EL・アプト式列車にトーマス号も。静岡・大井川鐵道は走る博物館
列車に乗ることと食べることが大好きな、食べ鉄のマサテツです。よろしくお願いします!
今回は静岡県を走る「大井川鐵道」を旅してきました。大井川鐵道は、貴重なSL・EL列車や期間限定のきかんしゃトーマス号、日本で唯一のアプト式列車などが走る、子どもから大人まで楽しめる魅力がいっぱいの路線です!
東京駅
東海道新幹線で金谷駅へ
静岡県のJR静岡駅までは、JR東京駅から東海道新幹線で約1時間20分。ここから東海道本線に乗り換えて、大井川鐵道の始発駅・金谷駅を目指します。
大井川鐵道は、静岡県島田市の金谷駅と静岡県榛原郡川根本町の千頭駅を結ぶ全長39.5kmの「大井川本線」と、千頭駅と静岡県静岡市葵区の井川駅を結ぶ全長25.5kmの「井川線」という、2つの路線があります。
金谷駅できっぷを購入すると、手渡されたのは厚紙のきっぷでした。これは硬券乗車券といって、明治の鉄道創成期の頃から使用されていたきっぷ。自動改札機に通すことができないので、今ではほとんど見かけることはありません。大井川鐵道の硬券乗車券はとても貴重なものなのです!
まずは金谷駅から新金谷駅まで普通列車に乗車します。ホームに止まっていたのは、元々は東京の東急電鉄で活躍していた7200系。大井川鐵道にはほかにも、元・近鉄の16000系や元・南海電鉄の21000系などといった車両が、今でも現役で活躍しているのです。
新金谷駅にやってきました。木造2階建ての駅舎は、1926年から1927年にかけて建築されました。戦前の洋風建築は、今でも当時の面影を残していて、2018年に登録有形文化財に指定されました。
また、SL・EL列車の拠点駅でもあるため、駅前にある転車台付近からはSLやELの姿を見学することができます。
新金谷駅構内にある転車台。転車台とは、機関車を進行方向に向けるための装置。蒸気機関車が活躍していた時代は全国にありましたが、今でも稼動する転車台はごくわずかです。
転車台に乗っている蒸気機関車はC12形164号機。大井川鐵道は6両の蒸気機関車を所有し、そのうちの4両は、今でも現役で運行しています。
プラザロコ
プラザロコで駅弁を購入
列車の旅に欠かせないのが駅弁! 列車に乗車する前に、まずは新金谷駅の向かいにある「プラザロコ」で駅弁を購入することとします。
プラザロコにはSL・EL急行券を販売する窓口やおみやげ屋さんなどがあります。また館内の奥には「ロコミュージアム」があり、古い機関車や駅舎などが展示されています。
この日は3種類の駅弁が販売されていました。私がチョイスしたのは「大井川ふるさと弁当」。
おぉー! おかずが盛りだくさん! 竹皮に包まれているのがいいですね!
梅干しと菜っ葉の大きなおにぎり。椎茸、筍、ごぼうの煮物。里芋は甘いお味噌が塗られた田楽風です。日本では、静岡県の駿河湾でしか水揚げされないという桜海老の佃煮(写真・左下)も入っています。
メインはイワナの甘露煮。頭からガブリ! 甘く煮付けられていておいしい! 列車旅に似合う素朴なお弁当でした。
新金谷駅
ホームにきかんしゃトーマス号が!
列車に乗車するために駅へ向かうと、ホームに止まっていたのは、なんときかんしゃトーマス号!
この日は、たまたまきかんしゃトーマス号の運転日だったのです。近くで見ても、本当にきかんしゃトーマスそのものです!(※)
※編集部注:きかんしゃトーマス号について、詳しくはこちら
きかんしゃトーマス号をお見送りし、続いてやってきたのは、今回乗車するEL急行・かわね路号。ELとは電気機関車(Electric Locomotive)のことで、大井川本線では、2形式の電気機関車が活躍しています。
そのうちの1形式が、今回のE31形電気機関車。1986年から1987年にかけて西武鉄道で製造され、2010年に大井川鐵道にやってきました。
EL急行・かわね路号は、客車も魅力的!
EL急行の客車は、昭和初期に製造された旧型客車と呼ばれる車両。木の床や扇風機、栓抜きなど、当時のままの空間で列車旅が楽しめるのです!
新金谷駅を発車したEL急行。金谷の街を離れると、やがて車窓には大井川が見えてきました! 大井川本線は終点の千頭駅まで、大井川に沿って走ります。雄大な川の流れや奥深い山々と、大井川の自然を満喫できます。
車窓に茶畑が見えてきました。大井川流域はお茶の産地としても有名で、なかでも川根地区は日本三大銘茶産地の一つといわれています。周囲を山々に囲まれて日照時間が短く、昼夜の寒暖差などお茶の生育に恵まれた環境なのだそう。
家山駅
家山川橋梁の撮影スポットへ
EL急行は家山駅に到着。
家山駅は1929年に開業しました。開業当時の面影が残るレトロな駅舎は、映画のロケに使用されたこともあるのだとか。
家山駅から徒歩約10分の家山川橋梁にやってきました。ここは、家山川の河川敷から列車を撮影することができるビュースポットなのです。ちょうど普通列車がやってきたので撮影してみました!
