静岡・岳南電車の「夜景電車」。車窓から工場夜景を味わう列車旅
もともとIT系のライターですが、そこから派生して今はカメラや古地図、歴史散歩などの執筆も手がけている荻窪圭です。名古屋出身東京在住ということもあり、取材仕事に加えて帰省やらなにやらで何度も東海道新幹線に乗ってますが、狙いは常に富士山が見えるE席です。
今回訪れるのは岳南電車。知らない人は「どこ?」と思うかも知れませんが、岳南の「岳」は富士山のこと。富士山の南側を走る静岡県のローカル線です。その岳南電車が、路線・駅舎・車両を含めた「日本夜景遺産」のひとつに認定されているので、昼と夜の魅力を味わいに行ってきました。
東京駅
東海道新幹線「ひかり」で静岡駅へ
岳南電車の始発駅は東海道本線のJR吉原駅に隣接していますから、そこへ向かうため、東海道新幹線「ひかり」でJR静岡駅へ向かい、東海道本線に乗り換えます。
吉原駅
静岡駅から東海道本線で吉原駅へ
無事、静岡駅着。東海道本線の上りに乗り換えて約40分で吉原駅です。
「吉原」は江戸時代に東海道の宿場があった場所。すぐ近くには万葉集などの和歌で有名な「田子の浦」もあります。昔から富士山も楽しめる名所だったようですね。
案内に従ってホームの一番西側へ向かうと、遠くに岳南電車の吉原駅が見えてきました。
岳南電車
全駅で富士山が見える岳南電車
列車旅1日目のテーマは岳南電車三昧です。昼間は岳南電車と富士山の眺望を楽しみ、夜は「夜景電車」(要予約)を楽しみます。
吉原駅の改札を出ると右手は駅の外、正面が岳南電車・吉原駅の改札口です。
まず窓口へ。夜景電車の予約をしてある旨を告げて支払いをし、夜景電車用の「1日フリー切符」を受け取ります。
夜景電車は、1日フリー切符に加えて夜景電車乗車証明書やドリンク、お菓子がセットなのですが、先に乗車券だけもらったわけですね。そうすると、昼間も岳南電車が乗り放題なのです。
夜景電車の予習も兼ねて、昼の岳南電車を楽しみましょう。岳南電車は約9.2kmで全10駅と短い上に、1時間に約2本のペースで行き来してますから途中下車もできるのがいいところ。
さらに、私の考える岳南電車の良さが2つ。ひとつは富士山。(天気が良ければ)全駅から富士山が見える上に、車窓にもちらほらと顔を出してくれます。もうひとつは沿線の工場風景。製紙工場を中心に発展した工業地帯の貨物輸送を兼ねていたので、工場街を通り抜けていくのです。
この日は運良く空晴れ渡り、車窓から工場越しに富士山も。
そして見逃してはいけないのが、「岳南原田駅ー比奈駅」間。なんと、巨大な工場のなかを列車が走り抜けるのです。工場好きではなくても目をみはるに違いありません。
がくてつ機関車ひろば
岳南富士岡駅で機関車ひろばを堪能
岳南富士岡駅で途中下車。この駅のみどころは、岳南電車の車庫や古い車両が展示されている「がくてつ機関車ひろば」です。
下車したらまず、プラットホームの「富士山ビュースポット」から富士山を見上げましょう。全駅におすすめの富士山ビュースポットが示されているのです。
留置された電気機関車の間から富士山、という構図がいいですね。
ホームの横には何両もの古い車両が無造作に留置されています。これが、がくてつ機関車ひろばです。
素朴な駅舎を抜けて、ひろばへ行きましょう。
展示されているのは4両。ED291とED501は戦前に、ED402と403は戦後に製造された、かつて貨物を引っ張って走っていた懐かしの電気機関車です。
特にED291は1926年製造という古いもの。それが1993年まで現役で走っていたのですからびっくりです。ED291とED501は10時から16時までの間、ステップ(踏み台)から運転台を見学することもできます。
がくてつ機関車ひろばを堪能したら終点まで。終点の岳南江尾駅からは東海道新幹線の高架越しに富士山が見えます。
岳南電車
本吉原駅は登録有形文化財
では折り返して吉原駅へ戻ります。
途中で本吉原駅に立ち寄り。注目はプラットホームと上屋です。ここ、1950年に「吉原駅」として開業した時のプラットホームと1968年に竣工したホーム上屋が登録有形文化財となっている駅なのです。シンプルな無人駅ですが、文化財と思うと側壁の石積みが味わい深くなります。
本吉原駅からも富士山をチェック。ホームの斜路を下りたあたりから駅の入口を示す看板とともに撮ってみました。
ちなみに一駅隣が吉原本町駅。岳南電車には、吉原駅・吉原本町駅・本吉原駅と「吉原」がつく駅名が3つもあります。どれが吉原の中心? というと、「吉原本町」駅なのです。
