ポピー・アジューダ インタビュー/Interview with POPPY AJUDHA
トム・ミッシュのアルバムやブルーノートのコンピレーション盤に参加したことをきっかけに注目された、サウス・ロンドン・ジャズ・シーン発のシンガー・ソングライター。社会・政治的メッセージの強い楽曲の数々は、バラク・オバマやアンダーソン・パークといった著名人からも称賛されている。先日ブルーノート東京にて開催された単独公演においても、自分らしく生きることの大切さを伝えるパワフルなナンバーから、これまでにはないポップ・センスにあふれた楽曲など、多彩な表情で観客を魅了。ジャズの枠を超えた、自身にしか表現できない眩い光を発していた。
━━今回のブルーノートでの公演で初来日になるのですか?
ポピー「実は以前に一度、アコースティックのパフォーマンスをやったことはありますが、メインのショーっていうのは今回が初。すごく良かったですね。楽しかったし、みなさんが一緒に歌ってくれたりなんかもして、自分の音楽が多くの人に知られているんだってことを感じられて嬉しかったです」
━━以前にはBLUE NOTEの名曲を再解釈したコンピレーション盤『ブルーノート・リイマジンド』にも参加。ブルーノートは縁深さを感じていますか?
ポピー「最初にコンピ盤の依頼をされた時に興味深いなと思って。しかもハービー・ハンコックの楽曲に関わることができたのもスペシャルだったし。また、今回はライヴ会場で、自分の楽曲を披露できたことを感慨深く思っています。しかも今の私はジャズから少し離れた音楽を制作していて、あの空間で新しい自分を表現できたことは貴重な経験になったと思う」
━━2022年にリリースされたアルバム『The Power In Us』とは、異なるサウンドになっているのですか?
ポピー「ええ。あのアルバムをリリースした頃から、もう新曲に取りかかっていたので、自分のなかであの作品はすでに完結したものになっているのです。 次はもっとポップとか、R&Bに寄り添ったものになると思うのですが、今の自分にとってそういう曲を書く方が心地いい。ミュージシャンって、リスナーよりも10歩先を行っているというか。常に次の作品のことを考えていると思うのです。今は、前と次のチャプターの中間地点という感じ。早くみなさんと新しい私をシェアしていただきたいですね」
━━そんな状況のなかで恐縮ですが、現状の最新作である『The Power In Us』について教えてください。
ポピー「青写真のようなものは描かずに、曲を書いていくプロセスで作品が仕上がっていくのを感じながら、徐々にアルバムの全体像が見えてきたという感じ。あの作品では、フェミニズムだったり、メンタルヘルスだったり、そういうものについて、自分なりのメッセージを伝えたいと思った。ラヴソングはいらないって。人々や世界を良い方向に変えていけるような、そういう作品を作りたいと思いました。なので、タイトルにも同じ思いが込められている。お互いが支えあうことの大切さを訴えた作品になったと思います」
━━当時は、世界に対して良い感情はなく、フラストレーションが溜まってた時期だったんですか?
ポピー「私の暮らしているイギリスでは特にさまざまな人種や指向を持つ方々がいる。そこで生まれる軋轢が大きな問題として、我々は日々直面しているのです。他の職業だと、それについて話しにくい環境もあったりすると思うのですが、私はアーティストなので、きちんと向き合って、生きづらさを感じている人を助けたいという気持ちがある。また、自分のことを隠さずに話し、聴いてもらうことによって、何かを感じてくれたり、救われた気持ちになってほしいという思いがあった。アーティストとしてそれをやることは、すごく大切だと思うのです。ただイギリスと東京では抱えている問題が異なるはずなので、どう響くのか心配していた部分があったのですが、来日公演でたくさんの人々の興奮を体感して、同じ思いを共有もらえたんだなって。あのアルバムを発表して良かったと心から思えました」
━━また、アルバムに込めた力強いメッセージをロックからポップ、ジャズまで幅広い音で響かせていますよね。結果、最後まで聴き飽きることなく思いが伝わってきました。
ポピー「曲それぞれが持っているパワーをどう表現したら効果的なのかを考えながら制作していました。例えば“Demons”では、エモーショナルなヴォーカルが印象的だと思うのですが、それを活かすためにストリングスを駆使して感情をより際立たせるものにしつつも、複雑にしたくなかったのでピアノのコードをシンプルにしたり。また“Holiday From Reality”は、とてもエナジーにあふれた楽曲。当時の私は、自分の抱えているアイデアをどう表現していいのかというフラストレーションがあって、その葛藤をありのまま閉じ込めた内容になっています」