春になると、桜並木を抜けてくる列車を撮影することができ、多くのカメラマンが訪れるそうです。
これで1日目の旅は終了。この日は島田市内に宿を取り、明日の旅に備えます。
千頭駅
井川線に乗車
旅の2日目。まずは金谷駅から大井川本線の列車に乗り約1時間15分の千頭駅へ(※)。ここから井川線、通称「南アルプスあぷとライン」のアプト式列車に乗車します!
※2023年2月現在、大井川本線の「家山駅-千頭駅」間は、台風15号による被害のため運休中。代行バスでの運行となります。詳しくはこちら
ホームに止まっていたのは、大井川本線の車両と比べるとひと回り小さいサイズの車両。少しかがんで乗車しないといけません。
井川線は1935年に開業しました。元々は、大井川水系の水力発電所建設の為に資材運搬用として造られた森林鉄道だったので、車両のサイズが小さいのです。
井川線では「プッシュプル運転」と呼ばれる方式を採用しています。一般的に、機関車と客車をつないだ列車は機関車が先頭にある必要があるので、終点の駅で機関車を入換しなくてはいけません。ところがプッシュプル運転は、機関車の入換をしなくてもいいように、客車にある運転席から遠隔でディーゼル機関車を操作することができ、機関車を入換する手間を省くことができるのです。
井川線は千頭駅から井川駅までの間に、61か所のトンネルと55か所の橋梁を通ります。
アプト式列車区間
日本で唯一のアプト式列車区間へ
列車はアプトいちしろ駅に到着。ここからは日本で唯一のアプト式列車区間へと入ります。
アプト式とは急勾配を上るための鉄道システムの一種。井川線では90パーミルという日本一の急勾配を上るために採用されました。アプト式列車区間では、列車の後ろに強力な電気機関車を連結し、さらに、通常の線路に加えて写真(上)のレール中央に見える「ラックレール」というデコボコした歯形のレールに、アプト式電気機関車についている「ラックホイールピニオン」という坂道専用の歯車を噛み合わせながら走行します。
写真(上)の奥に見えるのがここまで乗車してきた車両。手前のアプト式電気機関車との大きさの違いがよくわかりますね。
列車はアプトいちしろ駅を発車。90パーミル、つまり直線で1,000m走行する間に90mの高さを上り下りするのです。
車窓に長島ダムが見えてきました! 今走っている「奥泉駅―接岨狭峡温泉駅」間は、長島ダムの建設に伴い現在の線路に切り替えられました。
列車は長島ダム駅に到着しました。アプト式列車区間はここまで。アプト式電気機関車を切り離します。
奥大井湖上駅
眼下に接岨湖が見渡せるビュースポット
車窓に広がるのは、長島ダムのダム湖である接岨湖(せっそこ)。東京のレインボーブリッジより早く命名された奥大井レインボーブリッジを渡ると、湖上に浮かぶように佇む奥大井湖上駅に到着します。
周辺に民家のない秘境駅ですが、接岨湖の絶景が望めることから、観光客に人気の駅。この日も多くの乗客が奥大井湖上駅で下車していました。
最近では、恋に効く「奥大井恋錠駅」として、恋愛・結婚・子宝にまつわる静岡県のエンゼルパワースポットとしても人気なのだとか。
まずは、奥大井湖上駅を眼下に見渡せるビュースポットを目指します。湖に囲まれた奥大井湖上駅から対岸へ渡る手段は、鉄橋沿いに設けられた歩道のみ。線路は目と鼻の先。列車が通る時は大迫力でしょうね!
急な階段と山道を上り、奥大井湖上駅から約15分で奥大井湖上駅と接岨湖を望むことができるビューポイントに到着! 見てください、この素晴らしい景色! あまりの美しさに、しばし見惚れてしまいました。
接岨湖を囲む山々は、秋には紅葉が美しいことでしょう。名残惜しいですが、そろそろ奥大井湖上駅に戻りたいと思います。
奥大井湖上駅には、駅を見下ろす展望コテージがあります。次の列車の時間まで、ここでゆっくりすることにしましょう。
そろそろ帰りの列車の時間。再び井川線で千頭駅へ。大井川本線に乗り換えて金谷駅へと戻ります。
帰りはJR掛川駅から東海道新幹線に乗車し、東京へ戻ります。
EL列車、レトロな駅舎、そして硬券乗車券など、大井川鐵道はまるで走る鉄道博物館。さらに大井川の自然に触れながら、ゆったりとした時間を過ごすことができました。皆さんもぜひ大井川鐵道を訪れてみてはいかがでしょう!
東京駅
掲載情報は2023年3月14日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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