駅前が旧東海道で、吉原宿があった場所。宿場町はそのまま商店街になっています。江戸時代創業の旅館や和菓子屋、明治時代創業の金物屋など老舗も残っています。
夜景電車
夜景電車で夜に親しむ
吉原駅に戻り、いよいよ夜景電車の時間。
18時に受付がスタートし、岳南電車オリジナルパッケージのミネラルウォーターと、岳南電車と富士つけナポリタン(つけナポリタンは吉原のB級グルメ)がコラボしたかつおぶしチップス「バリ勝男クン。」を受け取ります。ミネラルウォーターは富士山麓の水、「バリ勝男クン。」のかつおぶしは焼津産などご当地ものなのがうれしいところです。
夜景電車のヘッドマークがついた車両が入線。
夜景電車は夜景を楽しむ列車。2両編成の1両が夜景用車両で「走行中は車内消灯」「夜景がよく見えるよう窓は全開に」という大胆なもの。さらに、岳南電車の方が解説してくれる上に、地元のボランティアの方がフォローしてくれるといういたれりつくせりです。
何しろ車内は真っ暗。奥に見えるのが通常の車両、手前の真っ暗なのが夜景用車両。夜景用車両はみんな窓に張り付いて外を見ています。
窓の外も基本は真っ暗。でもその中にほんのりとともる工場や街の灯りがいいのです。そこには「夜」があり、夜の中にほんのり灯りが見え隠れする様子こそが「夜景」なんだなと思います。
かなり暗い中を通常の速度で運行する車両からの撮影はハイレベルですが、2箇所だけきっちり押さえることができました。ひとつは岳南富士岡駅のがくてつ機関車ひろば。展示されている機関車がほんのりとライトアップされています。
もうひとつは「岳南原田駅-比奈駅」間の工場街。夜の工場を駆け抜ける様子はたまりません。
夜景電車ではボランティアの方が「動画で録るのがいいですよ」とアドバイスをくださったので、工場街を駆け抜ける夜景電車の車窓を動画でも。
そして、終点の岳南江尾駅で折り返し、夜の吉原駅に戻って往復約1時間の旅も終了。「夜」を味わえる素晴らしい企画でした。
堪能したら向かいにあるJRの改札口から東海道本線で静岡駅へ。今日は静岡駅近くのホテルに宿泊です。
静岡県庁 富士山展望ロビー
静岡県庁から富士山を眺める
2日目の朝。幸いなことに晴れ。静岡市は江戸時代は駿府。徳川家康が晩年に居住した駿府城が有名で、明治時代にその一角に静岡県庁がつくられました。
県庁の別館の21Fに「富士山展望ロビー」があるのです。さっそく駿府から見える富士山を楽しみに行きましょう。静岡駅から徒歩約10分。古くても立派な本館は、1937年築の登録有形文化財です。
その右奥にある高層ビルが別館。エレベーターで一番上へ登ると、広い富士山展望ロビーが現れます。窓に近づくと、眼下に駿府城跡の駿府城公園、ちょっと雲はありますが奥に富士山が見えます。
朝は山頂に雲がかかっていたので、午後に再挑戦。やはり「頭を雲の上に出し」が富士山ですよね。
眼下に見えるとおり、県庁から駿府城跡はすぐ。2023年1月には別館のすぐ脇に「静岡市歴史博物館」もオープンしますから、歴史好きの人は足をのばしてみましょう。
河童土器屋
河童土器屋で絶品の海鮮丼
お昼は静岡市役所近く、大手御門跡から徒歩5分ほどの場所にある人気のお店「河童土器屋」(トルコの遺跡、カッパドキアをもじった名前でしょう)へ。
ここは海鮮丼と天丼がおすすめのお店。メニューには「特に上海鮮丼がおすすめ」とあるので、それしかないでしょう。9種のネタがのった上海鮮丼は実にバリエーション豊かな上に盛り付けもきれいで美味しい。
これはおなかいっぱいになります。時間と体力がある方は江戸時代の城下町で東海道も通っていた駿府を散歩するのもいいでしょう。
静岡駅
静岡駅から東京へ
帰りも静岡駅から東海道新幹線「ひかり」で東京駅へ。
2日とも天候にもめぐまれ、昼夜の岳南電車と富士山三昧の旅でした。岳南電車は、たった9.2kmにもかかわらず、往古から人々をひきつけてきた富士山・江戸時代から続く街・昭和を築いた工場街など、富士山と人々の営みの歴史を見せてくれるのが醍醐味かなと思います。夜になるとその歴史をより感じさせてくれますから、夜風を浴びながらの夜景電車も最高です。
東京駅
掲載情報は2023年2月8日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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