“GENERATIONSの映画”なのに容赦なく怖い『ミンナのウタ』清水崇監督インタビュー 「意外なところに怖さを持ってきたい」
『呪怨』の清水崇監督のホラー映画でありながら、人気ダンス&ボーカルグループGENERATIONSが本人役で主演するという異色すぎる映画『ミンナのウタ』が8月11日よりいよいよ公開。清水監督にお話を伺った。
制作の経緯としては、GENERATIONSがデビュー10周年を迎え、“彼らを主演にホラー映画を撮ってほしい”と清水監督が依頼された形だ。この依頼には監督自身も戸惑ったそうだが、完成した映画は“清水崇フルスロットル”な、容赦なく怖いホラー映画に仕上がっていた。しかしコミカルな要素もあり、笑いがあるからこそ恐怖が引き立つ構造だ。ゾクッときたかと思えばクスッと笑い、笑ったあとには全身を鳥肌が駆け巡るほど怖い思いをする、といった具合である。
GENERATIONSのファンだけではなく、しっかりとホラー映画ファンも満足させるという気概を感じる本作。清水監督に伺うと、「それが出来なかったら引き受けていないと思う」と嬉しい返事が返ってきた。GENERATIONSが所属するLDHも、「こちら側に寄せるよりも、“清水崇監督の映画”として作ってほしい」とのスタンスだったそうだ。
制作にあたって様々な制約があったが、それをクリアできるオリジナルの物語を共同脚本の角田ルミとともに書き下ろした。それは“呪いのメロディー”をめぐる物語。メロディーのイメージは『ローズマリーの赤ちゃん』や『悪魔の棲む家』の冒頭の曲だという。
“さな”という中学生の少女がラジオ局に送ったカセットテープを発端に、GENERATIONSのメンバーが彼女の呪いに取り込まれていくストーリーだ。Jホラーのアイコンたちにも劣らないインパクトを持つさなの中学生という設定については、「アイデンティティや心身の成長が不安定で、何か“衝動に駆られる”ことに抗えない、いちばん危うさがある年頃にしたんです」と監督。
敢えて“GENERATIONSが分からない”キャラクターを登場させる
ホラー映画が好きで本作を観に行く層には、GENERATIONSが分からないという人も少なくないだろう。実は清水監督自身もそうだった。そこで、そういった観客のために登場させたのが、マキタスポーツ演じる探偵の権田だ。呪いによって姿を消したメンバーの行方調査を依頼された権田だが、メンバーの名前の読み方すらおぼつかない。彼の存在が同じ立場の観客に寄り添い、更には笑いも生む。
清水監督「GENERATIONSについて詳しくない僕が、短い期間で頑張って彼らをちゃんと描こうとするよりは、“知らないし興味ないな”くらいの人が出てきたほうが“自分と一緒だ”っていう人も含めて巻き込めるし、それが最善だなと思ったんですよね。
当たり前のように出てきて、“みんな全員の名前知ってるでしょ”っていう映画をやられても、詳しくない人は“知らないよ”ってさめてしまう。それは映画監督としてもそうで。“清水崇を知らないのかよ!?”とか言う映画ファンがいるけど、“普通は裏方の監督なんて知らないよ……”と。そういう客観性は自分でも持ってないと危ないし、どんな映画にも働かせなきゃ。メンバーが本人役っていうのもあって、バランスを取る上でマキタさんのキャラっていうのは必要だった。その上で彼を観客の気の緩みに持っていく方向性にしたんです」
清水監督は以前から、“ホラー映画という枠組みでは笑いを狙ったシーンでも笑ってもらいにくい”とこぼしているが、本作では試写でもしっかり笑いが起こっていた。
清水監督「今回、マキタさんのシーンとか結構笑いを入れていて。そこは松竹さん(※配給会社)やLDHさんに“ふざけすぎです!”って言われないかなと思ったんですけど。全然誰にもツッコまれずに(笑)。
笑えるシーンは笑ってほしいですね。日本人のお客さんは真面目だから、“ホラーなのに笑っていいのかな?”ってなるじゃないですか? 海外だとほとんどの国の観客が、“うわあ!って大声あげて驚いても、そのあと笑ってるんです。それって多分人間の生理だと思うんですよ。緊張しすぎて“ギャー”ってなったあとに、その自分にも笑っちゃう、っていう。日本人は声を上げて怖がるのも笑うのも、周りの目を気にしちゃう。でも今回は初号試写のとき、メンバー全員がメンディーさんのリアクションシーンで笑ってくれたので良かったなと(笑)」
恐怖シーンのアイデアとこだわり
笑えるシーンはあれど、本作にはそれ以上に、頭にこびりつくような恐怖シーンがたっぷりだ。階段、シャワー、布団など、『呪怨』を想起させる場面のものも多数あり、さらには登場する男の子の名前が“俊雄”と来ている。「『呪怨』のセルフオマージュか!?」と心躍らされたのだが、清水監督は「テキトーに名付けただけで(笑)。全然そこまで意識していなかったです」と笑う。これまで生み出してきた様々な恐怖シーンのアイデアの根源は、自身の子供時代の“怖い想像”なのだそうだ。
清水監督「小学校4年生か5年生くらいのときに、“お化けがいるとしたら、布団をかぶってたって逃げようなんかないのかもしれない!”って思った途端、布団をかぶってる暗闇が怖くなって眠れなくなった。自分の想像で怖くなってしまうような子供だったので、そういう感覚を『呪怨』の時から紡ぎ合わせてやっている感じなんです」
そうやって作り出された恐怖シーンが、海外のホラー映画で踏襲されることもある。自身も本作では、イタリアンホラーの名匠マリオ・バーヴァの映画に登場した恐怖シーンを、よりソリッドに再現。そこには真似る上でのこだわりがある。
清水監督「(真似されるのは)ありがたいなとは思いながら、“ならば、オリジナルよりも、怖くなってないといけないんじゃないの”とも思いますね。どうせ真似するんなら超えてほしいなと思うし。今回僕は『ザ・ショック』の真似をしているんですけど、僕なりに本家を超えたと思っている。何もないゼロからの発想って実はなかなか難しいので、どういう風にアレンジしていくかっていうことが大事だと思う」
メンバーが何人もいるなかで、「次は誰をどんな目にあわせよう?」と思いながら脚本を作っていったという清水監督。中でも強烈なのは、さなの家でのシーンだ。
清水監督「明るく日が差しているような日常の一コマのなかに、どうやって不気味な要素を持ち込もうかと考えた時、生きているはずの目の前の人間が反復し始めたらどうか、と。そういうアイデアは昔から、他の映画でもあるにはあった。たとえば『リング』では、鏡の前で繰り返し髪をといて振り向く……を繰り返すシーンがある。あれを意識していたわけではないけど、何度目かには変わるんじゃないか、っていう怖さがありますよね。
あのシーンは敢えて平和な普通の生活のライティング(照明)を作っているんです。暗いところで当たり前に怖そうなシーンをやるよりは、なるべく意外なところに怖さを持ってきたいっていうのもあります。『忌怪島/きかいじま』も、あえて開放的な南の島を舞台にしたり。そのほうが油断もするし、緊張と弛緩の連続が恐怖と笑いを生むんです」
映画『ミンナのウタ』
8月11日(金)全国公開
出演:GENERATIONS 白濱亜嵐 片寄涼太 小森隼 佐野玲於 関口メンディー 中務裕太 数原龍友 / 早見あかり / 穂紫朋子 天野はな 山川真 里果 / マキタスポーツ
©2023「ミンナのウタ」製作委員会
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