柄本佑インタビュー「楽しくて豊かでユーモアもある、春画の新たな面を観てもらえれば」 映画『春画先生』公開中
江戸文化の裏の華である“笑い絵”とも言われた<春画>の奥深い魅力を、真面目に説く変わり者の春画研究者(内野聖陽)と、しっかり者の弟子(北香那)という師弟コンビが繰り広げる春画愛をコミカルに描く映画、『春画先生』が現在公開中です。
題材は春画ですが、好きなものにのめり込んでいくおかしな者たちを描く異色の偏愛コメディとして、共感も誘っているという本作。春画大全を完成させようと奮闘する編集者・辻村役の柄本佑さんにお話を聞きました。
■公式サイト:https://happinet-phantom.com/shunga-movie/ [リンク]
[ご注意]無修正の浮世絵春画が登場しますこと、ご留意の上、ご鑑賞ください。<「公式サイトより」>
●まず今回の映画『春画先生』の脚本や物語の感想を教えてください。
ただただ、面白い本という感想でした。塩田(明彦)監督による一見おかしなストーリーテリングに非常に洗練されたものを感じました。キャラクター個々の立ち方であったり、シーンや展開に過不足はなく、コメディー性がありつつ、強い核心もある。作品世界にかなり強いものを感じました。
なので自分であれこれ仕掛けてアプローチをするよりも、セリフに乗っかってさえいれば、しかるべき辻村の人物像が立ち上がるだろうということは、脚本の段階で感じました。ただひとつ、彼は明瞭にセリフをしゃべるだろうと思ったので、明るく元気よく話す人、それは意識しました。
●彼は、<通称いい加減な色男>という人物像でしたよね。
それは僕が言ったわけではなく(笑)、塩田監督が衣装合わせの時におっしゃっていたことでした。ただ、僕自身も脚本上の辻村俊介に言われたその通称は、しっくりくるものがあるなと思いました。彼は春画先生、芳賀一郎先生を一番に尊敬していて、自分はその弟子であると思っているんです。誰よりも春画大全の完成をとにかく楽しみにしているという根幹が、今思えばあったように思います。
春野弓子との関係もあるにはあるのですが、そこにはある種のねちっこさはなく、爽やかさがあったほうがよいのではないかなと思いました。まるで青春を謳歌しているような感じですよね。楽しんでいる感覚。それはきっと春画先生に会う時に心のリミッターが外れてしまい、自分もそのひとり、ある種、春画の絵の中の人物に近い一面があるように思います。
●辻村はバランサーとでも言いますか、3人の特殊な関係性については、どのように理解されていたのですか?
撮影している時はそこまで考えていなかったと思います。辻村という人は頭は悪くないし、実は誰よりも二人がうまくいくように応援さえしてるんです。なのに芳賀先生が春画大全集を作るために弓子さんの“あの声”が必要だとなれば、弓子さんの芳賀先生への思いを分かった上で、その声を先生に聞かせることだってする。先生の夢は自分の夢。その夢を果たすためには何でもする。そんな一面を持った人間のような気がしていました。
なので三角関係というよりは、ふたりの関係をちょっと遠くで見ているわけですね。自分が叶えたいのは春画対全が出来上がることで、そういう感じの関係性だったと思って見ていました。ただ、弓子さんは芳賀先生にとって今までとは違うということも感じていたので、応援しているような立ち位置もあり、そこはいいなと思いました。
●北香那さんについては、どのような印象を持たれましたか?
辻村のセリフに「なるほど、先生はその顔がお気に入りなのですか」とありますが、北さんのふくれっ面じゃないですけれど、表情がチャーミングでした。あと直情的な声量、声の出し方、またフォルムのギャップが魅力的だなと思いました。北さんの魅力全開な作品だなと思います。
●春画が題材のエンタメ映画はめずらしいと思いますが、完成した作品の感想はいかがでしたか?
まず春画というものが題材としてもちろんあり、そこからは思いもつかないような明るさとコメディがあることを感じました。ただ、塩田監督の目線みたいなものは、とても面白いなと思いました。芳賀先生が春画にはこれだけのことが書き込まれているも、書かないことによってここまで表現さているということをおっしゃいますけど、あれは台本を読んだ時から紛れもなく、塩田監督が実感されて書かれていたセリフだと思うんです。
たとえば雪は何も書かずに生み出しているとか、白というこのお尻の立体感も何も書かずして生み出しているとか、それは非常に素敵だなと思いましたね。その発想にいたるのが塩田監督だなと思いますし、この作品を観て、そういうものを感じていただけたら僕としてはうれしいなと。
●今日はありがとうございました。最後に一言お願いいたします。
これだけの春画作品が映画の中に映し出されるのは初めてのことで、面食らう入口は確かにあると思いましたが、春画先生の言葉に耳を傾けて見ていると、春画の見え方が全然変わります。個性豊かでユーモアで、本当に生きる喜びじゃないけれど、春画と書いているけど青春画ではないのかと。いたしている時間は確かに青春であり、楽しい時間、それで春なんだと、むしろ分かりやすくするなら青春画なんだと言ってもよいのではないかと思うんです。それくらい楽しくて豊かで、ユーモアがあり、そういう春画の新たな面を見てもらえる作品だなと思いました。作品としての面白み、物語の読めない展開など、信頼して劇場に来ていただければと思います。
■ストーリー
”春画先生”と呼ばれる変わり者で有名な研究者・芳賀一郎は、妻に先立たれ世捨て人のように、一人研究に没頭していた。退屈な日々を過ごしていた春野弓子は、芳賀から春画鑑賞を学び、その奥深い魅力に心を奪われ芳賀に恋心を抱いていく。やがて芳賀が執筆する「春画大全」を早く完成させようと躍起になる編集者・辻村や、芳賀の亡き妻の姉・一葉の登場で大きな波乱が巻き起こる。それは弓子の“覚醒”のはじまりだった。
Ⓒ2023「春画先生」製作委員会
(執筆者: ときたたかし)
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