72歳のおばあちゃんが<脳内>アクションスターに!? 『レオノールの脳内ヒプナゴジア』監督インタビュー 「アクション映画の中に優しいおばあちゃんが入ったら、どういうリアクションをするか試したかった」

映画監督だった72歳のおばあちゃんが、自分が書いた脚本の中に入り込み、数奇な旅に出るという奇想天外“メタ”コメディー『レオノールの脳内ヒプナゴジア』が現在公開中です。監督のマルティカ・ラミレス・エスコバルさんは、21歳から8年の歳月と自費を投じて、世界中の映画祭を席巻した感涙のアクション・エンターテインメントを完成させました。

カラフルな脳、フォトコピーする幽霊、妊娠した男性など生者と死者の境界が曖昧な独自のワールドは、おばあちゃんの脳内と現実というふたつの世界の並行という独創的なストーリーで紡がれ、受け手を圧倒します。

「フィリピンではアクションスターが大統領になるくらい多くの人がアクション映画に影響を受けているのはなぜ? この不条理に、わたしはおばあちゃんというレンズを通して優しいアプローチで取り組みました」と語るエスコバル監督。お話をうかがいました。

■公式サイト:https://movie.foggycinema.com/leonor/ [リンク]

●本作を撮ろうと思われた、最初のきっかけは何だったのでしょうか?

最初に思いついたことはおそらく、とにかくシンプルに長編映画を作りたかったということだと思います。30本以上のショートフィルムを撮っていたのですが、それは自主制作のような感じでした。趣味で撮ったようなものから、もうちょっとお金を集めて撮ったものもあったのですが、最初はとにかく、長編を撮りたかったんです。

●そこには、どのような心境の変化があったのでしょうか?

徐々に自分の考えや哲学の部分などをいろいろと作品に入れるようになってきて、作品が自分にとってのすべてのようになって来たんです。自分の中のすべてを、その映画の中に入れていくスタイルに変わっていった。最初は若かったのでとにかく映画を作りたかったけれど(笑)、やっぱり何年も経ってるうちに自分の中身のすべてを入れるようになりました。

●そのひとつが、アクションスターが選挙に出て大統領になっちゃうみたいなことが気になっていたということですか?

そうですね。アクションスターの大統領じゃなくても、政治家になる人がいたりします。映画の中にも好きなアクションスターは誰と聞かれて、フェルナンド・ポー・ジュニアという名前が出て来ますが、彼もまた大統領になりかけた人なんです。大統領になる前に亡くなってしまいましたが、アメリカでも同じようなことが起こっていますよね。

●それをこうして映画で描くことでご自身の中ではどこかしっくり来た、気づいたことがあったそうですね。

そのとおりです。映画で描くこともそうですが、その過程でいろいろな本なども読み、そこで気付いたこととしては、人々はヒーローによって守られる、助けられる必要があるんですよね。だから人々は、あのアクションヒーローが自分たちを救ってくれんじゃないかって期待をしていて、映画の中じゃなく現実世界でも救ってくれるんじゃないかってことに期待しているんです。そういうことに気がついたんです。つまり、我々はヒーローにすがりつくしかない、すがりつく必要があるということ。

●それは必要悪みたいな考え方でしょうか?

いえ、どちらかと言うとメディアの影響で、人々が影響されている、動かされてるということが大きいのではないかと思うんです。メディアがヒーローを書き立てていて、それに人々が影響を受けている。それが上手くいく、いい時もあると思うのですが、悪い方向に行っちゃうこともある。

●その状態が監督から見たら不条理に感じたということでしょうか?

重要なことは、みんながちゃんと自分の頭で考えることすよね。考えて批判的になることも必要だと思うのですが、特にフィリピンではみなテレビを観て何も考えず、テレビの言ってることが正しいと信じ込み、単純にテレビに動かされている。けれど、本当はもっともっとひとつひとつ何が重要なのか、その重要なことの裏にあることとか、ちゃんと考えるべきなのではと思うんです。

●それはフィリピンだけの問題ではないかも知れませんね。

最近ではTikTokなども流行っていて、特にTikTokではフェイクなことをエンターテイメント的に本物のように見せるものがありますよね。母もTikTokを見て「こういうの知ってる?」とわたしに見せて聞いてくる(笑)。本当かどうか分からないから、ちゃんと調べたほうがいいよって母に言うのですが、単純にTikTokなどを見て信じる人がいるわけです。それは真実かも知れないし、真偽はすぐ分からないけれども、調べずに信じてしまうっていうことが心配されることです。

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●今回、主人公をおばあちゃんにすることに、どのような意図があったのでしょうか?

