ドラマ『ガンニバル』レビュー「人間の暗部を描く手腕に長けた、片山慎三監督ならではの人間ドラマ」

日本からも動画配信サービス発の名ドラマシリーズが生まれるようになって久しい。ディズニープラスの「スター」で2022年12月28日から独占配信された「ガンニバル」は累計発行部数210万部を超える二宮正明の同名コミックを原作に、監督は『パラサイト 半地下の家族』で知られるポン・ジュノの助監督を務めた後、監督デビュー作『岬の兄妹』と商業映画デビュー作『さがす』で数々の賞を受賞した片山慎三。脚本は、『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した大江崇允。主演は、世界から絶賛された初主演映画『誰も知らない』をはじめ、多くの名演を見せる柳楽優弥。グローバルに活躍する顔ぶれが結集した大注目作だ。

柳楽が演じるのは、ある事件を起こしたことをきっかけに山奥にある供花村に駐在として左遷された警察官・阿川大悟。大悟は妻の阿川有希(吉岡里帆)と、話すことができなくなってしまった娘・ましろ(志水心音)と共に供花村に到着し、村人たちに挨拶をして回る。笑顔を浮かべて大悟を囲み、人懐っこい口調でしきりに「駐在さん!」と呼びかけ、自慢の無農薬野菜をプレゼントする村人たち。冒頭の大歓迎ぶりからして、「この村には何か秘密があるんじゃないか」と勘繰ってしまう怖さがある。その一見平和なムードをかき消すように、村を支配する後藤家の次期当主・後藤恵介が、「うちの山で死体が見つかった」と告げ、やがて「この村では、人が喰われている」という噂が大悟の耳に入る。

国家が定めた法律なんぞ存在しないかのように絶対的な権力を振りかざす後藤家の面々。前任の駐在はなぜ消えたのか? 供花村では本当に人が喰われているのか? 真相に迫るべく、独自に捜査を始めた大悟は後藤家と対立するが、そんな大悟を村人たちが監視するような構図が生まれる。それは、あらゆる場所から視線が注がれる現代のネット社会や同調圧力にも重なる。

ぎょっとするような場面も多く、ホラー作品としても十二分に楽しめるが、そこは人間の暗部を描く手腕に長けた片山慎三監督。家族を守るべく奔走する大悟の狂気と、自分たちの居場所を守るべく殺気立つ村人たちの狂気が至るところから滲み出ており、この対立が多層的な人間ドラマに発展していくであろう予感に満ちている。深い傷を負った阿川家がどう再生していくかも見所のひとつだろう。

12月28日には1話と2話が配信されたが、今後は毎週水曜日に1話ずつエピソードが追加され、全7エピソードが配信されるという。

『ガンニバル』
■原作:『ガンニバル』二宮正明(日本文芸社刊)
■配信:ディズニープラス「スター」で12月28日より独占配信
■監督:片山慎三、川井隼人 ■脚本:大江崇允 ■プロデューサー:山本晃久、岩倉達哉
■出演:柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、北香那、杉田雷麟、山下リオ、田中俊介、志水心音、吉原光夫、六角精児、酒向芳、
矢柴俊博、河井⻘葉、赤堀雅秋、二階堂智、小木茂光、利重剛、中村梅雀、倍賞美津子
■クレジット:© 2022 Disney

【書いた人】小松香里
編集者/ライター。音楽・映画・アート関連の記事を中心に幅広く携わる。ご連絡はDMまたは komkaori@gmail~ まで

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