『ザ・ホエール』ブレンダン・フレイザーにインタビュー「誰かの運命を変えるような作品に携われたことが何よりの誇り」
A24 製作・配給、ダーレン・アロノフスキー監督の最新作、ブレンダン・フレイザー主演『ザ・ホエール』が現在公開中です。272キロの巨体の男チャーリーになり切り、圧巻の存在感を見せつけたブレンダン・フレイザー。スター俳優として『ハムナプトラ』シリーズや『センター・オブ・ジ・アース』の主演を務めるも、プライベートでの不幸が重なりハリウッドの表舞台から長らく遠ざかっていましたが、本作でのパフォーマンスへの称賛はとどまることなく、ブロードキャスト映画批評家協会賞、全米俳優組合賞(SAG)、サテライト賞(ドラマ部門)にて〈主演男優賞〉を受賞し、そしてついに本年度アカデミー賞で〈主演男優賞〉を初受賞しています。
先日映画のプロモーションのため来日したブレンダン・フレイザーさんに映画についてお話を伺いました!
――本作は、原作者のサム・D・ハンターさんの個人的な経験や感情がもとになっているお話です。ある意味、実在の人物を演じることにも近い部分があるかと思うのですが、そういった緊張はありましたか?
もちろん緊張はありました。ただ僕は、自信を持ちすぎた状態で役に臨むというのは、役者の仕事として正しい姿勢ではないと思っていて、その緊張は良いものだと思っています。サム(ハンター)の人生における経験が脚本に肉付けられている作品ですから、チャーリーを演じるうえでは、きっとエモーショナルな意味での重みを背負うことになるだろうということは理解していました。撮影前に、3週間もがっつりとリハーサルをすることができました。その期間があったおかげで、自信を持つことが出来ました。
――どの様にこの役にアプローチしようと思いましたか?
チャーリーという役は、自分のもろさや正直な部分を求めるような役ですよね。これまで舞台ではいろいろな役者がチャーリーを演じてきたけれど、アグレッシブで怒りの部分を強調したチャーリーが多かったようです。舞台の場合は、そのほうが上手くいくのかもしれない。しかし映画の場合はディテールのすべてまで映像に捉えることができるので、アグレッシブさよりも、ひたすら誠実に演じることが大事だと考えました。僕の演技を見たサムは、「理想のチャーリーだった」と言ってくれたんです。そうやってサムは、いつも褒めてくれるんですよ
――ダーレン・アロノフスキー監督は“鬼才”と称されることもある方です。お仕事をご一緒してみていかがでしたか?
ダーレン監督との出会いは自分の人生において、本当に大きなものだったよ。どんな役者でも、彼と仕事をしたいと思うものですよね。声をかけてもらえて、本当にラッキーだった。当初、ダーレンに対して脅威を感じていたことは認めます(笑)。ダーレンがアーティストであり、コラボレーションする相手に高いスタンダードを求める方だからこそ。それはとても良いことで、みんなの能力を引きあげることになるんですね。よくダーレンが言っているのが、「僕はもし映画監督にならなければ、野球の審判になっていたと思う」ということ。それくらいすべてを見通す力を持っているし、最終的な判断を下すことができる人。それでいてダーレンは、誰であろうと現場でアイデアを出すことを認め、一番いいアイデアを選ぶことができる。それこそが、彼が監督として秀でている証拠だと思う。僕は彼に敬意を感じているし、自分に寄せてくれた信頼に対してもリスペクトを感じています。
――とても信頼を持って、作品に取り組めたのですね。
皆さんも同じだと思うけれど、コロナ禍ではみんながお互いの健康と安全を考えて、慎重に振舞っている。本作の撮影現場も同様で、そのお互いへの思いやりが材料となって、作品の質につながったと思っています。僕は、役者として知っていること、やれることのすべてを出し尽くすだけだと思っていたので、そこでなにか「自分を証明しなければ」という気持ちもなかった。その結果、出し尽くしたという実感を得ることが出来ました。ただ、全部出し尽くしたあとには、「これが観客の皆さんに届かなかったらどうしたらいいんだろう」という気持ちにもなりましたが、最初の映画祭でのプレミア上映を観ている時から、本作の放つものと観客の想いすべてが合致したような気がしたんです。このストーリーは、私たちが人生において見過ごしてしまうかもしれないような日常の風景を見せてくれる。あらゆる人々にとって、共感力を呼び覚ます旅ができるような作品になったのではないかと思います。
――日本の観客も本作にとても心を震わせると思います。
本作を観た人から、「疎遠になっている家族と連絡を取りたくなった。連絡出来るような気がする」と言われることがよくあるんだけど、とても嬉しいんだ。映画には、何かを悟らせてくれる作品、ただただ娯楽として楽しませてくれる作品、そしてその両面を持ったものもあります。僕自身、そういった両面を持ち合わせた作品に関わっていきたいと思っているし、出来ればそれが社会に貢献できるようなものであれば、とても幸せです。本作のように「これは自分の人生に重なるな」と思わせてくれたり、深く心に響き、しっかりと語りかけてくれたりするような作品。そういった作品と巡り会えると、とても報われた気持ちになります。
本作においては、肥満症と戦う人々を支援するグループ「OAC(the Obesity Action Coalition)」と連携をしながら撮影が進められましたが、完成作を観た「OAC」の方々からいただいた手紙に「この作品は、絶対に誰かの命を救うと信じています」という一文があったんです。この仕事が誰かの命を救うだなんて考えたことがなかったので、ものすごく報われた気持ちがしました。もちろんオスカーをいただけたことは、とても光栄でうれしいこと。でも誰かの命を救ったり、誰かの運命を変えるような作品に携われたと思うと、何よりもそれは価値のあることだなと思いました。
――チャーリーはエリーが書いた「白鯨」のレビューを心の支えにしていて、そういった存在がブレンダンさんご自身にもありますか?
息子が7歳の時に、「ホットチョコレートを探しに行くお猿さん」という本を一冊書いたんだ。イラストも全部自分で描いてね。それが本当に素晴らしくて、僕にとってその本が宝物だよ。
――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!
監督:ダーレン・アロノフスキー(『ブラック・スワン』『レスラー』)
原案・脚本:サミュエル・D・ハンター
キャスト:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
【2022 年/アメリカ/英語/117 分/カラー/5.1ch/スタンダード/原題:The Whale/字幕翻訳:松浦美奈】
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【ストーリー】
ボーイフレンドのアランを亡くして以来、現実逃避から過食状態になり健康を害してしまった 40 代の男チャーリー。アランの妹・看護師のリズの助けを受けながら、オンライン授業でエッセイを教える講師として生計を立てているが心不全の症状が悪化し、命の危険が及んでも病院に行くことを拒否し続けている。しかし、自分の死期がまもなくだと悟った彼は、8年前、アランと暮らすため家庭を捨てて以来別れたままだった娘エリーに再び会おうと決意。彼女との絆を取り戻そうと試みるが、エリーは学校生活や家庭に多くの問題を抱えていた….。
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