー【Roots】東京公演

 清水美依紗が、ソロツアー【Roots】の東京公演を2024年10月3日にヒューリックホール東京にて開催、その圧倒的な歌声で集まった観客たちを魅了した。

 10月9日リリースの新曲「TipTap」がフジテレビ系水10ドラマ『全領域異常解決室』のオープニング・テーマに起用され、12月からはミュージカル『レ・ミゼラブル』にエポニーヌ役として出演することが決定しているなど、注目を集めている若手シンガーの清水。今回のツアーはタイトル通り、自らのルーツとなる楽曲をふんだんに取り入れたコンセプチュアルなもの。9月24日のなんばHatchで行われた大阪公演に続く本公演には、開演前から大勢のファンが詰めかけていた。

 開演時間を過ぎ、ゆっくりと場内が暗転すると、いくつかのランプ、球体の照明、ソファーが置かれたステージに清水が登場。演奏するメンバーは、キーボードのHiromuと、ギターの北島優一の2人のみ。ピアノの静かな音色から歌い出したオープニング曲は、ディズニー映画『シンデレラ』の主題歌「夢はひそかに」。まさにシンデレラのように日本のエンターテインメントを駆け上がっていく清水の姿がオーバーラップした。

 静かに言葉を置くように歌うと、一転してギターリフとピアノのリズミカルな演奏を演奏に乗せて、ジャクソン5「帰ってほしいの(I Want You Back)」を勢いよく歌い出す。客席に向けて煽ると、ハンドクラップと共に色とりどりのペンライトが広がっていく。ソウルフルに強力なファルセットを聴かせると、続いては映画『SING/シング』でもおなじみの、スティーヴィー・ワンダー「くよくよするなよ!(Don’t You Worry ‘bout a Thing)」へ。ブレイクして驚異のハイトーンボイスを聴かせるとどよめきにも似た歓声が沸き起こった。

「【Roots】ツアーへようこそ! 東京ファイナルです。今回のツアーは、清水美依紗がどんな音楽を聴いて育ってきたのかを知ってもらうテーマでお送りしていきます。ここまで歌った3曲は、マミーからのルーツ音楽です。クラシックから洋楽まで、マミーは幅広い曲を聴かせてくれました。その中でもオープニングで歌った『夢はひそかに』は、小さい頃マミーが子守歌として歌ってくれた曲でした。ディズニー音楽を身近にしてくれた曲で、同時にマミーからの愛を感じました。そんな私が初めてディズニー・アニメーションを見た『リトル・マーメイド』から1曲歌いたいと思います。」

 日本語バージョンの「パート・オブ・ユア・ワールド」で、セリフ交じりの歌唱がミュージカルの舞台を思わせた。歌に寄り添い、感情の昂ぶりに合わせてピアノとギターの演奏も白熱する。続くコーナーでは、学生時代に聴いていたという、懐かしい曲をメドレーで紹介。西野カナ「Best Friend」に始まり、TWICE「TT」、miwa「ミラクル」と、J-POP、K-POPを軽快に歌い上げた。

 続いて飛び出したのはマーク・ロンソン「アップタウン・ファンク feat. ブルーノ・マーズ」。少ない音数で、そのボーカル力が存分に発揮された選曲だったが、アコースティック・アレンジでこの曲に挑むところはかなりの自信の表れに思えた。さらにビヨンセ「ラヴ・オン・トップ」へ。身振り手振りを交えながら歌い観客にクラップを求めると、それに応えるオーディエンス。その盛り上がりに乗って清水自身もさらに熱量が上がっていき、まるでビヨンセが憑依したかのような魂の熱唱。客席からも思わず驚きの声が上がるほどの名演だった。メドレーに続いては、ホイットニー・ヒューストン「アイ・ハヴ・ナッシング」を情感たっぷりに歌い上げた。

「メドレーには、学生時代に聴いていた楽曲をいっぱい入れました。『ラヴ・オン・トップ』は5回転調していて、ビヨンセさん……あ、違う、ビヨンセさま(笑)は、これを踊りながら歌っているんです。歌ってみて、改めてすごさがわかりました。」

 「アイ・ハヴ・ナッシング」は、高校生の頃に一番歌っていた曲だという。「『歌唱王~全日本歌唱力選手権~』を中学生のときに見て、高校生になったら絶対に出るという目標を掲げて、高1、高2とオーディションに落ちてしまって。高3でやっと予選を通過したときに歌ったのが、『アイ・ハヴ・ナッシング』なんです。ファイナルステージまでは行ったけど優勝できず、めっちゃ悔しかったんですけど、高校生のうちにいろんな挑戦ができたことは、自分にとって青春やなって、今になって思います」と回顧する清水。

 次に歌ったのは、そんな思い出深い『歌唱王』のファイナルステージで歌った曲であり、歌手を目指すきっかけとなった「オン・マイ・オウン」。『レ・ミゼラブル』の劇中でエポニーヌが歌うソロ曲であり、役柄としてこの曲を歌うことへの感慨を語って、英語バージョンで歌唱。ピアノの清廉な音色に合わせて切々と歌い上げ、頭上に輝くライトに照らされる姿に、ミュージカルでのエポニーヌ役が想像できるエモーショナルな1曲となった。

 次のコーナーは父親からのルーツ音楽。「父が歌っている姿を見たことは一度もないのですが、車の中で流していた曲を選びました」との言葉から歌われたのは、太田裕美「木綿のハンカチーフ」。ステージの照明がブルーとピンクに照らされる中、太田を意識した柔らかな歌い回しが心地よく響いた。1番と4番のみを歌うショートカット・バージョンだったこともあり、「1番で遠距離になり4番で別れてしまうという、めちゃくちゃ早い展開になってしまいました(笑)」と笑わせる。椅子に腰かけて、父のエピソードを語る清水。「私が音楽をやりたいということに、すごく応援してくれていました。どんなときでも謙虚に、結果だけじゃなくて過程も大切にしなさいというのが口癖でした。そんな父は2年前に亡くなってしまったんですけど、正直、全然乗り越えられていなくて。乗り越えられてないからこそ、次の2曲を父に歌いたいと思います。」

