話題作『怪物』とA24配給の注目作『CLOSE/クロース』 共通点も描き方は異なる 合わせて観たい傑作

第75回カンヌ国際映画祭で「観客が最も泣いた映画」(BBC.com)と称されグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど各国の映画賞で47受賞104ノミネートを果たした『CLOSE/クロース』が7月14日(金)より全国公開となります。

監督を務めるのは、前作『Girl/ガール』で第71回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞し、鮮烈なデビューを飾ったルーカス・ドン。長編2作目となる本作では、学校という社会の縮図に直面した10代前半に自身が抱いた葛藤や不安な想いを綴る思春期への旅の始まりを瑞々しく繊細に描いた。主人公・レオと幼馴染のレミを演じるのは、本作で俳優デビューとなるエデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエル。子供でもなく大人でもない10代特有の揺れ動く心情を表現した二人には、世界中から賛辞が贈られています。

また色鮮やかな花畑や田園を舞台に無垢な少年に起こる残酷な悲劇と再生を描いたこの物語は、ヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界各国で上映され、海外の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では94%フレッシュ(2022.5.31時点)と高い満足度を記録。「感情を揺さぶるあまりの強さに打ちのめされた」(Screen)、「涙なしでは見れない傑作」(Los Angeles Times)と多くの映画人や観客を魅了している。さらに、映画ファンから絶大な支持を得る気鋭の映画製作・配給スタジオ「A24」が北米配給権を獲得したことも話題に。

第76回カンヌ国際映画祭で【クィア・パルム賞】を受賞し話題となっている是枝裕和監督の『怪物』。そんな話題作と一足早く本作を鑑賞した人から、この2作品が似ているという声が続出している。そこでこれから公開となる本作と絶賛公開中の『怪物』をご紹介します。

【1】カンヌ国際映画祭の受賞作!
是枝裕和監督の『怪物』は、第76回カンヌ国際映画祭の独立賞である「クィア・パルム賞」と「脚本賞」を受賞している。「クィア・パルム賞」は、2010年に創設されたカンヌ国際映画祭の独立賞のひとつで、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる賞で、日本映画としては初の受賞となる。一方、ルーカス・ドン監督の『CLOSE/クロース』は、第75回カンヌ国際映画祭にて「観客が最も泣いた映画」と称されグランプリを受賞、第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど、各国の映画祭で47受賞104ノミネートしている。

【2】主人公の子どもたちは映画初出演!
これまでに『誰も知らない』の柳楽優弥や『奇跡』のまえだまえだなど、こどもの生きた演技を引き出すことに長けている是枝監督。『怪物』でもその手腕は健在だ。主人公の一人であり、物語の中心人物となる湊を演じたのは、オーディションで選ばれ、今回が映画初出演となった黒川想矢。カットがかかってもなかなか湊から抜け出すことができなかったという苦悩も明かしているが、初出演とは思えない、視線を釘付けにする演技を見せている。

『CLOSE/クロース』の主演もまた映画初出演だ。主人公のレオと幼馴染のレミを演じるのは、エデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエル。共に本作が初演技で、こちらもまたその自然な演技が映画祭で絶賛されている。またレオを演じたエデンとルーカス・ドン監督の出会いは非常に運命的で、たまたま乗り合わせた電車で隣の席に座っていたエデンを監督自らスカウトしたという。ルーカス・ドン監督は当時のことを「エデンは友達とお喋りをしていたのですが、その様子を見ていると、彼には信じられないほど鋭く表現力豊かな資質を持っていることが分かりました。私は彼に話しかけて、この役のオーディションを受けるよう誘いました」と明かしている。

【3】クィア映画であって、クィア映画だけじゃない。型にはめられることの怖さを描く
カンヌ国際映画祭で『怪物』を「クィア・パルム賞」に選出したジョン・キャメロン・ミッチェル審査員長(監督作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』)は授賞式で「私たちは皆、本作に信じられないほど感動させられましたし(個人的には是枝監督のベストだと思っています)、この美しく構成された、男の子として期待される姿に適合できない2人の子供の物語は、クィアな人たち、そして型にはめられることに馴染めず、また馴染むことを拒否するすべての人たちにとって、力強い慰めになることでしょう。この映画はきっと命を救うでしょう。この嵐のような物語の中心にいるのは、他の男の子と同じようには振る舞えない、とても繊細だけれども信じられないほど強い2人の男の子です。彼らはお互いを見つけ、貴重な時間を過ごし、それは生きていくのに十分なことなのかもしれません。適合することができず、また適合することを望まない私たちクィアな人間は、この映画に敬意を表します」と述べている。

また昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した『CLOSE/クロース』も同じく、13歳になり中学校という社会の縮図の中で型にはまることの違和を感じつつ、それでも集団にいたいと思う主人公の葛藤を描いたルーカス・ドン監督。

監督はジャパンプレミアにて「この映画は自分にとっては愛についての映画だと思っています。ただその愛というのが必ずしも、名前のある愛ではなく、ラベルとかレッテルなどとは関係のない愛を描いた映画だと思っています。ただ(劇中のレオとレミのように)特に仲の良い二人組の男性がいた場合、親密性を恋愛か友情かで二分されてしまうことがあるんです。僕を含めた私たちがある種のそういった眼差しを持つように社会によって教えられてしまっていると思うんです。だからこの映画というのは、レオやレミという少年たちのミクロのアイデンティティがどんなものかについての映画ではなく、むしろそういった眼差し、私たちがどうしてそういう風に(彼らを)見てしまうのかということについての映画だと思っています」

「そして、この映画がクィア映画かと聞かれたら、それはそうですと答えます。僕にとってのクィア映画というのは、ジェンダー、セクシャリティーというものに対し、役割やルール、そして振舞いなどについて、勝手に紐づけられてしまうことに関しての映画が全てクィア映画だと思っています。ただ同時に本作で描かれている主人公の傷跡というのは、全ての人が抱える傷跡でもあるとは思っています。人によっては壊してしまったことへの罪悪感を抱えて生きている方もいると思うんです。だからそういったことも含めて、この映画はクィア映画でもある、でもクィア映画だけではないと思っています」とコメントしている。

期せずして、同時期公開となった『怪物』と『CLOSE/クロース』。どちらもカンヌ国際映画祭で高く評価され、子どもたちが主人公であり、似た題材をテーマにしているが、それぞれの描き方は全く違う。是非この機会に見比べてみてはいかがでしょうか。

『CLOSE/クロース』
7月14日(金)より全国公開
(C)Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。