普通のアクション映画とは違うアプローチを、まずはしたかったということがあります。アクション映画には暴力が出てくるもので、いろいろな武器を使い、血が飛び散るとか昔からありますよね。アクション映画は非常に暴力的でなければなりません。武器も必要だし、血も必要だし、たくさんの人が死ななければならない。しかしそれは、わたしが取り組む方法ではないのです。暴力は映画の中ではまだいいとして、なくなったらいいと思っているんです。

だから、違うアプローチを採れば違うタイプのアクション映画を作れるのではないかということで、この映画では、おばあちゃんというレンズを通して、彼女を取り巻く問題や葛藤を、優しいアプローチで捉えようとしました。愛を通して、コミュニケーションを通して、ね。レオノールはイノセントです、暴力には愛情を持って、立ち向かいます。

そしてレオノールは、その他の悪者にもアクション映画の中でコミュニケーションを取ろうとします。つまりアクション映画の中に優しいおばあちゃんが入ったら、どういうリアクションをするか、どういう風になるのかっていうことを試したかったっていうのはあります。

●今日はありがとうございました。最後にメッセージをお願いいたします。

わたしは自分のおばあちゃんに多大な影響を受けています。彼女はとても苦労した人で、いつもポジティブで、笑顔を絶やさない人です。本作を観てもらいました、喜んでいました。そして、フィリピンのクレイジーで楽しい映画を観たければ、ぜひこの映画を観てください(笑)。フィリピン映画と言うとシリアスなものを思い浮かべがちかも知れませんが、これは楽しい映画です!

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■ストーリー

かつて映画監督だったレオノールも72歳になり今では電気代も払えずにいた。彼女の二人の息子のうち兄ロンワルドはずっと以前に事故で亡くなっており、残された弟ルディも仕事で遠くに行くことになった。そのせいでレオノールは精神的にも落ち込んでいた。

そんなある日、新聞に掲載されていた脚本コンクールを目にした彼女は、現状を抜け出すために映画脚本の執筆に取り組み始める。その内容は「殺された兄の仇を弟が討つアクション映画」で、昔に書いたものの未完で終わっていた作品でもあった。脚本のアイデアを考えながら歩いていると、運悪く近所のカップルが投げたテレビが降ってきてぶつかってしまう。

その結果、レオノールはヒプナゴジアに陥り現実と物語の世界を行き来するようになってしまった。その物語の世界とは、先ほどまで執筆していた仇討ちアクション映画の世界だった。レオノールは自分で書いた脚本の世界に入り込んでしまったのだ。

レオノールは物語の世界で、兄の仇を討とうとする主人公と出会い共に旅をする。現実世界では、意識を失って入院しているレオノールをルディが看病をしていた。物語の世界では、レオノールは息子を亡くした女性と出会う。そこでレオノールは言った「私もロンワルドを撮影中の事故で亡くしてしまった」と。この未完の物語は亡くなったロンワルドへの贖罪の物語でもあった。

ルディは今まで母親に対して冷たく応対していたことを悔い、レオノールを脚本の世界から引き戻そうとするが、レオノールは病室からもいなくなってしまう。ルディは現実の世界でレオノールを見つけようと奮闘する。かたやレオノールは物語の世界で未完脚本の結末を見つけようと奮闘する。過去に中途半端で終わってしまった自作品への納得のいく結末を……

東京シアター・イメージフォーラム1/13(土)〜
大阪シネ・リーブル梅田1/19(金)〜
京都アップリンク京都1/19(金)〜
兵庫元町映画館 1/20(土)〜

(執筆者: ときたたかし)

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