 最初に歌われたのは「Home」。MCでは涙声になる瞬間もあったが、曲が始まると噛みしめるように、力強い意志のこもった歌唱を聴かせた。プロのシンガーとして舞台に立っていることの誇りと、父親へ今の自分の姿をしっかりと見せようという姿が胸を打った。カセットテープを入れる音からアコギのフレーズに乗せた「Wave」へ。緩急をつけながら感情の揺らぎを表現して、両手を振りながら歌うと観客もペンライトと共に両手を大きく振って一体に。大きなサウンドスケープが、会場を別世界へと誘った。「この曲は自分にとっても大切な曲なので、父のためにもそうだし、この曲を聴いた人たちが、家族の大切さにあらためて気付いたり、どんな感情も受け入れていいんだよっていう、包み込むような気持ちになってくれたりしたら嬉しいです。」

 次のコーナーでは、高校卒業後に「ミュージカル女優になりたい」という目標を掲げて米ニューヨークへ留学したことを語りながら、ピアノの導入と共に「自由を求めて(Defying Gravity)」(ミュージカル『ウィキッド』より)を歌い始める。これがすごく迫力だった。転がるような演奏とグルーヴしながらのパフォーマンスは、自分自身の意思で人生を切り開いてきた清水の根底にある強さを感じさせる歌唱で、曲の最後のロングトーンは鳥肌もの。場内からは拍手喝采が送られた。

「ニューヨークでの生活は自分にとって楽しくもあり苦しくもある2年間でした。すごく才能のある人がたくさんいる中で、『私自身がスペシャルって言えるものはなんやろう?』っていう気持ちにもなりました。」

 帰国後、コロナ禍に直面して悩んでいた際に、「マミーが『TikTokをやってみたら?』と言ってくれて動画を載せていくうちに、ありがたいことに多くの人に自分の歌声が届いて、知ってもらえる喜びを知り」、BUDDiiSのKEVINと出会いコラボするようになり、曲を作るようにもなったという。

 次にKEVINと作った曲を紹介。「ルッキズム社会の中で、自分にコンプレックスを持った女の子が、愛する人と出会って自分を愛せるようになるという曲です。歌詞の中のフレーズに、自分のことを愛してくれる存在がいるはずっていう希望を込めました。そしてそれは、私にとっては家族やったなって思います。愛してくれる人の視点で自分のことを愛せたら。もしみんなにもそんな人がいたら、想像しながら聴いてほしいです」と、「ドレス」というタイトルのこの未発表曲は、静かに包み込むように染み入るバラードだった。

「このツアーを通して、自分を振り返る機会がたくさんありました。数えきれない縁の1つ1つが私を作っていて、そしてその縁があったからこそ、今ここにいるみなさんに出会えました。本当に幸せです。今後は私が歌で愛を届けます。ここからがスタートです。」

 そんな力強い一言から、「Starting Now ~新しい私へ」へ。打ち込みと生演奏が融合した豪快なサウンドを牽引するような、情熱的で力強い歌唱が興奮を掻き立てる。「最後の曲です! みなさん盛り上がっていきましょう!」そう呼びかけるとハンドマイクでメジャーデビュー曲「High Five」をステージを行き交いながら歌い、なんと途中で客席に降りて通路を歩きながら歌い出し、客席は大盛り上がり。客席に座り、隣のお客さんに歌いかけたりと、親しみやすいキャラクターを発揮するファンサービスまで。ステージに戻ると見事なホイッスル・ボイスを炸裂させた。

 アンコールではTシャツ姿で「Sugar」を披露。華やかなエレクトロポップ感は、前半のメドレーで歌ったポップスにも通じる、清水を作っている重要なテイストを感じさせた。じゃがりこリュックを背負いながらのグッズ紹介でしばし和ませると、新曲「TipTap」を初披露。ステージが真っ赤に染まり、スケールの大きなジャズサウンドに乗せて、初披露にして自信に満ち溢れたボーカルを聴かせた。

 最後は緩やかに「Message」で客席を見渡し、手を振りながら語りかけるように歌い上げ、場内がクラップで一体となりゴスペルチックなエンディングを迎える。メンバーの2人と手を繋ぎ客席に感謝すると、「ありがとうございました! またお会いしましょう!」と言い残してなごり惜しそうにステージを降りた。ルーツを辿り、これまでの道のりを描いてアイデンティティを示した内容で、これまで以上に人物像が浮き彫りになったこの日。ライブ全体が、アーティスト・清水美依紗が新たなステップへと向かうためミュージカルにも思えた。

Text by 岡本貴之
Photos by 山下深礼(PROGRESS-M)

◎セットリスト
【清水美依紗 Solo Tour「Roots」】
※2024年10月3日(木)ヒューリックホール東京公演
<オープニング>
A Dream Is A Wish Your Heart Makes
1. I Want You Back
2. Don’t You Worry ‘bout a Thing
3. Part Of Your World
4. メドレー(西野カナ「Best Friend」~TWICE「TT」~miwa「ミラクル」~Mark Ronson「Uptown Funk feat. Bruno Mars」~Beyonce「Love on Top」)
5. I Have Nothing
6. On My Own
7. 木綿のハンカチーフ
8. Home
9. Wave
10. Defying Gravity
11. ドレス(未発表曲)
12. Starting Now ~新しい私へ
13. High Five
<アンコール>
1. Sugar
2. TipTap
3. Message

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