泣かせようとして作っているわけではないのです――新海誠監督が語る最新作『言の葉の庭』(前編)

『秒速5センチメートル』など美麗なアニメーションとセンチメンタルな物語が高い人気を誇るアニメーション作家・新海誠監督。5月31日には待望の新作『言の葉の庭』が劇場公開となります。

『言の葉の庭』は、新海監督が初めて現代の東京を舞台に描く恋の物語。靴職人を目指す高校生・タカオ(CV入野自由)が、ある雨の日に年上の女性・ユキノ(CV花澤香菜)と出会い、雨の日だけの逢瀬を重ねて心を通わせていくというストーリー。既に公開されている予告では、タカオがユキノの為に靴を作ろうと足型を取るシーンなど美しい映像を観る事ができます。

5月5日(日)には徳島で開催されたアニメイベント「マチ★アソビ Vol.10」に新海監督が登場。新海作品に多く出演する声優の水野理紗さんと共にトークショーを行い、会場には300人ほどの熱いファンが押し寄せました。

思春期っていうのは「セカイ系」だと思うんです

新海監督:水野さんにはいち早く『言の葉の庭』をご覧いただきましたが、いかがでしたか?

水野:毎回そうなんですが、「なんでこんなに泣かせるんだ!」って(笑)。それにとても繊細で、色んなものに象徴が込められていますよね。どんどん高まっていくドラマにも一つとして無駄なものがなくて。涙なしには観られない作品ですね。

新海監督:泣かせようとして作っているわけではないのですが(笑)。だけど水野さんのように、誰かの心を動かせたのであれば嬉しいですね。

映画の予告の冒頭に、タカオ役の入野自由さんの声で「まるで世界の秘密そのものみたいに彼女は見える」という台詞があります。僕の作品は、一種の揶揄として「セカイ系」と言われることがあります。個人と個人の物語ばかりで社会の話をしない、といったことを言われるわけですが、だけど思春期っていうのはそういうものだと思うんです。まさにこの台詞でも〈彼女=世界〉ということが言われています。だけどこの『言の葉の庭』が終わったときに、主人公が〈彼女≠世界〉ということに気づく、この映画はそういう物語なんだと思います。

ドキっとする甘やかな声……新しい花澤香菜さんの魅力

水野:男の子が女性の足をなぞるシーンが出てきますね。

新海監督:主人公の少年が靴を作るという話なのですが、15歳の少年が27歳の女性の足を書いている、というちょっと色っぽいシーンです。水野さんが実際にそういうお願いをされたらどうします?

水野:うーん……ちょっと勇気が要りますよね(笑)。

新海監督:ユキノはそれだけ自分を差し出している、ということですし、あるいは前日にたまたまペディキュアを塗っていたからOKということかも知れないし(笑)。今回は女性に色んな話を聞きましたね。女性がちょっと落ち込む瞬間ってどんな時ですか? とかね。

次はユキノがベットに倒れこむシーンですね。やっぱり、僕は「胸」を見せたいと思ったんです。女性を神秘的かつセクシャルに見せたかった。倒れて、そのあと深呼吸で胸が動いてるんですよ……ってやめましょうかこの話(笑)。

ユキノの役を花澤さんにお願いするとき、すごく迷ったんですよね。27歳の役なので、25歳以上の方にお願いしようと思ったんですが、花澤さんのテープが送られてきて。「規定の年齢に達してないのに……」って思ったんですが。ただ花澤さんって、ドキってするくらい甘やかな声を、ふとした瞬間に漏らすことがあるんですね。当時23歳だったんですが、そのギャップが良かった。生意気かも知れないけれど、花澤さんの新しい魅力が引き出されていると思います。

日本庭園と雷と雨。徹底してこだわった美術表現

水野:今回はメインの舞台として日本庭園がありますね。

新海監督:今回は美術監督を滝口(比呂志)さんにお願いしています。一見、写真のように写実的なんですけど、よく見ると絵画的なんですね。滝口さんは山本二三さんを敬愛しているそうで、それがよく出ていると思います。グーグルスケッチというソフトを使って架空の空間を作り上げています。続いてユキノが立ち上がるシーンですが……。

水野:後ろで光る雷が印象的ですね。

新海監督:立ち上がる瞬間に雷が光っている、というのはアニメで見るからこそ自然に見えるんだと思います。これを実写でやるとわざとらしくなってしまう。やろうと思うと、どうしてもCGになってしまいますからね。

アニメというのは、画面にいくら意図を込めても、それがちゃんと良いものとして観客に伝わる、そういう表現だと思います。雷は「稲妻」とも言いますが、土地に豊穣をもたらす神様の妻という意味があって、ここでの雷は女の人の神秘性を表しています。

水野:雨の表現はいかがですか?

新海監督:雨にこだわった作品ですね。映画の中で時間が経つにつれ雨の種類も変わっていって、様々な種類の雨を描いています。

水野:このシーン、地面に落ちる雨の表現はこだわりが見られますね。

新海監督:それから、空気中に降っている雨そのものをどう描くか、という点にもこだわりました。今はそういった表現もCGで可能になっていますから。昔のアニメは(雨を表現するのに)線を引くだけでしたけどね。

大江千里の隠れた名曲「Rain」が秦基博の歌声で蘇る

水野:秦基博さんが歌うエンディングも聴くだけで映画を思い出して涙が出てしまいそうです。

新海監督:「Rain」は大江千里さんが80年代に作った曲で、僕は大学生の頃によく聴いていたんですね。あまり知られていないですが名曲なんです。この映画は、タカオとユキノが一生懸命に言葉のやり取りをする話なんですが、そんな話の最後に「言葉にできず」という歌詞で始まる曲が来るっていうのは、すごく良いと思ったんですね。

エンディング曲は「Rain」に決まっていたのですが、秦さんとお話をする中で、ご自身でも曲を作りたいと言って下さったんです。「言ノ葉」というイメージソングなのですが、CDのジャケットは僕が絵を書いています。また、ミュージックビデオも映画のカットを使いながら、現在ディレクターズカットというかたちで制作しています。こちらも楽しみにしてください。

水野:作品を通して歌にしたかった気持ちがよく解りました。この曲で歌われているのは、タカオくんの気持ちですね。

新海監督:制作過程も印象的でした。最初のデモは秦さんのハミングだったんです。だけど、ところどころ言葉になっているところがあって。まずはメロディが思い浮かぶんでしょうね。それから、「ここにはこんな言葉を入れたい」といった風に、詞ができていく。「こんな風に出来ていくんだ」って知ったし、あらためてすごいなと思いました。

水野:歌詞もちゃんと読んでほしいですね。

新海監督:僕としては、ぜひ映画を観た後に読んでもらいたいですね。

この後、トークショーは質疑応答に。新海監督ファンから寄せられた非常に興味深い質問&回答ばかりですので、そちらは後編でご紹介します!

「『秒速』を観てご飯が食べられなくなった」と言われます――新海誠監督が語る最新作『言の葉の庭』(後編)
https://otajo.jp/15066

(C)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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