長編アニメーション映画『クラユカバ』神田伯山インタビュー 「子供の好奇心をものすごくそそる作品に」

長年個人映像作家として活動してきた塚原監督が原作・脚本・監督を務めた初の長編アニメーション映画、『クラユカバ』が現在全国公開中です。

探偵・荘太郎が奇怪な集団失踪事件を追って謎多き地下世界“クラガリ”に足を踏み入れていくミステリー作品で、その主人公の荘太郎役を、今「最もチケットの取れない講談師」と言われる六代目・神田伯山さんが務めています。ご本人に作品のこと、声優のことなどをうかがいました。

■公式サイト:https://www.kurayukaba.jp/ [リンク]

●完成した作品をご覧になった感想はいかがでしたか?

僕は池袋出身でして、今は違うかも知れないのですが、育った当時は怖いところだからあまり外を出歩くなと言われていました。やれオヤジ狩りだ、ドラクエ狩りだなんだと、いっぱいあった。でも親が知っている世界観と、子供が知っている世界観はちょっと違う。行っちゃいけない世界には何があるのかなと、子供心に思っていたんですよ。

それでこの作品を観た時に、僕は非常に童心に返る想いで、大人の世界に一歩踏み込むような気持ちになったんですね。

絵本の世界にもありますよね。ケモノ道があり、これは大丈夫な道、もう一方はケモノ道。ケモノ道は決して行っちゃあいけないよ。でも興味があって行ってしまう。そこには何があるのかな。そういうみんなのあるあるをくすぐるように上手く出来ていると思いました。なのでみなさんもこれを観た時に幼い頃の気持ちに戻るのかなと僕は思っています。

●そしてノスタルジーを誘うような美しい映像もポイントですよね。

塚原(重義)監督の見事な絵柄ですよね。自分の友人なども「あれはすごく面白そうだね」と。「どこに引っかかりました?」「絵柄が独特なんだよ」と。まさに塚原監督が描いたものだとすぐ分かる。誰でも分かる。

映画でも講談でも落語でも何でもそうですが、誰がやっているかすぐ分かるっていうものは、非常に突出しているものだと思うんです。レトロとくくられますが、それだけじゃない。過去への非常なる敬意と未来へこういうものを残したいという想い。過去と未来をつなぐような、そういう映画だなと僕自身も思いました。

また、塚原監督が、岡本喜八監督が好きということもあって喜八色もありまして、そこにミステリーの要素もあり、面白い要素もある。現代の作品なのですが、いい意味で過去の作品の延長線上にあるみたいな。童心に返るような、でも進んでもいるような、そういう心地よさもある不思議な作品だと思いました。

●ジャンルとしての探偵モノの魅力についてはいかがでしょうか?

探偵モノの空気を裏切らない、昔ながらの探偵モノの空気にも沿っていますし、主人公・荘太郎という人物も初めて観たキャラクターとは思えないくらい馴染みがある感じで、スッと入ってくるのではないかと思います。

僕の時代は「古畑任三郎」「トリック」「金田一少年の事件簿」などテレビでは、そういうドラマが多かった。今で言うと「相棒」など、けっこう身近に流行っているものがありますよね。探偵モノ、ミステリーはあまりにも身近にありすぎるので、みんなもちろん知っているよね、というのはありますね。昭和レトロな空気感、それでいて実際の話ではない。だからこそスッと入ってしまう。その相性もいい。しかもアニメですから没入しやすい。それは僕の中でも発見ではありましたね。

●主人公・荘太郎を演じるうえで気をつけたことは何でしょうか?

「はい、大辻探偵社」と言ってドアを開けるシーンがあるのですが、順撮りだったので、最初のセリフなんですね。その時に第一声が変に明るすぎてもその人に影が見えないなと。もしくは影はあるのだけれど陽で誤魔化そうとしているということまでは僕は技術としてできないので、ちょっと鼻にかかった声でやる気があるようなないような、どこか不思議でこの人は何を考えているのだろう、どんな人生を歩んできたのであろう、それが「はい、大辻探偵社」というところで何となく伝わればいいかなと。

まずは第一声、どういう人なのだろうかということを伝えないといけない。キャラクターは分かるけれど、声でその人の人生が出ればと。そこまで高望みをしてはいけないけれども、そこは大事だと思っていたので、一生懸命表現しながら収録しました。

●今日はありがとうございました。映画を楽しみにしている方に一言お願いいたします。

一本はケモノ道で一本は楽な道。楽な道の方しか行っちゃいけないよとキツネのママが言っても子ギツネはケモノ道に行ってみたい。そういうベタな作品でも、やっぱりドキドキするものです。ケモノ道には何があるんだろうと。そこから先はプロの仕事だと思いますが、やっぱりなんか怖いけれど、ちょっと見てみたい、行きたい、これ共通してあることだと思うんですよね。これは大人よりも子供のほうが強い気がします。子供の好奇心をものすごくそそる作品ではないかなと思います。探偵モノは大人も楽しいけれども、お子さんの方がグッとはまる。そんな気がしています。

■ストーリー

紫煙に霞むは淡き夢、街場に煙くは妖しき噂…。今、世間を惑わす“集団失踪”の怪奇に、探偵・荘太郎が対峙する!目撃者なし、意図も不明。その足取りに必ず現る“不気味な轍”の正体とは…。手がかりを求め、探偵は街の地下領域“クラガリ”へと潜り込む。そこに驀進する黒鐵(くろがね)の装甲列車と、その指揮官タンネとの邂逅が、探偵の運命を大きく揺れ動かすのであった…!!

■作品情報

『クラユカバ』全国公開中
配給:東京テアトル ツインエンジン
©塚原重義/クラガリ映畫協會

(執筆者: ときたたかし)

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