世界で注目を集める映画『大いなる不在』藤竜也インタビュー「僕自身が観た時に感じた“グラグラっとした感じ”を体験して欲しい」
近浦啓監督による、森山未來主演、真木よう子、原日出子、そして藤竜也共演のサスペンスヒューマンドラマ『大いなる不在』が全国公開中です。
幼い頃に自分と母を捨てた父が警察につかまった。報せを受けた卓(たかし)が久しぶりに父の元を訪ねると、 そこには認知症で別人のように変わった父の姿があり、父の再婚相手の義母は行方不明になっていた。 いったい何があったのか―。
本作は2023年9月に開催された第48回トロント国際映画祭のプラットフォーム・コンペティション部門にてワールドプレミアを飾ったのち、第71回サン・セバスティアン国際映画祭でコンペティション部門の オフィシャルセレクションに選出。同映画祭の歴史上日本人初となるシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を藤竜也 が受賞するという快挙を成し遂げ、更にはサン・セバスティアンの文化財団「アテネオ・ギプスコアノ」が最も 卓越した作品に与えるアテネオ・ギプスコアノ賞も受賞。そしてアメリカ最古の国際映画祭、第67回サンフランシスコ国際映画祭でもコンペティション部門にて最高賞にあたるグローバル・ビジョンアワードを受賞。さらには、ニューヨークで開催 中の北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」(7/10~7/21)へ正式出品され、藤への特別生涯功労賞が授与されました。
藤さんご本人に作品の魅力についてお話を伺いました。
――作品大変素晴らしかったです。藤さんは本作の脚本を読んだ時はどの様な印象を受けましたか?
老いていく男とその家族たちとの物語ですよね。最初はどの様な作品になるか想像が出来なくて、監督にも「どんな映画になるのか私には想像が出来ていませんが、いただいた役はきっちりとやります」とお伝えしました。これは後でわかることなんだけど、私には本を読む力が本当に無かったんですね。海外で素晴らしい評価を受けていて、嬉しい誤算っていうのかな。監督と共同で脚本を書いている熊野(桂太)さんにも「この映画がこんなに高い評価を受けるなんて分からなかったんだ」と話したら、熊野さんは「私は書いている時から分かっていましたよ」って。
――脚本だけを読んだ時と、映像を通して感じるものも変わってきそうですものね。
演じている時は感じなかった凄みも、完成した映像を観たら驚きましたね。これは凄い映画なんだと。海外の方にたくさん観ていただいて、僕自身も色々な賞をいただけて、ラッキーだったと思います。日本の映画が世界に広がっていく、そんな時代に仕事が出来ていることを光栄に思います。
――演じられた陽二というキャラクターにはどの様な印象を受けましたか?
純情だけど馬鹿というかね。だから周りにたくさん迷惑かけちゃう。周りのことを考えずに純粋すぎる行動をとるから結果的にとても迷惑。僕はあんな風に迷惑をかけたくないですね(笑)。
認知症を患っているキャラクターですが、4、5年前に認知症の役をやりまして、その時に相当勉強をしたので、今回改めてのお勉強は一切しませんでした。あまり余計なことしなくても、いただいた役をガッと掴むことが出来ました。これはうまく説明出来ない状況なのですが、ワッと役に入っていける時と、入っていけなくて苦しむ時があります。本作に関してはとても楽で、全てを陽二さんに託しちゃった感じでした。撮影が終わってお弁当を買って、1杯ビール飲みながら、また明日頑張ろうという感じで。何も苦労をせず、森山(未來)さんがすごく上手くやってくださったので感謝しています。
――森山さんと藤さんのお2人だからこその親子役でしたね
見た目が似ているってわけじゃないけど、親子っぽい雰囲気がありましたよね。2人ともひねくれていて、一筋縄ではいかない。
――現場はどの様なコミュニケーションをとっていましたか?
僕は共演者の方と現場で私的な会話をすることは無いんですが、初めて会った時に、九州の神社にお祓いに行ったんです。その前に森山未來さんってどんな俳優さんだろうと思ってWikipediaをチェックしました。みなさん、様々な仕事を積み重ねられてきていて、それを知っておくとお会いした時に随分印象が違うんですね。森山さんはダンスをされていて舞踏家でもいらっしゃることで、YouTubeで動画も拝見しました。そうしたら、素晴らしい舞踏で。「凄いな」と相手を思えることってすごく良いことなんですよね。なんとなく目線で分かるじゃないですが「この人は僕のことを知ってくれているな」という信頼感が生まれる。もう素晴らしく素敵な芝居をされていて、感謝しています。
――観客のおかれている状況によっても感じ方が全然違う映画だなと感じました。
僕は自分が出演している映画を観て、改めて感動したり新鮮に驚いたりはしないんです。脚本も読んでいるし、撮影もしているから。観客の方もきっとこう感じてくれているんだろうな、と想像もしたりするのですが、この作品はとても想像できなかったんですよね。僕自身が観た時に感じた、このグラグラっとした感じ。これは多くの方に体験いただきたいですね。
――藤さんはコンスタンスに作品に出られていますが、とてもお忙しいのではないでしょうか。
1年に1本撮影くらいのペースですかね。たまたま、上映するのが割と狭いスパンだったので、ちょっと派手に見えるのかもしれない。でも、本当はそんな忙しい思いもしてないし、地味な毎日なんです(笑)。こうして同じ監督と続けてお仕事が出来たり、映画に出してもらえることは嬉しいですね。演じることで生かしてもらっているわけですから。
――これからも藤さんのお芝居をとてもとても楽しみにしております。今日はありがとうございました。
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