『名探偵ポアロ ベネチアの亡霊』原作にはないホラー風味濃厚な演出で怪事件を盛り上げる:映画レビュー

全世界のミステリファン待望の映画『名探偵ポアロ ベネチアの亡霊』が9月15日(金)に公開されます。ケネス・ブラナーが主役エルキュール・ポアロと監督を兼ねたシリーズ3作目の本作は、アガサ・クリスティー原作『ハロウィーン・パーティ』をベースにし、大胆な改変と現代に通ずるアレンジをほどこした全く新しいミステリ映画として、原作を読んだ人も全く知らなかった人も同様に大変楽しめる作品となっています。

第二次大戦後、探偵業を引退しイタリアのベネチアで静かに余生を送っていたポアロでしたが、その名声はいまだ衰えず、依頼人やメディアから追われる毎日。そんなある日、友人のミステリ作家アリアドニ・オリヴァ夫人からハロウィーン・パーティに誘われます。ハロウィーンの日に子どもの亡霊が出るという屋敷で降霊会が行われるというのです。霊能者のトリックを暴くために参加したポアロらは不可解な超常現象を目撃。その後招待客の1人が人間わざとは思えない方法で殺害され、さらにはポアロ自身も命を狙われることに……。はたしてポアロは真相を暴けるのでしょうか?

原作がある作品の映像化と聞くと、原作に忠実かどうかということがまず話題になりますが、ミステリの場合はそれは必ずしも重要ではなく、むしろ面白い効果をもたらすこともあると思っています。被害者、動機、真犯人までもが改変されている映画やドラマも少なからず存在し、ミステリファンに挑戦しているのです。

自身も大のミステリ好きであるブラナー監督は『オリエント急行殺人事件』(2017年)ではエンタメ要素を濃くしてダイナミックに、『ナイル殺人事件』(2022年)では被害者や動機にも現代的なひねりを加えました。では本作はどうかというと、原作にはないホラー風味濃厚な演出で、嵐で孤立した不気味な屋敷で起こる怪事件を盛り上げます。

早川書房から新訳版が出たばかりの原作『ハロウィーン・パーティ』(山本やよい訳/クリスティー文庫)では、嘘つきで有名な13歳の少女がパーティで「殺人を目撃した」と言った直後に殺されてしまいます。彼女の言ったことは本当で、それが犯行の動機だったのか? ポアロがたどり着いた歪んだ真相とは……。イギリスの田舎からベネチアに舞台が移された本作は、ミシェル・ヨー、ティナ・フェイ、ジェイミー・ドーナン等、誰が犯人でも不思議はない俳優陣で、監督の自伝的作品『ベルファスト』(2021年)の少年ジュード・ヒルがまたもや侮れない演技を披露。ネタをばらさないよう詳細は伏せますが、原作既読の人なら登場人物たちの名前でまずニヤリとすること間違いなし。本か映画、どちらが先でも大丈夫ですが、未読の方は鑑賞後にぜひ原作も読んで2倍楽しんでください。

【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、「本の雑誌」連載、文庫解説等を執筆しています。

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