━━“Holiday From Reality”はアルバムのなかで最もポップで開放的な仕上がりですよね。でもそのなかに心に抱えているモヤモヤを閉じ込めているというのがユニーク。
ポピー「この楽曲を制作していた頃は、自分の方向性がすでにポップへとシフトしていた時期。なので、他の収録曲に比べると異質な雰囲気がするのかも。でも、あの曲が大好きだったので、入れることにしました。実際、多くのリスナーの方からもいい反応をいただきました」
━━ヴォーカルに関してのこだわりは? ストロングに響かせるものから、ソフトに包み込むものまで、多彩な表情を聴かせてくれますが。
ポピー「自分が意識していることは、みんなに力を与えること。だからヴォーカルもそこを気にしながらも、曲の世界観を大切に歌っています。また、最近は以前よりも自分のヴォーカルの表現幅が広がってきたと思う。だから、次はもっと表情豊かな私を体感してもらえるんじゃないでしょうか」
━━本当に次のアルバムが楽しみですね。
ポピー「自分自身でも楽しみです。実は、ここ最近はアルバム制作のためにスタジオにこもりっぱなしで、ライヴをしていなかったのですが、今回パフォーマンスをしてみて自分でも多彩な声を使えているなって。より力強くなっている」
━━『The Power In Us』では、あえてラヴソングを排除されたそうですが、次のアルバムはどんな題材を扱うのですか?
ポピー「実はほぼ全曲がラブソングになりそう(笑)。あのアルバムを制作していた当時は、自分の恋愛がうまくいっていたこともあったし、それよりも世界がカオス状態だったことのほうに関心があった。でも、今は自分は人生の異なるステージにいる。それを感じてもらえる作品になるのでは」
━━では、固定的なイメージを作らず、常に新しいイメージを創造し続けたいと?
ポピー「自分自身がいろんなものに興味があるし、成長や変化ってものを、楽しんでいる部分もあります。幸いなことに、私の周囲にはたくさんインスピレーションを与えてくれる人や出来事があるので、それをスポンジのように吸収するんです。だから、作品を発表するごとにイメージが異なる。でも、次のアルバムに関しては、まとまりがあるようなものにしようかなと思っていて。これまで以上に、たくさんの人に楽しんでもらえる内容になるはずです」
━━ミュージシャンとしての最終的は目標はありますか?
ポピー「作る楽曲によって異なる思いが込められているし、すべての人に伝わるものを届けたいのですが、特に女性に向けている部分があります。あなたたちが、いかに特別で、素晴らしいかっていうことを伝えたい。それが伝われば、お互いが気遣える優しい世界に変わっていくと思う。自分の最終的なゴールは、そこにあると思います」
━━また、音楽だけでなくファッションも印象的ですよね。
ポピー「私はファッションも大好きで、必ず自分のアイデンティティを表現できているコーディネートでないと家を出たくないくらい。その人の個性が一番伝わりやすいのがファッションだと思っているし、とてもパーソナルなものだと思っているんです。特に私は世界中で買ったものを集めて、着るのが好きなんですね。そこでまた特別な意味が生まれると思う。ちなみに、今日着ているトップスは日本で購入したし、この後は下北沢にショッピングへ行くつもり。アルバムのヴィジュアルに関しては、『The Power In Us』がヘヴィーでディープな内容だったので、それに沿うスタイルにしていたのですが、次はもっとカラフルでオープン。フリーダムな感じを意識しようかなって」
━━その新しいアルバムはいつ頃リリースされそうですか?
ポピー「まずシングルを年内に発表して、年明けには届けられたらと思って一生懸命に制作しているので、楽しみにしていてください!」
photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos)
text Takahisa Matsunaga
POPPY AJUDHA
『Power In Us』
https://www.virginmusic.jp/poppy-ajudha/
サウス・ロンドンを拠点に活動。父親の影響で幼少期よりジャズをはじめ多様な音楽に触れ、10代より楽曲制作を開始。2018年にトム・ミッシュの楽曲「Disco Yes」にフィーチャリング参加し、注目を集めた。22年4月にデビュー盤『Power In Us』をリリースした。
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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